第54話 魔法都市フェアリーテーブル
キャラバンの列車に揺られ続けて3日目の昼過ぎ。
ブリッジロビーに行った時とは異なり、モンスターの襲撃もなく平和そのものだ。
こう思わず居眠りしてしまいそうに…。
「ほら見て! あれが魔法都市『フェアリーテーブル』だよ」
シオンの声に起こされて窓の外を見ると見たことのない光景が広がっていた。
崖の上から街を見下ろす形になっているが、様々な形の塔が高層ビル群の様に立ち並んでいるその街並みはフロントの街が中世だとしたらここは現代の大都市と言った感じだ。
広い建物群全体を覆う様にドーム状の光が発生しており、その周りを古代文字みたいなのがたくさん回っている。
魔法独特の光で輝くその大都市はとても幻想的な光景を生み出していた。
「綺麗な街ねぇ、私こんなの初めて見たわ! 妖精の机なんて名前だからもっと質素なの予想してたから驚きね。妖精のディーラーがいるカジノとか勝手にイメージしてたけど金治はどんなディーラーが好き?」
「まあやっぱり美人なディーラーがいいよな、ミステリアスなの。ってか俺カジノなんて言ったことないけどな。それよりあの文字みたいなヤツは何なんだ?」
「あれはこの街の防御壁さ。魔法で魔王軍の攻撃から街を守ってるんだよ。あと言っとくけどこの街にカジノは無いからね」
「おおっ、防御壁の研究が完成してたのか。数十年前までは研究段階だったものをこうも見事に実働させるとは素晴らしいな」
俺たちがいろいろ言い合ってる間にも列車は崖に沿って下って行く。
街の正門らしいものが見えて来た。
「みんな降りる準備をしよう。この先のトンネルを抜けたらもう直ぐだよ。キャラバンを降りたらまずは宿を探さなくちゃ」
シオンの指揮で俺たちは荷物をまとめ始める。
今回は個室タイプの一等車に乗れたためこの部屋には俺たちだけで散らかし放題だったため片付けが面倒だな。
直ぐにキャラバンは暗いトンネルに入った。
窓から外を見ると前方に光が見える。
どうやらトンネルと言っても短いものの様でもうじき抜けるだろう。
この先に魔法都市が待っているのだ。
眩しい光が窓から差し込んだ、と思ったら突如先頭の運転席からガンガンと鐘の音が響き渡り列車が激しく揺れて止まった。
俺たちは個室の中で激しく揺られ転がりまくる。
「痛てててて…、みんな大丈夫? こんな街の前でモンスターの襲撃かな。取りあえず外に出てみようよ」
「ま、待ってくれ。俺の首その辺にないか?」
俺は近くに転がっていたローレンスの首を手渡して馬車から飛び降りた。
「うわ、酷いな。早く先頭の方に行こうぜ!」
列車は何かを避けた様で弧を描いて曲がり、先頭の方の馬車は横転している。
俺たちが倒れた馬車を乗り越えるとそこには光を放つ街の正門と見たことがある青い塊がうごめいていた。
「アイツって確か『ユニオンスライム』だっけか? 何でこんなところに」
間違いなくスライム退治の時に現れた合体スライムだ。
「スライムは水があるとこならどこにでも沸く魔力で出来た生命体なんだ。でもあんなとこに居られちゃ街に入れないよ」
「私、アイツと戦うの嫌よ! オシャレな街にこれから入るのにベタベタになるなんてまっぴらよ」
レイラの言う事はもっともだ、俺もアイツとは戦いたくない。
「おい、街から誰か出て来たぞ。護衛の奴か?」
俺たちが馬車の陰から様子を伺ってると門が開いて数人の冒険者らしい連中が出て来た。
しかし、全員が鎧を着た戦士系っぽい見た目だ。
「なあ、あの合体スライムって物理だけで倒せるもんなのか? 魔法使えそうな奴が一人も居ないぜ」
「マズいよ、戦士だけで倒せる敵じゃない。取り込まれたら窒息死だよ、僕らも出て行って助けよう!」
ユニオンスライムの強さは身を持て知っている。
俺たちは無謀な彼らを止めるべく飛び出した。
「鎧のおじさん! そのスライムに打撃は全く効かないわよ。私たちも加勢するから一緒に戦いましょう!」
レイラが叫ぶと鎧の冒険者たちが振り向いた。
こっちにはスライムの合体を解除させる手段がある。
しかし、冒険者たちは…。
「おう、お嬢ちゃんたち、忠告ありがとよ! 確かに俺は魔法を使えないがこいつぐらいなら俺でも倒せるぜ!」
そう言ってガタイのいい男は腰に装備した剣を取ることもなく、ベルトに着けた小さなカバンから一枚の紙切れを取り出した。
それをユニオンスライムへと向ける。
「な、危ないぜ! ほら、スライムが攻撃しようとしてるぞ!」
グニョグニョ動いた後に変形してくるのがヤツの攻撃パターンだ。
「心配すんな、取って置きのカードを使うからよ! 『フレイムブラスト』ッ!」
その男が叫ぶと手に持った紙がカッと輝く。
それと共に巨大な炎の塊が発射される。
レイラの魔法よりずっと巨大なその炎の塊は渦を巻きながらスライムにぶつかると見たことないほど巨大な爆炎を巻き上げた。
煙が引くとスライムは跡形もなく蒸発していた。
「な、何よ、あなた魔法を使えたの? 見た目は戦士系っぽいけど…」
「そうか、マジックカード! そのカードはそこの街で買ったものかい?」
戦士の男は笑顔で頷く。
「ああ、どの魔法店でも売ってるぞ。君は知ってるようだね。見た感じエルフの様だがこの街の出身か」
普通に会話が進んでるけど待てよな。
「なあマジックカードって何なんだ? さっきの魔法か?」
「金治たちは知らないよね。この街では魔法都市の名前通り魔法の研究が盛んなんだ。その過程で作られたのが『マジックカード』ってアイテムなんだけど……、まぁここにいればいくらでも見る機会はあるからその時教えるよ。それより、街に入って大丈夫なの?」
シオンが問いかけると鎧の男は門の前へと進み出て俺たちを手招きする。
「お前らみたいな勇敢な冒険者なら大歓迎さ。さあ、フェアリーテーブルへようこそ!」
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その男に連れられて俺たちは光り輝く正門に踏み入れた。
全ての建物がネオン街の様に輝いている。
しかし全て魔力が動力だからだろうか、日本の繁華街で見るようなギラギラした光や巨大ディスプレイの明かりとも異なる優しい感じのする光なのだ。
「スッゲェな、この世界にこんな文明的な街があったのか。もっと全体的に中世の世界観イメージしてたぞ」
「僕がこの街を出たのは2,3年前だけど随分発展してるよ。店の配置や街並みなんかは変わってないけど以前はここまで魔力が満ちてはいなかったもん」
俺たちは初めて見る光景に田舎者丸出しで見回している。
街の人々はローブを着た魔法使い風の人が多いが普通に冒険者っぽいのも歩いていた。
街人におけるフロントとの一番の違いはエルフが圧倒的に多いのだ。
幻想的な光の街に美しいエルフたち、素晴らしい街だな!
「うわぁ、流石街の名前に妖精ってつけてるだけあるわね。リックが来たがってたのも納得だわ、美人ばっかりだもの。ここにいれば私も自然にもっと美しくなったりしないかしら?」
「そんなに都合よくはないだろうなぁ。でもリックは来なくて正解だっただろ。こんな街に来たら暴走して何やらかすか分からないぜ、アイツ女好きだしな」
実際、リック以外にも美人のエルフ目的でついて来たがる奴は結構いた。
みんなキャラバンの乗車券を買えずに諦めてたけど。
「おう、お前らみんなここを気に入ったみたいで俺も嬉しいぜ! ……おっと、自己紹介がまだだったな。俺はこの街で護衛をしているデニスだ。そうそう、街の正門を潜った時にお前らの心を調べさせて貰ったけど思った通り悪い奴じゃなかったぜ。改めてようこそ、観光ならぜひ楽しんでいってくれよな!」
デニス名乗ったその戦士は笑顔で俺たちへあいさつした。
「それは嬉しいけど…、心を調べるって何したんだ?」
不穏なワードに思わず問いかける。
三人も頷いた。
「この街の正門には魔王軍のスパイや賊の侵入を防ぐために心の良し悪しを調べる機能があるんだ。悪い奴は街に入る事も出来ないのさ」
爽やかに答えるデニスを見て俺たちは顔を見合わせた。
「その機能壊れてるんじゃないかしら? この金治やシオンなんてがめつさとセコさと腹黒さの塊よ!」
「おい、金治はともかく僕はそうでもないだろ! それにレイラが一番がめついじゃん」
「それより俺は大丈夫なのか? 見ての通りデュラハンだぞ!」
慌てる俺たちに彼は笑って答えた。
「セコさやがめつさくらい人間誰でも持ってるし、それは悪意とは違うよ。あとあなたがローレンスさんですね。伝説の騎士を追い出したりなんてしませんよ、どんな姿でも我々騎士の憧れなんですから!」
その言葉に感動し、涙ぐむローレンス。
なるほど、よく出来た不審者発見器の様だな。
確かにセコさやズルさで判断していたらフロントの街の冒険者なんて誰一人この街に入ることが出来なくなっちまうもんな。
「それにこの街ではモンスターすら利用しようという研究をしている研究所もあるからな。きっと他の街では見られない光景を見ることが出来ると思うぞ」
モンスターを利用ってどういうことだろうか?
この街には不思議がいっぱいみたいだぞ。
「そろそろ俺はキャラバンの救出に戻るが聞いときたいことあるか?」
「じゃあ、この街のおすすめの宿ってあるかしら? 出来ればご飯が美味しくてお風呂がついてるところがいいんだけど」
レイラの問いにデニスは少し悩んで…。
「それなら中央広場の近くにある『レディオホテル』なんかいいんじゃないか? あそこの飯は俺も好きだし地下の酒場がなかなかいいんだよな。風呂は大体どこのホテルにもついてるぞ」
シオンが素早くメモを取る。
風呂ってこの世界の高級品だと思ってたんだが普通なのな。
そう考えると井戸で体を洗ってたフロントはどれだけ田舎だったんだよ。
「もうないか? それなら…」
「ちょっと待って! 最後に一つ、この街が悪い魔女に支配されたって話を聞いたんだけど本当なの? 見た感じは平和そのものだけど」
去ろうとしたデニスを呼び止めるシオン。
そう言えばそれが目的だったのすっかり忘れてたな。
「悪い魔女か…。ああ、アイツの事だな、この街じゃなくて近くの廃城に住み込んだ魔法使いがいるんだよ。確かに『悪さ』といいはっていろいろやってるんだがまぁ気にしなくていいだろうな。ただの変わった善人だよ」
よく分からない答えが返って来たな。
悪さをする善人ってなんだ?
「大丈夫、観光でもしてればそのうちアイツは現れるさ。じゃあ俺はキャラバンの方に行くけど何か困ったらこのデニスを頼ってくれよな! それじゃ」
そう言い残して正門へと戻るデニスに俺たちは手を振った。
「どうなってるんだ……。悩んでても仕方ないから取りあえずさっき教えて貰ったホテルに行こうか」
シオンを先頭に俺たちは歩き始めた。
立ち並ぶ露店や店にも見たことがない物ばかり並んでいる。
この街は探索し甲斐がありそうだな。
「見てよアレ、綺麗な水晶を舐めてるわ! 食べ物かしら?」
「おお、あれが魔法店ってやつか! デニスが使ってた道具も売ってるんじゃないか?」
「観光は後にしなよね! 先にチェックインしちゃわないと今夜は宿無しだよ」
気になる物だらけの街並みを抜け、大きな丸い広場に入る。
不思議な模様が地面に描かれた広場には沢山の露店が並び騒がしい。
「おっ、アレがさっき言われたホテルじゃないか?」
ローレンスが指さす大きな建物には確かに『レディオホテル』と看板がついてる。
見た感じかなり豪華な外見だな。
宮殿の様な外装は魔法が掛けられてるのか青く輝いている。
ま、金はあるから豪華なところに泊まりたかったし丁度いいか!
いかにも高そうな豪華なホテルに俺たちは田舎者丸出しで足を踏み入れたのだった。




