第65話 モテる勇者のリスタート
エルフの里は世界樹の木の上面に作られた秘密の里。
長老の家に現れたのは嫌なヤツ。
決闘に負けて逃げ出した卑怯者の勇者、ギンガだった。
「おいギンガ、お前が逃げたから街が襲われてるんだよ!? 僕の友達も街に捕らわれている。勇者として責任を感じないのか?」
シオンもワカバも強く睨み付ける。
「す、すまねぇ…。お前らが正門で四天王とか言ってる奴と会話してるのを聞いちまったんだ。俺は怖くて逃げだしちまった。魔法でこの里まで逃げたんだ……、魔王軍に襲われない場所って聞いてたから」
コイツ、勇者を出せば街を見逃すという会話を聞いて逃げたというのか。
何でこんなヤツが勇者なんだよ。
「ねえアンタ、戦う勇気もないのに何で勇者なんかやってるのよ!? ただハーレムしたいだけならスーパースターの芸でも見せてれば十分じゃない!」
ワカバが手に持った派手な杖を突きつける。
「お、俺様はただ適当にクエストをこなしたりして人気取りしてただけなんだぜ! それを勝手に周りの奴らが勇者だってはやし立てやがっただけなんだ……、まぁちったぁ勇者の肩書持ってればモテるだろうとか思ったけどよ」
シオンはもう頭を押さえて唸る。
ここまで適当な勇者がいるなんてな、頭も痛くなるわ。
「ファッションアイテムのつもりかなんかで勇者を語ってたの? 勇者はみんなの希望でいて魔王軍に狙われる運命も同時に背負う平和の使命を担った者の事を指す称号だ。君みたいに遊びでやられたらみんなが迷惑するんだよ!」
シオンが怒鳴り散らす。
「実際、適当に勇者を名乗ったばかりに街を魔王軍に滅ぼされたって言う例も過去にあったらしいわ。フェアリーテーブルは貴方を追って来た魔王軍に攻撃されてる。この惨状は貴方のせいよ!」
「お、俺のせい……、なのか」
ワカバの言葉に床に膝をついて項垂れるギンガ。
少し可哀想になって来るな。
……でも、もしもフロントがこんな適当なヤツのせいで滅ぶとなれば俺もきっとシオンやワカバの様に怒るだろう。
彼らにとってはこの街が大切なのだ。
「なあ、そんなヤツほっといて妖精魔法を探さないのか? 時間はないんだろ」
俺の言葉に長老は深く頷く。
「うぬ、最もだな。シオンは知ってるだろうがみんなに話しておこう。妖精魔法について記された遺跡はこの世界樹の最上部で見つかっておる。そこにわしの魔法で送ってやることは出来る。だが妖精魔法は今まで誰にも使えなかった魔法、それに上層部には自然に住み着いたモンスターも居るだろう。それでも行くのか?」
俺たちは思わず身構えた。
モンスターがいるなんて聞いてないぞ。
「どうする、やめる? ……訳にはいかないよな。フェアリーロビーを守るんだろ、俺も行くぜ! 悪あがきは得意だからな」
怖い、限りなく怖いが今回に限っては逃げ出す気はないぞ。
いつも適当なシオンも悔しそうな顔をしている。
仲間がこんなに悩んでるのに一人逃げ出す勇気なんて俺にはねぇよ。
「もちろんよ、私はあの街しか知らない。この世界に来てからずっとここで魔法の修行をして来たのよ。僕はこの世界の故郷を守るために可能性が僅かでもあるなら行くわ!」
ガッツポーズをしたワカバが俺に目配せをして来た。
「そういやワカバは戦えるのか? 物を直したり回復の魔法は街で見たけど」
「馬鹿にしないでよね! ほら、僕はまだ見習いだけど中級職の『ウィザード』だよ。もう知ってると思うけど僕も転生者、君たちばかりが活躍してると思ったら大間違いよ! 僕だって魔法を使いたくて毎日頑張ってるんですから」
俺の問いに冒険者カードを見せて答えるワカバ。
職業は『ウィザード、Lv.25』。
名前の欄には草凪 若葉、年齢20とある。
「なっ、お前も転生者か! こんな近くにもう一人いたなんてな…」
後ろでギンガも驚きの声を上げた。
「みんな、ありがとう! 見つかる保証はないけど僕はもちろん行くよ、魔王軍なんかにフェアリーテーブルを壊されてたまるか! ギリギリまで足掻いてやるよ」
シオンも強く答える。
これで決まったな、三人で大丈夫かな?
強い奴がいれば……、いるな。
長老が俺らの前に近づいて来ると…。
「待ちなさい、妖精魔法についてヒントをやろう。遺跡によると妖精魔法を最後に使ったのは古の初代勇者らしいのじゃ。そして妖精魔法は呪文ではなく魔法陣で発動するものじゃ、特徴として魔法陣は魔界とこの世界を繋ぐ扉を開ける術式の事を言う。魔力に関係なく正しい手順を踏めば魔法使いじゃなくても使える魔法なのじゃな。その魔法陣は見つかっておる、しかし使えたものはいない。この謎を解くのは現代の勇者であるお前たちの役目じゃ!」
「はぁ、俺たちは勇者じゃないぜ? 俺たちでも魔法陣を使えるのか?」
俺が恐る恐る聞くと長老は笑って答える。
「何を言っておる、勇者と言うのは職業でもなければ正式な称号でもない曖昧なものじゃ。勇者とは純粋に勇気ある者、今敵わない敵を前にして尚諦めずに進むお主らは既に勇者ではないか。勇気を持てば誰でも勇者になれるのじゃ」
「誰でも……、勇者に…」
長老のその言葉で不思議な気持ちが湧いて来る。
進むしかない、負ける気もしない。
これが勇気ってものなのかな?
「ふぉふぉ、そんなに悩まずとも大丈夫じゃ。それでは家の裏にある祭壇へ行くがよい、わしの魔法で世界樹の頂上へと送り届けよう。……ところで、お主はどうするのじゃ?」
家の裏口を開けながら長老はふと呟いた。
それはギンガへ宛てたものだ。
「お、俺は……、どうしようもねぇ。決闘に負けて、街を捨てて、それでも逃げて来た卑怯者だぜ。俺はもう勇者じゃねぇ…」
ふさぎ込んで呟く東の勇者。
ムカつくな。
コイツは確かに卑怯で汚く、女好きだ。
でも俺よりずっと強い、俺の職業の上位互換でレベルも30くらい上だ。
少しは役に立ってもらおうか。
「おいギンガ、お前俺が決闘に勝ったら何でも言う事聞くって言ったよ?」
俺はズカズカと落ち込むギンガの前へと進み出る。
裏口から出ようとしていたシオンとワカバは驚いて振り返った。
「あ、ああ……。でも俺に出来ることなんて…」
「だったら約束は守ってもらうぜ! お前は強い東の勇者なんだろ、だったら戦えよ! 勇者しろよ! ……ワタルみたいな正義マンに成れとは言わねぇよ、でもせめて最後まで諦めんなよな。立ち上がるだけの勇気があるんなら俺を守れよ! 俺より強いんだから」
俺が叫ぶとギンガは顔を上げた。
涙に汚れたその顔は決闘前の汚い笑みよりずっとマシだな。
「お、俺をまだ勇者だと言うのか? 俺は女にモテる事しか考えてなかった。決闘に勝つために盗みすらした。それでも俺をまだ……、まだ…」
「確かにお前はクズだろうな。でも勇者と呼ばれるだけの戦いをしてきたんだろ? そりゃモテれば嬉しいさ。……俺には正義も勇気もねぇぜ。でも死にたくねぇし、仲間と笑いたいから戦う。どんな理由でも動機でもお前はこの世界の勇者な筈だぜ。ほら、涙を拭いて立てよ、スーパースターに泣き顔は似合わねぇぞ!」
涙を拭うとギンガは俺の手を掴んだ。
「おう……、おうっ! 俺は戦うぜ、勇者だからな! 俺は逃げねぇ、どんなヤツもぶっ飛ばす最強にモテる勇者になるって決めたんだ。なあ金治、俺も一緒に行かせてくれ! 俺にも街を守らせてくれっ!」
立ち上がって胸を張るギンガはもう大丈夫だな。
モテる勇者か、強い意思ってどんなものでもかっこよく見えるものだ。
「ふん、しょうがないからパーティに入れてやるぜ。でもお前は俺たちを守るんだからな! 俺はものスゲェ弱いんだぞ!」
「おう任せろ! 俺様は最強のギンガ様だぜ、俺のモノは何一つ失いやしねぇ! 女も名声も仲間もな!」
よしラッキーだ、上手くいったぞ。
性格は悪いが強いヤツを仲間に引き込めた、これでモンスターも怖くない!
「何をのんびりしてるんだよ遊び人共は! 早くしないと置いてくぞ!」
外からシオンが叫んで来る。
その声は心なしか嬉しそうだ。
「おう、今行くぜ! ほらギンガも行くぞ」
「当たりめェだろが、勇者ナメんなよ!」
俺たちは外へ駆け出し、石で出来た丸い台座に飛び乗った。
周りには石像の様なものが数体置かれている。
「ふぉふぉふぉ、やっと腹をくくったようじゃのう。さて、役者は揃った、後はお主らが魔法陣の秘密に気が付くだけじゃ。大丈夫、お前さん方ならきっと分かる筈じゃよ」
もの凄い意味ありげな言い回しをする。
……もしかしてこの爺さん、みんなも察したみたいだな。
「ねぇ長老! もしかして魔法陣の秘密を知ってるの!? 僕たちに…」
「さあ若い者たちよ、未来を切り開くのじゃ! 『トランスレイション』!」
長老が呪文を叫ぶと俺たちは光に包まれ高速で上空へと撃ちだされた。
世界樹の木の枝をジェットコースターの様にかわして飛んで行く。
四人で絶叫しながら世界樹の上空へと飛び出した。
そこで光が弱くなるとゆっくりと落下を始める。
確かに世界樹の頂上に石造りの小さい遺跡みたいなものが一瞬見えた。
しかし俺たちはそこからそれた場所へと落ちて行く。
これ、打ち上げ失敗じゃねぇのか!?




