第69話 妖精のらくがき
「あっ、居た居た! 何やってんのよ、早くこっちへ来なさい!」
ワカバに呼ばれて俺たちは石の階段を駆け上がる。
空に一番近いこの場所が頂上だな。
空には星空が広がり夜にも関わらず俺たちを明るく照らしていた。
「来たね金治……、話は聞いたけど相変わらず凄く光ってるね。まあこの壁画を見てよ、大きな魔法陣が描いてあるだろ?」
シオンが背後の壁画を指さす。
そこには確かに大きな丸に複雑な模様が描き込まれた魔法陣が一つ。
「ああ、それが妖精魔法なんだろ。使えそうなのか?」
シオンは辛そうに首を横に振った。
「いや、分からないことが幾つかあるんだ。まずこの魔法陣をそのまま描いても何も起こらないって言う前例がある」
魔法陣は見つかっているが使っても何も起こらないって言ってたな。
「そしてココ。魔法陣のこの二つの部分に太陽と月の輝きを、って書いてあるんだ。さっき君たちが描いた魔法陣がそれかもしれないんだけどここには描いてない。壁画は壊されちゃったしね」
じろりとシオンに見られたヴァイロンは顔を背けて答える。
「私がいても居なくても結果は変わりませんでしたよ。実際にその魔法陣に太陽と月の魔法陣を書き足したものを使ってみたことがあります。……何も起こりませんでしたけど」
シオンは少しうろたえたが首を振って続ける。
「もう一つ、この魔法陣の下にはこう書いてある。『右手に希望の太陽を、左手に覚悟の月輝く時、5つの勇気で魔道の星を大地に描け。その時こそ妖精のらくがき輝きて大妖精アルカナディア呼び覚まさん』ってあるんだ」
俺たちは思わず感嘆の声を上げた。
もう殆ど答えがでてるじゃないか。
「僕らが探してる妖精魔法は『大妖精アルカナディア』って奴を召喚する魔法陣だと思うんだけど……、この『妖精のらくがき』ってのが分からないんだ」
俺は周りを見渡した。
最上部の天井がない遺跡、ここだけでも大きな壁画が二枚。
「らくがきって言うんだから壁画のことじゃないのか? どこかに走り書きでもしてあるって訳じゃないだろうし」
「それが違うみたいなんだ。この遺跡とは別にあるらしいんだけど…」
シオンは再び頭を捻る。
「う~ん、壁画の裏にはらくがきはないぜ。らくがきをするって言ったらこういう裏とかノートの隅とかじゃねーのかよ?」
壁画の裏から出て来るギンガも途方に暮れている。
「僕の知ってる限りじゃ妖精のノートなんてないしなぁ。他にらくがきがありそうなのは何かないか?」
「ノートの隅、家の壁、道路とかか? 後は黒板とか机とか…」
……机?
俺はカバンの中を探ったが目当てのものはない。
「へぇ、もしかして金治は気が付いたのかい? でもあんまり意味はないと思うけど」
俺の考えを察したヴァイロンがニヤリとする。
「分かってたなら教えろよな。それより誰か街の地図、持ってない?」
三人はそれぞれカバンを開けると…。
「僕が悪さをしに行く時に使う地図だけど……、これが何の役に立つの?」
ワカバが差し出してきた地図を受け取り、急いで広げる。
間違いないな。
「見ろよ、ここが街の入口だ。そして中央広場がここ、こっちの複雑なところは研究所がいっぱいあったところだ。……不自然なくらい一致してるな」
地図と壁画の大きな魔法陣を交互に指さす。
「ほ、本当だ……。どうして気が付かなかったんだろう、いっつも歩いてた街が魔法陣だったというのか!?」
丸い城壁で覆われたフェアリーテーブルの街と妖精魔法の魔法陣。
細部までそっくりだ。
「そう言えば僕も聞いたことがあるわ。古代の言い伝えを信じて街の区画は変えていないって。まさかそれが…」
俺らが驚いているとヴァイロンが不敵に笑いだす。
「ハッハッハッハ、やっと気が付いたようですねぇ。その通り、フェアリーテーブルはこの妖精魔法の魔法陣そっくりです。ですがそれは魔法陣を保存するために古代人が考えた浅知恵でしょう、分かったところでどうにもなりませんよ」
何にもならない、確かにそうだ。
「でも『妖精のらくがき』は多分見つけたぜ! あと足りないのは…」
「5つの勇気で魔道の星を大地に描け、よね。それってこれじゃないかしら? 中央広場を上に見てこことここ、それにこっちとそっちにも。あの街には同じような広場がちょうど五つあるわ。これを繋げば綺麗な星型の図形が出来る、きっとそこで何かをすればいいのよ!」
シオンも驚いてワカバを見る。
「す、凄い! きっとそうだよ。でも後の太陽と月って言うのは…」
ギンガが自信ありげにシオンの肩を叩く。
「分かっちまったぜ、それってきっと俺様と金治の事じゃねーのか? 見ろよ俺たちこんなに光ってるぜ、魔法陣から出た魔法でな!」
「ま、間違いない! でもどうして君たちはそんな簡単に答えを出せたの? 僕には全く分かんなかったのに…」
「ふぅ、私も完敗ですね。魔法の研究では誰にも負けない気でいました、しかし知識も少ない若者の発想にすら至れなかった。私は魔法陣に魔力を込めて描く、これしか思いつきませんでしたよ」
呆然とするシオンと清々しい笑みのヴァイロン。
俺はギンガとワカバの顔を見た。
きっとこいつ等も思い出したんだな。
転生前、クロムに言われたことを。
「まあ俺たちはイレギュラーな存在だからな! 発想も違うって訳だ」
「女神様の言ってた事はこう言う事だったんだね。価値観が異なれば同じものを見ても見え方が違うって事よね!」
「それに俺様たちはお前らみたいな勉強オタクとは違って自由だからな! ココが違うって訳よ、ココが!」
俺たち三人は互いに親指を立ててニッと笑った。
この世界の危機って奴を俺たちは一つ、救えるかもしれないんだぜ!
「ね、ねえ、君たちは僕には出来なかった発想をした。この次にどうすればいいのか僕には分からない。……もしかしたら、君たちには分かるんじゃないの?」
シオンが真剣な面持ちで問いかけて来る。
俺たちは再び顔を見合わせた。
考えは一緒だよな。
「俺たちだったら次は妖精魔法を発動する。さあ、フェアリーテーブルに行こうぜ! 妖精のらくがきは机全面にデカデカと残ってた、魔法陣を新しく描く必要はなかったのさ」
「太陽が金治で月がギンガ、残る勇気は僕にシオン、もう一人は…」
ワカバは言いかけてチラリとヴァイロンを見る。
「ほお、この私に手伝えと。……折角ですがお断りいたしましょう。私はこれでも魔王軍の四天王、自分で自分の軍を潰すのはいささかお間抜けなのでね。それに私はあなた方の作る奇跡と戦いたい、見せてくれると約束しましたものね」
「へっ大丈夫だろ、そんな敵に頼まなくても! この街には魔女がいるんだろ、ソイツにやって貰えばいいじゃねぇか!」
ギンガはワカバの背中を力強く叩いた。
やるべき事は決まった、後はフェアリーテーブルで妖精魔法を試すだけ。
発動しなかったらそれまでだ。
ドラゴン軍団に成すすべなくやられるだろう。
街全滅か奇跡の逆転勝利か、異世界生活最大の大勝負だ!
「さあシオン、最後のカードを使う時だぜ! 今更ビビったなんて言わねぇよな? ……俺は最初っからビビり切ってるがな」
「うん、最後までいつも通りの金治で安心したよ。妙に冴えてるから四天王に操られてるんじゃないか今更心配になってたとこだ。さあみんな、僕の近くに集まって!」
シオンの周りに俺たち三人が集まるとヴァイロンが一歩下がる。
「期待してますよ金治、そしてその仲間たちよ!」
「ああ任せろ、最大の奇跡をお前に見せてやるぜ! 腰抜かすなよ!」
シオンがマジックカードを空にかざす。
「最終決戦だ! 行き先はフェアリーテーブル、『テレポーテーション』!」
俺たち四人は光の矢となってドラゴン軍団になお攻撃されているフェアリーテーブルへと飛び立った。
もう街の防御壁にはヒビが入り、光も弱くなっている。
一か八かの妖精魔法、俺はこいつに未来を賭けるぜ!




