第81話 金治捕まる
「もっと急いでよ! 追い付かれる!」
後ろを見たシオンが叫ぶ。
「これが限界だぞ! 頼む、もっと早く、セイヤッ!」
ローレンスが馬車に繋がれた馬に鞭を入れる。
馬と言うかトカゲと言うか鱗に覆われたよく分からない大型の生物が叫び声を上げて走るが俺たちを追う騎馬隊はどんどん迫って来ていた。
俺たちは近くの商人が使っていた馬車を盗んで……、もとい少し借りてクロノスの街を飛び出したのだ。
花畑の真ん中を貫く街道を全速力で突っ走る。
そんな景色に似合わない城の騎馬隊が追いかけて来ていた。
前方にはクロノス・スタッフの国境を意味する壁、その出口である門に向かって街道は伸びている。
「もう少しだ、あの門を抜ければもう……、おいマズくないか!? 避けろローレンス!」
「はぁ? 何言って……、うおぉいっ‼」
ドガシャァーンッ、バキバキズシャァー‼
叫んだが間に合わなかった。
騎馬隊の一人が杖を掲げたと思ったら赤く輝く炎の塊を発射したのだ。
俺たちの乗った小さな馬車は半壊して街道を無残に転がる。
「いっつつつぅ、大丈夫かみんな!? こうなったらあと少しだ、走ろうぜ!」
なんとか半壊した馬車の中から這い出して周りに呼びかける。
二人ともそこらに放り出されていたが生きてるな。
「ああ、恐らく本当にモンスターが洗脳してるとすればどんなに広くても国の中だけだろう。ここで捕まったら本当にお終いだ、急ぐぞ!」
「全く何で僕までこんな目に……、こんな国二度と入るもんか! とっとと出るよ!」
花畑の方にふっ飛ばされて泥まみれになったシオンも走り出す。
後ろから騎馬隊の音が迫って来る。
門まで少しの距離だったが俺たちは死ぬ気で駆け抜けた。
そして巨大で凝った装飾のされた門へと飛び込んだ。
門を潜る瞬間、グニョンと言った感じの不思議な感触をした膜みたいなものにぶつかった気がしたが何事もなく通り抜けた。
慌てて振り返ると騎馬隊は門の向こうで止まっている。
どうやら予想通りモンスターが支配しているのは国の中だけらしい。
「やったぜ、ざまーみやがれっ! 国からは出られないみたいだな。ところでこれからどうすんだ……、ってシオン? ローレンス? どうしたんだよ?」
ボケーっと突っ立っているシオンとローレンスは突如ハッとして辺りを見回す。
「あれ、ここはクロノス・スタッフの国境? 何でここに……、そうだ荷物を忘れて来ちゃった。ほらみんな、宿屋に戻ろうよ」
「賞金も持ってきてないじゃないか! レイラも居ないし俺たちはどうしてたんだ?」
ふらふらと今来た道を戻って行く二人。
「あ、おいっ! 流石に今はふざけてる場合じゃ…」
「捕まえたぞ犯罪者どもめ! 王女誘拐の罪で逮捕する!」
門を超えた二人はあっさり兵士に取り囲まれた。
それにも関わらず二人は現状を理解できないようで…。
「え、何でまた僕はクロノスに戻ってるんだ!? さっき門を抜けた筈じゃあ…」
「ああ、確かに出たよな? あ、おい金治! これはどうなってんだ!?」
兵士に両腕を押さえられて助けを求める彼ら。
マヌケすぎるなぁ。
「何やってんだよ馬鹿! ああ、もうしゃーねぇなぁ」
仕方なく俺も門を潜ると直ぐに兵士に囲まれた。
「お前どこから出やがった!? まあいい、これで誘拐犯は全員だな。城に戻るぞ!」
こいつ等俺を見失ってた?
……馬鹿なだけじゃないよな。
俺たち三人は檻の様な馬車に詰め込まれ来た道を輸送されて行く。
兵士に見張られ会話は出来ないが二人とも訳が分からない様だ。
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担がれる様にしてお城の地下牢へと放り込まれた。
「いってぇな! もっと丁寧に扱えよな、俺はさっき表彰された英雄だぜ! セイラに聞けば俺たちが無実だって分かる筈…」
「うるさい! 姫様をたぶらかし誘拐するなんてとんでもない奴らだ。その英雄にもどんな汚い手を使ってなったのか怪しいものだな」
牢に鍵をかけて階段を上がって行く兵士たち。
静まり返る薄暗い地下牢。
どうやら完全に捕まっちまったみたいだな。
「ね、ねぇ金治……。なんで僕たち捕まっちゃったんだろう? 確かに国境の門を潜ったよね。その後直ぐ兵士に囲まれてた。転送魔法でも仕掛けられてたのかな」
必死に考えながら呟くシオン。
コイツ、何とぼけてやがるんだよ。
「なんでってお前らが勝手に捕まったんだろ? 門の向こうには兵士が来れないみたいだったのになんで戻ったんだよ。荷物を取りに戻るにしてもさっきじゃ無かっただろ」
不思議そうな顔で見つめ合うシオンとローレンス。
「そんな事有ったのか? 門を潜ってから捕まるまでの一瞬、全く思い出せんな」
門を出た時の事を覚えてない。
こいつらはマヌケな方だろうけどそんな直ぐ忘れたりするわけないよな。
「記憶を消す魔法でもあるって言うのかよ、それとも催眠術かなんかでも喰らったのか? ……それより早くここ出ようぜ、何で俺が牢屋に入んなきゃいけないんだっての」
俺は取りあえず牢屋を見回して鉄格子を押してみる。
巨大な錠前が取り付けてあり外れそうにはないな。
石造りの地下牢はボロくてなんだかカビ臭い、こんな場所に長居する気はないぞ。
俺は嫌な場所や物からはとっとと逃げる性分なんだぜ。
「そうは言ってもどうやって出るのさ? こういう牢屋って大体魔法耐性のある金属で出来てるから壊せないと思うけど。ローレンスの剣もあそこに置いてあるし」
シオンはため息交じりに呟くと鉄格子の向こう側を指さした。
うん、当然だろうけど俺たちの武器は没収されてる。
「ううむ、一か八か拳で……。おい静かにしろ、誰か来るぞ」
ローレンスがサッと俺の口を押えて来た。
耳を澄ますと足音が上から近づいて来ている。
俺たちは鉄格子から限界まで離れて身構えた。
降りて来たのは見回りの兵士……、ではなくフロントの教会とかで見たようなシスターの女性。
黒いフードを被り微笑む彼女は真っ直ぐ近づいて来て何も言わずに錠前を外す。
パッと見、スタイル良さげな美人系のシスターだが何か不思議な雰囲気だ。
「始めまして金治パーティの皆さん、話はセイラから聞いていますわ。貴方方は既にこの国の異変に気が付いている筈、死にたくないなら早くここを出て戦いなさい!」
突然来たこのシスター、何か偉そうにいい放ちやがったぞ。
「んな戦えって何言ってんだよ? セイラの知り合いならお前も操られてるんじゃ…」
「ええ、現状は理解できているようね。貴方が考えてる通りこの国の人々は操られている。そして私はこのお城で長年シスターとして仕えて来た者、怪しむのは当然……。説明が面倒ね、これを見なさい」
彼女はそう言って頭を覆っていたフードを外した。
濃い青っぽい不思議な色合いの長い髪、その中から飛び出してるのは二本の角…。
コイツ、人間じゃないな。
「その髪色に角、お前は悪魔か! 普通じゃない感じがしたのだがこれなら納得だ。貴様がクロノスにおかしな魔法をかけている張本人だな!?」
そう叫んだローレンスは俺とシオンを守るように仁王立ちをする。
彼には悪いけどこんなところでボス登場……、は考えられないんだけど。
シオンも不思議そうに見つめている。
「早まるでない、伝説の騎士なら他人を見極める目を持ってるものではないのか。私は悪魔グラム。この国で人間に紛れて暮らしている。……まぁ人間が好きなのよ。後このクロノスが」
真剣そうに話始めるのに途中でぶっちゃけるな、このシスター。
つまり悪い奴ではないのか?
グラムは少し背後を気にして話を続ける。
「のんびりしてる時間はないわね。簡単に言うとこの国を支配しようとする悪魔がやって来たのよ。そいつの名はベラムス、王様にとりついて魔法で好き勝手やってるの。マヌケな事にこの私が悪魔だと気づかないでね」
思わず唖然としてしまうな。
このグラムとかいう悪魔が見事に全てネタバレしてくれた。
今回のボスは王様にとりついた悪魔ベラムス。
普通こういうのって自分たちが冒険したりしていく中で判明するものじゃないのかよ。
「あ~、えっとどうしてグラムさんは僕らにそんな事教えるの? 何だか信用できないんだよね、同じ悪魔を裏切る様な事するかな」
シオンが怪訝な顔で問いかけた。
しかしグラムは笑って答える。
「貴方たち人間は助け合いだとか言ってるけど私たちは悪魔よ。基本自由に生きるのがモットーだし他人何て基本興味ないの。最近ベラリムのヤツ調子乗っててウザいからこの機会に何とかしてもらおうと思ってね! クロノスは好きだし、セイラは私の親友だもの」
驚くほど適当な理由を語るグラムさん。
まあ、敵ではなさそうだな。
「そういう訳で貴方たちにはクロノス・スタッフ奪還のクエストを受けてもらうわ! 受けてくれるなら脱獄して私に協力してもらう、もし断るなら私と出会った辺りから記憶を消して貰うわね」
グラムはそう言って指先を怪しく光らせて見せる。
悪くない取引だな。
優秀な味方と共に奪還作戦か、かっこいいじゃん!
「いいじゃんシオン、こう言ってるしさ。ラッキーな事に有能そうな味方が付いてくれたっぽいし取りあえず牢屋から出ようぜ。大丈夫だって、こういう適当な奴が一番信用出来るんだからな!」
俺はぱっぱと鉄格子を抜けて外に置かれてた何時もの短剣を手にする。
ローレンスとシオンも後に続いて武器を取り戻した。
「へぇ、人間の癖によく分かってるじゃない。悪魔の素質があるわね。さっ、そうと決まれば見張りが来る前にここを出るわよ。隠し通路を使うわ」
グラムが石壁の一部を触ると一瞬光ってゴゴゴゴゴと壁が開く。
予想外に脱獄完了だ。




