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ジャック・ポット・チャンス!~幸運転生者の異世界日記~  作者: 天勝金治
第五章 世界で一番大きな魔法
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第57話 魔女の嘘

 フェアリーテーブルの街を出てなだらかな登山道を登った山の上。

 そこにあったのは中世っぽいお城だった。

 形は映画やゲームで出てきそうな典型的な城、しかし壁全体がショッキングピンクで彩られており見ているだけで目が飛び出しそうだ。

 有りえない派手な城を前にして俺たちは思わず立ち尽くしてしまう。


「ふっふーん、凄いでしょ! コレ、少し前まで廃墟だったんだけど僕と師匠が魔法でリフォームしたんだ! さ、入ってよ」

 自慢げに言い放ったワカバは正面の大きな扉で俺たちに手招きをしている。

「お、おう。しかしスゲー城だな、テーマパークかなんかかよ。俺は真似できねぇな」

「いやぁ、そこまで褒められると照れちゃうよ! 内装も凄く凝ったんだ」

 あんまし褒めたつもりはなかったけど喜んでるしいいか。

 俺たちもその派手な城へと足を踏み入れた。


「うっわぁ、中もすっごいわねぇ。ステンドグラスもシャンデリアもピンク、王族の家っぽいけどこんなファンシーな王族はどこ探しても居ないわよ」

「僕はなんだか頭が痛くなって来たよ。もう、悪い魔女も街の支配者も居ないみたいだし僕は帰ってもいいかな?」

 豪華な家具ばかりの豪邸だがどこも彼処も蛍光色。

 流石にこの家に住めと言われたら発狂するぞ。

「ほら、こっちよこっち! 上の書斎に僕の師匠が居るんだ、紹介するよ。きっと金治パーティに会えたら喜ぶよ!」

 正面の大階段の上からワカバが叫んで来た。

 俺たちは顔を見合わせたが仕方ないので上に向かう。

「うう……、俺の様なむさい騎士にこの空間はキツイものがあるな。帰りたい…」

「元気出せ、ローレンス。俺だって辛いんだ、一緒に頑張ろうぜ」

 仲間と励まし合いながら俺たちはそのファンシー空間を進んでいくのだった。




「ここが師匠の書斎よ。あ、そうだ、師匠はエルフなんだよね。シオンもエルフだから大体は知ってると思うけどエルフはすっごく長生きなんだ。見た目はかなり若く見えるけど実際は凄くお年寄りなんだけど驚かないであげてね。気にしてるから」

 木製のドアの前でワカバは俺たちに小声で注意する。

 しかし、それを言い終えたのと同時に…。

「コラ、ワカバッ! 全部聞こえてるわよ、人の事を年寄扱いとはいい度胸じゃない! エルフはそういうものだと言ったでしょ。客人を待たせてないで早く入りなさい」

 突如若い……、というかかなり子供っぽい女の子の怒鳴り声が響いた。

「はっ、はい師匠っ! すぐ入ります! ほらみんなも入って入って!」

 ワカバは慌ててドアを開けると俺たちを部屋の中へと押し込んだ。


「おい乱暴だな……、って女の子? ワカバの師匠は?」

 目の前に手を腰に当て、偉そうに立っていたのは色白で長い耳を持つエルフの特徴満載の女の子。

 身長はシオンより小さくどう見ても子供だ。

 オレンジを中心に模様が入ったローブに魔法使いっぽい大きなとんがり帽を被っている。

「私のお城によく来たわね、歓迎するわ。この私、ダニエラ様がそこにいる見習い魔女の師匠よ! あなたたちが金治パーティね、さあこっちに座って」

 そのダニエラと名乗る女の子は俺たちを部屋の真ん中にあるソファーに座る様促してきた。


「あ、ありがとう…。あれ、どうしたんだローレンス?」

 ふと隣を見るとローレンスが手に持った首は驚きの表情で固まっている。

「お前まさかあのダニエラか? いやそんな訳ないよな。悪い、人違いだ」

「何言ってるのよローレンス、昔の仲間を人違いだなんて酷いんじゃないの? 正真正銘、元勇者パーティのダニエラ・ワードよ」

 自信満々で答える彼女が元勇者パーティ?

 どっかで似たようなことを…。

「貴方が金治君ね。フロントから来たのなら私の元パーティメンバーを知ってるんじゃないかしら? もっともソイツは冴えない雑貨屋を一人寂しく営んでるみたいだけど」

「ミラさんの言ってた仲間か! 50年前パーティ組んでたって言うあの?」

 俺たちはミラさんの話を思い出してハッとした。

 確か50年前、王都で実力者を4人集めた特別パーティが『勇者パーティ』って呼ばれててミラさんとローレンスもその一人だったんだよな。

「ふふふっ、その様子だとあんまりよくは知らないんでしょ? まずは昔話からしましょうか。ほら、何時までもそんなとこに立ってないで座っていいのよ」

 俺たちはピンク色の大きなソファーに腰かけた。



「それじゃあ改めて、私はこのお城の主でそこにいるひよっこ魔女の師匠ダニエラ・ワード。あなたたちの冒険、途中からだけどコレで見させて貰ったわ。何人か英雄クラスの冒険者は覗いて来たけどあなたたちの冒険が一番面白いわ、楽しませてくれてありがとね」

 向かい側のソファーに座ったダニエラはそう言って大きな水晶玉を指さす。

 この世界、勝手に見て来るヤツが多い気がするんだが気のせいだよな。

「その水晶ってミラさんのお店にも似たようなのあったわよね。ダニエラちゃんも占い得意なの?」

「私のがミラなんかよりずっと上手いわよ。見ててね、水晶よ映れ!」

 大きな水晶玉をソファーの前に置かれたテーブルに乗せて彼女が叫ぶと水晶が鮮やかに輝き、どこかの部屋みたいな映像に一人の人物が映し出されて行く。

「これミラさんだよね。ってことはフロントの様子をここに映してるって事? 占いじゃなく事実を見る魔法なんて僕も聞いたこと無いよ」

「そりゃそうよ、私が去年開発した最新魔法だもの! 知り合いの回りならどこでも見れるのよ。これがなかなかいい暇つぶしになるのよね」

 水晶には客が誰も居ない店内で退屈そうに本を読むミラさんが映っている。

 凄い魔法なのにただの暇つぶし用ってのがまた凄いな。



「そうそう、『勇者パーティ』の事はミラから少しは聞いてるわよね。まずは勇者についてよ、勇者って呼ばれてる冒険者は知ってるでしょ?」

「ああ、ワタルが今の勇者だろ。で、昔の勇者がお前とローレンスの仲間だったもう一人って訳だ」

 俺が答えるとダニエラは指を左右に振ってしてやったりという顔をした。

「残念ながらその認識は間違いよ。確かに私たちには『勇者』と呼ばれる仲間が居たわ。その『勇者』ってのは職業じゃない。古代の伝説にある勇者と呼ばれた英雄のお話をなぞって強く、勇敢で国の未来を託すに値する英雄に与えられた勲章、言い換えるなら二つ名が『勇者』だったのよ」


 つまりこの世界での『勇者』は使命を与えられた選ばれし者ではなく活躍した英雄に与えられる二つ名って訳か。


「まあ、その勇者は今はいないんだけどね……。いえ、そんな事より次は現在の『勇者』についてよ。私の頃は王様から直々に勇者の称号を授与されてたんだけど今は活躍した冒険者が自然に周りから勇者と呼ばれる様になってるのよね。昔とは違って国が幾つにも分かれてるから世界一の英雄を決める、何てことは出来ないってのもこうなってる理由の一つね」


 そう言えばワタルも王都で活躍したり、復活とか凄い事をやってのけたから勇者と呼ばれてるとか言ってたな。

「そう言う事なら勇者が国ごとにいたりするんじゃないの? 魔王軍と戦って英雄扱いされてる冒険者は世界単位で見れば結構いる訳だし…」

「えっと、確か貴方はシオン君だっけ? 鋭いわね、その通りよ。その地域で活躍すれば勇者と呼ばれる世の中になってるの。でもおいそれとは勇者の名は広まらないわ。それだけ危険と隣り合わせの冒険をするって事だし、目立てば魔王軍に狙われることもあるのよ。それで大半の名を上げた冒険者は戦いで亡くなっているわ」


 そりゃ強い奴がいて自分たちと敵対している、なんて分かったら魔王軍も潰しに来るだろうなぁ。

 物理的に出る杭は打たれるって訳だ。

「それでも死闘を潜り抜けたワタルとか言う冒険者は勇者って呼ばれてるみたいね。一応、この世界にも勇者と呼ばれてる冒険者はいるのよ。パッとするのはいないけどね!」

 勇者を軽く蹴れるダニエラって凄いな。

 いや、彼女の仲間だった『勇者』が凄かったのかな?

「それだけ勇者がいるならこの世界も安心だな。俺たちは戦わなくていいんじゃないか?」

「そうねぇ、お金も十分だしそろそろ隠居時かもね。私たちすっごく頑張って来たもの、早く勇者たちが世界を平和にしてくれないかしら」

 俺とレイラのやり取りを見てダニエラは微笑む。

 

 「……でも私は今この世界で一番勇者をしてるのは金治、そしてあなたたちだと思ってるわ。何故かあなたたちなら大丈夫な気がするのよねぇ」

 ダニエラの言葉に俺たちは顔を見合わせた。

「そんな訳ないだろ。俺たちは周りから『セコい英雄』とか『成金パーティ』とかは言われてるけど勇者ではないなとも言われてるんだぞ!」

 フロントのギルドでよく言われてる言葉を思い出す。

 情けないかもしれないが実際、俺たちの心意気はそんなもんだし十分理解して笑い話の一つになっていた。

「勇者だから素晴らしい人ばかりなんて事はないわよ。この辺で活躍してるワタルなんかは正しくヒーローって感じだけど、クズなヤツも結構居るわよ。それに不思議とあなたたちみたいな自分に正直な人のが本当の勇者に近いと思うのよね。まっ、私の勘だけどね!」

 ダニエラの謎の自信に俺たちも不思議と元気が出た。

 『勇者』、か…。




「うん、小難しい昔話はおしまいよ! 次はそうねぇ、ローレンスのやらかしちゃった話集なんてどう?」

「そんなのはつまらない、凄くつまらないぞ! そんな事よりほら、魔女の話を聞きにここへ来たんじゃないか? 俺の話などしている暇はないな!」

 意地悪そうににやけるダニエラを慌てて止めるローレンス。

 そうだ、悪い魔女の事で来たのをすっかり忘れてたぞ。

「僕らは悪い魔女にフェアリーテーブルが支配されたって噂を聞いたからここへ来たんだ。でもワカバの行動を見てたけど『悪さ』ではなく人助けだったし、支配している感じも全くなかったよ。どうしてそんな嘘を言うの?」

 シオンの問いにダニエラはもっともらしく頷く。

「それはこの周辺を守るためよ。この大陸で一番魔法学に精通しているのがフェアリーテーブルやエルフの里、魔王軍は確実にこの魔法の技術を狙うわ。魔王軍にここの魔法を奪われたら私たちは太刀打ちできなくなる、それは絶対に避ける必要があるのよ」

 予想外の答えにシオンも言葉が出ない。

 守るためってどういう事だ?


「僕が説明するよ! 僕らは『悪さ』と称して人助けをしたり、お城に住んで街を支配したと噂を立てる事で魔王軍の侵略を邪魔しているんだ。もし本気で潰しに来られたらフェアリーテーブルの魔力でも敵わないかもしれない。だから魔王軍と同じ人間の敵が支配してることにして狙われるのを阻止してるって訳さ」

 つまり悪い魔女の噂は街を守るための嘘だったって事か。

「そう言う事なら君たちは僕らの敵じゃないんだよね?」

 シオンの言葉にワカバははっきりと頷く。


「師匠は昔からこっそり街の人々を助けたりモンスターを退治していたんだ。多分信じられないと思うけど僕がこの世界に来て路頭に迷っていた時、師匠と出会った。それ以来協力して街を僕らの嘘と『悪さ』で守ってるのさ」

 この世界に来たってまさか…。

「うん、ワカバはまだ修行中だけどなかなか優秀よ! 廃墟を派手で目立つ私たちのお城にするってのもこの子のアイデアだしね。魔女もオシャレが大切よね」


 俺たちはポカーンとしてしまう。

 もっと強くて怖い魔女が恐怖と力で街を支配しているものかと思ってたらコレだ。

 まぁ、敵がいないならいいか。

「そうだったんだ…。ごめんねワカバ、勘違いして悪人扱いしちゃって。僕の大好きな街を守ってくれてありがとう!」

「いいのよ気にしなくて! 寧ろ騙されてくれたみたいでこっちとしては大成功なんだからね!」

 笑顔で答えるワカバ。

 これでフェアリーテーブルの悪い魔女の問題は解決だな。




 ゴォーン…、ゴォーン……。

 二人が握手をした時、街の方から大きな鐘の音が響いて来た。

「何かしらこの音? モンスターでも街に攻め込んできたのかしら」

 不安そうなレイラにワカバは笑って答える。

「違うわよ、コレは街の中心にある大時計の音よ。12時と6時に鐘がなるの」

 なんだ時計の音か。

 確かに外を見ると真っ赤な夕日が山の向こうに沈みそうだ。

「ちょっと、大変じゃない! もう6時って事でしょ、ホテルの夕ご飯はバイキングって聞いたわ。早く行かないと無くなっちゃうわよ!」

 慌てて叫ぶレイラ。

 下らない様に思えたが確かに料理が上手いと評判のホテルだ。

 食べ逃すわけにはいかないな。

「そうだな、急いで戻るか。それじゃあワカバにダニエラさん、今日は帰るぜ」

「全くあなたたちは現物を見ても水晶での映像同様セコいわねぇ! まあいいわ、今度はあなたたちの冒険談を聞かせてもらうからね」

「うん、私も聞きたいわ! 約束だからね、金治!」


 俺たちが急いで部屋を出ようとするとローレンスが声を掛けた。

「そう言えばダニエラはなんでそんなにチビになってるんだ? 小さい方だったけどそこまでじゃ無かっただろ」

 その問いにダニエラは怒って答える。

「チビとは何よっ! 若返りの魔法をすこ~しだけ失敗したのよ。そんなどうでもいい事聞かないで早く行きなさい! さもなくばあなたの恥ずかしい過去を金治たちに話すわよ!」

「それだけは止めろっ! ほら金治、急いで行かないと飯抜きだぞ!」



 ローレンスに押されるようにして俺たちはお城から出た。

「さあ、もうお腹ペコペコだけどホテルまで走るわよ!」

 レイラに続いて俺たちも駆け出す。


 問題も全て解決したし軽い気持ちでグルメを楽しめそうだな。




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