第52話 商売上手のすゝめ
ダンジョン探索から1週間ほど立った平和な日。
お宝をたっぷり手に入れた俺たちは前にもまして余裕たらたらの生活を送っていた。
もはやギルドの家事手伝いだ。
「へぇ、それでお宝を手に入れたってわけね。いいわねぇ、若いって。私もそう言う夢溢れる冒険をもっとしたかったわ」
俺とレイラの話を聞いて笑みを浮かべるミラさん。
「ミラさんの道具もすっごく役に立ったのよ。そう言えば何でミラさんのとこ来てるんだったかしら? 冒険談を聞かせに来ただけじゃないわよね」
「レイラは暇だから付いて来ただけだろ。俺は真面目なビジネスの話をしに来たんだ。おとなしく店の物でも見てろよな」
カウンターに座りミラさんと対面する。
「ところで売り上げの方はどう?」
この問いに笑顔で答えるミラさん。
「それが凄いのよね! 金治君が教えてくれたパチンコを売り出してみたら何とこのパチンコと『爆裂瓶』のセットが冒険者にもの凄く売れたわ。今月は珍しく、ここ数年稀にみるくらいの黒字なんですよぉ。……あっ、これ売り上げの1割ね。もっと貰ってってもいいくらいなのよ?」
嬉しそうに話すと金貨が入った袋を差し出してきた。
「いや、売り上げの1割って約束だったからね、契約は守らないと。まあ、役に立ったなら俺も嬉しいよ」
俺はそう言って袋を受け取った。
ブリッジロビーから戻った後、ミラさんに『爆裂瓶』を使った戦いの話をしたところやたらと食いついて来たのだ。
どうしても店で売りたいと言われ売り上げの1割を貰うって言う契約で作り方と売る権利を渡した、……ことになっているらしい。
権利とかよく分から無いし、パチンコなんて誰でも思いつきそうだけどね。
勝手に売っていいのにそれは申し訳ないと言われたから仕方ないよな。
臨時収入が意外においしい。
「凄いわね大儲けじゃない。世の中何が売れるか分からないものねぇ」
店内を一周し終えたレイラが駆け寄って来た。
「ええ、魔法を使えない戦士系の職の方たちや興味本位で買って行ってくれる方が多いようで。あの、厚かましいお願いかもしれないけどまた何か売れそうなものを見つけたら教えてね」
「任せてよ、面白い物を見つけたら一番に教えるね。それじゃあ今日は帰るわ、ほらレイラも行こうぜ」
「またね、ミラさん」
俺たちはミラさんのお店を出て商店街へと向かう。
「ねぇ、金治ィ。収入入ったんだから何か奢りなさいよね。ほら、あの屋台のジュダジュ焼き美味しいのよ!」
粉モノを焼いてる屋台を指さして言う。
「何だよジュダジュ焼きって。それにお前もアホみたいに金持ってんじゃん。……まぁ、いいか、懐に余裕がある時は心にも余裕が必要だからな」
「さっすが金治、話が分かるわねぇ! おじさーんっ、ジュダジュ焼き二つ!」
嬉しそうに屋台へ駆け出すレイラ。
実際この世界の食べ物はまだ見ぬものが多く、娯楽が現代より少ないここでは食事が一番の楽しみと言っても過言ではないな。
「へいおまち、ジュダジュ焼き二つね!」
さし出されたのは巨大なタコ焼きみたいなモノが一つ、厚紙で作られた皿に乗せられたものだ。
「金治はコレ初めてよね。ジュダジュ焼きって言うのは中にいろんな具材を詰め込んで焼いた料理よ。具材は季節や店によって自由に変わるのよ。うん、今回のは大当たりね、美味しいわ!」
つまるところは中身不明の爆弾焼きって事か。
俺もフォークを刺して噛みついて見たが中にはチーズみたいなのと魚介類っぽい具材がたっぷり入っていて中々旨いな。
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買い食いをしながらギルドに戻るとカウンター脇のテーブルに人だかりが出来ていた。
「何やってんだローレンス?」
「おっ、帰って来たか金治。俺もお前を見習って商売をやって見ようと思ってだな。ほらコレ、賭け腕相撲だ。カモがいっぱい来てくれるぞ!」
彼が見せて来た看板には『一回銀貨1枚、賞金金貨100枚』と書かれている。
「で、どれくらい儲かったんだ?」
「おうよ、もう銀貨100枚は余裕で超えてるな。俺って商才もあるんだろうか」
テーブルの上に置かれた首が盛大に笑う。
伝説の騎士が今や初心者の街でちんけな賭け事をして大喜びとは、王都の騎士とかが見たら泣き出しそうな光景だな。
「それはそうとミラのヤツ変なこと言ってなかっただろうな? 俺の過去とか騎士やってた頃の話とか」
不安げに聞いて来るローレンス。
「お前は一体過去に何をやらかしたんだよ。……いや、そう言えばヤバいのを一つ聞いたな」
二ィとニヤけて答えるとあからさまに慌て始める。
「な、何の事を言いやがったんだ! 王妃と不倫したことか? …いや、あれは一夜だけだしヤバくないよな。もしや騎士仲間に手を出したことか?」
おいおい、俺の知らないこといろいろやってるな伝説の騎士。
「ああ、悪い。嘘だ」
絶叫するデュラハンを尻目にカウンター席に着いた。
「金治、コレお前のか? 洗濯籠に引っかかってたぞ」
マスターがカウンターにひし形のクリスタルを置いて来る。
これは確か……、ああ、初代勇者の宝箱だかに入ってたヤツか。
「うん俺のだよ、ありがとうマスター。でもコレよく分かんないんだよなぁ」
輝くクリスタルは魔力を感知できない俺にも不思議な感じがする。
ミラさんに一回調べて貰ったところ、凄い魔力が込められていそうだが取り出したり他のアイテムに流したり出来ない作りになってるんだとか。
単体で使える魔法アイテムでも無いそうだし本当にただの魔力の塊。
いくら伝説のアイテムかもしれない物でも使い道がないのはなぁ。
「確かソレ、凄いっぽいけど使えないから売れなかったのよね。もうアクセサリーにでも加工しちゃえば?」
「おいおい、確か遺跡の一番奥で初代勇者の紋章付き宝箱に入ってたって言ったよな。取っといた方がいいと思うぞ、伝説だとそう言うアイテムは何かと組み合わせて真価を発揮するものが多いからな」
マスターの言う通りだと俺も思っていた。
ゲームとかだと売れないこういう物は大抵重要なキーアイテムだ。
きっと何か意味がある。
「そうだよな、取っておくよ。いつか高値で売れるかもしれないしな」
「難しい話は止めましょ。それよりお酒よ、マスター、ガブル酒ちょーだい!」
「お前らに勇者のアイテムとか似合わないにも程があるだろ。ちょっと待ってな、倉庫から新しい酒樽持ってくっから」
厨房奥の倉庫へ入って行くマスター。
「ラッキーね、金治! お酒は開けたてが一番よ」
レイラは嬉しそうに鼻歌まで歌い出す。
その時ボロボロに焦げ付いた男が一人、カウンター席へとやって来た。
涙を流すその小汚い奴を俺は知っている。
「リ、リックじゃねーか! 何があったんだ? 黒焦げじゃん」
「金治ぃ…。聞いてくれよ、もう悔しくてさ。ゴホゴホッ!」
せき込むリックの背中をバードが摩る。
「金治さんたちに聞いて欲しいっす。詐欺商人が現れたんすよ」
「詐欺商人? こんな初心者の街に現れるなんて…。詳しく聞かせなさい!」
何時になく真剣な表情で喰らいついて来たな。
「商店街の薬屋前に露店を出してた商人からポーションを買ったんすよ。で、リックが大ダメージを受けたから飲ませたんすけど全く効果がなかったっす! いくら標準品の半額以下で売ってるからってこれは詐欺っす!」
定価の半額以下って明らかに訳有りモノじゃん。
コレ、騙される方が悪くないか?
しかしレイラは怒り心頭な様子で…。
「許せないわ。さあ、金治も一緒に詐欺師を退治しに行くわよ!」
「あれ、ガブル酒は要らないのか?」
マスターがちょうど酒樽を抱えて倉庫から出て来た。
「一杯飲んでから出発よ!」
案外意思が弱いなぁ、レイラよ。
俺もバードも木製のジョッキを受け取って飲み込んだ。
「そう言えば何でリックはダメージを受けたんだ? この辺に炎とか使うモンスターなんかいたっけな」
「モンスターじゃないっす。ミラさんのお店で買ったパチンコセットを街の外で試し撃ちしてたらうっかり落とした『爆裂瓶』を自分で踏んだっすよ。可哀想にこの通り黒焦げっす」
……やっぱり自業自得なんじゃないかなぁ。
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商店街の薬局を路地から隠れて伺う俺たち。
なるほど、薬屋の前の店で露店を出してポーションを並べている店がある。
「確か標準ポーションの値段って銅貨5枚よね。あの露店銅貨1枚で売ってるとは破格ね、怪しいわ」
ホントに怪しいわ。
店主も黒いローブで顔を隠してるし怪しさしかないわ。
でも冒険者たちは結構買って行く。
貧乏な初心者冒険者にすれば銅貨数枚の差でも死活問題なんだろうなぁ。
「お、俺は悪くない。悪くないんだ。性欲は全てに勝るんだ…。俺を見捨てないでくれ金治ィ…」
「ブツブツ言ってないでいい加減元気出せよローレンス、俺は見捨てたりしないぜ。それよりあのポーション、一回買ってみよう。効果を確かめないと」
泣きながら抱き着いて来るローレンスを宥めて俺とレイラで店に行く。
俺が薬局のを、レイラが露店のポーションを買って路地に戻る。
「確実に露店の物は不正よ。瓶は同じものだけど中身の濃さが全然違うわ、本物のポーションをかなり薄くしてある!」
五人で飲み比べをしてみたが確かに味が全然違う。
「ああ、露店のポーションは偽物だな。でもどうするんだ? ただ文句を言いに行っても適当な事を言われて逃げられそうだけど」
「でもこの街の冒険者たちはこうしている間にも次々とあの露店から買っているわ。早く止めないと冒険者も薬屋の店主も可哀そうよ」
うーん、どうするべきか。
商品の販売にはコマーシャルみたく実演が一番早いだろうな。
「やっぱり店の前で飲み比べたりして偽物だってのを明らかにするのが手っ取り早いんじゃねぇのかな。怪我人が店の前で両方のポーションを飲んで見せるとか。ポーションって要は回復魔法みたいなもんだろ、一瞬で怪我が治る方が本物って一目瞭然だ」
俺の提案に四人はおおっ、と顔を明るくした。
「それは素晴らしいアイデアっすね! でも怪我人なんて……、あっ」
バードのセリフにみんなが一斉にリックを見る。
「え? 何だよ、俺の怪我はもう大丈夫だぜ。いや、まだ少し痛むがこれくらいなら…」
「ローレンス、リックを押さえつけて! 金治は一応リックに補助魔法よ! これはこの街みんなの問題を解決するためなの、協力してもらうわ」
レイラの指示で素早くローレンスがリックの背後を取った。
ああ、なるほどそう言う事か、エグいなぁ。
「えっ、いや何を…」
「まあリック、死にはしないから諦めろ。それにこれはお前の恨みを晴らすためでもあるんだからな、『ワン・モア』!」
うろたえるリックに防御魔法をかける。
「リック、ここが頑張りどころっす。金治の魔法で命は守られるっすよ!」
バードが距離を取り励ましの言葉を贈るがリックは泣きそうだ。
「ごめんなさいリック。我慢してね、『ファイアボール』ッ!」
一見平和なフロントの街の路地裏で繰り広げられる無慈悲な行為。
俺のバリアは死に至る攻撃を受けた時にしか発動しない。
レイラの初期魔法一発じゃ当然死ぬこともなく爆炎に吹き飛ばされよりボロボロになる。
「さっ、ローレンス、リックを背負ってちょうだい。みんな、出来るだけ緊急事態っぽく行くわよ」
俺たちは黒焦げのリックを背負ったローレンスを中心に商店街へ飛び出す。
「まぁ、大変よ! リックが謎の攻撃を受けて大怪我をしたわ、早く回復をしないとっ!」
「あっ、あそこに偶然ポーションを売ってるっすよ! 急いで飲ませるっすぅ!」
わっざとらしい二人が露店の前へと駆け込んで行く。
「ひっ、ポ、ポーションでございやすか! ウチよりそこの薬屋のが…」
「いいから寄越すッス! ほらリック、コレを」
青っぽい瓶に入った液体をリックが飲み込むと一瞬緑色に輝いた。
もちろん薄められたポーションじゃこの大怪我は回復しないわな。
「あれ? 傷が全く治らねぇな。ポーションってもっと回復するもんだよな?」
俺もその場のノリで黒ローブの商人に問いかける。
「こっちの薬屋でもう一本買って来たわ! ほら、飲んで」
同じ形の瓶を口にするとリックの体が強く輝いた。
傷の大半が一瞬で治る。
「スゲェ効果だな。しかし何で露店で買ったヤツは効果が薄かったんだ?」
俺の言葉を待ってましたとばかりにレイラは踏み出して商人の男を指さした。
「何故ならこの露店のポーションが本物を薄めた不正な商品だからよっ! みんなよく聞いて、コイツは詐欺師よ! 偽物の商品を売りつけてお金を巻き上げる悪人なの!」
いつの間にか周りに集まっていた野次馬に聞こえるようレイラは叫んだ。
流石元旅芸人って言ったところか、人の心を引き付ける話術を心得てやがる。
「ひっ、ひぃぃぃ。勘弁してくれっ!」
「見過ごせないわ。私は不正にお金を儲けて他人を不幸にする奴は許せないのよ! 弱い者に偽物を売りつける詐欺なんて絶対にねっ!」
レイラは力強く商人を睨み付けてそう言い切る。
周りのギャラリーからも歓声が上がった。
「か、金は置いていく! もうしねぇから許してくれぇ!」
売上金も偽ポーションも全部置いて逃げて行く商人。
何人かの街人と冒険者が追いかけて行った。
アイツも災難だなぁ。
「凄いッス、かっこよかったッス!」
「ああ、凄いなレイラ。こんな正義感があったなんて見直したぞ!」
バードとローレンスも感心する。
「不正に金儲けするのが許せないってお前よく賭けカードでイカサマしてんじゃん。それはいいのか?」
「そ、それはそれよ! 賭けの世界ではイカサマも勝負のうちよ。正当な商売の振りをしてインチキをするのが許せなかったの! それに街の平和に貢献したんだからいいじゃない」
笑顔で答えるレイラを見ていると思わず許してしまうな。
まっ、今回は役に立ったんだから結果オーライだな。
街の奴らも喜んでるっぽいしね。
「な、なあ金治……。俺もう死にそうなんだけど。シオン呼んでくれよ…」
フラフラなリックが袖を引っ張って来た。
ポーションで傷は治っても体力は回復してないみたいだな。
「ああ、シオンならダウンタウンに本屋巡りしに行ってるぞ。辛そうだけどお前の仇は俺たちが討ったから安心しろよ」
俺の言葉を聞いてリックは気絶してしまった。
可哀想な彼を見て俺はふと思う。
平和って言うのはこう言う哀れな犠牲の上に成り立ってるんだなぁ。
街の人々の歓声に手を振りながらそれを実感したのだった。




