第40話 成り上がり英雄
「急ぎなさいよ金治! キャラバンに乗り遅れるわよっ!」
「全く、最後だからって朝ご飯食べ過ぎだよ。意地汚いなぁ」
「ごめんごめん、荷物よしっと。……さあ行こうぜ!」
「皆急げ、見送りがたくさん来てるぞ!」
俺たち4人は荷物を持ってお屋敷の階段を駆け下りる。
今日でこのブリッジロビーの街から出るのだ。
モンスター工場が爆発したり、表彰式があったドタバタした日からもう3日たった今日までグライドさんが解放したお屋敷で大宴会が行われていた。
冒険者たちも街の人々も、そして領主の方々まで代わる代わるやって来てこの街の平和に乾杯を何回したのかもう覚えてないほどだ。
「おおっ、遅刻の英雄が来たぜっ!」
階段をかけて来る俺たちに気が付いた一人が叫ぶと集まった連中が歓声を上げた。
沢山の人々がお屋敷に見送りに来たらしい。
俺たちは一応、街を守った英雄扱いだ。
歓声の中を歩いて行くと玄関でグライドさんたちが待っていた。
「出発するんだな。領主としてもう一度言わせてくれ、この街を守ってくれてありがとう!」
「たまたま上手くいっただけだよ。それより今日まで泊めてくれてありがとう!」
グライドさんともう一度、握手をする。
「お兄ちゃんたちやっぱり凄いんだね!私からもありがとうね!」
「素直に褒められるってのも嬉しいわね!」
「僕も嬉しいよ。今日までありがとね、リリーちゃん」
捻くれてる二人も子供の前だと素直だな。
「首が取れるお兄ちゃんもありがとう!」
「う、うむ。俺は大したことしてないが、まぁいいか!」
「何言ってんだよ、ローレンスも活躍したじゃん。素直に喜んどけよ!」
肘で突いてやると気恥ずかしそうに顔を隠した。
「そろそろ時間だな。君たちはここを実家とでも思って何時でも遊びに来てくれていいからな。いや、是非遊びに来て冒険話を聞かせてくれ!」
「うん、ありがとうグライドさん!」
「うむ、それでは君たちの旅に栄光を!」
大勢の人が手を振るお屋敷を後にして俺たちは噴水の広場を目指す。
その時、路地から一人の女性が飛び出してきた。
「フフフッ、やったわねみんな!」
「クロム! 居なくなったから心配してたんだぜ!」
「私は女神よ、大勢の人がいる場所には行けないわ。それより、お別れを言いに来てあげたわ。私が仲間なのは表彰式までの約束でしょ」
そう言って2,3歩路地の中へと、人目につかない場所へと入るクロム。
「もっと一緒に冒険しましょうよ! 私たちと一緒は嫌?」
「そんなことはないわ、とっても楽しかったわ! やっぱり、人間って素敵。私はそんな大好きな人間を守るお仕事がある女神様なのよ、悲しまないでね。……大丈夫、いつかまた会えるわよ!」
そう言うとクロムは光に包まれて冒険者の服から女神の服へと変身した。
これでお別れってなるとやっぱ寂しいよな。
さよならをしようとしたその時…。
「やっぱり! あなたはクロム様だったのですね!」
「ワタル!」
路地に駆けこんで来たその男は驚いて言った。
……ヤバい、ここでバレちまったか。
しかしクロムは少し悩んでハッとすると…。
「えーと……、あら? あなたってもしかして…」
「そうです、勇者になれる力をあなたに頂いてこの世界に転生した大空ワタルです! もしやと思ってましたがやはり…!」
「私も心を読むまで気が付かなかったわ! あの時私からこの世界の事を聞いたら、この世界を救いたいって言ったわよね、懐かしいわ!」
なんかとんでもない事実が出たぞ。
「ま、まさかワタルも日本から…?」
「金治、まさか君もなのかい?」
「そう、あなたたちは同じ世界から来た人間よ。でもまさか正反対の事を言って旅立った二人が協力して戦うなんて思わなかったわ!」
確かに「世界を救いたい」と言ったワタルと「楽して暮らしたい」と言った俺が共闘したんだ。
……すごいな、偶然って。
そんな事を思っているとクロムの体が輝き出した。
「あーあ、もう時間切れね。私は冥界へ帰るけど安心して、あなたたち二人のことは今後も楽しく見させてもらうからね!」
……ってことは今後もトラブルが多そうだな。
「じゃあ、さようならみんな!楽しい時間をありがとうっ!」
「じゃあなクロム!また会おうぜっ!」
「クロム様、ありがとうございましたっ!」
聖なる光に包まれて空へ真っ直ぐ登っていくクロム。
また、会えるかな?
「あ、居た! こんなところで何してるのよっ! キャラバン待たせてるから急ぎなさいっ!」
駆けつけて来たフェイが叫ぶ。
後ろにはワタルの仲間のアーロンとリリアンも居る。
「マジか、急ぐぞみんな!」
駆け出そうとすると…。
「待ってくれ金治! まさか一番の友達が同じ転生者だったなんてこんなに嬉しい奇跡はないよ。また会ったら話をしてくれるかい?」
「もちろんっ! そっちの話も聞かせろよ!」
ワタルと握手を交わす。
きっとコイツは俺と違って生きてた時は友達もずっと多くて、スポーツマンで、モテてたような凄い奴だったんだろうな。
俺が大嫌いなタイプだけどコイツは特別だ。
……大好きだぜ、ワタル!
ワタルパーティーに見送られて広場に駆け込む。
キャラバン隊の列車が見えた。
……この世界のキャラバンはみんなこの列車タイプなんだな。
「おーい、こっちだこっち! 急げっ!」
ラッセルさんが大声で叫んで手を振っている。
俺たちは急いでそこへ向かう。
「全く、英雄なのに遅刻だぜ! さあお前たちの馬車はこれだ、乗り込みな!」
「助かったよ、ラッセルさん!」
俺たちは急いでその馬車に乗り込んだ。
「流石マスターの見染めた冒険者たちだ。退屈する暇を与えてくれないな、お前たち。手紙にもあったぜ、不思議だが面白い新人だってな! マスターが少し羨ましいぜ!」
「いろいろありがとう! マスターにも話しとくよ、ラッセルさんの事」
「おう、また遊びに来いよ!」
「英雄御一行、乗車完了! 出発だぁっ!」
ラッセルさんの掛け声で車掌が笛を大きく鳴らすと、運転席の方からけたたましい鐘の音が聞こえる。
キャラバンの列車はゆっくりと動き出した。
俺たちは加速する馬車の窓から顔を出して手を振る。
広場に集まった街の人々、造船場の作業員たち、そして冒険者たち。
知ってる顔に見送られてキャラバンは街を出て行った。
貿易都市『ブリッジロビー』。
あちこちの街から物も人も行き交う海辺の街。
ここに来れば誰かに会える、出会いと別れの交差点。
……俺はこの街、気に入ったぜ。
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列車に揺られて2日目の午後。
もうすぐフロントの街だ。
乗り合わせた乗客に肥大化させた武勇伝を聞かせたりしている内にあっという間の旅だった。
「あ、そう言えばリックたちがお土産よろしくとか言ってたけど何も買ってねぇや。買って来たお菓子も全部食べちゃったもんな、どうしよ?」
「何言ってるのよ、お土産なら有り余るほどあるじゃない。冒険者のお土産はとっておきの冒険談って決まってるのよ!」
なるほど、そりゃ金が掛からなくて……、じゃなくてロマンがあっていいな!
「ま、もし何か買ってもお金はいくらでもあるもんね」
「うむ、確かに街を守ったり、俺が来る前にはドラゴンと戦ったそうだがまさか金貨5万枚とはな。俺もこんな大金見たことないぞ」
俺たちは一人金貨1万枚ずつ山分けして大きな袋を一人一つずつ持っている。
物価的に考えると日本円で約1億円くらいだろうか。
いや、この世界ならもっと価値が高いだろうな。
「そう言えば、金治。ちゃんと分かるとこに置いて来たの?」
「おう、ちゃんと部屋の机の上に堂々と置いておいたぞ」
「でもあの書置きはどうなの? 『街の修復に使ってください、義賊 K』って。微妙にイニシャル使うなら名前かいときゃいいのに」
「分かってないな、シオン。微妙に正体をチラつかせるからかっこいいんじゃないか! ……それに名前書いたら次会うとき気まずいだろ」
「あの屋敷の飯は旨かったからな。俺も是非もう一度お邪魔したいところだ」
残りの金貨1万枚はグライドさんのお屋敷に置いて来た。
……お金があると心にゆとりが出来てこんな親切も出来てしまうのだ!
運転室の鐘の音が響いた。
「おっ、フロントに着くみたいだな」
窓から身を乗り出すと前方に見覚えがある街並みが見える。
帰って来たんだな、俺たち。
魔王軍との戦い。
女神クロムとの再会。
ワタルの真実。
そして新しい仲間。
有り過ぎるほどたくさんの出来事があったブリッジロビーの街は遥か後方。
辛く、厳しい場面の連続だったけど俺たちは手に入れたんだ。
……夢にまで見た、大金を!
フロントの街の門にはキャラバンを待つ商人に、冒険者ギルドの奴らもたくさん来てるな。
出迎えご苦労。
俺たちは窓から手を振る。
「ただいま、フロントの街!」




