第41話 暇なあなたに緊急クエスト
フロントの街に帰って来て1週間。
冒険談を話しながら飲み会をしたり、街をフラフラするだけでただ過ごした。
お金はたっぷり手に入れたし、こんな平和な日々は久しぶりだ。
思えばこの世界に来てからトラブル続きだったなぁ。
でも…。
「あ~あ、何か暇だなぁ。これまで立て続けにいろんな事件が起こって来たけどここに来て何にもなくなるなんてな」
「そうよねぇ、日銭を稼ぎに毎日ダンジョンとか行ってた日々が懐かしいわ」
「君たちは少しでも勉強したら? 本でも読んで教養と道徳を身に着けなよ」
ギルドのカウンター席でだらける俺たち。
何て言うか夏休みに入って1週間立ったくらいの感覚だ、コレ。
食費は贅沢をしなければ1日銀貨1,2枚で片付く。
ギルドに泊めてもらってる俺たちは宿泊費もかからない。
そもそも新米冒険者なんて野宿がほとんどらしい。
「おーい、みんな! どうだ、似合ってるか?」
輝くワイン色の鎧に身を包んだローレンスが満面の笑みを浮かべた首を手に持って階段を降りて来た。
「おお、似合うじゃねーか! やっぱその鎧売らないで正解だったな」
「いいわね~、さすが伝説の騎士ね!」
「かっこいいじゃんローレンス! …匂いはちゃんと落ちてた?」
この鎧は俺たちが一回目の表彰をされた時に貰い、誰も着る人がいなかったので漬物石代わりになっていた高級品だ。
一週間、洗剤と一緒に水につけといたからもう臭くないだろう。
「しかしいいのか? 俺ばかりこんな上質なものを装備して。これキングダイト製の最上級品だろ」
「いいのいいの、どうせ俺たち誰もそんな重い鎧着れねーしな。戦士系の仲間が出来たら着せようって事にしてたから予定調和よ」
申し訳無さそうにしているがオーダーメイドの様にサイズは彼にぴったりだ。
鎧も漬物石代わりではなく、役に立った方がいいだろう。
「ほら、突っ立ってないでこっちに座りなよ」
「うむ、すまない」
シオンが引いた椅子に腰かけるローレンス。
「さあ、ローレンスの新装備を祝って今日も飲みましょ! マスター、ガブル酒四つお願いね~!」
「ったく、お前らは英雄になったり伝説の騎士のアンデッドを仲間にしたりやることはとんでもないのに始めっから変わんないな。ほらよ、ガブル酒お待ち」
半笑いのマスターから木製のジョッキを受け取って仲間と乾杯しグビッと飲む。
この一杯が旨い。
「後でミラの店に魔剣を受け取りに行かないといけないよね。あの剣もローレンスが装備すればいいと僕は思うけど」
「お、俺ばかり貰っていいのか? 魔剣なんて高級品だろ」
「気にしない気にしない、どうせアンタしか装備できないのよ。それにその剣を受け取ったらまたお祝いにお酒飲めるしね!」
酒が入って騒いだが特にやることもなくだらけ始める。
新品の鎧を着たからと言って戦いがある訳ではないのだ。
「やっぱり暇ねぇ。お金あるしまた旅行にでも行かない?」
ふと提案するレイラ。
「確かに暇すぎるもんな。でも行くなら平和な場所がいいな」
「それなら飛びっきりのおすすめがあるわよ。カジノの街『ゴールデンリール』なんてどう?元手もある訳だし増やしに行きましょうよ!」
「そんなところ行ったらレイラ一文無しになりそうだよね。それより魔法都市『フェアリーテーブル』がいいよ。僕の故郷の近くだけど綺麗な街だし、金治も魔法とか好きでしょ? きっと色んな魔法が見れて勉強になるよ!」
「俺はいつか王都には行きたいな。かつての仲間の墓参りにも行きたいんだ。まあ、なんかのついだに少し寄れれば満足だ」
いろんな街があるんだな。
まあ、大都市ならきっとモンスターも居なくて平和だろう。
「どれも面白そうだな。もう少しここでのんびりしたら次の冒険に行ってもいいかもな」
「よお、英雄さんたちはもう次の冒険の計画かい?」
振り返るとクエストを終えて帰って来たリックたちがいた。
「あらリックじゃない。またカードで勝負する気? もちろん、受けて立ってあげるわよ!」
「おうよ、元手は今稼いできたし今日こそお前らの大金を奪ってやるぜ! バードももちろんやるだろ? こいつらに勝てば大金持ちだ!」
「俺はいいっすよ。昨日の負けでろくに飯を食ってないから腹ペコっす」
リックたちは俺らが大金を貰って来たことを聞いてから毎日賭けカードで勝負を挑んできては負けている。
賭けの為に毎日クエストに行く、歩くATM状態だ。
「お前はもう少し諦めってもんを学べよ。そんなんだから女に避けられるんだぜ」
「う、うるさいぞバルド! そんな事言ってると俺が勝っても奢ってやんねーぞ!」
後から来た巨漢のバルドも今日はリックたちのクエストに同行したようだ。
「珍しいな、バルドがこいつらと一緒なんて」
「そうでもないぜ。お前らがブリッジロビーに行ってる間から何度かクエスト行ってるしな。こいつ、女の冒険者に声かけまくって駄目だった時は毎回俺に手伝えって泣きついて来るんだぜ」
「なんだ、つまり君たちは毎回一緒なのか」
「ち、違うぞシオン! 俺とバードだけでクエストに行く時もあるから毎回ではないんだぞ! それに声をかけるのは俺たちだけじゃキツそうな時だけだ」
つまり他のパーティに声をかけてる時は毎回失敗してるってことか。
バルドは最初、狂ったヤツに見えたけどこうして話すと普通にいい奴だ。
「今からお前らも晩飯だろ? 一緒に食おうぜ」
リックが大きなテーブルに座り手を振るから俺も移動する。
「ほら、金治んとこの新入りもこっち来いよ!」
「おおっ、こんなにも冒険者に受け入れられる日が来るとは未だに信じられん。モンスターになってなれ合いは諦めていたのに…」
「なに泣いてんだよ。受け入れてもらったんだからよかったじゃねーか。ほら行こうぜ」
思わず涙ぐむローレンスの首を持って、体のほうの手を引いてリックたちが据わったテーブル席へと向かう。
俺もコイツが街の連中に受け入れられるか不安があったが大体みんな「スゲー」で片付けてしまい、あっさり受け入れてくれた。
中にはローレンスのファンだとかで握手を求めるヤツもいた。
優しいんだか知識がないから警戒心ゼロなのか、とにかく心配事が無駄に済んでよかったな。
山盛りのサラダやチキンにフォークを伸ばしながら冒険談に花を咲かせていると紙を一枚もったマスターが俺たちの席にやって来た。
「何時も賑やかだなお前ら。どうだ旨いか?」
「あ、マスター。今日も旨いぜ、最高だ!」
親指を立てて答えると満足そうに頷いた。
いや、本当にマスターの料理は旨い。
グライドさんのお屋敷の高級料理に負けないほどだ。
「お前ら全員に頼みたいクエストがあるんだが受ける気はあるか?」
「私たちに? この人数ってことはなんかの大量発生ね。何、ゴブリン?」
「流石レイラは鋭いな。そう、モンスターが街の近くに大量発生したから駆除して欲しいという緊急クエストが来た。ターゲットは『スライム』だ」
そう言ってマスターはクエストの紙をテーブルに広げた。
来たか超王道モンスター『スライム』!
グニャグニャしたボディのお馴染みのアイツ。
ゲームや物語によって最弱モンスターだったり、打撃完全無効の強敵だったりするけどこの世界のスライムはどんなやつなんだ?
「スライムの大量発生は厄介だ。明日から駆除にかかってもらいたい。報酬はその分旨いぞ」
「あっちゃ~、スライムかぁ。早く何とかしたいわね」
マスターの説明に頭を押さえるレイラ。
「スライムってやっぱ強いのか?」
「何言ってんの金治。ただのスライムなんて誰でも知ってる最弱モンスターじゃん。でもスライムは集まると厄介なんだ、雨でも降るとすぐ増殖するしね」
シオンが得意げに説明してくれた。
なるほど、増えるタイプのスライムか。
「俺が王都に居た頃もスライムはよく問題になってたな。普通のスライムなら要領よく対処すれば何の問題もない雑魚だ。だが増えて、集まると合体する。合体したスライムはなかなかの強敵だぞ。魔法も打撃も一層効かなくなる」
「その通りっすよね。合体されたらこの街の冒険者じゃ対処は難しいっす。早いうちに倒さないと他の街との流通にも問題が出るっす」
合体するのか…。
某ゲームみたいな王道スライムだな。
剣と魔法の世界に来たんだ、スライムとは戦っときたい。
それに報酬も旨いと来た、受けない手はないな。
「よし、みんなこのクエスト受けようぜ!スライム見て見たいしな」
「そうと決まれば腹ごしらえよ!マスター、ガーガーのフライ山盛りでもう一皿追加ね!」
明日のクエストが決まった。
戦うのは嫌いだし、辛いのも嫌だけどまだ見ぬものを見るこの冒険ってのは止められないな。
俺たちは料理にがっつき、騒がしい夕餉は進んでいくのだった。




