第61話 VSギンガ、決闘開始
「起きてよ金治! もう朝だよ、決闘の準備をしないとっ!」
「んおっ? いつの間にか寝てたか……、うう、頭が痛い…」
シオンに叩き起こされるともうすでに日が昇っていた。
どうやら昨日の夜、作戦を考えたりしてるうちに眠ってしまったらしい。
「あれ、もう朝なの? もう少し寝ましょうよ…」
「ダメだよ、レイラも早く起きて! ところで金治、魔法は覚えれたの?」
テーブルに散らばったカードを数枚手に取って…。
「えっと、確かこれは……。うんわからん」
見事に記憶が吹き飛んでるな。
「ええぇ……、どうすんだよそんなんでさ! カードの順番とか考えて……、無いよね」
おお、思い出してきたぞ。
確かカードケースに入れるカードの順番を考えてて寝落ちしたんだよな。
……何も思いつかずに寝ちゃったけど。
「そうだな、何も考えてねぇな。て言うか思いつかなかったんだからしゃーない、もう運に賭けようぜ」
俺はテーブルに散らばるカードを全部集めるとそれをシャッフルした。
もう順番も次に引くカードも分からないな。
「これで良し、運だけは高いんだから状況にあったカードを直ぐ引けるだろ!」
良く切ったカードの束をケースに仕舞い、ズボンのベルトに引っ掛ける。
「流石金治、素晴らしい作戦ね! やっぱしウダウダ考えてないで運任せが一番勝率ある気がするわ」
「そ、そんな無茶苦茶な……。もうちょっと考えたら? この決闘には負けられないんだよ。それにあのキザ野郎に負けていいの?」
全く正反対の反応をしたレイアとシオン。
まあ、これでいいだろ。
「負けていいのかって負けが決まってるみたいな言い方すんなよな。大丈夫、ここまで運で生き残って来たんだもんな。こうなったら信じ抜くぜ!」
俺が自信を持って宣言するとシオンは深いため息をついた。
「もうこれが正解の気がして来たよ。……ほら、装備を忘れないでね。準備が出来たら朝食を食べて会場に行こうか、こうなったら僕も金治の運に賭けるよ」
魔法の指輪やブローチを身に着けて準備完了。
大丈夫、俺のカードの中には秘策が幾つもあるんだ。
俺の一番大切なものも入ってるんだぜ!
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会場はフェアリーロビーの中央スタジアム。
吹き抜けの会場の真ん中にはフロントでも見た正方形のバトルステージが。
その周りを囲む様に観客席が囲んでいる。
オリンピックとかの競技場みたいな観客席には既にたくさんの観客が決闘の始まりを今か今かと待ち構えていた。
俺たちが案内されたベンチの反対側にはギンガの姿がある。
癪な事に前回の二人に加えてもう十人ほどの女の子に囲まれてやがるぞ。
……ぜんっぜん羨ましくないからなっ!
「あのギンガってヤツ、女遊びが過ぎるわよ! それにアイツ側の観客席、妙に女性が多いわねぇ。何であんなのが人気なのかしら。……そもそもどうしてこんなに観客がいるのよ!」
「ここ中央スタジアムはフェアリーテーブルで一番大きな闘技場だからね。それに東の勇者が決闘するって噂が流れたら人も集まるでしょ。女性人気も何故かあるみたいだし」
向こうの観客席は女ばっかし。
一方俺の方の観客はやたらと男が多いな。
「おう、金治とか言うのはお前か!? あんな女たらしに負けんじゃねぇぞ!」
「そうだっ! あのギンガとか言うヤツに俺の彼女が取られたんだ、許せねぇ!」
「そもそもあんなチャラチャラしたのが人気なのが納得いかない! 俺たちみんなお前を応援するぜっ! 頑張れよ金治の旦那ぁ!」
……こっちのギャラリー、何故か空しいなぁ。
「それでは決闘開始の時間がいよいよ迫って参りましたッ! 両者バトルステージへお上がり下さいッ!」
司会の男が拡声器で叫ぶ。
いよいよか。
「金治、絶対負けないでね! もうこれは私たちだけの戦いじゃないわ、あの女たらしから尊厳とモラルを守る戦いよ! 一発キツイのかましてやりなさい!」
「頑張ってね金治! 大丈夫、装備はバッチリさ。後は金治の運でそれを使いこなすだけだよ。……でもカードが切れたら降参してね、死ぬわけにはいかないだろ」
応援をしてくれるレイラとシオン、さらには観客席の冴えない奴らの思いを胸に俺は親指を立てて腕を突き出した。
「任せとけ、あんなヤツなんかに絶対負けねぇ! 俺がぶっ飛ばしてやるぜ!」
大歓声を背に俺はステージへの階段を登りきると向かいにはギンガが立っている。
背には先端に巨大な刃の付いた槍を背負っていた。
「へへっ、逃げずに来たのは褒めてやるぜ! だがなぁ、お前が俺に敵う事はないのさ! レベル、金、そして人気! 全てにおいて俺が上だ!」
やっぱり嫌なヤツだな。
「なぁ~にが全て俺のが上だ! 悪いがお前なんかに負ける気はねぇぞ! お前みたいな薄っぺらいハーレムなんかじゃなくて俺には仲間がいる。そしてこの世で一番重要なものもお前より持ってるからな!」
俺は全力で叫び返す。
「それではぁ、ルール説明をいたしますッ! この決闘では本人による直接攻撃は禁止! 攻撃に使えるのは魔法アイテムのみとなります!」
この街式の特別ルールだな。
でも準備は万端だ。
「おっと、金治。お前もマジックカードを使うみたいだな、偶然俺もコイツがメインなんだぜ。だからお前にはハンデをやるぜ! これを見なっ!」
そう言うとギンガは腰につけた革のカードケースからカードの束を取り出した。
意味ありげにソレを見せつけるとシャッフルし始まてのだ。
「へへへっ、これで俺様はなんのカードを引くか分からねぇ! 作戦も何もなくなったって訳さ。俺様はスーパースターだからな、この位のお遊びは痛くも痒くもねぇぜ!」
何偉そうに言ってんだコイツ?
パフォーマンスで作戦をパーにするなんて馬鹿なんじゃないか?
それに…。
「おいギンガ、悪いが俺もカードはシャッフルしてあるぜ! ほら、この通りな! 遊び人に遊びで勝つつもりなんて馬鹿だな」
俺もシャッフルして見せるとギンガはあからさまに悔しがる。
これはいい気分だ。
俺たちが言い合ってると司会が近づいて来て…。
「お互い準備はよろしいですか?」
「おうよ! 早くしな!」
「何時でも行けるぜ!」
ギンガがグラサンを外し、俺がファイティングポーズを取る。
司会の男が拡声器を口に当てた。
「それでは決闘の開始を宣言します! 試合、開始ッ!」
決戦の火ぶたは切られた。
俺は急いでカードケースから数枚のカードを手に取る。
ここは先制攻撃あるのみだ。
「これでも喰らいやがれっ、『トライチェイサー』ッ!」
一枚のカードをギンガに向けて叫ぶとカードから赤、青、黄三本の光線が発射される。
この魔法は追尾効果のあるレーザーを撃ち出す魔法……、だった筈だ。
「ヘッ、甘いぜ! 『エア・ステップ』!」
一つ目の光線を高く飛んでかわすギンガ。
迫る二つ目をなんと空中でジャンプする様な動きをしてかわしたのだ。
空中を舞うギンガに一発も当たることなく光線は全部地面に当たって爆発を起こす。
「この勝負、本人のスキルを攻撃には使えないが回避には使える。スーパースターの魔法を使えば大抵の攻撃はかすりもしないって訳だ。そして金治、お前もクロムに転生させられた奴なんだよなぁ!?」
華麗に着地したギンガは俺を指さして問う。
「ああ、そうだぜ。それがどうしたってんだよ」
「この間ステータスを見せてきたがよ、お前は何だ? 運でも上げてもらったんだろ。だが俺は違うぜ! 全ての女にモテるように最大クラスの魅力を、それに加えて上級職『スーパースター』になれるだけの高ステータスを貰ったのさ! つまり俺とお前、始まりは同じでも俺は最強チートを貰った主人公様って訳なんだぜ!」
うわぁ、予想以上に典型的でしかもクズいなぁ。
「ふん、俺はチートは嫌いなんでね。それに強さなんか欲しくないぜ!」
「これは滑稽だな、ただの弱虫だったって訳か! 俺様が言いたいのはな、お前なんかじゃ俺様に敵わないって事だぜ、『グランドボム』ッ!」
ギンガがカードを構えて叫ぶともの凄い爆発が波のように迫って来た。
ここは魔法だ!
「勝手に決めてんじゃねぇよ! 俺は勝つぜ、『マイン・ストーム』ッ!」
俺もカードを発動させて自分を中心に竜巻を発生させる。
爆発の波を竜巻が吹き飛ばした。
カードをケースから引いたギンガはニヤリと笑って叫ぶ。
「引いたぜ、お前らも知らない取って置きのカードをなぁ! 『ロックリザード』召喚だぜぇ!」
煙が巻き起こり中から出て来たのは岩の体を持つドラゴン?
やっぱり研究所からカードを盗んだのはコイツだったな。
俺たちは知っていたがモンスターが突然現れたので観客席は大騒ぎだ。
「金治話を聞いて! 僕らはラッキーだよ、そのロックリザードは確かにドラゴン系のモンスターで岩みたいに固い皮膚を持っている。でもそいつ等は無敵の皮膚に酔いしれて戦う事を忘れたモンスターなんだ! 無視してギンガと戦って!」
後ろでシオンが叫んだ。
なるほど、戦えないモンスターなら怖くない。
……そう言えば盗まれたのも雑魚モンスターばかりだと言ってたな。
「だってよギンガ。盗んだ岩トカゲなんかで俺に勝てる程甘くねーぞ!」
「なっ、知ってやがったのか! ……まあいい、ロックリザードの特徴くらいリサーチ済みだぜ。コイツは戦う事を忘れただけ。なら思い出させてやるまでよ! この魔法でな、『バーサークレコード』ォッ!」
魔法を俺ではなくボケーッとしてるロックリザードに向かって放つギンガ。
「グッ、グガガ、グガァァァァッ!」
赤い衝撃波の様なものに包まれたソイツは突然目を光らせて吠える。
さっきまでおとなしそうだったのに今は凶暴な唸り声を上げながら俺の方をにらんでいるなぁ。
これは大ピンチじゃないか?
「見たか金治! この魔法は本来人間のリミッターを外して超強化する禁じ手だ。だがこの状態のコイツに操る魔法を組み合わせれば俺の手下の出来上がりって訳だぜ! 『オペレーション』ッ!」
今度は青い光に包まれるモンスター。
ギンガはソイツに近づいて頭を撫でる。
「ハッ、いい子だな。さあ、あの弱そうなガキを吹き飛ばせ!」
そう叫んだ瞬間、ロックリザードは俺に向かって飛びかかって来た!
俺は慌てて横へ転がりかわす。
「おい、シオン! アイツおとなしいんじゃなかったのかよ!? それに何でモンスターが人間の言う事聞くんだよ!」
「ギンガが使った魔法の効果だよ! あの『オペレーション』ってのは相手に催眠術を掛けて言う事を聞かせちゃう魔法なんだ。人間には効きにくいけどモンスターには有効な魔法なんだよ。まさかこんなコンボを仕掛けて来るなんて予想外だ!」
俺は正方形のステージをロックリザードと距離を取りながら回る。
このモンスター、かなり強いぞ。
「はははははっ、どこかに遊びで遊び人には勝てないとか言ってたマヌケが居たが誰だったかなぁ? 俺様はスーパースター、知恵や応用で負ける訳がねーだろがぁ!」
すっかり勝ち誇ってロックリザードの後ろで下品に笑うギンガ。
ああ、こんなことならカードをシャッフルなんてするんじゃなかったな。
……いや、俺の運なら引けるか?
そもそもここで来なかったら意味ないだろ。
俺はカードケースの一番外側のカードを手に取った。
「今こそ助けてくれよ……、おっ! 来たぜ来たぜ来たぜっ! おい、ギンガ! 俺もモンスターを、いや仲間を召喚するぜ!」
俺が一枚の輝くカードを突き出すとギンガはビクリとする。
「おい待て、モンスターは言う事聞かねーぞ! 出しても無駄死にするだけだ、素直に降参しろよな!」
おいおいさっきまでの威勢はどうした?
やっぱりコイツ、クズで小物だな。
「行くぜっ! 『伝説の騎士 ローレンス』召喚だぁっ!」
光と煙が巻き上がり、その中に立つは赤く輝く鎧を着たデュラハン。
間違いなく俺の仲間だ。
「やっと俺の出番みたいだな。さあ戦うぞ、金治!」
「おう、やってやろうぜ、ローレンス!」




