第37話 要塞潜入
魔工房『スペリオル・ラボ』は完全に停止した。
相手が勝手に撃ちまくって魔力切れになったのだ。
俺たちはそんな要塞の壁を上へ上へと昇って行く。
ラボの外装はだいぶ急だが凹凸が多いので案外楽にいけるな。
「ほら、摑まれよ金治!」
「サンキュー、ワタル」
先に登りきったワタルの手に引っ張られて要塞の側面に開いた穴へと侵入する。
……振り返るとかなり高いな、ココ。
「おおおっ! 俺の体だっ! ついに目の前に…!」
鉄で出来た戦艦の内部の様な部屋は、真ん中を中心に爆発が起きたような跡が出来ていて部屋はもう半壊している。
そしてその爆発の後の中心にはゴツい男性が天井や床から伸びた鎖に手足を繋がれている。
その体におかしいところはないが首から上にはなにもない。
間違いなくデュラハン、ローレンスの体だな。
「良かったな、体と再開できて。……でもどうやって鎖を外すんだ? 手錠には鍵がかかってるし俺の持ってる短剣じゃこの鎖は切れそうにないぞ」
手足には太い鎖が繋がれていて外せそうにない。
何故かローレンスの体は造船場を襲撃した時に着ていた黒い鎧を着ていない。
……駄目そうならワタルの技でって考えてたけどそんなことしたら死んじゃうだろうなぁ。
「何? 錠前が外れないなら私が何とか出来るわよ」
クロムがそう言って進み出ると、手錠に手をかざして。
「えーと、そう! 『アンロック』!」
呪文を唱えるとガチャンと音を立てて手錠が外れた!
「開錠の魔法か! スゲェな」
「便利な魔法でしょ、これがあればどんな宝箱も開け放題よ」
さすがは女神だ。
ゲームだったらまず高レベルの最後の方に覚える謎解き無視のチート魔法。
……俺も欲しいな。
でも何故か、ワタルとローレンスは無駄に驚いてるな。
「その魔法って大盗賊が作り出したとか言われてる、今は禁止されてる魔法なんじゃなかったっけ?」
……大盗賊の魔法。
「うむ、確か俺の生きていた時代には『アンロック』の魔法を使った犯罪が社会問題になっていた時期もあったな」
……犯罪用の魔法か。
「クロム、その魔法は盗賊の魔法らしいけどなんでプリーストの上位職のお前が持ってるんだ?」
俺の問いに顔を背けるクロム。
まさかこの女神…。
「しょ、しょーがないじゃないじゃない。突然お前も冒険に付き合えって言われたから良さげな魔法を適当に選んだのよ! 取りあえず職業も冒険者っぽいのにしたのよ! ……送り出した冒険者みたく『オレツエー』ってのやって見たかったのよっ!」
「何でそんなしょーもない選び方しちゃうんだよっ! せめて攻撃魔法選べよな、盗賊の便利魔法選んでどうすんだよ!」
「だって女神って癒しの力でパーッとみんなを助けるものでしょ! 似合うでしょ! 盗賊の魔法も役に立ったじゃない、間違って選んだわけじゃないんだからねっ!」
「おい、ワタルが付いて来れずにオロオロしてるからその辺で止めろ! そして早く俺の体を開放してくれ!」
ふと見るとワタルは不思議そうな表情を浮かべて戸惑っていた。
……そう言えばクロムが女神だって言うのは俺たちの秘密なんだよな。
下手に話したら絶対めんどくさくなる。
「そ、そうだな。おいクロム、足の方の錠前も外してくれ」
「分かったわ、もう一度『アンロック』!」
クロムも察したのか素早くしゃがんで呪文を唱える。
足を繋いでいた鎖も外れてローレンスの体が自由になった。
「はい、ローレンス。首は自分で持てよ」
首を体に渡すと彼は俺の両腕を掴んで…。
「ありがとう金治ッ! もう戻れないと諦めていた俺の体を取り戻せた、これも全部お前のおかげだ! 今後はこの俺の命が続く限り、全身全霊お前の役に立って見せる! 約束だっ!」
泣きながら喜ぶローレンス。
「そ、そうか。いや俺は仲間になってくれればそれで…」
「もちろんだ! これからこのローレンス、金治のパーティで働かせてもらおう!」
「そっか、よかった。じゃあこれからよろしくな!」
何はともあれ新しい仲間が正式に俺のパーティに加入した。
この世界の伝説の騎士、その実態はアンデッドのデュラハン。
ずっと探してた戦士系の職であろうローレンスだ。
……実際、体が戻った時点で戦いにならないか内心ビクビクだったんだよね。
「あの、もしかしてあなたは女神…」
「…! さ、さあここは敵の本拠地、のんびりしている暇はないわ! 勇者なんだからどんどん行きなさい! ほら、金治もローレンスも急いで!」
クロムに急かされて俺たちはその独房らしい部屋から出た。
部屋の前は廊下になっていて左右に道が続いている。
要塞内部は床も壁も全て金属で作られていて潜入系ゲームのステージみたいだ。
「で、どっちに行けばいいんだ?」
どちらに進めば何があるのか分かる訳がない。
出来ればなるべく戦闘がないルートを進みたいところだな。
「それなら俺は左がいいと思うぞ。外から見た時、穴の開いたこの部屋から見て左の方に操縦室っぽいガラス張りの部屋が見えたからな」
「うむ、俺も同意だな。この巨大なラボ全てを壊して回るのは難しい。操縦室の装置を壊せば取りあえずはまともに機能しなくなる筈だ」
ワタルとローレンスに従って左の通路へと進んで行く。
流石に強そうな戦士が二人もいると安心感があるな。
ローレンスは何気に背が高く、首なしでも190くらいのワタルとあまり変わらない。
……身長あるのっていいなぁ。
通路の先に大きな鉄の扉が見えた。
どう見ても重要なものがこの中にありますよって感じの扉だ。
「この中が操縦室だな。ここは慎重に……」
「よしっ! 突入するぞ!」
ワタルは勢いよく扉を開けた。
……何でこう注意力がないんだ?
どう見たってこれはボス戦のパターンじゃないか。
「何っ、どうやってラボの中に入ったんじゃ!」
案の定ギラが待ち構えていた。
操縦室は飛行機のコクピットのように沢山の計器やレバーがあちこちについている。
ここで再起動の準備をしてたんだな。
……でもコイツ焦ってるな。
「ローレンスの魔法で開いた穴から入れたぞ」
「なんじゃと? ……しまった、忘れとったわい!」
……なんだただのマヌケか。
これなら勇者も居るんだし大丈夫か?
「まぁ、いいじゃろう。ここで勇者をわし自身の手で葬り去ってやるわい!」
目玉の飾りが付いた杖を構えるギラ。
ワタルも剣を構えて戦闘態勢だ。
「おや、そこにいるのはローレンスか。……チャンスをやろう。もう一度魔王軍に戻る気はあるか? 戻ると言うなら迎え入れてやるのじゃが、断るなら勇者と一緒に死んで貰うことになるのう」
「断るっ! 魔王軍などもう御免だ!」
おお、随分な即答だな。
「やはりそうか。ではその兜も返してもらうぞ。それは魔王軍のものなんじゃ」
そう言ってギラが杖をローレンスに向けて振ると怪しい光がローレンスの頭を包み込み、消えた時にはかぶっていた黒い兜はなくなっていた。
これでコイツの装備は布の服だけだな。
「さあ、勝負じゃ勇者! 貴様を殺せばわしは幹部昇進じゃ!」
……ああ、魔王軍も階級制なんだなぁ。
現代と同じで世知辛い。
「望むところだ、魔軍師ギラ! さあ、金治たちも戦闘の準備を!」
「お、おう…!」
おっと、傍観を決め込もうと思ってたら名指しで呼ばれてしまったぞ。
ここは戦いは避けられないだろう。
でも…。
「ローレンス、お前戦えそうか?」
「いや、武器がない。なんでもいいから剣でもあれば俺も戦えるが…」
「どうするのよ、金治。私ももちろん攻撃なんて出来ないわよ?」
これだよ。
俺の仲間は総じて戦力になりそうにない。
「分かったよ! 俺がワタルのサポートするからクロムは後ろから回復を、ローレンスはクロムを守ってろ!」
……結局、戦う羽目になるんだよな。
俺は短剣を引き抜いてワタルの隣に立った。
ギラは凄い気迫だ。
ワタルと目で合図すると…。
「行くぞ、ギラ! この街の平和の為にお前を倒させてもらう!」
ワタルは剣を振り上げて飛び出した。
「ヒヒヒッ、無駄じゃ! そんなノロマな剣など当たるものか!」
ギラはフワッと空中に浮遊して流れるように後ろへ飛んでワタルの剣をかわす。
結構やるぞ、コイツ!
「くらえ、勇者! 『ダークボール』ッ!」
ギラが呪文を唱えると黒いオーラの玉が形成され、ワタルに向かって発射される。
ワタルは剣を振り上げて…。
「そんな呪文が効くかっ! テリャァッ!」
電撃を纏った剣を振り下ろしてその魔法を撃ち消した。
ワタルの魔剣には電撃の魔力が込められている。
でもギラは余裕そうに…。
「甘いんじゃ! 『ショートスパーク』!」
連続で呪文を唱えて杖で地面を軽く叩いた。
「なっ、ぐわぁぁぁぁぁっ!!」
ワタルの足元から黒い電撃が走り、大きなダメージを与える。
「ッ! クロム回復だっ!」
「任せて、『ハイスペル・ヒーリング』!」
回復の緑色の光がワタルを包み込む。
これで彼は大丈夫だ。
……でも、あのギラってヤツ、予想以上に強敵みたいだぞ。
ここは少しでも何か助けが欲しいな。
「ナイス、クロム! ……ところで何かサポートの魔法ってないの?」
「えっと、サポートよね。……あったわ! とっておきの魔法があるけど発動までに少しかかるわ、それでもいいかしら?」
「よしっ、何とか時間を稼ぐからその魔法を急いで!」
俺はギラに向かって駆けだした。
マントの効果で驚異的なスタートダッシュが決まった!
「くらえッ、ギラッ!」
その勢いのまま切りかかったがフワリとかわされてしまう。
「今度はこっちだ! 『クロススラッシュ』!」
ワタルが赤く輝く十字の斬撃を回避中のギラに向かって飛ばした。
これなら…。
「クッ! 『デスボム』ッ!」
ギラは呪文を叫んで黒いエネルギーをその斬撃に飛ばす。
ぶつかったエネルギーは爆発を起こしてワタルの技をかき消した。
……このギラには何も効かないのか?
「な、なかなかやるのう。でもここの装置を壊されるのは困るがまあ、動力室で暴れられるよりマシじゃ」
……ん、動力室?
気になるワードが聞こえたぞ。
戦ってもなかなか勝てそうにないな。
ここは情報を少しでも聞き出しながら時間稼ぎだ!
「おい、ギラ! 何で動力室で暴れたらここより困るんだ? 操縦室が壊されたら動力があっても動かせないんだぞ!」
ギラはただでさえ怖い顔でこちらを睨み付けた。
「生意気な! ……まあ、いいわい。動力炉が壊されたらこのラボはお終いだが、操縦室が壊されようとこのギラ様にかかれば魔法で操作出来るんじゃ!」
ほうほう、なるほど。
動力炉ってのがやられたらお終いなのか。
ここを壊しても意味がないと。
「何だって、ここを破壊しに来たのは無駄だったのかっ!」
「その通りじゃ! お前らはまんまとわしの作戦に引っかかったわけじゃ!」
ワタルが驚いて、ギラが得意げに胸を張る。
……ワタルのヤツ、マジで驚いてやがるぞ。
……ギラもお前、作戦なんてなかっただろ。
まあ、このノリに合わせとくか。
「な、なんだってー。いったいその動力炉はどこにあると言うんだー」
「フフフッ、教えてやろう! お前たちが来た道を反対方向にずっと進んだ先にある動力室じゃ! つまりお前らは左右の二択でハズレを引いたのじゃ!」
うーむ、面白いくらい親切に教えてくれるなぁ。
ここまで来ると信じていいのか逆に不安になるな。
まぁ、もう聞きたいことは分かったしいいか!
「よしワタル、動力室だ! こんな奴無視して壊しに行くぞ!」
「何言って……、そうか! 別にコイツと戦う必要はないな!」
ワタルと目を合わせて頷くと来た道に向かって駆けだした。
「へっ……、アレ? お、おい待て! 騙したな! 『ダークストーム』ッ!」
ギラがハッとして呪文を唱える。
掲げられた杖の先に黒い風が巻き起こりそれは一気に広がった。
正しく全体攻撃だ!
「なっ、危ねぇっ!」
俺は咄嗟に床に伏せると頭の上を黒い風が吹き抜けて行き、近くの壁にあった金属の箱を吹き飛ばした。
部屋の反対側では魔法の風が操縦室の巨大なガラスを砕いた。
……結構な威力の魔法だな。
「もう怒ったわいっ! 強力な魔法一発で終わらせるんじゃ!」
ギラが叫ぶと杖に魔力が集中し始めた。
空中から黒いオーラが現れ、それがどんどんギラの方に集まって行く。
これは絶対にマズい攻撃が来る!
その時だ…。
「金治! 補助呪文の準備が出来たわよ! 行くわよ……、スゥ」
クロムがそう叫んで大きく息を吸うと何故か歌い始めた。
さすが女神と言った感じの澄んだ美しい歌声だ。
思わず聞き入ってしまうな。
ワタルも立ち止まり聴き込んでいる。
……この歌どっかで聴いたな、どこだっけ?
「な、何じゃこの歌は! 止めろ、頭が痛いっ!」
ギラが何故か苦しんでいるな。
……そうだ、思い出したぞ。
この歌はフロントの教会からたまに聞こえた歌だ。
教会で歌われる歌……、聖なるものなのかな。
「さあ、行くわよ! 神の歌を聴きなさい、『ゴスペル』ッ!」
クロムが叫ぶとそこに居た俺たちみんなの体が白く輝いた。
この感じ、『ダイスの腕輪』を使った時に似ている。
俺もローレンスも、ギラさえも。
体中から力がどんどん湧き出してくるぞ!
……でも、ギラは苦しんでいるのか?
「フフッ、この魔法はね、神の祝福でみんなの力を大幅にパワーアップする魔法よ! ……悪い心を持った魔族は逆にパワーダウンしちゃったみたいだけどね!」
「凄いよ、クロム! 初めて役に立ったな!」
「始めては余計よ、いつもでしょ! ほら、今のうちに動力室にいきましょ!」
駆け出そうとする俺たち。
でもギラも意地で再び立ち上がった。
「ま、待て。行かせんぞ! くらえっ、『ダーク・レイ・オプション』ッ!」
ギラが怪しく輝く杖を振ると周りに無数の闇の玉が出現する。
恐らくこの無数の魔弾で攻撃する気だ。
……これは非常にマズいな。
いや、あの技なら…。
「ローレンス! コレを持って構えろ!」
「お、おう?」
俺はさっきのギラの魔法で壊れた鉄の箱の中からモップの様なものを拾ってローレンスに投げ渡した。
この箱は掃除用具箱か。
まあ、棒状のものなら何とかなるだろ!
俺とワタルは部屋の出口で構えたローレンスの後ろへ入る。
「俺たちと戦った時にお前が使ったブラックホールみたいな技であの魔法を防ぐんだ!」
「は……、おい、これモップだぜ! こんなんでどうやって?」
「ローレンスなら大丈夫だ、世の中にはひのきぼうで魔王を倒すヤツもいるんだからとにかくやって見ろ!」
根拠は全くない!
……でも彼なら何とかしてくれる気が何となくしたんだ。
「わ、わかった。どうなっても知らんぞ! 『ダークスペース』ッ!」
ローレンスは叫びながらモップを振った。
黒いオーラを纏ったモップの振られた後には黒い空間が出来ている。
しかし一振りでモップは真っ二つに折れた。
「死ねぇ! 勇者共めっ!」
ギラが杖を振り下ろすと空間に浮いた無数の玉がこっちに向かって一斉に飛んでくる。
しかし、その玉は全て黒い空間の中へと吸い込まれて行く。
「あ、あれ? 成功したのか?」
「凄い技だな! 俺も初めて見たぞ!」
「やったな、ローレンス! さあ、動力室に走るぞ!」
ワタルも首を手にしたローレンスも廊下へと走り出した。
俺たちは廊下をひた走る。
クロムの魔法で強化されているからかいくら走っても疲れないし、自分でも信じられないスピードが出ている。
4人で全速力で疾走しているその遥か後ろをギラが追いかけてきているようだが追い付く気配はないな。
同じような廊下が続いていたが変化は急に訪れた。
前方に巨大な部屋がある様だ。
そこへ真っ直ぐつながる廊下だが、どうやらその大部屋のなかで道が九十度に曲がってるらしくフェンスが見える。
だが止まれそうにないな。
……突っ込むか!
「みんな、飛ぶぞっ!」
そのままの全速力で大部屋に入ると高台の手すりを飛び越えた。
ここがどうやら動力室のようだな。
部屋の中心には巨大なボイラーの様なものがある。
その周りに4つほど別々の色で輝くもの入ったカプセルがパイプで中心のボイラーへと繋がれている。
壁には沢山のパイプが張り巡らされ、あちこちから蒸気が噴出している。
俺たちはそのボイラーの前へと落下して行く。
『スペリオル・ラボ』の心臓部、動力炉。
ここを壊せば全てが終わるのか?
ともかく、この恐怖もあと少しでおさらばだ!




