第47話 運と力のダンジョン攻略
永遠に続くかのように思える闇へと俺たちは落ちて行く。
この先にダンジョンの最深部、そして古代のお宝とやらがある筈だ。
「そういや着地ってどうするんだ?」
俺より重いからか後から落ちたのに追い付いて来たローレンスが呟いた。
着地はどうするってそりゃ…。
「全く考えてなかったぜ! このまま地面に落ちたら死ぬよなぁ」
結構落ちてるしこのスピードならどうやっても粉々だ。
隣で気絶しかけてたレイラはまた悲鳴を上げ始めている。
「そうだ! レイラッ、しっかりするんだ! 魔法を使うんだよ、風の魔法をっ! 早く下に撃ってっ!」
遥か上の方からシオンの叫びが聞こえる。
その手があったか。
「ほらレイラッ、炸裂する風のヤツだ! 早くしないと本当に死んじゃうぞ!」
「わ、分かったわよっ! 『エアバースト』ォッ!」
緑色に輝く空気の玉が発生する。
「早く撃つんだよ! ほら行くぞっ!」
俺はレイラの杖を掴んで落ちて行く先、闇の中へ向けて杖を振り下ろした。
風の玉は薄い光を放ちながら下へ落ちて行くと数メートル先で止まり、一瞬強く輝き下から強風が俺たちを襲う。
落下のスピードがガクンと落ちたと思ったら砂の上へと叩きつけられた。
「痛ったぁ…。何よ、ホントに死ぬところだったじゃない!」
レイラがお尻をさすりながら立ち上がる。
「ギリギリだったみたいだな。ところで俺の首、その辺にないか?」
足元の首が喋った。
「でも賭けは成功だぜ。ここがダンジョンの第2ステージって訳だ。…それにしても痛いな」
その生首を拾ってオロオロしてる鎧に渡す。
「僕は体が小さいことがコンプレックスだったけど珍しくそれが役に立ったみたいだね。どうやらここが金治の言う通り隠された奥のエリアみたいだ。そこから通路が続いてるね」
ワンテンポ遅れて着地したシオンが暗闇へ続く道を指さして言う。
俺たちが落ちたのは四角い部屋。
道は一本だけみたいだな。
……でもその前に。
「レイラ、俺たちが落ちて来た穴に向かってもう一回さっきの魔法だ」
「はぁ? なんでそんなことするのよ」
俺は上に開いている穴を指さして指示する。
「あの盗賊、ジェリーも俺たちの跡を追って落ちてきてると思うんだ。風の魔法で俺たちに追い付くのを妨害するぞ」
俺の言葉を聞いたレイラはニッと笑い、杖を天井に開いた穴へと向ける。
「金治にしては頭のいい作戦ね! それじゃあ、『エアバースト』ッ!」
空気の玉が暗闇へと飲み込まれていく。
「キャァァァァッ! 何するのよぉ………」
暫くしてジェリーの叫び声と共に風が上から吹き込んで来た。
どうやら落ちて来る途中に風で押し戻された様だな。
声が遠ざかって行った。
「へぇ、なかなかやるじゃん。これでもう一度同じ道で追いかけてはこないだろうね。さ、今のうちに最深部を目指そうか」
シオンの声に俺たちは通路へと歩き始める。
しかし、レイラはふと立ち止まると振り返り杖を掲げて…。
「もう一度おまけに『エアバースト』ッ!」
「なんでまだ来るのよぉぉ………」
再び放たれた魔法が暗闇へ消えるとまたまたジェリーの遠ざかる叫び声と共に風が上から吹き込んで来た。
「おお、アイツ諦めが悪い女だったな。それにしてもレイラ、よくもう一度来るって分かったな」
「ふふん、女の勘ってやつよ。これで流石に三度目はないでしょうね」
ローレンスは素直に感心してるけどやってることは結構えげつねぇぞ。
流石、俺の仲間だな。
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ランタンを持ったシオンを先頭に遺跡の通路を進む。
「さっきから何もないけどダンジョンってもっと罠とかモンスターとか出るもんじゃないの?」
「うん、普通そうなんだけど…。罠は金治の運で避けてるにしてもモンスターが居ないのは変だね。古い遺跡の地下にはアンデッド系が沸く筈なんだけどね」
なんの変化も無い地下通路に飽きて来たから聞いてみたがシオンも不思議そうに答える。
「確かにおかしい。余程聖なる力が関係する遺跡とかでもない限り死霊が侵入するものだ。ここ『バロンパルス』は昔名を馳せた金持ちの屋敷かなんかだと聞いている。聖なるものと関係はない筈なんだが…」
ローレンスも顔を顰めた。
何か変な物でもあるんじゃねーのか、このダンジョン。
「お金持ちのお屋敷だったって事はお宝がある可能性も高いわよね、さあ進むわよ! ……ところでどっちに進めばお宝があるのかしら?」
一本道だった通路はT字路にぶつかった。
右も左も同じような通路が伸びていて見た目じゃ判断出来なそうだ。
「困ったね、どっちかが罠の可能性が高いよ。僕たちに正解の道を見分ける魔法やスキルは無いし目印を付けて虱潰しに進むしか無いね」
シオンの冷静な分析に嫌な顔をするレイラ。
「そんなめんどくさい事してたらジェリーにお宝を取られちゃうわよ! ……そうだわ、金治が進む方向を選びなさいよ。適当でも当たりを引けるんじゃない?」
「んな適当な方法でいいのかよ」
アホな事を言い出したレイラに呆れてるとシオンは少し考えて…。
「うん、どうせ虱潰しするにしても最初は運任せなんだから選んでいいよ。ここまで運で来たんだから最後まで行けちゃうかもね」
無茶言うなよな。
ローレンスもそんなキラキラした視線を向けるな。
「いくら俺の運がいいからってそんな当てずっぽうが成功するとは思えないぞ。運任せにしても少しは理論を立てなくちゃ」
「理論何てあんた考えた事もないじゃない。まあ何でもいいからやって見なさいよ」
レイラに呆れられるとは心外な。
「仕方ないな、どうなっても知らないぜ。……そうだな、レイラ杖貸せ」
先端にクリスタルの付いたレイラの杖を受け取る。
T字路の真ん中に立てて置いて手を放すと、暫く揺れた後右側の通路に向かって杖は倒れた。
「よし、こっちだな!」
俺が右側の通路を指さすと何故かズッコケる仲間たち。
「な、なによっ! あんたの理論ってただの棒倒しじゃないのよ!」
「何だよ、運任せに決めろって言ったのはお前らだろ。ただの勘で決めるより棒倒しでもした方が信憑性あるだろ?」
「もうどっちでもいいから行こうよ。運任せには変わらないしさ」
俺たちは右側の通路へと歩き始めた。
こうなれば本当に運だけでダンジョン攻略してやるぞ!
その後、T字路や十字路にぶつかる度に俺がレイラの杖を倒す。
来たことある場所に戻ることもなく、罠やモンスターに出会うこともなく進んで行く。
出口も何もないただの地下通路なのではという不安すら出て来るな。
「あれは何だろう? 行き止まりじゃなさそうだけど…」
ランタンの明かりが通路の前方を塞ぐ壁を照らした。
不思議な模様が刻まれ、凹凸が付いた変な壁だな。
「むっ、これは壁じゃなくて扉じゃないのか? 何か仕掛けがあるのか、こう力ずくで…」
ローレンスが扉の凹凸に手をかけていろいろな方向に力を入れる。
仕掛けを全無視の力技で何とかなるとは…。
ゴ、ゴガガガガッ……。
「おっ、開いた開いた。さあ先に進もう」
大きな音を立てて石の壁が横に開いた。
動いた後には砕けた装置の跡みたいなのがむき出しになっている。
「んな馬鹿な…。運と力に任せたダンジョン攻略何て聞いたことないよ」
呆れかえるシオン。
「私はいい加減慣れたわ、このパーティはこうなのよ。さ、先に行きましょ。どうやら大部屋に出たみたいよ」
俺も薄々気づいていたが普通の冒険は無理なんだろうな。
勇者のワタルたちが居た時はその補正を俺たちも受けてちゃんとした戦闘になってたんだろうな。
「ああ、もうとっとと進もうぜ。結局ここまで運だけで来れたな」
俺たちはこじ開けられた仕掛け扉から大部屋に踏み込んで…。
「やっべぇ、みんな戻れっ! ローレンスは一回扉を閉めろっ!」
俺たちは慌てて通路に戻った。
「な、なんでジェリーがここにいるのよ! 気づかれてないでしょうね?」
「きっと別の入口を見つけたんだよ。他の落とし穴も地下に繋がってたんだ、これじゃあ大部屋に入れないじゃないか」
本当に困ったぞ、まさか盗賊ジェリーが先回りしてるなんてな。
溝を挟んで向かい側の通路に彼女の姿が見えたのだ。
「せっかく何かありそうな部屋に着いたって言うのについてねぇな。こうなったらお宝探しの前にコアを戻しちまうぞ! どの辺に最深部の部屋があるか分からないのか?」
「う、うむ。俺が張ったシールドの魔力は感じられるぞ。恐らくこの大部屋の先だ。いっそのことジェリーは無視して駆け抜けるか?」
「駄目だよ! ジェリーは『スナッチスナップ』を使えるんだ。僕らがコアを抱えて走っても技を使われたらお終いだろうね。それに大部屋にどんな仕掛けがあるか分からないよ」
マズいな、目的地はすぐ先なのにこんな足止めを喰らうなんて。
確か『スナッチスナップ』は呪文詠唱無しで使える盗みの技。
目で見える物なら何でも自分の手の中にワープさせる凄い魔法だ。
……目で見える物なら?
「自分の目で見えないものはスナッチじゃ盗めないんだよな。財布の中のコインとかカバンにしまったアイテムも。ならばコアを風呂敷かなんかで包んじゃえばジェリーは取れないんじゃないか?」
「それよ金治! 今日は有りえないくらい冴えてるわね!」
満面の笑みで賛同してくるレイラ。
しかしシオンとローレンスは悩み込んだ。
「それはどうかなぁ。確かに見えない物だけを盗ることは『スナッチスナップ』じゃ無理だよ。でも金治が上げた例なら財布ごと、カバンごと盗まれちゃったら意味ないよ。それにコアは結構大きいよね」
「俺もただ隠すだけじゃ意味がないと思うぞ。それに彼女はスナッチ以外にも『バインド』の魔法がある。他にもまだ見せてない手もあるだろうしな」
「ああ、もう! どうしろって言うのよ、こんなのまだ金治にカードで勝つ方が可能性があるわよ!」
今回は本当にどうしようもないんじゃないか?
いくら隠しても確実に盗んでくる技を持った敵。
イカサマを使うレイラにも賭けカードで負けたことがない俺の運でもどうすることも出来ないのだ。
運ゲーに持ち込めない実力勝負か…。
……運ゲー?
「そっか、運任せしかないよな。俺には運しか取柄が無いんだから。……なぁみんな、あのジェリーに運ゲーを挑もうぜ!」
仲間たちはポカーンとした顔で固まった。
「ローレンス、『グランドコア』を借りるぜ」
コアが入ったカプセルを受け取ると俺は肩に掛けているカバンから風呂敷を取り出してカプセルを包んだ。
これでパッと見は何が入っているのか分からない。
さらに俺はもう一枚、別の風呂敷を取り出して寝る時に使う毛布を丸めて包み込む。
少し形を整えて…。
「さあ、どっちにコアが入ってるか分かるか? 分からないだろ、これをいっぱい作ってみんなで持つんだ」
俺の行動を不思議そうに見ていた仲間も少し考えてみんながにやけ始める。
「へぇ~、やっぱり金治は小細工が上手いわねぇ。偽物をいっぱい持ってジェリーを騙す作戦ね!」
「面白いじゃん。これならでたらめにスナッチを使われても運が良ければ取られないね。僕らにぴったりの作戦だ」
「うむ、これならコアを盗られることなく最深部まで駆け抜けるのも不可能じゃないな。スナッチも魔力を必要とする。無限に使うことは出来ない筈だ」
俺たちはカバンをひっくり返して偽物のコアを作り始めた。
実力が明らかに上の相手に勝つ確率がある勝負、運ゲーしかないよな。




