第48話 再起動
仕掛け扉の隙間から覗くとジェリーが大部屋を調べている姿が伺えた。
「ゴールはあの一番奥の通路だ。ジェリーは気にせずあそこを目指して走るぞ」
コアをジェリーに取られたら俺たちが取り返す手段は全くない。
一か八かのババ抜き勝負を挑むようなものだがここはこれまで全ての難関を切り抜けて来た自慢の幸運に賭けるぞ。
俺たちは二つずつ呂敷包みを抱えて構える。
「行くぞ皆! 立ち止まらずに走れっ!」
ローレンスの掛け声で開かれた扉から俺たちは駆け出す。
さあ、誰が『グランドコア』を持ってるかな?
「なっ、見つけたわよあなたたち! 今度こそコアを…」
「先制『ファイアボール』ッ!」
直ぐに気づくジェリーに向けて走りながらもレイラがすかさず魔法を放つ。
大部屋は中心には深い溝が谷の様に続いており、左右に通路がある作りになっている。
俺たちが出たのは右側の通路、溝を挟んで反対側にジェリーが居た。
通路を抜けた先にはさらに大きな空間がある様でその空間にある中央の穴から大きな建造物が聳え立っているのが見える。
ここの大部屋の溝はその穴へと続いており、左右の通路はその建造物を囲む様に裏側で繋がってそうだ。
「あそこだ、あの門の先が最深部のコアを置く部屋だ!」
ローレンスが指さしたのは建造物の横にある意味ありげな門。
コアをジェリーに取られる前にあの門へ飛び込めば多分俺たちの勝ちだ!
「当たらないわよそんな初級魔法! でも私の技は必中よ、スナッチ!」
「くっ、まずは俺を狙って来たかっ!」
ジェリーの手とローレンスの持ってた風呂敷の一つが輝き、彼女の手の中へとワープした。
「フフフッ、チョロイものね。偽物を作ったみたいだけど誰が持ってたかしっかり私は覚えてるわよ! ……あれぇ?」
盛大に開かれた風呂敷の中からは使い終わった魔法道具や昨日食べた保存食や酒瓶のゴミがボロボロと零れ落ちる。
まんまとハズレを引いたようだな、ジェリー!
「へぇ~、ゴミを引き取ってくれるなんて親切ね! こういうのを義賊って言うんだったかしら?」
「そんな素晴らしいものじゃないでしょ。ゴミしか盗めない三流盗賊なんじゃない? ま、どっちにしろもう用はないから帰りなよ、じゃあね!」
ゴミをばらまいた盗賊を煽るレイラとシオン。
「ちょっとぉぉぉっ! あんまり馬鹿にするならコアだけじゃ許さないわよっ! 早くよこしなさいよ!」
叫びながら猛然と追いかけて来るジェリー。
流石に盗賊だからか足は速いな、あっという間にまた追い付かれた。
「キャッ、今度は私?」
「なんてことだぁ、僕の荷物を盗られてしまったぁー」
光に包まれた風呂敷が消えてジェリーの手元に現れた。
レイラは嬉しそうだし、シオンは随分な棒読みだな。
「何よコレ、重いと思ったらただの瓦礫じゃない! こっちは臭いわ! 何よこの服は、洗濯しときなさいよねっ!」
「貴重な遺跡のサンプルだよ。まぁ、そんな土の塊は学者も欲しがらないけどね」
「じゃんけんで負けたから私が洗濯物持ちだったのよねぇ。汚いものを持つのは私には似合わないからソレ、あなたにあげるわね!」
二つの風呂敷包みから石や土が混じったものと汚れた服が大量に零れ落ちる。
怒りの声を上げるジェリーを尻目に俺たちは建造物がある空間まで走り抜けた。
俺たちは思わず立ち尽くす。
いや、だってこれ建造物じゃない……。
「な、なんじゃこりゃぁ! でっけぇ石の巨人? 何なんだコレ…」
底も見えない大きな穴の中に立つ巨大な人型の石像。
俺たちが今立ってる通路がちょうど巨人の肩の高さにある。
石で出来たその巨人は今にも動き出しそうな雰囲気を醸し出し、さながらアニメの巨大ロボットの様だ。
「こ、これもゴーレムの一種なのかな…。こんな巨大なもの聞いたこともないよ」
「こんなの動き出したら私たち死んじゃうわよっ! どうすんのよ」
「いや、動き出すことはないだろう。このゴーレムからは入り口近くにあったもの同様、魔力を全く感じない。……それにしてもかっこいいな」
巨大ロボに感動していると反対側の通路でもジェリーが呆気に取られてソレを見ていることに気が付いた。
そう言えばこんなとこで立ち止まってる場合じゃない。
「みんな急げっ! ジェリーが追い付いて来てるぞ!」
俺が叫ぶと三人はハッとして走り出す。
しかし先に仕掛けたのはジェリーだった。
「よくも散々コケにしてくれたわね。これで終わりよ、連続でスナッチ!」
彼女が手を大きく振ると俺たちみんなが光に包まれた。
ジェリーの元に4つの包みが現れる。
マズい、全員から一つずつ風呂敷を奪っていきやがった!
奪われた風呂敷から寝具や薬草などハズレの物がばら撒かれる。
「へぇ、結局私は最後まで当たりを引けなかったようね。でも残ったのは金治、あなたが持ってる一つだけ。どんなにあなたの運がいいからってもう外さないわ」
「そうは行かないわよっ! 取れるものなら取って見なさいよ!」
片手をこちらに向けるジェリー。
だが仲間たちが俺の前に立ちはだかって壁を作った。
「『スナッチスナップ』はあくまでも見えているものだけを奪う技だよ。壁で隠しちゃえば使えないね!」
即興で考えといたスナッチ対策。
こんなのが上手くいくかは運試しだったが…。
「なるほどね、確かにこれなら私はスナッチを使えない。……でも私の技は一つじゃないわよ、『バインド』ッ!」
俺たちに向かって光のロープが高速で伸びて来る。
だが、ローレンスが風呂敷を全て奪われ開いた片手で腰に差した魔剣を手に掛けて飛び出した。
「一度見た技はそう何度も喰らわない! 『ダークスペース』ッ!」
反対の手で持った首が呪文を叫ぶと彼の魔剣はオーラに包まれ、斬撃の跡に黒い空間を生み出す。
これはローレンスが俺たちとの戦いでも使った『ダークナイト』独自のスキル。
「何その技は…。キャアァッ! 何? 引き込まれるっ!」
ジェリーが放った光のロープはその黒い空間に吸い込まれて行く。
これは魔法でもなんでも吸い込んで消す、ブラックホールみたいな技。
ロープが吸い込まれたからとそれに繋がっているジェリーも引っ張られているようだな。
「今のうちだ! さあ金治、コアを最深部に戻すぞ!」
「ああ分かってるぜ、ローレンス! 急ぐぞ!」
ローレンスに続いて俺も門に向かって走り出す。
「私たちはここでジェリーを足止めするわね! 頼んだわよ金治、賭けには勝たなきゃね」
「確かローレンスがシールドの魔法を張ったんだよね? なら解除に時間がかかるかも。でも時間稼ぎは僕らに任せて!」
走りながらも頼もしい事を言う仲間に親指をグッと立てる。
最深部突入だ。
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フロントの正門並みに大きく、複雑な装飾が刻まれた門を潜り今までとは雰囲気が違う通路へと足を踏み入れた。
床にも天井にも不思議な模様が描かれ神秘的な感じだ。
「見えたぞ金治、あれが最深部の部屋だ。間違いない、俺が張った防御壁も前来た時のままだ」
俺たちは通路の先にある大きめの部屋に入った。
壁中に壁画の様なものが描かれた部屋で中央には台座の様なものがあるが青い光の壁に包まれている。
「この青いのがお前の張ったシールドってヤツだな。さあ、解除してくれ」
「うむ了解だ。……主は戻った、ここに結界の解除を!」
ローレンスが片手を突き出し、叫ぶと黒いオーラが衝撃波の様に発射された。
黒いオーラを浴びた結界は消えて無くなる……、様子は全くないな。
「おい、これ解除出来てないんじゃないか? まさか消せないとかないよな」
キメッキメで呪文を唱えたローレンスはあからさまに慌て出す。
「あ、あれ? こんな筈は…。……こうなったら仕方ない、我が魔剣の力で打ち砕くっ! 『ブレイズドーン』ッ!」
突如剣を片手に持ち、光の壁に切りかかった。
彼が持つ炎の魔剣「プロミネンス」は黒い炎に包まれたが、さらに刀身から赤い炎が噴き出し二つの炎が混ざり合った斬撃が放たれる。
もの凄い爆音と砂煙で思わず目を閉じてしまった。
「やったぞ金治! 防御壁を打ち砕いたぞ!」
恐る恐る目を開けると光の壁は無くなり、部屋のあちこちで小さな火が上がっていた。
そして台座の手前がクレーターの様になっている…。
「スゲェ技だな。でも防御壁ってのは攻撃で壊れるものだったのか」
「いや、生半可な攻撃は物理だろうが魔法だろうが打ち消す上級の防御魔法だぞ。もしやと思ってた事を試したんが魔剣の相乗効果で炎の剣技がパワーアップされたんだ。まさかここまでの威力になるとは思わなかったがな!」
ハハハと笑いながら説明するローレンス。
流石伝説の騎士って言うか何というか、力で障害を吹き飛ばしやがった。
……俺の仲間ってやっぱり無茶苦茶過ぎないか?
「うん、ヤバいなお前。……取りあえずコアを台座に戻すか」
俺は考えることを止めて風呂敷からコアの入ったカプセルを取り出す。
中では黄色い光を放つ玉が輝いている。
運頼みの賭けはは取りあえず俺たちの勝ちだな。
「ああ、頼む。カプセルの蓋を開けて中身を台座に乗せればいい筈だ」
カプセル上部に着いた金属の蓋を外して傾ける。
中から転がり落ちた『グランドコア』が台座の上に乗った。
「これで終わりか? ……うおぉっ!」
突然コアが強く輝き始めたのだ。
台座から壁や床の模様を光が伝って行きあちこちが輝き始める。
部屋の外へと模様が輝いて行く。
まるで電機でも流れるかのように……。
「こ、これはマズいぞ! もしかしたらコアを戻したことで遺跡の機能が復活したのかもしれない。動いてなかった仕掛けも動き出すんじゃ…」
ローレンスのセリフを妨げるようにダンジョン全体が大きく揺れた。
揺れは直ぐに収まったが悪い予感しかしない。
「急いで戻るぞ! レイラたちが心配だ、早く脱出した方がいい!」
俺たちは明るく輝く通路を走り出した。
さっきまで真っ暗だったダンジョンが今は光に満ちている。
「ところでどうやって脱出するんだ?」
ローレンスのふとした問いに思わず立ち止まった。
「……なんも考えてなかったな。取りあえず合流だ、それから考えっぞ!」
自棄になって走る俺たち。
頼むから何も起きてないでくれよな……!




