第67話 悪夢を打ち破れ!
「行くぜぇ! 俺様の魔槍を喰らいやがれっ!」
ギンガが手にした槍に光を纏わせてヴァイロンに殴りかかる。
「フッ、そんなものでは私に傷一つつけることすらできませんよ」
赤い鱗で覆われた左腕を盾の様に構えた。
魔槍の攻撃はその腕に突き刺さった……、様に見えたがあっさり弾き飛ばされてしまう。
「な、何で俺様の攻撃が全く効かねぇんだよ!? 自慢の魔槍『エクストリーム』、どんな固いモンスターも貫けてたって言うのに…」
あからさまにうろたえるギンガ。
「おやおや、ドラゴンと戦うのは初めてかな? 私は悪魔とドラゴンの血を引くハイブリットでね、半身の鱗はドラゴンのものなのさ。ドラゴンの鱗は魔法を弾き、高い強度を誇るのですよ」
鱗に覆われた左腕を見せ付けて来た。
「謎が解けたわ、貴方がドラゴン軍団を率いていられるのはその血のお陰って訳ね。ドラゴンは自分より強いものに従う習性があるって聞いたことがあるわ」
「ドラゴンの血を引くってどんなプレイしたんだよ……。しかしドラゴンの鱗ってかっこいいよな。強いし」
四天王ってだけでも勝ち目無かったのにますます希望が遠のいてるなぁ。
相手はかっこいいし強そうだし。
「おい、トカゲ野郎! テメーみたいなモヤシがドラゴンとは驚きだぜ! 俺様のが強くてかっこいよくて最高だって事を証明してやる!」
いつの間にか起き上がっていたギンガが叫ぶ。
これはマズいな…。
「止めとけよギンガ。アイツ、ドラゴン抜きにしてもお前よりかっこいいぜ? まず賢さじゃまずお前より上だろ」
「なっ、オメェはどっちの味方なんだよ! 俺様のがかっこいいだろッ!」
武器を足元に置いたギンガがヘッドロックを仕掛けて来たぞ。
……くるじい!
「何遊んでんのよ馬鹿コンビ! 今は戦闘中……、あら? アイツは…」
突然誰かに頭を触られた。
「戦力を冷静に分析し、正しい美の感性を持つとは人間にしてはやりますね。どうです? 望むのなら私の部下にして差し上げますよ」
とっさに振り向くとヴァイロンが背後にワープしていた。
「なっ!」
「ゲェッ!」
「キャアッ!」
俺たちは咄嗟に飛び退いて距離を取る。
不敵な笑みを浮かべるアイツは伊達じゃないな。
「なあ、部下にしてくれるってよ。どうする?」
「どうもしないよ! ほらヴァイロン、次は僕が相手だ! ドラゴンには龍魔法をお見舞いしてやるわ! ……僕は誓ったんだ、二度目の人生は大切なものを失わないって。フェアリーテーブルは僕が守る!」
杖を構えるワカバに対して相手も大きな杖を構える。
「ほう、その若さで龍魔法を心得るとは少しはやるようですね。では私も龍魔法を持ってお相手いたしましょう。燃え盛れ、『レッドブレス』!」
「受けて立つよ! 凍りなさい、『アイスブレス』ッ!」
二人の杖から赤と青の輝く炎が噴き出して激突する。
凄まじい衝撃を起こして拮抗した様に見えたが…。
「フハハハハハッ、なかなかの威力ですがそれでは私には敵いませんよ。これが本物の龍魔法です、ハァッ!」
「そんなっ、キャァァァァッ!」
ヴァイロンの魔法が2倍ほどの大きさになったと思ったらあっという間に俺たちは吹き飛ばされた。
遥か後方へと吹き飛ばされた俺たちは何とか立ち上がる。
「なんつー威力だ。俺様まで吹き飛んだぞ!」
「ぼ、僕の最大魔法が全く通用しなかった……。どうすればいいの…」
膝を地面につくワカバ。
その近くにあるこれは…。
「なあ、これって俺とギンガが描いた魔法陣だよな。シオンが言ってた感じだとワカバが魔力を込めて描けば何か出るんじゃないか?」
ハッとして魔法陣の前に集まる。
「僕の魔法は通じない。でも妖精魔法なら……。うん、やって見るわ! その間二人は何とか時間を稼いで!」
俺とギンガは顔を見合わせた。
「って言われても俺様の魔槍は全く効かなかったぜ? スーパースターのスキルは補助系ばっかりだし……、金治お前って色々やって来てるっぽいしなんかねぇのか?」
「そうよね、金治って確かドラゴンや巨大要塞も倒したのよね。何か取って置きの秘策とか作戦とかないの?」
おいおい、レベル10の遊び人に何を期待してやがるんだ?
サイコロ使ってもアイツに敵うとは思えないし、何か…。
「作戦何て言われてもな。……そうだ、お前らなんか強いマジックカードとかアイテムとかは持ってねぇのか?」
二人はポケットやカバンを確認するが…。
「ねぇな。お前との決闘で負けて逃げた時、カードも全部置いて来ちまった」
「私も無いわ……。お願い、何でもいいから時間を稼いで! 魔法陣を試すから!」
うーん、頼りにならないな。
……それに何故かあのヴァイロンとか言うヤツは悪者に見えない。
でももう時間はないよな、最後は自分の覚悟だけか。
「戦いたくなかったけどしゃーねぇなぁ。ワカバ、お前の魔法に賭けたぜ! ギンガ、死なない程度に行くぞ!」
俺とギンガはヴァイロンに向かって駆けだした。
「今度は貴方ですか……、いいでしょう。私の得意魔法で勝負です、『ブレイズバースト』!」
掲げた杖の先に渦巻く超特大の炎の塊が出現する。
それが俺たちに向かって放たれた。
もの凄い威力だ。
「ま、マズいぜ! このままじゃあの女も…」
「大丈夫、俺の後ろに居ろよ! 魔法発動、『ミラーテクスチャ』!」
俺は残り数枚しかないマジックカードの一枚を発動する。
目の前に虹色の壁が出現して渦巻く炎を跳ね返した。
「ほう、なかなかの魔法じゃないですか。だが無駄です! 私の鱗に魔法は効きませんよ」
鱗の左腕を一振りするとその凄まじい炎も打ち消される。
どうやら魔法攻撃は無駄なようだな。
「やるな金治、助かったぜ! 俺も行くぜ、『エア・ステップ』!」
空中を跳ねまわりながらヴァイロンに迫って行くギンガ。
ここは俺も攻撃だな。
「ふん、動きを変えたところで無駄ですよ。……ほう、後ろの貴女は魔法陣ですか。それなら私も魔法陣と言うものを見せて差し上げましょう」
ギンガの攻撃を片手でいなしたヴァイロンは杖を俺たち三人へと順番に向ける。
杖を向けられた時、何か見透かされる様な嫌な感じがした。
「おいテメェ、俺様に何しやがった!」
「ご安心なさい、何もしてはいませんよ。少しだけ心を覗かせていただいただけです。……ほう、これは興味深い。あなた方三人には同じ恐怖があるのですね」
同じ恐怖?
ギンガとワカバの方を振り向くが二人とも心当たりなさそうだ。
ヴァイロンはローブの中から分厚い本を取り出すとページを一気に捲る。
「ありました、それでは悪夢を召喚するといたしましょう。同じ恐怖を持つあなた方にぴったりのモンスターです。いでよ、『ナイトメアゴースト』!」
本を俺たちに向かって突き出し、ヴァイロンは叫んだ。
見開きのページに描かれた大きな魔法陣が輝き、黒い煙を噴出した。
「な、何だアレ? ゴーストが姿を変えて……、あ、あれは!」
ギンガが叫んだが俺たちも驚くぞ。
黒っぽい靄みたいなゴーストが現れたと思ったらそれは姿を変えて俺たちがこの世界に来る前に見た物へと姿を変えた。
大きな四角っぽい車体に四つのタイヤ、これは…。
「な、なんで異世界にトラックが出てくんだよ! 雰囲気ぶち壊しじゃねーかっ!」
巨大なトラックが現れた。
そう、道路を走ってる車の類のあれ。
う~む、死んだときの記憶がフラッシュバックされて確かに悪夢だな。
「ってかギンガとワカバもトラックに轢かれて死んだのかよ! お約束すぎんだろ、だっせぇな!」
「う、うるせぇ金治、オメェもだろーが! ったくもうコレを見ないで済むと思ってたのに何でこうなるんだよ! ……おい、動き出したぞ、避けろっ!」
俺とギンガが走って来るトラックを交わすとそれは見事なドリフトでターンし、再び俺たちに向かって迫って来る。
エンジン音も鳴ってるし完全に車だな。
「キャアァッ! 二人とも逃げて! それに轢かれたらまた死んじゃうわよ!」
ワカバの悲鳴で俺たちは再び横へ転がりかわす。
「ハハハハッ、予想以上に面白い物が出ましたね。逃げ回りなさい、ナイトメアはあなた方が抱いている恐怖の分だけ強くなりますよ? 当たれば即死でしょうねぇ」
空中を浮遊して楽しそうに笑うヴァイロン。
「こうなったらやってやるぜ! 魔槍をくらえっ! ……うぉいっ!」
トラックの突進を避けざまに槍を突き出すギンガ。
しかし、謎のスパークが車体と槍の間で発生してギンガは吹き飛ばされた。
「大丈夫かギンガ!? どうしろってんだよトラックなんて…」
「ああ、大丈夫だぜ……。しかし攻撃が効かないぜ!」
「そんな……、転生者はトラックには敵わない運命だって言うの!?」
ワカバも絶望の叫びを漏らす。
確かにエンジンも車体もタイヤも完全にトラックだ。
運転席は黒いガラスに覆われていて運転手がいるのかどうかも分からない。
車を人間が倒す方法なんてあるわけない。
……車?
「そうか、分かったぞ! あれは本当に俺らの知識から作られたトラックなんだ! ならコイツでやっつけてやる!」
俺は一枚のカードを手に走り出した。
「おい金治、何する気だよ!? ソイツには魔法も効かないっぽいぜ!」
「まあ見てろよギンガ、アレが俺らのイメージ通りに作られたトラックなら弱点も同じの筈だぜ! おいナイトメア、俺を轢いてみやがれ!」
木の枝の端へと向かって駆けだすとトラックは俺を追いかけるようにターンして後ろに迫って来た。
エンジン音が背中に迫って来るのが分かるがそれでも俺は走る。
「「金治ッ‼」」
ギンガとワカバの叫びに合わせて俺は横に飛び退いた。
もうギリギリの崖っぷちだ。
「お前のタイヤはスタントレスか!? これでもくらえっ、『アイスウィンド』ッ!」
手に持ったカードが輝き、青く輝く風が放射される。
目の前の地面を凍らせるとそこへトラックが突っ込んで来た。
広い空間を縦横無尽に走り回ったさっきの様にドリフトを決めようとするがそのタイヤは地面をグリップすることなく横へとスライドして行き…。
「見たかトラック野郎! 転生者をそう何度も轢けると思うなよ!」
木の枝から飛び出しあちこちにぶつかりながら落下して行く。
見えなくなるまで見送ると俺は二人の方を振り向いてブイサインをした。
「やったじゃねーか! お前やっぱりすげーぜっ!」
「スリップさせて落としちゃうなんてよく思いついたわね! 僕なんか死んだ時を思い出してもの凄く怖かったのに」
俺は再びギンガのいる中央へと戻る。
そこへヴァイロンが下りて来た。
「ほう、悪夢に打ち勝つとは非常に珍しい。君はかなりやるみたいだね。それでこそ私も戦いがいがあるってものだ」
「ヘッ、俺たち転生者様を甘く見るんじゃねーぞ! 今度こそ俺様の槍で貫いてやんよ!」
笑顔で槍を構えるギンガとそれを見て微笑むヴァイロン。
空気が変わったな、もうあんまり怖くねぇや。
「俺もやるぞ! カードをもう一枚、『ドッペルコピー』発動だ!」
俺は二枚目のレアカードを発動した。
マジックカードはケースの中にレアが3枚、ノーマルが1,2枚と言ったところか。
俺は光に包まれる。
目を開けると周りに色は黒っぽいが俺の分身が数体出現していた。
「さあヴァイロン、早く道を通して貰うぜ!」
「フフフ、面白い、面白いですねぇ! こんなに楽しいのは久しぶりです。さあ、かかってきなさい勇者たちよ!」




