第64話 秘密の妖精魔法
魔女の城、ダニエラの書斎。
仲間たちも絶望の表情でピンク色のソファーに座っている。
魔王軍の四天王ヴァイロンが街を攻めて来た。
外には空を飛ぶドラゴン軍団、どうする事も出来ない。
そして勇者は逃げ出した。
「で、そうするよ。ここもヤバいんじゃねぇか?」
俺は呟くがみんな答えは無いようだ。
「確かにそうよね……、でもどうしようもないじゃない。早く逃げた方がいいんじゃないかしら、確かシオンはまださっきの魔法を持ってるのよね?」
「うん、『テレポーテーション』のマジックカードはあと二枚あるよ。逃げるなら一枚あげるけど僕は行けない。街にはまだ僕の友達がいるんだ……、置いていけないよ」
俯くシオン。
もし彼がひとりで街に戻っても無事に友達に会えるか、そもそも街にあのドラゴンの群れを掻い潜って侵入する事すら難しいだろう。
「なぁ、無理だと分かってて聞くんだがあのドラゴンを倒せないのか? 万が一にも俺たちじゃかなわない強さなのか? 実は弱いとかは…」
俺の問いにシオンが黙り込むと代わりにダニエラが答える。
見た目は子供なのに凄い気迫だ。
「あのモンスターは『ワイバーン』、攻撃力はあるけどドラゴンの中じゃ比較的脆い奴らよ。あなたたちが戦ったダースドラゴンなんかよりはずっと弱いわ。最も金治たちの攻撃力で敵う相手か、と聞かれたらはいとは言えないわね」
フロントで戦ったドラゴンを倒せたのはミラさんの最強魔法があったからだ。
つまり俺たちが出てって戦ったところで勝ち目はないと。
「お、おい! ここは魔法都市なんだろ? だったら周りの敵を一掃する攻撃魔法とかは無いのか、禁じられた古代魔法の研究もしてるって生前に聞いたぞ」
その希望が見えそうな意見にもダニエラはため息をついた。
「ローレンス、あんたが生きてたのって50年くらい前じゃない。現状は昔と大違いなのよ。今研究の中心になってるのは生活を便利にするための魔法と防衛のための魔法、危険な古代魔法の研究なんてとうの昔に中止されてるわよ」
役に立たないな魔法都市。
一つぐらい防衛手段を用意しとけよな。
「先に行っとくけど私は僧侶寄りの上級職『アークビショップ』だから攻撃魔法ならミラに敵わないわ。それに知ってると思うけどミラが使った『シューティングスター』が今人類の使える中で最大級の攻撃魔法なの、それ以上の魔法で戦えって言われても無理よ」
はっきり言い切るダニエラの言葉で絶望が二倍になった。
ワカバも頭を抱えて叫ぶ。
「師匠でも外のあれはどうしようもないって言うの!? ホントに積んだじゃないの! 街を攻撃されるのは辛いさ、でも僕らも逃げるしかない……。 もう手は無いんだよ!」
唯一頼りになりそうなダニエラでも解決できない。
みんなが絶望の阿鼻叫喚の叫びを響かせる中、一人だけは考え込んでいた。
シオンが外を見ながら呟く。
「もしかしたら四天王とドラゴン軍団に対抗出来る魔法があるかもしれない。……僕が一生近寄りたくもなかった場所にだけど」
俺らは一斉に泣き止みシオンの前へと並ぶ。
「う……、あんまり期待しないでよ。僕の故郷、エルフの里があの大きな木にあるんだ」
窓の外を覗くと巨大な大木が佇んでいるのが見える。
「あれは世界樹といってすべての時を記録してるって言われてる木なんだ。歴史では強力過ぎて封じられた古代魔法とは別に使える者が居なくなって忘れ去られた妖精魔法がある。その一つが残された遺跡が世界樹にあるんだ」
俺たちは息を飲む。
忘れ去られた妖精魔法、なんだか凄そうだ。
……っていうか俺はもう付いていけてないぞ。
「その伝承なら私も知ってるわ。『勇気ある者集いし時、妖精の残した魔法陣輝き悪しき者どもを打ち払うであろう』ってやつよね。その魔法陣自体は見つかってるけどアレ、どうやっても発動しないのよ。やっぱりただの伝説なんじゃないかしら」
ダニエラの言葉にシオンは頷く。
「確かに伝説だよ。でもこのまま街が滅ぶのをただ見てる事は僕には出来ない。お願いだよみんな、せめて最後まで足掻くのを手伝ってよ!」
彼はそう叫ぶと深く頭を下げる。
俺たちは顔を見合わせるが誰も笑ったり怯えたりしていない。
悪あがきとはそれでこそ俺の仲間だな。
「もちろんだぜ! 仲間だもんな、俺は伝説がどうとか難しい事は殆ど理解できなかったけど付き合ってやるぜ! ……死なない程度にならな」
「私も手伝ってあげるわよ。ジッとしてても何にも変わらない、なら行動あるまでよね! ……私も伝説がどうとかの下りは理解してないけど」
「ああ、仲間の本気の頼みを断るような奴はいないぞ。俺の伝説に賭けてお前を全力で手伝うと決めた!」
俺たち三人は胸を張って答えた。
どうせこのまま何もしなければフェアリーテーブルは滅ぶんだ。
だったら出来そうな事をやってやる、ただ見てるのは胸糞ワリィもんな。
「ありがとう……、ありがとうみんなっ! やっぱりみんなの仲間でよかったよ。それじゃあ魔法でエルフの里に飛ぶよ、早く行こう!」
「ちょっと待ちなさい! 話は終わってないわよ」
走り出そうとしたシオンの襟首をつかんでダニエラが引き留めた。
首が締まったのか苦しそうに咳き込むシオンに背を向け話始める。
「街を守るんでしょ? だったら全員でエルフの里に行ってちゃ意味ないわ。街は防御壁で覆われてるけど唯一の入口である正門は壊された、そこから少しずつだけどモンスターが侵入してる筈よ。……私の魔法を使えば防御壁の中に直接移動できる、ローレンス一緒に来なさい。それとレイラちゃんとデニスも一緒に街を守って欲しいわ。ここから先、パーティを二つに分けて街を守るわよ」
ダニエラの言葉に驚いたが最もだな。
俺たちが運よく妖精魔法だとかを見つけてもその前に街が壊されたらお終い。
実際、パーティのバランスも分けてある編成だ。
妖精魔法を探す方に戦いは無いだろうしね。
……ないよな?
「えっと、師匠? 私は…」
「あんたは金治君たちと一緒に行きなさい! ……大丈夫よみんな、もし本当に駄目そうになったら私の魔法で街から脱出するわ。防御壁の耐久を考えるとタイムリミットは朝日が昇るまでかしら? とにかく妖精魔法を朝までに見つけなければお終いよ。成功する保証は全くない、完全に無謀な作戦だけど何もしないよりはマシよね。さあクエストの始まりよ!」
ゴォ~ン、ゴォ~ン……。
ダニエラの掛け声で俺たちは城の外へと駆け出すとちょうどフェアリーテーブルにある大時計の音が聞こえて来た。
深夜12時を回ったみたいだな。
「さあ、街に行く人は近くによって! じゃ、また奇跡を頼んだわよ、『ワープ・テレポーテーション』ッ!」
四人がダニエラの魔法に包まれると強い光を一瞬放って消える。
ワープの魔法か、凄いな。
「ほら金治もこっちへ来て、エルフの里に行くんでしょ!」
「さあ近くによって! 僕らも飛ぶよ、『テレポーテーション』!」
光の矢となり俺たちは大きな世界樹に向けて飛び出した。
街防衛組はレイラ、ローレンス、デニス、ダニエラの四人。
妖精魔法を捜索するのは俺とシオンとワカバ。
タイムリミットは朝日が昇るまでの約6時間。
魔法都市フェアリーテーブル防衛クエスト、開幕だ。
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俺たちが降り立ったのは巨大な世界樹のすぐ下。
近くで見るとホントにデカいな、小さい街一つ分くらいの太さあるぞ。
「で、エルフの里ってのはどこだ?」
周りに数人のエルフが街の方の騒ぎを見ているが街や建物は見当たらない。
「こっちだよ金治。エルフの里は世界樹の周りに道を作ったり木をそのまま住居にして成り立ってるんだ。まずは上の方に行って長老の家を通るよ。妖精魔法が記録された遺跡に行くには長老の力が必要なんだ! ……癪だけど仕方ない」
俺とワカバはシオンに続いて世界樹の周りに作られた木の橋を駆け上がる。
途中幾つもツリーハウスみたいな建物や世界樹の中に開いた穴をそのまま家にしてるような場所からエルフたちが驚いて街の様子を見ていた。
もっとゆっくり探索したい幻想的な場所だがのんびりしている暇はないな。
光るキノコで照らされた道を駆け上がると大きめの家の前に出た。
「いいかい、長老が何か言っても今は遺跡へ入ることの許可を貰う事だけに集中するんだ! 余計なお喋りをしている時間は1秒たりともないからね!」
シオンに固く念を押されてから俺たちは木の扉を開けた。
アレ?
今誰かが家の陰に居たような……。
気のせいか?
「ほら金治、置いてくわよ。早く入りましょうよ」
「お、おう、誰か見ていた気がしたんだけど……。まあいいや」
俺たちが家に入ると妙に暖かい明かりに照らされた不思議な空間だった。
普通の家とは違う、こうなんか暖かい不思議な感じ。
「ふぉふぉふぉ、やはりお前かシオン。そう身構えるな、大丈夫じゃ全部見ておったぞ。この緊急事態に昔話などせんわい」
「キャッ、……ってお爺さん誰? いつからそこに居たのよ」
いつの間にか現れたのは立派な髭を生やした小さなお爺ちゃん。
耳の形的にエルフだろう。
……って言うかものスゲェ王道的なエルフの長老だな!
シオンを知ってるみたいだ。
「長老、僕は街を守りたいんだ! だから上の遺跡に通してよ! ……あと知ってることを教えて、妖精魔法について」
焦るシオンの言葉を聞いて笑顔で頷くザ・長老。
しかし、長老は俺たちでなく隣の窓の方へと歩いて行く。
「街を守るための戦いが始まるのだぞ? そこに居るのは分かってる、何時までも隠れてないで出て来なさい」
長老が窓の外へと語りかけた。
何やってんだこの爺。
少し待つと入口を開けて入って来たのはありえない奴だった。
「すまねぇ爺さん、盗み聞きはバレてたか。……や、やあ金治、また会ったな」
輝く金髪に黒い革の上着、派手な服に大量のシルバーアクセ。
見間違えはしない。
「ギンガ……、お前なんでここにいるんだよ」




