第74話 氷の魔女にお仕置きを
「やっぱり君だったか、フリーダ! 街のみんなが迷惑してるんだぞ、こんな嫌がらせは今すぐ止めるんだ!」
シオンが王座に座った女の子を指さして叫ぶ。
氷の女王は嬉しそうに微笑む。
……コイツって魔法学校での一番を決めるためにわざわざ来たんだよな。
そんなに一番に意味があるのか?
フロントの街、その近くにある裏山の洞窟。
そこで俺たちはシオンが魔法学校の頃に知り合いだったとか言うエルフの魔法使いを追い詰めた。
天候すら操る魔法を持つコイツと戦う事に……、なりそうだな。
「もちろんですわ。貴方が私と戦えば止めて差し上げますわよ。貴方の知り合いだと言う破廉恥な男の事も水に流して差し上げますわ」
案外物分かりが良かったな。
破廉恥な男ってのは間違いなくリックの事だろう、後でお仕置きな。
「望むところだ! フロントがこうなったのは僕が居なかったせいでもあるんだ。僕の手でみんなを守って見せる!」
シオンは力強く拳を握りしめて叫んだ。
そんな彼の前にレイラが進み出て杖を掲げると…。
「先手必勝、『ファイアボール』ッ!」
「なっ、キャァァァァァッ!」
突如放たれたレイラの魔法はフリーダの周りの氷にぶつかると爆発と蒸気を巻き起こす。
「な~に一人でかっこつけてるのよ! 私もこんなにフロントを寒くしたアイツを許せないわ! これはシオン、あんた一人の戦いじゃなくてフロントの戦いなのよ!」
生意気そうな笑みを浮かべるレイラ。
お決まりの不意打ちはともかく、これはとっとと全員でアイツを潰すべきだな。
「お前一人じゃ心配だから俺も手伝ってやるぜ! 寒いのは俺も嫌いだ。……まあ、四対一なら負ける気はしないしな」
「ああ、見たところアイツは氷の魔法を得意とするみたいだな。俺の技も装備も炎系のものが多い、きっと役に立つ筈だ」
シオンは頷くと再び戦闘態勢を取る。
「ありがとうみんな! でもアイツは今の攻撃でやられる様な奴じゃない。……来るよみんな、気を付けて!」
突如洞窟が揺れ始める。
凍った地面からムクムクと氷のモンスターが形成されて行く。
「この私を驚かせてくれるとはなかなかやるじゃない。四人一度に相手してあげる、アイスゴーレムクリエイト!」
なんと二体のアイスゴーレムが俺たちの前に立ちはだかる。
その巨体で洞窟の奥にいるフリーダの姿を隠してしまう。
「氷の魔法は動きを制限するものが多い。長引くと不利だ、速攻で決めよう。ローレンス、一体は任せたよ。二人で何とかもう一体をやれるかい?」
俺とレイラは目を合わせて頷く。
「氷は炎に弱いんだよな、だったら任せろ。レイラ、同時に行くぞ!」
「数少ない私の得意魔法が輝く時ね。何時でも行けるわ!」
俺らの顔を確認したシオンの合図で作戦開始だ。
「行くぞ、『フレイムドーン』ッ! テヤァァァアッ!」
ローレンスが炎を纏って切りかかる。
「俺たちも行くぜ!」
「ええ、分かってるわ!」
レイラが杖を、俺がカードをアイスゴーレムに構えた。
「「『ファイアボール』ッッ‼」」
二つの火の玉が同時に命中し、大きな爆炎を巻き起こす。
ガラガラと崩れ落ちるアイスゴーレム、道は開けた。
「いっけぇ、『パラレル・ホーリーレイ』ッ!」
両手を前に突き出したシオンの手が強く輝く。
そこから白く輝くレーザーがマシンガンの如く連射された。
狭い洞窟、この魔法なら相手は逃げ場もない。
「甘いわシオンさん、前の私とは違うのよ! 『ダイアモンド・フリーズ』ッ!」
王座から立ち上がり両手を空に掲げるフリーダの周りに青いオーラが渦巻く。
一瞬のうちに氷のドームが彼女を包み込んだ。
宝石のように輝く氷にシオンの魔法が全弾命中するがいとも簡単にレーザーは弾かれて行く。
「なっ、氷の防御魔法!? 傷一つ付かないなんて…」
「その様子だと流石のあなたもこの魔法は知らなかったようですね。当然ですわ、私だけが使える完全防御魔法なのですから! この防御壁を展開している間は私も攻撃できませんが問題ありません。この氷は無敵、貴方方が隙を見せたタイミングで絶対零度の吹雪を食らわせればいいのですからね!」
シオンは項垂れる。
「ねぇったら! 相手は閉じこもっただけなんでしょ? だったらアレを壊すか解除するまで待てばいいだけじゃないの?」
あまりに深刻そうな雰囲気を察知してレイラが問いかける。
確かにあの氷のバリア、パッと見薄そうだけど…。
「そんな簡単な問題じゃないんだよ。完全防御魔法っていうのは己の攻撃を封じる代償に無敵の防御を展開する魔法なんだ。どんな攻撃でも破れやしないんだよ」
悔しそうに答えるシオン。
どんな攻撃でも破れない防御魔法か。
……そう言えば俺もそんな魔法を持ってたな。
「なあシオン……、っとあったあった。この魔法も完全防御魔法って言ってなかったか? これを使って俺たちも無敵になろうぜ」
俺はベルトにつけたケースから残り二枚のマジックカードのうち一枚を取り出す。
虹色に輝くレアカードだ。
「確かにそれも完全防御魔法、でもそれは体を金属の塊に変えて身を守る魔法なんだ。一人にしか効果がない上に時間経過で魔法が解けちゃう、フリーダの魔法には対抗できないよ」
なるほど体を金属に変える魔法か。
これは使えそうじゃないか?
「でもアイツの氷と同じ完全防御とか言う無敵の魔法なんだろ? だったらコイツで引きこもりの殻を破れる筈だぜ! ローレンス手伝ってくれ!」
「な、何をする気なんだ? 流石に俺の魔剣でもあの氷は…」
「いいかよく聞けよ。あの氷のバリアに向かってお前の首を投げるんだ! 大丈夫、俺を信じろ!」
うろたえるローレンスは不安気に頷く。
シオンとレイラも真剣なまなざしでこっちを見つめる。
「何かしようとしてるみたいですが無駄ですわよ。絶対防御魔法は限定された範囲に世界一丈夫な壁を作る魔法。壊せる攻撃などこの世には存在しませんわ」
氷の中の彼女は不敵な笑みを浮かべ、誇らしげに話す。
「そうなのかもな。でも俺はこの作戦に賭けるぜ!」
俺はカードを構える。
「お前、優等生なんだろ? お前が戦う理由は知らないけどみんなに迷惑かけてんじゃねーよ、強さ最下位の俺もお前を許さない! やれ、ローレンス!」
「くぅっ、こうなったら金治、お前を信じ抜くぞ! うぉりゃぁぁっ‼」
兜を被った生首が放物線を描いて氷のバリアの真上へと落ちて行く。
今だ、予想通りに行ってくれよな…。
「マジックカード、『メタルフォーゼ』ッ‼」
カードが強く輝き消滅するとローレンスの体と鎧がメッキでも張られたように輝いて行く。
一瞬のうちに彼の体は金属で出来た銅像の様に固まってしまった。
バギバギバゴォッ、ガシャーン……。
それと共にフリーダを覆う氷のバリアが粉々に砕け散った様だ。
「な、何があったのよ!? ローレンスの体が固まったら氷が割れたわよね! ……金治なにかしたの?」
「……そうか、ローレンスの頭だよ。『メタルフォーゼ』は対象一人を金属に変える防御魔法、分離してると言え彼の頭も金属化したんだ。二つの完全防御魔法がぶつかったら密度も重量も高く、落下して勢いがあったローレンスが勝ったんだよ。やるじゃん金治、作戦勝ちだね!」
殆ど思いつきの博打だったけど予想以上に上手く行ったぞ。
……っと、喜んでる場合じゃないか。
笑顔なシオンの背中を押してフリーダの方に向ける。
「いたずらが過ぎる奴にはお仕置きしないとな。今回はお前の役目なんだろ、シオン!」
「うん、止めは任せて…」
ガラガラと音を立てて氷の瓦礫からフリーダがはい出してきた。
「よ、よくもやってくれたわねぇ! 私の魔法を破るなんて、まあやるじゃない。でも今度はこっちの番よ! 凍てつきなさい、『デス・ブリザ…」
「させるかっ! 『セイントスマッシュ』ッ‼」
呪文を詠唱しきる前に駆け出したシオンが呪文を叫んだ。
拳に白く輝く聖なる光を纏い力いっぱい振り下ろす。
瞬時に張られた氷の壁すら突き破り、シオンの拳はフリーダを吹き飛ばした。
「いったぁ~、やってくれたわね、今度は私の番よっ!」
素早く立ちあがったフリーダの飛び蹴りがシオンを吹き飛ばす。
「いてて……、僕は負けないよ、テイッ!」
シオンが膝を摩りながら立ち上がるとお返しにパンチを繰り出す。
ここからはシオンとフリーダが反撃を重ねて最後は取っ組み合いの喧嘩になってしまった。
魔法使い同士だからかお互い力が弱く情けない死闘が繰り広げられる。
……ていうかどっちも見た目が子供なんだよなぁ。
俺はフェミニストでも博愛主義者でもないけど流石に女性が男にボコボコにされてたら止めるだろうな。
でもどっちも子供で実力がどっこいの喧嘩を止めるほどお人よしじゃないぞ。
シオンは小学生くらい、フリーダはそれより少し大きく中高生くらいの身長。
しかし年齢はエルフの寿命を考慮し、シオンを基準に考えてもあのフリーダは50~100歳くらいだろう。
年齢は俺やレイラよりはるか上の二人。
ライバルのプライドを賭けた戦いはもう、どこぞの家庭で繰り広げられる姉と弟の兄弟喧嘩にしか見えなくなってしまった。
「ちょっと、私たちほったらかしにして何やってんのよ! ……聞こえてないわね。どうする金治、ほっとく?」
叫んだが無視されて少しへこんだレイラ。
「関わりたくないし飽きるまでやらせとこうぜ。ほらローレンス、大丈夫か?」
俺はさっきまでフリーダが座ってた王座の傍に落ちている金属の生首を拾い上げる。
ボンッ、と煙を出して金属からいつもの姿に戻った。
「ああ、傷一つないぞ。防御魔法をぶつけて防御魔法を破るなんてなかなかの作戦だったな、俺は死ぬかと思ったが」
「悪い悪い、思い付きでやっちまったからな。でもお前なら大丈夫だって信じてたぞ。ほら、これからはもっと大事にしてやるからさ」
首を抱いてやると彼は微笑んだ。
「冗談だ、お前の考えなら奇跡も起こる気がしてるからな。……しかしこの状態久しぶりだが落ち着くな」
俺たちがだらだらと洞窟の隅で無駄話をしてるとボロボロになったシオンとフローラが近寄って来た。
「あら、喧嘩は終わったの? だったら天気を戻してよね、もう凍えそうなのよ」
腕を組んだレイラが不満そうに文句を言う。
「そ、そうだぞ、僕が勝ったんだから早くフロントの天気を戻せよな。氷の塊まで降らせて、後で街のみんなに謝罪してもらうからね」
顔を腫らしたシオンがフリーダを指さして言う。
「まだ私は負けてないわよ! それに雪を降らす魔法はもう消したわ。……ところで氷の塊ってなんのことかしら? 私攻撃はしてないわよ」
俺たちは思わず固まった。
洞窟の外は未だに吹雪いている。
「おい、本当に魔法は消したのか? まだ降ってるみたいだが……、それにフロントに氷の塊を撃ち込んだのはお前じゃないのか?」
ローレンスの問いに不安気に頷くフリーダ。
「え、ええ、私がやったのは少し雪を降らせてこの洞窟の前にアイスゴーレムを配置しただけよ。街に攻撃何てしてないわ!」
これはおかしいな。
何かスゲェ嫌な予感がする。
「取りあえず街に戻って見ないか? 外は吹雪いてるから俺が掘った穴を通って」
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暗くて狭い即席の地下トンネルを抜けてフロントの前へと出る。
そこはさっき以上に吹雪が吹き荒れ、雪が降り積もっていた。
……近くで誰かが戦っている?
よく見ると街の入口を守るようにどっかで見たことがある鎧を着た兵士たちがいかにも氷っぽい靄みたいなモンスターと戦っていた。
その後ろで指揮を執ってるスーツの女性もどっかで見たな。
「なあ、アイツらってどっかで会わなかったか? この街でだったような…」
俺たちは穴から隠れて覗く。
「忘れちゃったの? あそこにいる女の人ってフロントの領主さんでしょ? 戦ってる騎士も私たちの表彰式の時に来てたわ。……でも何と戦ってるのかしら?」
「あれは確か『コールドスイープ』って言うエレメント系のモンスターだよ。雑魚だから大丈夫だと思うけどこんなところにあのモンスターが出るなんておかしい、領主さんたちも異変に気が付いて調査しに来たんだよ」
「でも数が多いぞ。それにあの騎士の中に魔法使いはいなそうだ、エレメント系に物理は効きにくかった筈。……助けに行こう、俺や金治の魔剣なら楽に倒せる相手だ」
俺たちは顔を見合わせて頷く。
「わ、私も行くわ。私の魔法が原因でこうなってる。シオンを誘い出すだけのつもりがこんなに迷惑をかけていたなんて……、またやっちゃったわ。何とかしなくちゃ…」
後ろをついて来ていたフリーダも名乗り出る。
またってこういう事態を起こしちゃったの初めてじゃないんかい。
まあ、優秀な魔法使いが仲間になるのは頼もしいな。
「よし行くぜ! 領主を、シーナさんをお助けするぞ!」
俺は完全に思い出したぞ、表彰式の事を。
表彰状を手渡してくれたフロントの領主、シーナ。
……確かエロ……、可愛かったよなぁ。
絶対に守らないとな、やる気100倍だ!




