第80話 プリンセス・セイラ
「これで表彰式は終了です。お疲れ様でした金治様」
俺たちはお城の接待室から出た。
片手には王国の印鑑が押された表彰状。
嬉しいっちゃ嬉しいがなんだか素直に喜べないな。
「ねえ、金治もおかしいと思った? 王様はいい人そうだったしこの国の人たちも僕らを祝福してくれた。でも何かこう、普通じゃないって言うか……、自然な感じがしなかったよ」
俺の顔を覗き込んでシオンは呟いた。
「昨日会った時も感じたけどなんか胡散臭いんだよなぁ、あの王様。広場での話も説明無かったし。俺、早くこの街を出た方がいい気がするぜ」
「確かに用は済んだしな。でも金貨1万枚だとよ、こんな大金見たことないぞ! 早く宿屋に戻ってレイラに見せびらかそうじゃないか!」
ジャラジャラと金貨が詰まった大袋をゆすって見せるローレンス。
確かに今までで最大クラスの大金だ。
街の怪しさに気を取られてたけどこれって実際、旅の目的達成じゃね?
「そうだよな、そりゃいいな! よし報酬はきっちり四等分だかんな、急ごうぜ!」
俺たちがお城の廊下を駆け出したその時、一人の女性が前方の曲がり角から飛び出して来て俺たちの前に立ちはだかった。
その女性は…。
「むっ? なんだ結局レイラも城に来ていたのか。さては賞金を待ちきれなかったんだな、見ろ! 金貨1万枚だぞ!」
嬉しそうに袋の中身を見せびらかすローレンスの前に立つ女性。
その姿は絶対お城には行かないと意地を張っていたアイツなのか?
顔も髪色もレイラだけどなんか高級そうなドレスを着て髪も短いな。
「レイラ……、なのか? 随分オシャレして来たんだな。あとおっぱいちっちゃくなった?」
彼女はいつもより控えめな胸を隠して顔を真っ赤にする。
「ちょっと待ってよ二人とも! この人はレイラじゃないよ、アイツにこんな恥の感情がある訳ないじゃないか! 君は一体誰なんだい?」
その上品な女性はペコリとお辞儀をして話始めた。
「わ、わたくしはセイラ・クロノスと申します。この国、クロノス・スタッフの時期女王……、と言う事になっております」
俺たち三人は固まった。
このレイラそっくりな人がお姫様って事か…。
「な、なぁ、時期女王って言うとこの国のプリンセスって事だよな?」
「そうなるね……、君たちさっき随分失礼な事言ってたけどヤバいんじゃ…」
再びセイラと名乗る女性の方を向くと、彼女は不思議そうに首を傾げる。
そして俺たちは慌てて頭を深く下げて…。
「「「すみませんでしたぁっ‼」」」
「い、いえ気にしないでください! それより貴方たちはレイラを知っているのですか? 出来る事なら彼女に、お姉ちゃんに合わせてくれませんか!?」
再び頭を下げるセイラ。
意味不明な頼みに俺たちは顔を見合わせる。
「あの、プリンセス・セイラ? 我々の仲間であるレイラは貴女の姉上では絶対にないと思うのですが……、アイツは流れの魔法使いですし」
隠してた首を体の上に乗っけたローレンスがおずおずと問いかけた。
「そ、そう固くおっしゃらなくてもセイラでいいです。お嬢様は私には荷が重くて……。私のお姉ちゃんは数年前に家出されまして名をレイラと言うのです。もしかしたらお姉ちゃんかもしれない、間違っていてもかまいません! 一度貴方方のお仲間に合わせて頂けないでしょうか?」
オドオドしたお姫様は必死に頼み込んでくる。
「ま、まあそこまで言うなら……。僕は違うと思うけどなぁ。でもセイラはお姫様なんでしょ? 勝手に連れ出したりは出来たりしないだろうし誰かに言った方が…」
「それは駄目です! 数か月前までは自由に街を歩けたのですが何故か最近、お父様が外出を禁止しまして……。お願いします、わたくしと一緒にこっそりお城を出て下さい」
不自然な国の訳アリプリンセスの頼み事。
「まあいいか、レイラに合うだけだろ。……会ったらがっかりすると思うけど。で、どこから出れば兵士とか王様にバレないんだ?」
軽い気持ちで引き受けた俺たちはとセイラの後に続いてお城の通路を駆ける。
見回りの兵士に見つからないように裏口へ向かった。
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道中街の中を巡回する兵士を避けて路地裏を遠回りし、何とか宿屋『リーフセット』に戻って来た。
セイラを連れて三階の部屋へ踏み込んだ。
その時、バルコニーから誰かが飛び降りて行く影が目に入る。
「むむっ、泥棒か!? 待てっ!」
剣の柄に手を掛け、ダッシュするローレンスに続いてバルコニーへ飛び出した。
下の通りを見ると見覚えのある赤いマントを棚引かせたヤツが路地に駆け込んで行く。
「あれってレイラだったよな? 何で突然窓なんかから…」
俺が言いかけると隣に立っていたセイラが崩れ落ちた。
「お、おいっ! 大丈夫かよ?」
「え、ええ……。ま、間違いないわ……、今走り去って行ったのはレイラお姉ちゃんだった。また会えるなんて…」
嬉しそうな笑みを浮かべながら涙を流すセイラ。
俺たちはどうすればいいか、どういう事か理解が追い付かない。
取りあえず泣き出したお姫様を連れて部屋の中へと戻る。
「で、レイラが君のお姉ちゃんって言うなら何でアイツは冒険者なんかしてるの? 普通ならレイラもプリンセスって呼ばれる様な身分でしょ?」
シオンが問いかける。
セイラが泣き止んで落ち着いたところで聞きたい事は山ほどあるぞ。
「私にも分からないの、お姉ちゃんは『世界一自由なお金持ちになる』って言って家出して行ったのよ。今から三年前に…」
悩みながらもセイラは答える。
「あ~、行ってる事はレイラらしいな。アイツの事だからめんどくさい貴族の生活から逃げたんじゃないのか? 自由がない生活なんて嫌! 国なんて知らない、とか言いそうだし」
俺の言葉に頷く二人。
レイラが真面目に王女をやるなんて考えられない。
「それはないと思うわ。お姉ちゃん、家出する数日前までこのクロノスを世界一幸せな国にするって意気込んでたもの。でも家出したのは結婚式の前日だったんですよね」
セイラの答えを聞いたローレンスはポンと手を叩く。
「それなら簡単じゃないか、単に結婚が嫌だったんだろ。大概貴族の長女となれば家の名を保つためだけに結婚させられるものだ。相手はどんな嫌な貴族だったんだ?」
なるほど、よくある政略結婚って訳か。
そりゃ俺でも家出するわな。
「それも違うわ。お姉ちゃんのお相手は名も通っている領主の息子だったのです。彼は領民を第一に考える政治を行い将来有望と言われてるお人で、部下にも優しい善人だと評判のいい同い年の男性でしたわ。……しかし何の断りもなく忽然と姿を消してしまったのです」
悲しそうに俯くセイラ。
俺たちも頭が痛くなるなぁ。
どうして妹はこんなにお姫様してるのにあのレイラは…。
「アイツは一回怒られた方が良さそうだなぁ。今日は諦めた方がいいかも、アイツかなり頑固だから暫く帰って来ないぞ。まあ今度レイラを連れて行くから元気出しなよセイラ」
ウチの仲間が予想以上にトラブルメーカーだと言う事は判明したな。
俺たちは深いため息をついた。
重く、空しい空気の中で恐る恐るシオンが声を上げる。
「まあレイラには僕らからもキツく言っておくとして……、セイラはこの国のお姫様なんだよね? それならこの国の事はよく知ってるよね。聖魔法の販売が禁止されてたり、昨日の時間法だとかおかしい事が多すぎて、何か異変でも起こってるんじゃないの?」
ビクッとしてセイラが顔を上げた。
「やっぱりおかしいと思いますよね! よかった、私以外誰も異変に気が付かない……、国が変わったことにすら誰一人気が付いていなかったんです」
必死な感じで話始めた。
俺たち三人もその話題に食いつく。
「わたくしのお父様、国王の様子が数か月前から突然おかしくなったのです。優しい性格は変わっていない様にも見えますが政策が大きく変わり時折非道な目をする様になったわ。周りの兵士も召使も変わってないと言うけど私には分かる、お母様が亡くなってからその分も愛情を注いでくれたお父様だもの!」
強く言い切るセイラをジッと見つめる。
彼女は気がついてないかもしれないが話始めの辺りから涙を流していた。
きっとかなり我慢してたんだろうな。
「お父様の命令で国中から聖魔法の道具が消され、国民を管理する腕輪と時間法が導入されたわ。……これはきっとモンスターの仕業よ。モンスターがお父様を、国の人々を操ってるのよ!」
話がいきなり大きくなったな。
シオンとローレンスの顔を横目で伺うが彼らもうろたえている。
「モンスターはきっと聖魔法が怖いから禁止したのよ。私はお母様から貰ったこの聖なる魔法が込められたペンダントを隠し持ってる。だから私は操られていない、この国で私だけがまだおかしいと感じられていると思うの」
思わず唾を飲む。
確かにセイラの考えは辻褄が合ってしまう。
でも…。
「そんな国一つを操るなんてどんなモンスターなんだ? 俺たちが戦った四天王でもそんな無茶苦茶な事は出来なさそうだったのに」
「いや、無茶ではないかもしれないよ。僕らは魔法陣を使って妖精魔法を発動した、覚えてるよね? 一人じゃ出来ないような超魔法でも数人で協力したり巨大な魔法陣みたいな仕掛けを使えば不可能とは言い切れないんだ。この国、いやこの街のどこかに仕掛けがある筈だ。思い当たる節はないかい?」
シオンは真剣な顔でセイラを見つめる。
セイラは少し考えて答える。
「時計塔……、お父様は定期的に一人で時計塔を登るの。集会を行うあの広場にある時計塔よ。そこに何か秘密があるかもしれない。お願い、この国を、お父様を助けて…」
バンッ‼
突然の出来事だった。
乱暴に扉を開けられ、数人の兵士が部屋に駆け込んで来る。
「貴様らだな、姫様を誘拐したのは! 逮捕する‼」
兵士の一人が剣を構えて怒鳴った。
「ここで捕まる訳には行かないわ! お願い金治パーティの皆さん、逃げ延びて!」
セイラの叫び声でハッとすると俺たちはバルコニーへと駆け出した。
……意外に高いなここ、飛ぶのか?
「急げ金治! 今は逃げるぞ、ここで捕まったらお終いだ!」
ローレンスが俺とシオンを抱えて飛び上がる。
兵士に捕まったセイラを尻目に俺たちは落下して行く。
何だか無茶苦茶な事になったな。
またまたトラブルに巻き込まれたって言う事は分かるぞ。
今回はお尋ね者、そして賞金を部屋に置いて来ちまった!




