第42話 出撃、伝説の騎士
「いらっしゃい、金治君御一行。また大冒険して来たみたいね。…大丈夫、魔剣の鞘は出来てるわよ」
「おはよ、ミラさん。やっぱり全部お見通しってわけか」
朝早くミラさんの店にやって来た。
得意の占いで俺たちが来ることは分かってたみたいだな。
まあ、おかげでいつ来ても対応してくれるからありがたいけど。
「あら、後ろで隠れてるのはローレンスね。…久しぶり、最後の戦場以来ね」
「お、お前まさかあのミラか? 本物なのか…」
愕然とするローレンス。
「え、何よ? あなたたち知り合いなの?」
「フフッ、古い知り合いよ。私が王都に居た頃、パーティを組んだこともあるんだから。あの頃が懐かしいわ」
微笑みながら答えるミラさん。
「ねえ、ローレンスはずっと昔に死んだんでしょ?ミラさんと昔会ってるなんておかしいよ。それに王都って…」
「俺が説明する。生前、俺が騎士として王都に居た頃このミラは若年ながら優秀な魔導士として王宮に勤めていたんだ。今より魔王軍の侵攻が激しかった当時は基本、俺たち騎士は王都の防衛、彼女は魔法の研究をやってたんだが近辺の危険なダンジョン制圧とか少人数のが有利な作戦が立てられることもあったんだ」
「で、私の様な優秀なメンバーを集めた特別パーティを編成したってわけよ。もちろんローレンスは当時一番の騎士だったし選ばれたわ。私たちの他にあと二人いたんだけど今はどこにいるか、生きているかもわからないのよね。…そんな王国自慢のメンバーを集めた特別パーティの呼び名が『勇者パーティ』だったのよ」
なんかとんでもない事が展開してるぞ。
俺の周りにいる人、大物すぎない?
…まあ、それだけ強い奴が周りに居れば安全か。
「勇者パーティってワタルと同じ? いや、昔は意味合いが違ったってこと? 僕も勇者伝説はいろいろ読んだけどこんなルーツは聞いたことないよ」
「すげーな。ねえミラさん、もっと昔の事を教えてよ! 凄い事してそうだし」
「私も気になるわ!他の二人ってどんな人だったの? やっぱり勇者様?」
俺たち三人が身を乗り出して聞くとミラさんは笑って答えた。
「もちろんいいわよ、でもあなたたち用事はいいの? お友達が待ってるわよ」
リックたち待たせてんのすっかり忘れてた。
怒ってるぞ、アイツら。
「はい、この剣はローレンスが持つのよね。あなたならきっと上手く扱えるわ」
「お、おう。ありがとな」
新品の鞘に入れられた赤い剣を受け取るローレンス。
「よし、じゃあ早くいかないとな。ありがとうミラさん、また来るね!」
「ええお待ちしてるわ。…そうそう、ローレンスは真面目な様だけど結構エグい性格してるわよ~。仲間だった時なんて愚痴も陰口も凄いし、お金が絡むとまたセコイのよねぇ。そんな奴だけどまあ面倒見てあげてね、昔の仲間からの頼みよ」
「なっ、おいミラッ!」
顔を真っ赤にして慌てふためくローレンス、初めて見たぞ。
にやにやしてるレイラとシオン。
「へぇ~、昔話も面白そうねぇ。後でまたお店に聞きに来るわね」
「伝説の騎士様もいい性格してるみたいだね。流石僕らのお仲間だ」
これは暫くいじられるだろうな。
「よっし、ローレンスいじりのネタ集めは後にして早くスライム見に行こうぜ!アイツらブチ切れてるぞ」
「おい、待て。いや、間違ってないが…。おい、俺を置いてくな!」
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ミラさんのお店から出た俺たちはフロントの街の正門を目指す。
ローレンスはミラさんに鞘を作って貰っていた魔剣『プロミネンス』を装備し、嬉しそうに空に掲げたり柄を握りなおしたりしている。
ワイン色の鎧と赤い剣でよく似あってるな。
「遅いぜ金治! どこ行ってたんだ?」
リックたちは既に正門で待っていた。
「あら、リックにしては珍しく遅刻しなかったのね。意外だわ」
「いやいや、俺たちも今来たところっす。リックは珍しく自分が一番最後に来たんじゃないから調子に乗りたいんすよ」
リックに叩かれるバードを横目に正門を抜ける。
「おっ、ローレンス新しい剣じゃねーか! 買ったのか?」
早速気が付いたバルドの声で注目が集まる。
「いや、金治たちがくれたんだ。何でも勇者の決闘に勝って貰ったものなんだってな。ミラんとこで柄も新調したらしいし…」
「あ~、あの時の魔剣かぁ。ってかミラさとこ行ったのか! 俺も誘えよなぁ、ミラさんって何かエロいんどよな」
そこに食いつくのかリックよ。
「そういやミラさんの年齢って確か俺たちにしか教えてないって言ってたよな」
「そう言えばそうだね。ねぇ、無知ってこういう風に可哀想な結果につながるんだよ。君たちも知識の大切さがわかるだろ」
「そうね、確かにミラさんって綺麗だけどね…。うん、知らない方がいいこともあるわよね。うん…」
「お、おい何なんだよお前ら! 俺変な事行ったか?」
知識の大切さを理解して憐みの目を向ける俺たちに慌てるリック。
世の中には知らない方がいいことも多い。
「さあ、スライムはどこだ?」
正門の前に広がる草原には見渡す限り何もない。
強いて言うなら雨が降ったのかところどころに水たまりが…。
「あの水っぽいのがスライムよ。近づけば動き出すわ」
「水っぽいって、…アレ全部スライム?」
「そうよ、間違いないわ」
小さな水たまりに見えるもの全てがスライムだと言うのか。
数えきれないくらいの水たまりが草原じゅうに見えるけどマジで?
多すぎないか?
「さ、やっちゃいましょうよ。アホ面してないで行くわよ?」
「いや、アレ全部倒すのか? そもそもスライムってただ殴るだけで倒せるもんなのか?」
俺を見てハッとしたシオンが答える。
「金治はスライム見るの初めてだったね。まあ、見れば分かるだろうけどスライムはぷよぷよした体を持った謎の多いモンスターで打撃は殆ど効かないし、切りつけても浅いと簡単に修復しちゃうんだ。でもここらに出る普通のスライムは水分だけを食料にするから食べられたりはしないし、これと言った攻撃もしてこないから戦うのは今までで一番楽な筈だよ」
「それにあんたは魔剣持ってるじゃない、短剣だけど。スライムは魔法に弱いの、私たち全員が有効な攻撃手段を持ってる珍し~く有利な状況よ」
なるほど、大体この世界のスライムが分かって来たぞ。
最弱タイプのスライムだ。
「よし、それなら…。うわぁっ!」
短剣を手に踏み出すと近くの水たまりが突如動いて一つの塊になった。
透き通った水色の液体に白い眼が二つ。
体は本当にスライムだ。
「よし、ここは…」
「ここは俺がやるぞ!試し切りしてくれるわ!」
ざっと俺の前に出る首を片手に持ったローレンス。
魔剣を貰って、使ってみたくてしょうがないんだろうな。
でも、リックたちは慌てて止める。
「お、おい。大丈夫なのか? お前レベルはまだ1なんだろ!」
ローレンスは伝説の騎士で、デュラハンになっても強さは以前のままらしい。
しかし彼は冒険者ではなかった。
カードを作らせたところ、アンデッドとなり復活したことも相まって『ダークナイト』とか言う普通の冒険者ではまず居ないらしい職業のレベル1だったのだ。
……これが伝説の騎士なのに初心者の街のみんなから気軽に扱われている理由の一つでもある。
「大丈夫だろ。さあ行け、試し切ってこい!」
俺はスライムを指さして指示する。
いや、ホントに大丈夫だろ。
ステータスの数値は俺たち三人を合わせても敵わないくらい高いんだから。
「了解だ、金治! 行くぞ、ウラァァァッ!」
掛け声とともに赤い魔剣をスライムに向けて振り下ろした。
切りつけた瞬間に強く輝き、刀身から炎が巻き上がる。
真っ二つにされ炎に包まれたスライムは突如体が水の様に崩れ落ちた。
…これ絶対オーバーキルだろ。
「おおおっ、この剣は凄いっ! 金治よ、俺は気に入ったぞ!」
剣を見て感動に震えるローレンス。
確かに凄まじい威力だな。
リックたちも驚いて口を開けて佇んでいる。
「よかったな。かっこよかったぜ、ローレンス!」
「ワハハハハッ、伝説の復活だ! 最強の名に返り咲くぞっ!」
バシャッ…。
堂々と立ち剣を頭上に掲げかっこつけたポーズを決めた伝説の騎士は草に隠れていた水たまりを派手に踏みつけた。
その水たまりがローレンスの足元から絡みつく様に動くだし…。
「ローレンス、足元にスライムよ! 避けてっ!」
レイラの叫びも間に合わず、スライムがローレンスに巻き付いていく。
「なっ、これは…。ひっ、よ、鎧の中に…。ひゃっ」
自分の首を落として震え、悶える騎士。
なるほど、これが有名なスライム系のアレか…。
「なあ、こういうのって普通女性が受けるべき攻撃じゃねーの?」
「何アホなこと言ってんだよ。恐らく、汗とか体面の水分を奪うだけだろうから危険はないと思うけど…」
「もう、マヌケね! 早く鎧を脱ぎなさいよ!」
大爆笑してるリックたちも呼んでローレンスの鎧を脱がす。
これで一瞬上がった彼の評価は初心者扱いに逆戻りだろうなぁ。
こうしてアホな仲間たちの笑い声と共にスライム討伐は幕を開けた。




