第39話 英雄裁判
「皆さん静粛に。これより名誉冒険者の特別表彰式を始めます」
ブリッジロビーの崖の上、ロビーホールのステージ。
ステージには俺たちのパーティ以外にもワタルたちや造船場や街で戦っていたパーティが幾つか並んでいた。
客席にはたくさんの冒険者や街の人々が期待の眼差しを向けて座っている。
ステージの左右に置かれた豪華なテーブルには十人ほど、この周辺の土地の領主たちが並んでいる様だ。
もちろんその中の一人はグライドさんだ。
そしてさらにその後ろには護衛の兵士たちが立ち並ぶ。
「いよいよね、金治」
「僕たちついにここに来たんだね」
嬉しそうなレイラとシオンが小声で呟く。
「俺もここにいていいものなのか?」
「大丈夫さ、ローレンスも俺の仲間だ。……そういやクロムは?」
「あの子なら私は女神だからバレないように見てるって。どうせ女神だと気づく様な人いないから参加すればよかったのに、残念ね」
「そこ、静かにしなさい!」
司会に言われちゃ黙るしかないな。
「では、表彰式に入りたいところですが少し確認させていただきたいことがあります。この会場に魔王軍の手の者がいるとの情報がありました」
ざわつく会場。
……まさかこれ、俺たちには関係ないよな…。
「金治パーティに加入したというあなたです!」
スーツを着た司会の人はローレンスを指さしてそう宣言した。
注目が一気に集まって来る。
……やっぱり、バレてたか。
「ちょっと、どうゆう事よ! 確かにコイツはアンデッドだけど改心して私たちの仲間になったわ! 一緒に魔王軍のギラやラボと戦ったのよ!」
怒るレイラの叫びに他の冒険者たちもそうだそうだと騒ぎ出す。
「静粛に! たとえそうであれ元魔王軍のモンスター、スパイの可能性も十分にあるというのが我々の見解です!」
まあ3日前まで敵対してたやつが怪しまれるのは当然か。
……スペリオル・ラボから街を守れたんだからチャラにしてくれるかも、と言う考えはどうやら甘かったようだ。
「それで何だ、僕たちの仲間をそんなあやふやな理由で連れていくつもりなのか? そんなことは誰も許さないぞ!」
「そんな理由もない! モンスターと言うだけで処刑するべきだ。第一造船場を襲撃したのはソイツらしいな、十分刑罰を受けるに値する!」
シオンの反論に領主席の一人が立ち上がって怒鳴った。
小太りな体形に派手な金髪、特徴的なカールする口髭。
厳つい顔をして睨み付けるその男は正しく嫌な貴族と言った感じだ。
……王道な貴族がやっと出てきて少し感動するな。
「なあ、アイツ誰だ?」
「確かグルード領だかの領主だった筈よ。名前はブルドンだったかしら、我儘だとか暴君だとかろくな噂がないヤツよ」
「おお、典型的なクソ貴族じゃん」
「んんっ、何か言いたいことがあるならばはっきり言ってはどうかな?」
このブルドンとか言うヤツ地獄耳だな。
小声で話してたのも聞こえてやがる。
「待って下さい! いくらモンスターだからと言って見境なく殺すのはよくありません。それに彼も我々と共にこの街を守るために精一杯戦ってくれました。造船場の襲撃の件は主にギラと言う闇魔導士が行ったのです」
「そうだ! ギラがスペリオル・ラボを稼働させるために襲ってきたんだ! コイツはその場に居合わせただけだぜ、なあみんなっ!」
ワタルの言葉に便乗して叫ぶと他の冒険者も賛同の叫びを上げた。
……この際、全部ギラのせいにしちゃおう。
「フンッ、勇者が言うならしょうがない。おい、アレを出せっ!」
「分かりました、こちらであなた方の真相を見分けます」
そう言って司会の人は近くの机に置かれていた台を引っ張って来て覆い隠すように掛けられていた大きな布を外した。
そこには淵に凝った装飾をされた鏡が一枚、こちらに向かって立てかけてある。
鏡の表面は青く輝いている。
「これは『真実の鏡』という魔法アイテムです。普段はこのように輝いていますがこの鏡に映ってる人が嘘を言うと色が変わり音が鳴るというものなのです」
なるほど、嘘発見器ってわけか。
……でもこれ本物か?
裏でアイツらが都合よく動かしてるとかかもしれないぞ。
「なあ、あれ本当に嘘を見抜くのか?」
「確かに怪しいわね。……よし、私がこの鏡が本物か確かめてあげるわ! 『真実の鏡』よ、この男金治は勇敢にみんなを守るため戦ったのであり、名声と名誉があれば金など欲しがらない立派な冒険者なのである!」
ブッブーッ!
クイズ番組で外れた時の様な音が鳴り響き、『真実の鏡』の表面が青から赤の光に変わった。
周りから笑いが起きてるがまあいい。
「本物みたいだな。でも、んな確かめ方ないだろ」
「そうかしら? じゃあ、金治の戦った理由は一体何なのだろうか! さあ、金治正直に答えなさい!」
レイラはわざとらしくそう言うと目配せした。
「俺は街を守るために…」
ブッブーッッ!
「戦ったのではなく、仲間の体をドサクサに紛れて取り返して表彰式で賞金を貰うためにラボに乗り込もうとしたけど失敗して成り行きで戦いましたぁ」
ピンポン、ピンポーンッ!
正解の音が鳴り響く。
鏡の色はまた青色に戻った。
……嘘を言っても本当のことを訂正すればいいんだな。
「やったわね、金治! この鏡本物みたいよ。それに凄くみんなにウケてるわ!」
「本物だと分かったのはいいとして、俺たちはコントをしに来たんじゃないんだぞ。……この鏡でクイズ大会したら面白そうだな」
笑い声響く会場の中、俺たちが喋り出していると…。
「黙れ、お前ら全員黙れっ! さあ、裁判開始だ! モンスターめ、早く鏡の前に立つんだ!」
ブルドンは持ってた杖で床を叩きつけて怒鳴った。
静まり返る会場。
……ギャグで誤魔化せる状況じゃなかったか。
「ほら、ローレンス行って来い。嘘はつくなよ。もしヤバくなったら俺も一緒に逃げてやるからな」
「わ、分かった…」
鏡の前に進み出るローレンス。
不安そうだが頑張ってもらうしかない。
「さあ、尋問するんだ!」
「は、はい! では早速、あなたの名前と種族を教えて下さい」
鏡の後ろに立った司会の男が裁判官ポジをやるんだな。
ローレンスは深呼吸すると話始めた。
……覚悟を決めたようだな。
「俺の名前はローレンス。そう、王都の伝説の騎士ローレンス本人だ」
鏡の色は青のままだ。
この発言に領主や冒険者たちは驚きを隠せない。
「一度死んだ俺は魔王軍によって蘇らされてアンデッド、デュラハンになった。この通りだ…」
そう言ってローレンスは首を外して手に持って見せた。
どよめきが会場に広がる。
「そ、それでは次の質問です。あなたは魔王軍の一員ですか? また、造船場を襲撃したのは本当ですか?」
「今は魔王軍を止めて金治の仲間に入れてもらっている。造船場の件は……、本当だ」
……鏡に変化はない。
「そうですか。では次のしつ…」
「もういい、まどろっこしく遠回しな質問は無駄だ! 俺が直々に質問する!」
司会を押しのけてブルドンが前に出た。
「おいモンスター、お前は人間を恨んでいるか? もし出来るなら復讐をしようとでも考えてただろ! 戦おうと思うだろ!」
ブルドンのこの問いはマズいな。
ローレンスは確か…
「お、俺は人間に恨みなどない、まして戦おうとなど…」
ブッブーッ!
……ああ、ヤバいぞ。
ブルドンはニヤリと笑うと…。
「なんてことだ! このモンスターは人間を恨み、戦いを挑もうとしているというのか! こんな危険なモンスターは処刑せねばなぁ!」
この展開はよくないな。
俺も出るか…
「なーに言ってんのよこのクソジジイッ! 人間で恨みの感情を持ってない奴がいるわけないじゃないのよっ!」
レイラがローレンスの横へ飛び出し叫んだ。
……レイラも捕まるぞこれじゃあ。
ワタルも飛び出してきて…。
「ブルドンさん、その決断は早すぎます! このローレンスは我々と一緒に人々を守るために戦いました! 人間を滅ぼそうなどこの人は考えてません!」
ピンポーンッ!
鏡の色が変わった。
「くっ、それでも…」
「ねえ、ブルドンってこんなでも領主なんだよね? そんな我儘じゃどうせ領民にも嫌われて煙たがられてるダメ領主なんじゃない? どうなの?」
何か言いかけたブルドンを遮り、シオンが質問する。
そして鏡の向きをブルドンの方向に向けた。
「そ、そんなことはない! 俺は領主として立派に…」
ブッブーッ!
どうやら嘘をついたようだな。
「ふーん、どうせ税金を増やして、賄賂をあちこちから貰って自分だけいい生活してるんでしょ? 犯罪もしてたりして…」
「そんなこと知らんっ!賄賂など貰ってな…」
ブッブーッ、ブッブーッ!
……おお、やっぱりクソ貴族だな。
よし、俺も…。
「なーんかいいとこないなぁ、お前。やっばい犯罪もしてんだろ、吐いちゃえよ」
「お、俺は犯罪なんて……、そ、そうだ! 俺のことなんてどうでもいいっ! 問題はモンスターだっ! もう一度質問するぞ!」
「ああっ、コイツ誤魔化したわっ!」
ブルドンは鏡の向きを再びローレンスに向けた。
「デュフフッ、さあ貴様に問うぞ! 貴様は人間に復讐するために生きているのだろう! ……特に、王都に復讐をするために!」
マズいっ!
これじゃ、ローレンスは王都への攻撃を考える反国家勢力だ。
逃げ場が無くなるぞ!
「お、俺は……、復讐など…」
「ローレンス! そんな奴に答える必要はないぞ! お前が人間を恨む理由を話してやれっ! ……大丈夫、俺を信じろ!」
頼む、話してくれ。
お前にしか出来ないんだ。
「分かった。……俺は、仲間の騎士に裏切られる形で最後の戦場で死を迎えた。俺はそんな騎士の連中が憎い! ……でもそいつらはもうこの時代に生きていない」
ピンポーン、ピンポーンッ!
鏡は再び青く輝き始めた。
これでもうローレンスは疑われない筈だ。
「小癪な…!」
ブルドンは悔しそうに歯ぎしりし、まだ諦めないようだ。
……往生際が悪いおっさんだな。
「だが、お前はっ、モンスターだっ! しかも魔王軍の! ……このモンスターを連れてるお前らも弁護するやつらも同罪だっ! 全員処刑に…」
「いい加減にしろ、ブルドンッ! ふざけたことを言うな!!」
いつの間にか近くに来ていたグライドは怒鳴りつけると『真実の鏡』を掴み、ブルドンの頭に叩きつけたのだ!
もの凄い音を立てて鏡は砕け散り、ブルドンは倒れた。
凄い一撃だ……。
「グ、グライドさん……?」
「この通り、このブルドンは執念深いヤツでね。我々、領主陣も調査をしていたんだが証拠がなかった。でもお前たちのお陰でこのブルドンが犯罪に手を染めてる証が出たからな、暴走を始めたから黙って貰ったまでだ」
そう言うと右手を差し出して…
「英雄に向かって裁判をすること自体がおかしいんだ。……お前たちにはこの街を代表して礼を言いたい。本当にありがとう!」
「へへっ、こちらこそっ!」
俺は大きな声で言ってその手を強く握った。
拍手と歓声が会場全体に響き渡る。
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暫くして片付けが終わって再び表彰式が始まるのを待っている。
喚き散らす罪人ブルドンは兵士たちに連れられ牢屋にでも連れて行かれた様だ。
司会の人はブルドンに金を積まれて脅されていたらしい。
「ちょっといいかの?」
雑談する俺たちに話しかけてきたのは一人の老人だ。
「えっと、確かあなたは領主席の…」
「そう、ランド領の領主、ガレウスじゃ。わしの様な老人だがそこのローレンスに一つ話しておきたいことがあるのじゃ」
「ぬっ、俺にだと?」
ローレンスが進み出る。
話って一体…。
「伝説の騎士ローレンスの死去は悲しい出来事じゃった、あの時は王都全体でお主の葬式をしたのう」
「ガレウスの爺さん、あんた俺の事を…」
「うむ、あの頃まだわしは10代の若造でな。騎士を目指していたわしはショックじゃったよ、目標にしていた騎士様が死んでしまったのじゃからな」
このお爺さん、見た目は7,80歳くらいかな?
元気そうだけど随分歳行ってるだろ。
……ローレンスが死んだ時代に生きてた人間か。
「こうしてまた憧れた伝説の騎士に会えたのだからわしは満足じゃ。……だがの、お主は一つだけ勘違いしておるぞ」
「俺が勘違い…?」
「お主は仲間の騎士に裏切られて死んだと言ったのう。それは間違いじゃ。騎士は皆、お主の死を悲しみ、お主のお陰で自分たちが生きていると言っておった」
「な、何だと…」
ローレンスは手に持った首を手で隠した。
「その後お前の仇だと言い、騎士道を貫いたからこそ、あの時の魔物の軍勢を倒すことが出来たんじゃ。今王都があるのは間違いなくお主のお陰なのじゃぞ」
……ローレンス、泣いてるのか?
「だから仲間だった騎士たちを許してほしい、そして己の功績に胸を張って欲しいんじゃ。どんな姿になろうともお主は伝説の騎士ローレンスなんじゃからな」
「お、おう……。分かったぞ…」
「うむ、年寄の戯言はこれでお終いじゃ。この世界をこれからも頼むぞ、ローレンス。大丈夫じゃ、お主にはいい仲間がいるじゃろう」
そう言うとガレウスは嬉しそうに領主席へと戻って行く。
顔を隠し、涙を流すローレンス。
……良かったな、本当に。
「さあ、ローレンス胸を張ろうぜ! 表彰式が始まるぞ、英雄は笑顔じゃないとな!」
「……おう! ……ありがとよ、金治」
伝説の騎士は涙を拭いて首を付け直した。
「それでは、表彰式に入ります。最初はもちろん、この街と我々を守った冒険者、金治パーティのみなさんですっ!」
司会の言葉で拍手が巻き起こり、表彰式が始まった。




