第79話 遅刻厳禁!?
クロノス・スタッフの街はオシャレで綺麗な花の都。
そして食べ物も可愛らしいものや見た目に凝ったものが多く味も最高だ。
メインストリートの露店巡りを終えた俺たち三人は脇道へと入り、面白い店がないかぶらぶらと散策を始めて一つの道具屋にやって来た。
「見ろよ、これってボウガンだろ? フロントには無かったから持って帰れば高く売れるかもしれねーぞ!」
俺は棚の上に立てかけられている木製のソレを手に取る。
「ほう懐かしいな。俺が王都の騎士だったころボウガンを補助武器として騎士団に導入する話が一時期上がったんだ。まあ大きくて携帯には不向きな上、そういう細かい操作が苦手な脳筋ばっかりだったから結局お流れになったがな」
感慨深そうに語るローレンス。
まあ、騎士団って言っても要は戦士系の集まりだからそりゃそうか。
「ソレよりはこっちのポーションのがいいんじゃないの? ほら、これなんか素早さが上がるポーションだってさ。この国特産の花を煎じたものが原料なんだって」
シオンは楽しそうに魔法道具の棚を物色している。
研究やってただけあってやっぱりこういうの好きなんだろうな。
「強化ポーションか、……おっ、これ運が上がるポーションだとよ。これはフロントに持ってっちゃ駄目だな。賭けカードで勝てなくなるかもしれない」
「いや、金治の運にはポーション程度じゃ勝てないと思うが……。実際お前の運ステータスは表示される限界まで伸びてるじゃないか、そんなの他には知らんぞ。ここは俺が飲んでタッグで賭けカードをするってのはどうだ? 確実に儲かるぞ!」
俺とローレンスが店前のポーションコーナーで騒いでいると店の奥からシオンが怪訝な顔をして出て来た。
「う~ん、微妙な品揃えだな。そこそこいろんな魔法道具が揃ってるんだけどアンデッド系に有効な聖なる魔法の類が全く売ってないんだ。何かいいものがあったら買いたかったんだけど」
諦め悪く棚を見回すシオン。
そういやコイツ、アンデッド退治が最初の目標だったっけな。
「どっかにあるんじゃないか? 見た感じこの店はなかなか品ぞろえがいいし他の属性魔法は揃ってるんだ、店員に聞いてみたらどうだ」
「そうだねちょっと聞いて来るよ。すみませ~ん、聖魔法の道具ってどこですか!」
「ほいほい、今行くぞい」
カウンター裏から駆けて来るお爺さん。
「聖魔法だったかの。……ううむ、すまんな、この街ではいくら探しても聖魔法に関した魔法道具も武器も売っていない筈じゃぞ」
「ええっ、どうして!? モンスターに一番有効な属性だけ扱ってないなんて」
半分呆れた感じに驚くシオン。
魔法は詳しくないけど一つの属性だけないなんて有りえるのか。
「そうか君たちはクロノスに来たばかりじゃな。それなら知らなくて当然か、この街では聖属性の魔法を販売することを国が禁止しとるんじゃ。まあこの辺りにアンデッドモンスターは出ないから特に困っとる事はないがのう」
「そんなのおかしいよ! 聖魔法を禁止するなんて魔王軍に…」
ゴォーン、ゴォーン‼
シオンの言葉を遮るように鐘の音が響いて来た。
その瞬間、通り中の扉が一斉に開き住民たちがドタバタと駆け出して行く。
どの人も必死になって大急ぎで…。
「な、何が起こったんだ!? またモンスターが襲って来たのか?」
「ほほほ、大丈夫じゃよ。街の集会がある日なんじゃ、今から行けば間に合うから問題ないぞい。お前さん方も来るかい? 今日は国王から知らせがあるらしいがきっと英雄の事じゃぞ」
店主のお爺さんは笑いながら店の戸締りをする。
「金治、英雄の事ってもしかして…」
「ああ間違いないな、俺たちの事だぜ! お爺さん、俺たちも行くよ!」
-------
お爺さんについてやって来たのは時計塔前の広場。
既にたくさんの人々が集まってにぎわっている。
広場に入るとお爺さんの右腕に巻かれた腕輪が緑色に輝いた。
見渡すと他の人も同じ腕輪をしている。
「この腕輪は住民票の様な物、これを装備しているのが街の住人である証じゃ。毎週決まった時間にこのような集会があっての、ちゃんと参加したかどうかが記録される魔法道具でもあるのじゃよ」
俺たちは顔を見合わせる。
こんな道具で管理されてるのか?
「ほう、昔のクロノスには無かった文化だ。魔法の腕輪で住民管理とは随分とハイテクになったものだな」
「ふ~ん、凄いんだな。フロントでもブリッジロビーでもこんなのなかったもんなぁ。クロノスって意外に凄く文明が進んでるのか?」
「そんな訳ないだろ! こんな道具で国民を管理するなんて国おかしいよ」
シオンは不審そうに辺りを見渡す。
特におかしいところは見当たらないな、腕輪以外。
俺たちが広場の隅で待っているとどんどん人が集まって来て広いこの場所も一杯になった。
「そろそろ始まる見たいじゃぞ。明日に控えた英雄の表彰式の事だろうが……、フェアリーテーブルを救った英雄とはどんなお方なのじゃろうな? 何とあの東の勇者ギンガ殿が褒めたたえるほどの活躍をしたらしいぞい」
シオンとローレンスと目で合図する。
あのギンガって有名人だったんだな。
そして俺たちが表彰されるのもアイツのお陰と……、なんか悔しいな!
時計塔前のステージに誰か男の人が上がる。
白いひげを生やした小柄で小太りのその男は高価そうな服を着ていた。
拡声器の様なものを手に話始める。
「お~、オホン! 本日もよくぞ集まってくれた、皆が時間を守る事を私も嬉しく思うぞ。それではまず今週の商業についてだが…」
恐らく王様だろう男が長い紙を見ながら話を続ける。
何だろうこれ、学校の朝礼かなんかかよ。
シオンもローレンスも退屈そうに周りを見渡したり首を回したりしている。
集会に集まった人々も大半が退屈そうだ。
まさに朝礼そのものだな。
そんな眠気に耐えていると誰かが広場に駆け込んでくるのが目に入った。
その女の子の右腕には他の人々と同じ腕輪がつけられていたが、彼女の腕輪だけ赤く光っている。
次の瞬間信じられないことが起こった。
コソコソと後ろの方に隠れた女の子をおそろいの鎧を着た兵士数人が取り囲んだのだ。
王様は話すのを止め、人々は一斉に彼女の方を向く。
「貴様、集会に遅れるとは時間法第4条遅刻禁止令に違反だ! 逮捕する!」
兵士の一人が叫んだ言葉に騒めく人々。
何か大変な事が目の前で起こっている事は分かる。
俺たちが呆気に取られてると隣に立っていた道具屋の店主が血相を変えて走り出した。
「なっ、あ、アイツは……、待って下され! その子は、ハンナは許してくれ! 逮捕するならわしを!」
槍を構えた兵士と女の子の間に入って土下座するお爺さん。
あの女の子はお爺さんの知り合いか何かか?
「なあ時間法って何だよ!? 遅刻で逮捕されるなんてこの世界じゃ普通なのか?」
「そんな訳ない、時間法なんて聞いたことないぞ! そんな理不尽な国がある訳が…」
「どうやら道具屋のお爺さんの娘か孫ってところでしょ。どう見てもこのままじゃマズいね」
俺は仲間二人と顔を合わせて頷くと駆け出した。
「待てよ! 時間法とかふざけてるのか!? 遅刻くらい許せよな!」
俺たちは土下座をするお爺さんの前に割り込んで仁王立ちをする。
今回は、この街でなら秘策があるぞ。
「なんだお前らは! ……腕輪がないと言う事は観光客かそこらだな。忠告しておこう、この国の法律に口出しをするというならお前らも同罪だぞ!」
武器を俺の方に向けて叫ぶ兵士。
怖いけどここでは俺たちはきっと……!
兵士の後ろまで来ていた王様をじっと見つめて俺は答える。
「俺たちは……、俺たちはフェアリーテーブルを守った英雄だぞ! 表彰されに来たんだぞ! 遅刻で逮捕なんておかしいぜ!」
俺は強く言い切った。
静まり返る広場。
ここでは俺たち……、英雄の筈だ。
「止めろ、英雄様に武器を向けるんじゃない! 失礼しました、これはほんの手違いでして……。いやいや、遅刻で逮捕なんて冗談ですよ! さ、さ、是非ステージに上がってそのお姿を国民へ見せて下さいよぉ」
慌てて叫ぶ王様の指示で兵士たちは下がって行く。
お爺さんは女の子と共に人混みの中へ。
どうなってるんだ?
俺たちはステージへと誘導されながら周りを見回す。
広場に集まった人々はさっきの出来事を見てなかったかの様に俺達へと声援を送る。
王様は絶えず俺たちに労いとおだてる様な言葉を口にして来ていた。
俺たちがステージへ出ると歓声が上がる。
何かが不自然な国民たち、素直に喜べないな……。
この街は何かがおかしい。




