第66話 四天王ヴァイロン
空高くに飛び出した俺たちは世界樹に向かって落ちる。
四人は悲鳴を上げて落下し、枝を突き破って世界樹の太い部分に墜落した。
「いってぇなおい! 長老は魔法で俺たちを送るって言ったけどぶっ飛ばしただけじゃねぇのか、これ?」
「ひどいわよね……、これなら師匠の飛行魔法のがマシよ!」
「ったく、勇者なんだから丁寧に扱いやがれってんだ! ……で、ここってデカい木の上だよな? どうなってんだコレ」
確かにここは世界樹の上層部だろう、周りは太い木の枝と葉が覆いつくしている。
そんな自然の景色に不自然なものが溢れていた。
石で出来た建物の跡だろうか、廃墟の様なものが断片的にだがあちこちにある。
「君たちって妙にずうずうしいよね。それよりコレを見て! 僕も世界樹の上に来たのは初めてだけどこれは間違いなく妖精の遺跡だよ! 古代の時代は一つの大きな遺跡だったけどそこに世界樹が生えて、それで持ち上げられたからこんな状態だって聞いたよ」
遺跡の下から生えたのがこの木って訳か。
無茶苦茶だな。
「何かしらコレ、文字みたいだけど読めないわ。師匠もいろんな文字の本を持ってたけどこれに似たものは見たことないよ」
「これ字なのか? 字って言うより絵みたいだな」
シオンの指さす半壊した石の壁には文字の様な絵の様な不思議なものが刻み込まれていた。
これが妖精魔法の遺跡って奴なのか?
「うん、この線は一見絵にも見えるけど古代の時代に妖精が残した文字だよ。一応解読書は長老に渡されてるから時間は少しかかるけど解読できる筈だ。この遺跡のどこかに妖精魔法のヒントもきっとある、実際調査して魔法陣は最上部で見つかってるんだから」
そう言ってカバンから分厚い辞書を取り出しページをめくり始める。
「おいおい、エルフの癖に妖精の文字も読めないのかよ。それにコレ全部いちいち解読してたら夜が明けちまうぜ! 最上部だけ調べる訳にはいかねぇのかよ」
ギンガが呆れて叫ぶとシオンはため息を付く。
「あのねぇ、最上部には確かに魔法陣があるらしいけどそれは発動しなかった。なら道中の遺跡でヒントを探すのも必要さ。それに僕らエルフと妖精は別物なんだ、読める訳ないだろ!」
「エルフと妖精って同じ物じゃないのか? 俺はてっきりエルフイコール妖精かと思ってたぞ」
「エルフと妖精は全く別の種族だよ。それに妖精は古代の時代で滅んだ種族とされてるんだ。現代とは比べものにならない強力な魔法を操り、気まぐれで味方するこの世のものとは別の不思議な存在、それが妖精。……大丈夫だよ、遺跡を全部解読する気はない。一部だけでも調べれば妖精文字はあらかたどんなことが書いてあるのか分かるんだ。見た感じここには手がかりは無いみたいだし先に進もう」
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俺たちはその壁画を後にして太い枝の上を進んで行く。
本当にデカい木だからか俺たちが並んで歩いても余裕くらいの太さだな。
「うん、ここも関係ないみたいだ。次に行こう」
もう何度目か分からないくらいの壁画を調べ終わったようだ。
「はぁ、こんな地味な事のんびりやってて本当に大丈夫なのかよ? 妖精っつうんだから美人でカワイイ子の壁画でもあればやる気も出るんだがなぁ」
「ギンガみたいな欲望でいう訳じゃないけどさ、僕もなんだか不安になって来たよ。ここに来てから結構時間立ってるし一回魔法陣ってのを見に行ってみない?」
シオンが壁画を見つけるたびに辞書を引いて俺たちはそれについて行くだけ。
流石に飽きるわな。
この辺は遺跡が多いので進むのも遅くなってるし。
「俺も飽きたぜこの景色、とっとと進も……。おい、なんか絵がかいてあるぞ! 魔法陣じゃないのか!?」
廃墟を避けた先の広い空間。
その奥にある壁画、不思議な丸い模様が二つ書いてある。
「間違いないわ! 丸を基本として術式を描き込むのが魔法陣の基本。行ってみましょうよ、きっと妖精魔法ってあれよ!」
若葉の掛け声で俺たちはその壁画へと駆け出した。
壁画の前面にこれまでと同じような妖精文字。
ここまでと違うのは左右に描かれた二つの魔法陣。
「確かに魔法陣って感じだな、よく分かんねぇけど。……ところで妖精魔法って二つあるのか? さっきまでの会話的に一つっぽかったけど」
「ちょっと待って……、うん大体の意味は分かったよ。この魔法陣は噂に出ていた妖精魔法じゃないみたいだ」
だんだんと壁画の解読が早くなってるシオンが答えた。
「はぁ? だったらこの魔法陣ってのは何だってんだよ、妖精のラクガキかよ」
「違うよ、これも立派な魔法だよ。どうやら妖精魔法と関係のあるものみたいだけど……、太陽と月……、どういうことだろ?」
「ちょっとその辞書、僕にも見せてよ。えっと、これがこうで…」
無駄に考え始めた魔法使いたちをよそに俺は尖った瓦礫を一つ手に取る。
「考えてもわかんないんだろ? だったら試してみようぜ! 確か魔法陣は魔力が無くても使える魔法なんだよな。……えっとここがこうだな」
尖った瓦礫で魔法陣の一つを地面に模写する。
「あっ、ズルいぜ金治、俺も描くぜ!」
ギンガも瓦礫を拾ってもう一つの魔法陣を描き始めたな。
複雑な模様を真似して行く。
……こんなお絵かきで魔法が出来る気は全くしないけど。
「よっし、出来たぜ! 魔法陣発動だ!」
「へっ、俺様も発動だぜ!」
俺たちが同時に書き上げ構えるが何も起こらない。
呆れて見ていたシオンが進み出た。
「君たちは馬鹿か? いくら魔力がなくても使えるって言ってもただの落書きで発動する訳ないだろ。魔力を持ったもので術式を描き込まないと意味ないよ」
結構頑張ったのを全否定されたぞ!
ギンガも怒ってシオンを揺さぶる。
「何で止めねぇんだよ! 俺たちゃ頑張ったんだぜ!?」
「君たちが勝手に書き始めたんだろ。止めても聞かなかったじゃないか! ……まあ、この魔法陣はきっと意味がある。そのためには先を調べなくちゃ。早く先に…」
シュィィィィン……、ドッガァァン!!
黒い光球が後ろから飛んで来て壁画を粉々に吹き飛ばした。
「おやおや、逃げ出したと思ったらこんなところに居ましたか。妖精魔法は無駄ですよ、この私でも使えなかった魔法なのですからね」
振り返るとそこには黒いオーラを纏ったローブの男。
四天王ヴァイロン……、だったっけな。
「なっ、お前は! 俺様を殺そうって言うのか!? ……嫌だ、止めてくれ! 俺はもう死にたくねぇんだ!」
「何なっさけないこと言ってんのよ! どう見ても許してくれる雰囲気じゃないわ、戦闘準備よ!」
若葉の掛け声で俺たちは一斉に身構える。
「フフフフッ、威勢だけは良いようですね。安心しなさい、あなたたちが抵抗しないと言うなら見逃して差し上げましょう。私は私的な用事で来ただけですので」
ワカバたちと顔を見合わせて思わず笑顔になる。
この人、半分鱗だけどいい人だ!
「……しかし妖精の遺跡、忌まわしいですね。私に使えない魔法があるのは許せない、どうするべきか長年考えていました。そして気が付いたのです、全てを壊してなかったことにすればいいのだと! ただ今から世界樹上層部に点在する妖精の遺跡を全て破壊させて頂きます」
俺たちは再び身構えた。
相手は再び魔法を撃とうと杖を掲ている。
「おい、ヴァイロン! お前が遺跡を壊したら俺たちが妖精魔法を使えないだろ!? そしたら街を救えない、だから攻撃は止めてくれ! ……お願いします!」
「なんでだんだん弱気になるんだよ! ここは強気で止めようよ!」
しかし、意外と素直にヴァイロンは杖を下す。
「フフッ、私の名を覚えているとは光栄ですね。私は全ての魔法を使える者に成りたいが為に魔王軍に入りました。だが未だに妖精魔法だけは使えない。そんな魔法に賭けるというなら私を倒してやりのけて見せなさい! もし、戦うと言うならあなた方の相手をすると約束しましょう」
俺は頷いた。
「そんなの答えは決まってるぜ!」
ワカバが進み出て続ける。
「ええ、もちろんよね! ヴァイロン、貴方と戦うわ! シオンは先に行って妖精魔法の謎を解いて、時間がないわ!」
そう、お前と……、はぁ?
「お、おいっ! 何言ってんだよワカバッ! 相手はドラゴンを従える四天王だぞ! 戦うなんて無茶言ってないでここは逃げる場面だろ!?」
「そうだよな、珍しく気が合うじゃねーか! アイツはこれまでの奴とは訳が違うぜ。いろんなモンスターと戦って来た俺には分かる、戦ったら瞬殺されるぜ!」
何故か盛大にズッコケたワカバが振り返って怒鳴る。
「んなに言ってんのよこの馬鹿男どもはっ! 街を守るんでしょ!? ほら、シオンは私たちに任せて先に行って!」
シオンはかなり不安そうな表情で駆け出した。
「不安しかないけど僕は先で遺跡を調べるよ! 頼んだよ金治、時間稼ぎは得意じゃないか!」
シオンが走り去ってしまうといよいよ四天王と向き合う。
「ほう、私と戦うというのか。随分怯えているようだが本当にいいのか? 無論、そこの女もだ」
よくないんだよなぁ、全然。
「わ、私は戦うわよ! フェアリーテーブルを守るんですから!」
ガックガクに震えながらもワカバが叫ぶ。
「し、しゃーねぇなぁ! 俺様は勇者だ、やってやるぜ! ……手加減しろよな!」
逃げ腰だったギンガさえも進み出やがった。
「これじゃあ俺だけ逃げる訳には行かねぇじゃないか、この裏切者! こうなったらシオンが魔法を見つけるまで逃げ回るぜ!」
四天王と戦う羽目になってしまった。
俺なんか触られただけで死んじゃうんじゃないのか!?




