第55話 誰でも魔法を使う方法
豪華なホテルにチェックインした俺たちは夕食まで街を探索することにした。
露店で購入した宝石の様に輝く焼き菓子を片手に街を進む。
「美味しいけど不思議なお菓子ねぇ。味も見た目も飴見たいなのに触感は柔らかいお饅頭みたい。でもひんやりして甘くてこれ気に入ったわ!」
「それはよかった。その『ジュエルパーム』はフェアリーテーブルの名物なんだ。他にも君たちにとっては珍しい食べ物がいっぱいあると思うよ」
しかし不思議な食べごたえのお菓子だな、コレ。
「なあ、魔法店ってのを見て見ないか? 王都にはない店だったから気になるんだ」
不思議なものがいっぱい置かれたオカルティックな店を指さしてソワソワしているローレンスの提案でオシャレな扉を押して店内に入る。
ミラさんの店よりさっぱりしていて商品の数は少ない…。
いや、オカルティックな装飾を覗けば俺も現代でよく見た店に似ている。
「凄いわねぇ、これ全部カード? デニスさんが使ってたのってきっとこれね!」
ガラスケースに並べられた大量のカード。
それらは中心に絵が描かれて上部に魔法の名前らしいものが記されているデザイン。
もうまんま現代のカードショップじゃん。
「面白いな、このカードを持って叫べば俺も魔法を使えるのか?」
「そうさ、このマジックカードにはそれぞれ魔法が込められてるんだ。カードを持って呪文を叫べば込められた魔法が発動するって訳だよ。使い捨てだけど魔力は全部カードに入れてあるから使うには呪文を唱えて発動させるだけ、どんなに魔力を持たない人でも使えるんだ」
シオンは自信満々に説明してくれた。
……試してみたいなぁ。
そんな視線を察したのかエルフの店主が声を掛けて来た。
「君は随分マジックカードに詳しいみたいだけどこの辺では見ない顔って事は観光客かな? よかったら店の裏側で試し撃ちをしてみるかい、好きなカードを選んでいいよ」
「えっ、いいの! 好きなのを選んでって言われても俺は魔法をあんまり知らないしな……。おっ、『ファイアボール』ってレイラの魔法と同じヤツだよな。コレを使えば俺もあの魔法を使えるのか?」
目に留まったのはレイラも使える火の初級魔法『ファイアボール』。
火の玉のイラストが描かれている。
レイラが以前に「私の高等魔法をあなたみたいな遊び人が使える訳ないじゃない!」と自慢して来たのを思い出した。
「うん、この『ファイアボール』だね。何事も挑戦さ、試してみれば君も魔法がどういうものか体験出来るよ。さ、裏口からどうぞ」
俺たちは店のカウンター脇から裏口へと通された。
店の裏手に出るとそこには長めの空間があり奥の方にはいくつかの的が設置されていて、さしずめ射撃訓練場って感じだ。
「さあこのカードを的に向けて呪文を唱えるんだ。衝撃が来るからしっかり立って使ってね」
俺は真ん中の的に狙いを定めてカードを向ける。
深呼吸して呪文を叫ぶ。
「魔法、『ファイアボール』ッ!」
手に持ったカードが強く輝くとカードの絵から飛び出すように火の玉が発射された。
発射と同時にズシンと振動が体に伝わる。
火の玉は真っ直ぐに飛んで行き、的に命中すると小さな爆発を起こした。
間違いなくレイラがよく使う『ファイアボール』の魔法そのものだ。
「これが……、魔法! き、きっもちいいっ!」
俺は見た目が派手な正しく魔法と言う感じの魔法を使ってしまった。
これは感動だ!
「はっはっは、そんなに喜んでもらえて僕も嬉しいよ。他にもいろんなマジックカードがあるから是非買って行ってくれよな。それじゃ、僕は店に戻るね」
思わず震える俺に店主はそう言い残して店内に戻って行った。
「凄いなマジックカードとか言うものは。俺も回復や妨害用の魔法を買っていくか!」
そう言ってローレンスは店内に駆けて行く。
「凄いわねぇ、金治でさえ魔法を使えるようにする道具があったなんて。私も何枚か買って行こうっと。金治も買うでしょ?」
「マジックカードはフェアリーテーブルの研究成果の中でも大きなものなんだ。ここまで街に浸透してた何て僕も嬉しいよ! ……ところで金治は魔法使えるじゃん。そんなに感動した?」
「スゲー感動したぜ! だって俺の使えるのはなんか地味なんだもんな。バリアを張っても割れる時にしか見えないし。それより俺たちもカード買おうぜ」
俺も店の中へ戻るとガラスケースに並んだカードを物色し始めた。
こう、カードを見るってなんか懐かしいな、死ぬ前以来だ。
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魔法店を後にした俺たちは広場の隅に腰かけて買ったカードを見せ合っていた。
「見てよ見てよ、デニスさんが使ってた『フレイムブラスト』に電撃の魔法、『サンダーボルト』のカードよ! 私、こういう派手な魔法を使いたかったの」
マジックカードって確か魔法を使えない職業の人でも使えるようにするアイテムだったような気がするんだが目の前の魔法使いは大喜びで自慢して来る。
「俺が買ったのは動きを鈍くする『ステスロ』に相手の防御魔法を消す『バジバルド』だ! この魔法があれば俺はより無敵の騎士になるな」
「ローレンスは随分性格の悪いチョイスをしたんだね。それで金治は何を買ったの? 随分悩んでたみたいだけど」
性格が悪いと言われて落ち込んでる奴がいるけどまあいいか。
「俺はコレだな。実際、知らない魔法ばっかしで選びようがなかったからここは一丁運試しをしてみようと思ってね」
そう言ってみんなに見せたのは一枚の封筒のようなモノ。
「それってランダムでマジックカードが入ってるパックだよね? 運が良ければ1枚で金貨数十枚もするカードも出るらしいけど…、まあ開けてみようよ」
そう、ランダム封入のカードパック。
トレーディングカードなどでよくある販売形式のものが売っていたのだ。
俺はこういうパックを開けるのが大好きなのである。
「それじゃあ開けるぞ。いいの出ろよ~」
封筒の上部を開封して中身を取り出すと3枚のカードが入っていた。
内容は『アイスウィンド』、『バインド』、…これってジェリーが使ってた奴か。
そして虹色に輝く形紙のいかにもレアっぽいのが一枚。
「何だろコレ。こいつだけ雰囲気違うな、『サラマンダー』だってさ」
「聞いたこともない魔法ね。でも綺麗じゃない、私たちが買ったカードはそんなに輝いてなかったわよ」
虹色に輝くカードの真ん中には炎のドラゴンみたいな絵が描かれている。
それを見たシオンは顔色を変えて…。
「そ、それってスーパーレアのカードだよ! 強力な魔法を封入するとそんな風に特殊な見た目になることがあるんだけど正しくそれだね。それに『サラマンダー』は炎系の魔法でも特殊で強力な魔法だよ!」
興奮して喋る姿に思わず圧倒されてしまった。
なるほど、スーパーレアか。
「つまり俺は大当たりを引いたって事か。やっぱり毎度ラッキーだな!」
俺たちが広場で騒いでいると街の入口の方から歓声が上がった。
「な、何よ? いい事でもあったのかしら?」
「おい、人混みがこの広場まで続いてるぞ! 何かセールでも始まったんじゃないか? 行ってみようぜ」
急いで人混みの後ろへ行き、覗き込むと中心には極彩色の派手なローブを着た魔法使いらしい女の子が堂々と歩いている。
帽子もローブも派手な装いのその女の子は茶髪のボブカットで丸メガネをかけていた。
「あれは何だ、旅芸人の類か? 有名な一座でも来たのだろうか」
不審な顔をするローレンスの気持ちはよーく分かるぞ。
「ねえおばさん、あの女の子は誰なの? すっごく派手だけど有名な魔法使い? それとも旅芸人の子?」
近くにいた主婦にレイラが声を掛けるとおばさんは笑って答える。
「ああ、あなたたちはこの街に来たばっかりなのね。あの女の子は近くに住み込んだ魔女でね、しょっちゅうこの街にやって来ては『悪さ』をするんだよ。悪さと言っても誰かを不幸にするものじゃない、むしろ幸せを振りまく人気者なのさ」
「幸せを振りまく……、悪さ? どういうことだ」
矛盾する答えに俺は首を傾げた。
「まあまあ、見てればきっと分かるわよ。……あら、君どこ行くの?」
ふと見るとシオンが人混みをかき分けて進んでいくところだった。
俺たちは慌てて追いかけたが追い付く前にシオンは魔女の前に立ちはだかって問いかける。
「おい、お前が噂の悪い魔女なのか? この街を支配しているのは本当なの?」
シオンは鋭い目つきでその女の子を睨み付ける。
しかし魔女は全く臆することなく胸を張って答えた。
「そうよ、僕は悪い魔女よ! このフェアリーテーブルは僕らのものだよ。だからこうして見回りに来てるんだ」
はっきりとしたその声に街の人々は歓声を上げる。
「君は……、いや君たちはこの街を心配して来てくれたんだね! そんな優しい心を持った人はもちろんこの僕、ワカバの名において歓迎するよ!」
そのワカバと名乗る女の子は笑顔でそう言い放った。
コイツが本当に悪い魔女なのか?




