第53話 シオンの故郷
相変わらず騒がしいギルドのカウンター席で屯す俺たち。
「うう、まだ頭がいてぇ。昨日はひどい目にあったぜ」
テーブルに頭を押し付けるようにしてリックは唸る。
「ま、まあ元気を出せよ。ほら、昨日の詐欺商人の置いてった売り上げ金。話し合ったけど全部お前にやることにしたからよ」
コインがたくさん詰まった袋を差し出すと大喜びでリックは受け取った。
「マジか、サンキューッ! やっぱり世のため人のためにいい事ってするもんだな!」
昨日あんな扱いをされたのに小銭を渡されただけでここまでご機嫌になるとは。
ある意味彼は幸せ者だろうなぁ。
「あっ、居たいた~。見てよコレ、商店街を歩いただけでいろんなものを貰えたわ。やっぱり人助けって得するわねぇ」
露店の串焼きやポーションの瓶を数本抱えたレイラが嬉しそうに近寄って来た。
コイツ、ほっといたら付け上がってたかり癖がつきそうだな。
「あんまり調子乗るなよ。恩ってのはチマチマ返してもらうより溜めといてデカい何かで返してもらった方がいいぞ」
「止める方も理由がセコイな。それよりお前ら、倉庫のアレ何とかしろ」
アホな会話にツッコんでくるマスターが倉庫の方を指さす。
「アレって…。ああ、お宝の事か。この街じゃあんまり換金出来なかったんだよね。今はお金に余裕があるから無理に換金する必要もないしなぁ」
「そうよね、お願いマスター! 暫くでいいから置かせてちょうだい。何なら漬物石とか踏み台の代わりにしてもいいから! ……少しなら貰ってもいいわよ?」
ダンジョンから持って帰って来たお宝の大半がギルドの倉庫に放り込まれている。
初心者の街じゃ全部を買い取るほど大金はないんだとさ。
「はぁ、そんなに言うならギルドの修繕費にでも使っちまうぞ。まああの倉庫は漬物を作るくらいしか使ってないからいいけどな」
「「ありがとうマスターッ!」」
彼は笑顔で頷き、振り返ると1枚の紙切れとカバンを差し出して来る。
「それはそうと買出しを頼むぞ。お前らが行った方がおまけして貰えそうだからな。報酬は夕食、俺からの緊急クエストだ」
俺とレイラは顔を見合わせてニッと笑う。
「任せて、そのクエストは私たちが一番得意なものよ!」
俺とレイラは買い物カバンとメモを手にギルドを飛び出した。
--------
巨大な紙袋に詰まった食材を抱えてギルドの扉を潜る。
「マスターただいまぁ! おわっ…」
「やっと戻って来たなっ! 僕の話を聞いてよ、大変なんだっ!」
ものすごい勢いで駆け寄って来たのは小さな子供…、ではなくシオンか。
なんかスッゲェ真剣な顔してんな。
「昨日は結局帰って来なかったしなんか久しぶりの感じだな。どうしたんだ?」
「何よシオン、こっちのが大変よ。見なさいコレを。半分以上おまけして貰って来たサービス品、つまりタダよ!」
両腕で抱えた紙袋を誇らしげに突き出すレイラ。
それを見たシオンはガックシと肩を落としたがツッコミすら入れることなく再び真面目な顔に戻る。
「それでね、本題なんだけど悪い噂を聞いたんだよ。前話したフェアリーテーブルって街を悪い魔女が支配して悪さをしているらしいんだ」
そう言えば魔法都市『フェアリーテーブル』とか言ってたな。
「何故か私は無視されたわ。まあ、それはいいとして何そんなに大変なのよ? フロントからは遠い街だし問題ないと思うけど」
「そうだよな、俺たちに関係あるか? もし悪者から守るとか考えてるなら諦めた方がいいんじゃないかな。街一つ支配する魔女に俺たちが敵うわけないぞ」
はっきり言って俺は勇者一行の様に世界を旅して悪を倒す正義の味方……、なんかになる気はさらさらない。
ラッキーで何とか生き延びているが本質は弱いと言う事を忘れはしないぞ。
しかし、シオンはそれでも強い眼差しで続けた。
「フェアリーテーブルは僕がフロントに来る前に居た街なんだ。それの隣にエルフが住む森があるんだけど僕の故郷なんだよ」
「シオンの……、故郷?」
思わず驚いてしまったがそうだよな、冒険者にも故郷があるんだよな。
俺みたいな転生者なんてただの例外だ。
「そう、故郷にいい思い出はあんまりないんだけどね。でもフェアリーテーブルは嫌いじゃないよ。それにいくら嫌な場所だからって悪い奴に潰されるのを黙って見ているなんて出来ないよ……。お願い、金治! 僕と一緒にフェアリーテーブルに行ってよ! 魔女と戦おうとは思わないよ、でももしも本当にピンチなら助けを呼ぶくらいはしたいんだ」
深く頭を下げる彼の姿には初めて会った時よりも強い意志を感じる。
「なるほど、次の冒険は悪い魔女に支配された魔法の街って訳か。悪くないチョイスだ、早速遠出の準備をしないとな」
「ええ、キャラバンが近いうちに出ればいいんだけどね。着替えも必要だし一応ミラさんのとこで魔法道具を買って行きましょう」
俺とレイラが準備の話を始めるとシオンは驚きの表情を浮かべた。
「い、行ってくれるのか? 本当にいいの? 噂は曖昧だしどんな怖い魔女が待ち構えてるか予想もつかない状況なんだよ。それに…」
「おいおいシオン、自分で誘っといて怖気づくのは無しだぜ。曖昧な噂なら支配されたとか言うのは間違いかもしれないだろ。それにフェアリーテーブルはいい街だってお前が言ってたじゃん。観光もするつもりなんだから案内しろよな!」
こう、楽観的に言ってみたけど街を支配する悪い魔女なんて怖すぎだろ!
でもこの頼みを断るなんて仲間じゃないよな?
「……ありがとう金治。うん、取って置きの場所を案内するから楽しみにしててよね! 魔法も知らなかった田舎者は腰を抜かしちゃうかもしれないけど」
嫌味を言えるくらい元気が出たならもう大丈夫だな。
例え行く先が明らかに真っ暗闇でもそこは実は明るい光だって思わないとこんな異世界、やってけないよね。
「そうと決まれば買出しよ! ローレンスも呼びに行かなきゃ。……あ、食材を厨房に置いてからね」
---------
その夜、ギルドのテーブルに以前も見た世界地図を広げて作戦会議だ。
「やっぱりキャラバン隊に乗るのが得策だろうな。幸い明後日にフェアリーテーブルを通過するのが出るんだろ? ……それより俺は行かない方がいいんじゃないだろうか。仮にもデュラハンなんだ、大きな町には極力入りたくないな」
訳を話したら即答で賛成して来たローレンスが呟く。
確かにアンデッドモンスターを連れたパーティなんて普通じゃないらしいしなぁ。
「いや、それは心配ないだろう。伝説の騎士が復活したことは大半の大きな町に知れ渡ってる筈だ。それにあそこの街は特殊だからな」
マスターの声に野次馬で集まっていた冒険者たちがそうだそうだと騒ぎ出した。
初心者冒険者からすれば遠くの都市への冒険は憧れらしい。
「見て見て金治! キャラバンのチケット四人分買えたわよ。それにしても高かったわね、一人金貨2枚とかぼったくりじゃないの?」
「それはないよ。都市のほうからフロントに来るのは安いかもしれないけど都会の方へ行く便は元々高いんだ」
文句を言うレイラをシオンが宥める。
そう、キャラバンの運賃が意外に高いのだ。
ここフロントが田舎だというのも相まって初心者には手の出しづらい価格になっている。
「全く、お前ら意識は低い癖にいっつも大冒険に巻き込まれるな。ほら、コレを見ろ。お前らの行くフェアリーテーブルはここフロントから北の方に進んだところにある街だ。フロントとは比べものにならない大都市だがお前ら変な事やらかすんじゃないぞ、特にレイラ」
「なによマスター。私はそんなにお転婆じゃないわ」
頬を膨らませソッポを向くレイラだが何かやらかすとしたらコイツだな。
マスターが地図をなぞって行き先を教えてくれる。
「まあフェアリーテーブルに着いてからはシオンに聞いた方が詳しいだろ。俺が最後にここへ行ったのは十年くらい前だからな」
「へぇ、マスターっていろんな場所に行ってるのね。……作戦会議はこれで終わりよね? なら今日は出発を祝して飲みましょうよ、ねっ! みんなっ、今夜は私の奢りよ! 朝まで騒ぐわよぉ!」
レイラの掛け声でギルド中から大歓声が上がる。
これは彼女なりの落ち込んでるシオンへの気遣いかな?
まぁ、こういう楽しいサプライズは大歓迎だ!
次の目的地は魔法都市『フェアリーテーブル』。




