第56話 悪い魔女ワカバ
たくさんの人に囲まれた中で俺たちと対峙しているのは悪い魔女だと自分で言うボーイッシュな見た目の女の子。
彼女、もといワカバはすがすがしい程の笑顔でどう見ても悪人には見えない。
むしろ魔女と言うより旅芸人に見える派手な衣装だ。
「わ、悪い魔女なら許さないぞ! この街を好きにはさせ…」
「おい待てよシオン! コイツそんな悪そうには見えないぞ。えっと、ワカバさんだっけか、この街が支配されたって悪い噂を聞いたから来たんだけど本当?」
今にも攻撃魔法をブッパしそうなシオンを止めてワカバに問いかける。
どう考えてもこの女の子が悪さをするほど悪そうにも見えないし、街を支配出来るほど強そうにも見えない。
「そんな固くならないで呼び捨てでいいよ! 僕は悪い魔女だし、大好きなこの街を勝手に支配してるのも本当さ! 何なら悪事をするとこ見に来るかい?」
とんでもない事を言い出したな。
悪事をする時、それにギャラリーを募集するなんてあるかよ。
「よし、見てやるよ。もし少しでも変な事をしたら警備隊に突き出すからな」
シオンが腕を組んで太々しく言うとワカバは楽しそうに歩き始めた。
「ほら、こっちこっち! まずはフランテ研究地区よ、今日も忙しいんだから!」
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綺麗な建物が立ち並ぶが店はなく繁華街と言う感じではない。
白衣を着た研究者っぽい人々が行き来し、建物の中を覗くとどこも大きな機械が入っていて不思議な光を放っている。
そしてすれ違う人々は顔見知りにでも会ったかのようにワカバに声を掛けてきていた、全く悪人にする反応ではないなぁ。
「ここがさっき言ってた研究地区ってとこなの? なんか真面目そうな人たちがいっぱいいるわねぇ」
「それはそうよ、ここは魔法の研究所がいくつも集まっている地区なの。僕らが今回行くのはその一つ…、そう、あそこにある建物だよ」
そう言って指さしたのはひと際大きい塔みたいな建物。
塔の周りを古代文字みたいなものが回っていて薄く輝いていた。
「あそこでは魔力のエネルギー利用について研究してるの。そこの魔力炉が壊れたって聞いたから『悪さ』をしに行くわよ!」
そう言ってワカバは塔の中へと進んでいった。
内部はかなり綺麗な空間であちこちに浮かんだ立体映像はSFチックだ。
俺たちが見回していると白衣の研究員が一人近づいて来る。
「来てくださったんですねワカバ様。問題の魔力炉はこちらです、どうぞ」
その女性に笑顔で案内されていると他の研究員まで笑顔であいさつしてくる始末だ。
正面の通路を進み、大きな扉を潜ると開けた部屋にたどり着く。
広い部屋の中央には銀色に輝く巨大な機械が設置されていた。
その機械からあちこちの壁に大きなパイプが伸びている姿は以前戦った巨大要塞の動力炉を思い出させるな。
「これが魔力炉か、だが動いてはいないみたいだな。それでお前は何をするんだ?」
ローレンスが問うとワカバは手に持ってた不思議な形の杖を突き出す。
「ふふん、この動力炉に『悪さ』をするのさ! こうやってね、『マジリペアド』!」
彼女が呪文を叫ぶと複雑な杖の先端、うねった先についている大きなトゲトゲの宝石が強い光を放つ。
光の玉が回転しながら飛び出し、魔力炉に突っ込んだ。
大きな機械が一瞬光に包まれたが特に変化はない?
「悪さ完了よ! これでこうすればっと…」
ワカバが機械の正面に着いた大きなレバーの一つを引くとプシューッ、と蒸気が吹き上がり音を立てて魔力炉は動き始めた。
「なっ、さっきまで魔力を感じなかった魔力炉から今は強い力を感じる! それに『マジスペリア』は物を修復する上位魔法だよね、君はコレをなおしに来たっていうのか?」
「ええ、これが今回の『悪さ』よ! さあ、次行くわよ、まだまだ予定があるんだから!」
うろたえるシオンに自信たっぷりで答えて出口に向かって歩き出す。
このワカバってもしかして……。
その後、光らなくなった看板の修復から食料プラントとかいう室内農園で野菜を急成長させたりといろいろな場所に行って魔法をかけるのを見た。
最後に中央広場に戻って来た俺たちはベンチに腰掛け休んでいる。
「あ~あ、今日も散々『悪さ』をしてやったわ! どう、シオン君? 僕の悪さはなかなかのモノでしょ」
伸びをしてそう言うワカバはすがすがしい笑顔だ。
「う、うん……。全部見てたけど君がやってたのは悪さなんかじゃないじゃないか、寧ろ人助けだ。それに支配なんてしてる感じじゃないし噂は嘘だったの?」
シオンの言う通り彼女の行いはすべていい事だし街の人々も感謝していた。
何でそれなのにわざわざ『悪さ』何て言うんだ?
「ワカバがやってたのは全部人助けじゃん。悪さ何て言わないで普通に人助けって言っとけばいいのに、その方がお得な事も多いぜ?」
俺たちの問いに彼女は少し照れながらはにかんだ。
「それはまあ、僕のポリシーみたいなものかな? それにこの方がいい事もあるしね」
「いい事って何かしら? どう考えても恩を売った方がいいと思うけど」
『悪さ』と言い張り人助けをするワカバの意図は全く分からない。
俺たちも人助けをしたりする事はあったがその時は全力で恩を売りに行っていたもんな。
悩んでいると数人の冒険者らしい人々が近づいて来た。
「ワカバさん、ちょっと悪さをしてくれないか? 変な商人が不良品ポーションを売りまくってて、文句を言いに行ったけどアイツ、口が達者で俺たちじゃ追い返されちまったんだ」
その冒険者は青いポーションの瓶をワカバに差し出す。
「ははあ、インチキ商売に引っかかったって訳ね。ちょっと待ってね……。何よコレ、瓶は正式なポーションだけど中身はただの水じゃない!」
一口飲んだ彼女は噴出して叫んだ。
どうやらここに来た冒険者たちはみんなただの水を買わされたようだな。
「全く、詐欺商人はどこにでもいるのね。今回も見過ごす訳には行かないわね!」
「この世界ではポーション詐欺が流行ってるのか? この間俺たちが追い払ったヤツも薄めたのを売ってたもんな。取りあえず見に行ってみようぜ」
俺たちの会話を聞いたワカバは顔を輝かせて飛びついて来る。
「あなたたち、やっぱり良い人たちね! 一緒に行きましょう、この街で僕に許可なく悪さをするなんて許せないよ」
自称悪い魔女と共に俺たちは詐欺師が居たという通りに向かって走り出した。
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以前、インチキ商人をとっちめた時同様、俺たちは路地からその露店を覗き込む。
ちょうど騙されたらしい冒険者がクレームを付けに来ていた。
しかしもう言い負かされそうになってるな。
「はぁ? ポーションの効果がなかったってわたしゃ知りませんよそんな事。私はコレを銅貨1枚で売ってるだけなんですからね、あなたが使い方を間違ったんじゃないんですかぁ?」
嫌味な話し方の商人は黒いローブで顔は見えない、いかにも怪しい男だった。
てかこの声、この見た目といい会ったことあるぞコイツ。
俺は二人と顔を見合わせると飛び出した。
「ねぇ、あなた! もしかしなくてもフロントで詐欺商売してたインチキ男じゃないの! なんでここにいるのよっ!」
黒ローブの前に仁王立ちして叫ぶレイラの後ろに俺とローレンスも立ち、三人でソイツを睨み付ける。
「ゲッ! お前はあの時のおっかない女じゃないでやすか! それにあの時居た赤い鎧にアホそうなガキ、なんでこんなところまで」
慌てふためく詐欺商人はやっぱりあの時のヤツか。
「な、なあ金治、コイツを知ってるのか?」
「ああ、コイツは俺たちが前に居たフロントの街でもポーションを薄めて売る詐欺をしてたんだ。おいお前、あの時全部置いて逃げたのに何でここにいるんだよ?」
状況を読めないワカバに軽く教えて詐欺師に問いかける。
「あ、あんたらに商売の邪魔をされてからわたしゃ一文無しになってしまったんでやす。もうフロントじゃ商売出来そうにないんでキャラバンの荷物に紛れてこの街に逃げたんでやすよ」
その男はビビリきりながらも答えた。
さらに追い打ちの様にローレンスが剣に手をかけ問いただす。
「おい、一文無しになったのに何で商売出来てるんだ? このポーションはどうした、正直に言わないと我が魔剣の錆にしてやるぞ!」
「ひっ、ひぃぃぃっ! い、言いやすよ、何とかこの街に来たはいいけどあっしは一文無しでやす。取りあえずゴミ捨て場に捨ててあったポーションの空き瓶を集めて水でも詰めて売ったらなかなか儲かったでやんす。日銭稼ぎのつもりが前よりいい商売を発見してしまったんでやんすよ……、しまったぁ!」
コイツは真正の馬鹿なのか?
調子に乗ったのか洗いざらい全部話して自白までしやがった。
「しっかり聞いたわ、現行犯で逮捕よ! とっとと諦めて…、キャアッ!」
捕まえようとしたレイラを突き飛ばすと黒ローブは逃走を始めた。
俺たちは慌てて追いかけるがアイツ、俺ら並みに逃げ足が速いな。
「ワカバはなんかこういう時便利な魔法はないの? このままじゃ見失っちゃうよ!」
「そんな都合良いのは無いわよ! シオン君は僧侶よね、うーんここで盗賊とかがいてくれれば楽にアイツを捕まえれるのに!」
大通りを駆け抜け狭い路地を起用に逃げる詐欺師はこのままじゃどこかに行ってしまう。
敵を捕まえるなんてそんな便利な魔法俺達には無い…。
……いや、あるぞ。
「おい、ローレンス! お前のアレでアイツを足止め出来るだろ? 俺たちの魔法で捕まえるぞ!」
俺はポケットから取り出した1枚のカードを見せて叫んだ。
ハッとしたローレンスは笑みを浮かべる。
「試し撃ちが罪人相手になるとはな。俺もやってやるぞ金治!」
黒ローブが再び大通りへと逃げ出したのを見て俺たちも急いで路地から飛び出す。
俺たちの騒ぎを聞いて人混みが左右に開けた道をソイツは逃げて行く。
その背中に狙いを合わせてローレンスはカードを構えると…。
「マジックカードの力を試すぞ! 『ステスロ』発動ッ!」
彼の持ったカードから黒い煙が高速で飛び出し、逃げるソイツを一瞬で包み込んだ。
「な、なんでやすかこんなものっ! …アレ? 体が重く……」
動きを鈍くする魔法をモロに受けた黒ローブは走る速度が一気に落ちる。
マジックカードを初めて使い、感動するローレンスの前へと飛び出して俺もその鈍足野郎に向かってカードを構えた。
「悪人にはお縄を頂戴させてやるぜ! マジックカード『バインド』ッ!」
呪文を叫ぶと俺の手にあるカードが輝き、光のロープが発射される。
俺の掌から伸びるそのロープはあっという間に詐欺商人をグルグル巻きにした。
紛れもなく、盗賊ジェリーが使った魔法だ。
すぐに鎧の警備兵が数人来て黒ローブを連行して行く。
その中にはデニスさんも居た。
「君たちお手柄じゃないか! ついさっき街に来てもうこんな活躍をするなんて英雄の肩書は伊達じゃないな。是非今度一杯奢らせてくれよな」
笑顔で話しかけて来たが英雄って…。
「なんで知ってるんだ? 俺達ってこの街じゃまだ何もしてなかった筈だぞ」
「気になったんで調べさせて貰ったのさ。俺がモンスターと対峙した時もお前らは一番に助けに来た、普通の冒険者じゃない気がしてね。後で冒険談を聞かせて欲しいな」
そう言われて悪い気はしないな。
ニヤけた仲間たちが肘でつついて来る。
「もちろんいいぜ! とっておきの武勇伝を聞かせるよ、酒でも飲みながらね」
去って行くデニスさんに手を振っているとワカバも声を掛けて来た。
「あなたたちありがとう! ところで英雄って、もしかしてフロントをドラゴンから守ったって言う金治パーティ? ……本物?」
どうやら俺たちの活躍は思ったより広まっているようだな。
仲間と目配せをして、自信を持って答える。
「そうだよ、俺たちはフロントの金治パーティさ! 結構有名になってる様だな」
「それは分からないけど今はもうこの街ではもう英雄だね。ほら、街の人たちを見てよ。英雄ならこれに答えなくちゃね!」
ワカバの言う通りいつの間にか周りを大勢のギャラリーが囲んでいた。
みんな声援を送ってくれているこの感じ、悪くないよな。
俺たちが手を振るとさらに大きく沸き立った。
「そうだ、君たちみんな僕のお城に遊びに来なよ! 師匠もきっと喜ぶよ。師匠は君たちのファンだからね!」
俺たちはワカバに続いて正門へ向かう。
その場しのぎの生き方をしていたがいつの間にかファンがついていたのか。
かなり嬉しいじゃないか!
調子に乗り切った俺たちは盛大に手を振りながら歓声の中をパレードして行く。
ヒーローもいいものだな。




