第78話 花の都クロノス・スタッフ
キャラバンの列車は大きな門を抜けて平原を走る。
3日間の旅を終えて『クロノス・スタッフ』の領地内に入ったそうだ。
カラフルな花で溢れたお花畑の中を貫く一本道、と言う何とも乙女チックな街道。
窓から身を乗り出して見回すがどこまでも花畑が続いている。
「すっげぇな、地平線までずっと花畑だぞ! こんな街もあるんだな」
「いいえ、街って言うより一つの国ね。私、このお花畑は大好きよ! 伊達に花の都って言われてないわよね。久しぶりに来たけどここは変わってなくて嬉しいわ」
クロノスに近づくにつれて元気を失っていたレイラも花畑を見て復活したようだ。
これだけ広大だとお花に何か興味ない俺も気に入っちまうな。
「おい見ろ、あれがクロノスの街だな。フロントよりデカくて綺麗だぞ。それにあの奥にある大きな城、金治はあんなの見たことないだろ」
「へぇ~、クロノス・スタッフには初めて来たけどなかなかいい街並みだね。見た目としては大きなフロントって感じかな」
彼らの声につられて窓から前方を覗くと確かに街がある。
フロントに似ている建物が多いがそれよりずっと大きい街だ。
何より目立つのが中央にある巨大な中世っぽい城。
某テーマパークとかにありそうなヤツだ。
「おお、本物の城とか初めて見たぜ! あの中に入るのは……、普通に考えて無理か、遊園地じゃないんだからな。でも綺麗な街じゃん、着いたら早速観光な!」
「「おーっ‼」」
シオンとローレンスはノリノリだ。
しかしレイラは何か焦って、話を逸らすように…。
「ま、まずは宿を取らなくちゃでしょ? フェアリーテーブルで結構お金使っちゃったけど表彰式に期待して一番豪華なご飯が出るとこを探しましょうよ!」
珍しく計画的な事を言いやがった。
有りえない……、でも妥当だ。
「そうだな、まずは宿探しか。よっし、最高の宿を教えて貰おうぜ!」
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大きな門を潜って少し進んだ場所にある広場でキャラバンは止まった。
オシャレな街並みはヨーロッパの都心部みたいだ。
「うん、綺麗な街だ。この独特の感じ、僕気に入ったよ。……っとキャラバンの人にいい宿屋ないか聞いて来るね、ちょっと待ってて」
シオンが一足先に馬車を降りて行った。
俺も馬車から飛び降りて回りを見渡すが思わず立ち竦んじゃうな。
海外旅行に来たみたいな気分だ。
どうやら正門からこの広場、さらに奥に見える巨大な時計塔まで一直線に続く通りがメインストリートってとこなんだろうな。
雑貨店やオシャレなカフェっぽい店が立ち並び、幾つか露店も出ておいしそうなにおいが漂って来る。
「う~む、実に住み心地の良さそうな街だな。数十年前に来た時よりずっと栄えている。……ところでレイラはなんでフードを被ってるんだ?」
大きなカバンを背負ったローレンスは伸びをすると最後に出て来たレイラを眺める。
「え? い、いやこれはオシャレよオシャレ! いいでしょコレ、フロントで新しく入荷してたの。それに紫外線はお肌の大敵だからね、美貌を保たないと!」
慌ててフォローするレイラ。
オシャレって言うか黒いローブを頭からかぶって無茶苦茶怪しいし、コイツがお肌の心配をしてるのなんか初めて見たぞ。
俺たちが周りの屋台や店を指さして騒いでいるとシオンが戻って来た。
「お待たせみんな、高級で料理の評判もいい宿を聞いて来たよ。……何やってんのレイラ、泥棒にでもなるつもり?」
「そんなんじゃないわよ、失礼ね! そんな事より宿屋に行くわよ。シオン、案内よろしくね」
シオンを押すようにして歩き出したレイラに続いて俺とローレンスも荷物を持って追いかける。
メインストリートを時計塔の方へと歩いて行く。
人が行き交う大通り。
見渡すとカフェでのんびりくつろいでいたり、露店で楽しそうに買い食いしてる観光客っぽい人たちも大勢いる。
しかしそれとは正反対に忙しなく通りを行き来する人々も多い。
作業着みたいなのを着て大きな箱を運んで行く人にスーツっぽい服を来たサラリーマンっぽい人々。
仕事は忙しい街なのかな。
「なあ、この国って『クロノス・スタッフ』って言うんだろ。スタッフってついてるくらいだから仕事が忙しいのか? やたらせっかちな奴が多いみたいだけど」
ふと聞くと三人も不思議そうな顔をする。
「特別忙しい事もないと思うぞ。クロノス・スタッフは小国で産業は発達してないがその美しい領地を活用して観光業に力を入れている国だ。それに加えて王国から資料の保存や調査レポートの整理など事務的な仕事がよく依頼される、それがこの国の名に『スタッフ』と入っている理由でもあるな」
ローレンスの説明にシオンは頷いて続ける。
「王国銀行も王都ではなくこの街に置かれるくらい王都から信頼された国なんだ。生活が苦しいわけでも、キツい仕事が多い訳じゃないと思うんだけど……、確かに妙に慌ただしいね」
レイラもさっきまで急いで宿に行こうとしていたが不安そうな顔で周りを見回している。
「おかしいわ……、クロノスはこんなんじゃなかった筈なのに。王様が変わったなんて話は聞いてないし何が起こっているのかしら…」
深刻そうなトーンで呟く。
それを見てシオンは話題を変えて来た。
「栄えて来てるからただ忙しいだけなのかもよ。取りあえず宿に行こうよ、街をもっと見て回れば何か分かる筈だ。えっと、『リーフセット』って言う宿屋なんだけどこの辺に…」
「それならあの時計台前の広場を右に行ったところじゃないかしら?」
レイラの後に続いて角を曲がると確かに『リーフセット』と書かれた看板があった。
大きな建物のそれはとても豪華な感じが漂っている。
「ここか、いい感じじゃん! それにしてもレイラよくここを知ってたな」
「いいじゃないそんな事、それより早くチェックインしましょう! 早くしないといい部屋無くなっちゃうかもよ」
お金に余裕のある俺たちは迷わず三階のスイートルームを選んだ。
豪華な装飾の付いた二枚扉を開けると王様でも住みそうな部屋が広がっていた。
これは大興奮だ。
「凄いな、こんな部屋に泊まるのは初めてだぞ! おおっ、このソファーふかふかだ!」
「それより見ろよこのフルーツの盛り合わせ! 見たことないけどなんて言うんだ? ……おっ、酸味がいい感じでうめぇ!」
俺とローレンスは早速大部屋の中央にあったものへと飛びつく。
「見なさいよ、こんな天蓋ベッド見たことないでしょ! それにこの窓からは街が一望出来るのよ、この辺で三階建ての建物はここだけだからね」
レイラも嬉しそうにバルコニーへ続く大窓を開けて見せる。
元気でてきて良かったな。
「うん、最高級のスイートって言うだけはあるね。それじゃあ、明るいうちに街を歩いてみない? きっと見たことない物を見れるよ」
荷物を置いたシオンが提案する。
「いいな、行こうぜ! さっき屋台で旨そうなお菓子売ってたんだよ、ちょうどおやつ時だし何か食おうぜ」
「うむ、俺は最初の広場にあったカフェで出してるぱふぇなる物が気になるな。お腹空いたし是非行こう!」
「君たち何時も食べる事ばっかりだよな。レイラも行くでしょ?」
しかしレイラは首を横に振って…。
「私はいいわ、キャラバンの旅で少し疲れちゃったからお昼寝してるわね。三人で街の探索してきなさいよ。……大丈夫、この街は安全よ」
微笑みながら答えた。
何時も一番食い意地が張ってるレイラが、ステータス的にも俺より体力のあるレイラがおやつを食べに行かないなんて!
……何かおかしい。
「どうしたんだよレイラ!? 具合が悪いなら早く言えよ、薬でも買ってきてやるから」
「そうだぞ、お前が疲れる事なんてなかったじゃないか! 悪い物でも……、拾い食いでもしたのか? 俺もそれは止めた方がいいと思うぞ」
「見た感じ具合は悪くなさそうだけど……。まあ、そこまで言うなら仕方ないか。留守番、頼んだよ」
俺たちは三人で街へと繰り出した。
レイラの行動が不自然だが考えても仕方がなさそうだ。
取りあえず、クロノス・スタッフ見学と行きますか。




