第36話 役立たずの意地
「さあ、どこからでもかかってこい!」
勇者ワタルは威勢よく叫ぶ。
……かかってこられたら死んじゃうんじゃないか?
機械モンスターの集団に俺たちは取り囲まれており、その向こうにはそびえ立つ巨大な要塞モンスター、『スペリオル・ラボ』が佇んでいる。
機械で出来た昆虫のような見た目のその要塞は正面から見ると遥かに高く、大きく、どうしようもなさそうだ。
アレに俺たちは乗り込まなくては勝ち目はない。
スペリオル・ラボは無限に機械モンスターを生産する工場としての機能がある。
故に魔工房という二つ名がつけられているのだ。
正面についた3本の巨大な角のさらに上の方に操縦室の窓の様なものが見えるけどとても届きそうにないな。
レイラの『エアバースト』でぶっ飛んでも届かなそうだ。
……って言うかもうあのジャンプは絶対にやりたくない。
近づいてくるモンスターをワタルとその仲間のアーロンとリリアンが応戦する。
機械系モンスターは防御力が高く、俺たちのパーティにはろくにダメージを与えれる手段がないからワタルたちに頼るしかない。
……レイラの魔法と俺の『爆裂瓶』で倒した時は衝撃で強く衝突させたり、崖から落としただけでこちらの攻撃が効いたわけではないのだ。
「ねえ、あなたたちさっきアレの近くまで飛んだわよね。何か侵入できそうなポイントは見当たらなかったの?」
フェイが訪ねて来る。
侵入できそうなって言われても…。
「穴が幾つかあったけどそこから蒸気を噴出していて入れそうになかった。寧ろそれで吹き飛ばされて俺たちはここまで飛んだんだからな!」
「そうね、あの蒸気は私の魔法で防げそうになかったわ。それに完成したモンスターをあの蒸気に乗せて放出してるみたい。さっき見えたわ」
俺とクロムが経験を元に答える。
「なるほどね、…でも表面に突入口を開けるのは不可能だしどうしようか。……侵入して内側から攻撃出来れば簡単に外装も破壊できる筈だけど」
「内部からならあの装甲を破壊できるんですか? ワタルの技でも傷一つついてないみたいだし、僕たちの攻撃で何とかなるとはとても…」
シオンの疑問はもっともだ。
外からでも中からでもアレはどうしようもないだろう。
……中から倒すにしてももっと別の方法を予想していたぞ。
「あの要塞の外壁は高い硬度を持った特殊な金属で出来ているらしいけど強さの秘密はそれだけじゃないの。あの表面はさらに魔法で強度と魔法耐性を上げてあるのよ。でも、複雑な内部には強化の魔法はかけられない、そこを狙えば破壊は出来る筈なの」
なるほど、無敵の装甲には秘密があったわけか。
でも侵入はそれこそ出来ないんじゃ?
「俺も何度か中に入ったことがあるが毎回ギラの転移魔法で直接中に乗り込んでたから全体を見るのは初めてなんだ。……力になれなくてすまない」
手に持ってたローレンスは申し訳なさそうにそう言う。
そんな彼を見てレイラは…。
「そう言えばローレンスって食べた物はちゃんと体の方に行ってるのよね。じゃあ、ローレンスの口に魔法を撃ちこめば要塞の中に行ったりするわけ?」
随分物騒なことを言い出しやがったな。
ローレンス、絶望で青ざめてるじゃん。
「おいおい、そんなことしたらいくらアンデッドって言っても死んじゃうだろ。それに魔法がそんな上手く…、魔法?」
泣きそうなローレンスを後ろに隠すようにして反論するとふと思いついた。
確か魔法は口で唱えるけど、あくまで主体は体の方で魔力を操作して発動するってこの前いってたよな。
「ローレンスお前、攻撃魔法なんか使えないの? 戦った時は幾つか使ってたよな。ここからでも体の方に魔法を撃たせたり出来るんじゃない?」
「そ、それだ! 何でもいいから破壊力のある魔法があれば内側から外装に穴をあけれる筈だ!」
フェイの言葉でみんなが期待を込めて生首を見る。
「攻撃魔法って言われても体は束縛されてるみたいだし、俺の技は基本、剣を持ってないと…。……いや、ひとつある。爆発の魔法だ!」
ワッと歓声が上がる。
あれもダメ、これもダメという状況でやっと希望が見えたぞ。
「ねっ、爆発の魔法ってどんなヤツなのよ?」
「自分を中心に爆発を起こす、戦闘では攻守ともに役立つ魔法だ。恐らくこれならば手足が固定された状態でも撃てる筈だ!」
そんな魔法もあるんだな。
フェイも素直に驚いている。
「フェイさん、そんな凄い魔法なの?」
「もちろんよ! 爆発系の魔法は基本、炎の魔法と風の魔法の融合で習得するものなの。しかも基にする魔法の効果によって出来上がる爆発魔法の性能も変わるから自分を中心にしての爆発なんてかなり高度な炎と風の魔法を習得していないと覚えられないのよ!」
へぇ、魔法もいろいろ法則があるんだな。
レイラの場合、火の玉を発射するヤツと空気を圧縮する魔法で爆風を撃ち出す魔法ってわけか。
俺たちが魔法の話を始めると…。
「おい! 作戦はたったのか? 早くしてくれっ!」
死にそうな声でワタルが叫ぶ。
マズいな、ここ敵の集団のど真ん中なんだよな。
……せめてあの要塞まで道が出来てくれないかな。
「ともかく、ローレンスやってくれ!」
俺はローレンスの首をラボの方に突き出した。
「分かった、やるぞ! 『マイン・エクスプロージョン』ッッ!」
首が叫ぶと一瞬ズンッと揺れたな。
その後、スペリオル・ラボの操縦室らしい窓の右側から炎が噴き出した。
大きな穴が開いたのが確認できる。
大歓声が上がった。
でも…。
「どうやってあそこに行くんだ?」
答えは帰ってこない。
そりゃそうだよな、ラボの前まで行くのもモンスターがいっぱいで難しそうなのに。
……コレ、積んでないか?
「おおおおおっ! あそこに俺の体があるのにっ!」
「どうするんですか! あんなとこ届きませんよっ!」
「私の魔法で…、無理よねぇ」
「あわわわわっ、ねえ、なんかモンスター近づいてるわよ!」
どうしようもないな。
無限に押し寄せる敵にワタルもその仲間もいっぱいいっぱいみたいだ。
このままじゃ…。
「よくも私のラボにこんな大穴を……! 最大威力の魔道砲で貴様らまとめて吹き飛ばしてやるわっ!」
いつの間にかまたギラが上空を円盤で飛んでいた。
どうやらローレンスの魔法で穴をあけたことでかなりご立腹の御様子だな。
「魔道砲、エネルギー充填開始じゃ!」
そのギラの声と共にラボの正面についた巨大な角が動き出した。
クワガタの鋏の様に左右対称に突き出した角の間にバリバリと電撃が走り、上に突き出ていたカブトの角みたいなものの先に光の玉が出現する。
光の玉にエネルギーが集中しているようでどんどん大きくなる。
……コレ、絶対ヤバいやつだ。
「俺の後ろに隠れろっ! 『ギガ・プロテクション・シールド』ッ!」
ワタルの仲間のアーロンが俺たちとラボの間に立って叫んだ。
アーロンが構えた大盾を中心にハチの巣模様の赤い、巨大なシールドが展開して行く。
前回アーロンが見せたシールドより大きく分厚そうだ。
上級職『パラディン』の防御技だろう。
……でもあのヤバそうな魔道砲とやらを防げるのか?
「アーロン! ヤバい攻撃が来るぞ! いくらお前でも無理だ!」
「いや、大丈夫だ! ワタル、言っただろ、俺が守るって!」
ワタルが叫ぶがアーロンは動こうとしない。
……アニメの主人公みたいな展開だな。
「充填完了じゃっ! 魔道砲、発射ァ!」
ギラが叫ぶと天高くつき出してきた角が先端についたエネルギーの玉と共に傾き始めた。
玉が二本の角の間に走る電撃と重なるとより激しく輝く。
「来るぞ! みんな伏せろっ!」
アーロンが叫んだのと同時に強い閃光が発射された。
俺たちがいる谷底を覆いつくすほど巨大なビームが爆音と共に迫って来る。
ビームはアーロンのシールドによって拡散され世界が真っ白になった。
起き上がるとビームは収まっていた。
アーロンの後ろの俺たちがいる場所以外の周囲の地面はえぐられ、囲んでいた機械のモンスターたちも全員消し炭になったようだ。
みんなも何とか無事だったらしい。
「アーロン! おい、アーロン!」
ワタルの叫びで前を向くと鎧はボロボロになったアーロンが膝をついている。
金色に輝いていたアーロンの鎧はヒビが入り、ビームを受け止めた大盾は崩れてもう原型を保っていない。
無敵に見えた戦士の守りすら上回る要塞の攻撃。
もうどうしようもないのか…?
……でもさっきまでもの凄い機械音を立てていたスペリオル・ラボからは今は殆ど機械が動いてる音が聞こえない。
機械のモンスターも出てきていない。
壊れたのか?
「な、なにぃ! これでも生きてるというのか、小癪なっ! ……だがもうその戦士は動けないようじゃな。次の一発で勇者共を消し飛ばしてくれるわっ!」
ギラが叫び声を上げる。
また魔道砲が来るのか?
もうどうしようもないじゃないか!
…………。
なにも起こらない?
「何故じゃ? ……エネルギー不足か! じゃが勇者を殺す絶好のチャンス、逃すわけにはいかん! 全エネルギーを魔道砲に回してチャージじゃ!」
ギラがそう叫ぶと再び角に電撃が走り始めた。
結局もう一発撃つのかよ!
もう来ないかとちょっと期待させやがって!
でも、アーロンは立ち上がれそうにない。
どうする?
「ほら、金治! いつもみたいに盾になりなさいよ!」
そう言って突き飛ばしてくるレイラ。
俺に死ねというのか?
「……は? ちょ、無理無理、死んじゃうわっ!」
「私からもお願いするわ。前に私を守ってくれたみたいに。お願い、あなたしかいないの!」
フェイさんいったい何を…?
「ほら、金治の魔法ならアレも平気なんじゃない? きっと、いえ絶対大丈夫よ!」
……レイラが言う魔法って、アレか!
でもあんな攻撃まで防げるのか?
防げたら本当に無敵の魔法だよな。
レベルが二桁にも届いてない遊び人を勇者の最強技からも守った魔法。
賭ける価値は十分だ。
それに…。
「分かった。今度は俺の番だよな」
みんなが命を懸けて戦っている。
俺には他の冒険者たちの様な技も魔法もない。
逃げ出す事しか考えていない本当の役立たずだ。
そんな役立たずがもし一瞬でも役に立てるというなら。
賭けてみようじゃないか、魔法の神様から貰ったこの魔法に!
俺は倒れたアーロンとそれを助けようとするワタルたちを庇う様に立った。
ローレンスの首を後ろに置く。
準備完了だ、後は呪文を唱えて魔道砲を受け止めるんだ。
「ひゃひゃひゃひゃっ! これで勇者もお終い! わしは魔王軍の幹部に昇進じゃ! 魔道砲、発射じゃぁっ!」
ギラの声と共に再び上空に掲げられた光の玉が下りて来る。
三本の角が横一列に並ぶと光が強くなる。
バチバチともの凄い電気が流れる様な音が響く。
カッと輝き、巨大なビームが発射された。
視界全てを覆う閃光がグングン迫って来て、ぶつかる瞬間に叫ぶ。
「意地を見せてやるっ! 『ワン・モア』ッッ!」
体が金色に輝き、禍々しい色のビームに包まれた。
……耐えきれるのか?
魔法は勝手に弾いてくれていたこの『ワン・モア』のバリアにもかなりの重圧を感じる。
気を抜けば吹き飛ばされそうだ。
……頼む、みんなを、仲間を守ってくれっ!
パリーンッ……!
ガラスの割れる様な音が響く。
重圧はもう感じない。
恐る恐る目を開けると光は消え、静まり返った世界が広がっていた。
目の前には停止したスペリオル・ラボ。
自分の目の前までの地面が抉れている。
振り返ると地面に伏せていた仲間たちが起き上がるところだ。
「……や、やったぜ…!」
その声を聞いた仲間たちから歓声が上がった。
思わずその場に座り込む。
今まで散々この魔法を貼って攻撃を受けて来たけど今までで最大に怖かった。
……チビるかと思ったぜ。
「な、なんじゃとぉ…!」
ラボの上空ではギラが驚き慌てている。
「…も、もう一度じゃ! もう一度魔道砲を……。エネルギーが切れとる! くっ、また溜まるまでラボで待機じゃ!」
そう言い残し黒い光に包まれて消えた。
恐らく転移魔法でラボの中に入ったな。
スペリオル・ラボは完全に停止している。
……今がチャンスだ!
「おい、今なら外壁を登って中に行けるんじゃないか?」
振り返ると確かにみんな頷くが不安そうだ。
アーロンが倒れて起き上がれていない。
「駄目だ、アーロンのダメージが大きい。このままじゃ…」
絶望の表情のワタル。
「全力で回復魔法をかけてるけど足りないっ! シオン君手伝って!」
「わ、分かった! 任せてよ!」
回復の呪文をかけるシオンとリリアン。
魔法でも回復出来ないほど重症なのか?
やっぱりあのビームを受けるのは無茶だったんだ。
……でも…。
「ワタル、行こう。今しかチャンスは無い」
「うっうっ…、アーロンが死んじまう…。俺は…」
涙を流す勇者。
仲間を失う悲しさは辛いだろうな。
それでも…。
「ワタルッ! アーロンのやったことを無駄にする気かよ! ラボに侵入出来るチャンスは今しか無いんだ! 逃すわけにはいかない!」
思わず叫んでしまった。
悲しむべき場面なのかもしれない。
でも、ここを逃したら本当の本当にお終いだ。
……卑怯にも逃げ出したい気持ちもあるけどそれはない。
ここで逃げるなんてカッコワルすぎるじゃねーか!
「……ッ! そうだな。チャンスだよな。アーロンの作ってくれた最後のチャンスだ。……金治、ありがとう! 目が覚めたぜっ!」
涙を拭きながら勇者は立ち上がった。
行くしかないな。
その時、周りから機械モンスターが数体現れた。
生き残りがいたか。
「金治、私たちがここを守るわ! だから安心して…、なるべく、出来る限り急いで行ってきて! 私じゃあんまり持たないのよっ!」
レイラとフェイが倒れたアーロンを守るように構える。
「僕とリリアンはアーロンを回復させて見せるっ! だから金治とワタルはスペリオル・ラボをぶっ壊して来て!」
シオンとリリアンは回復魔法を放ちながらもこっちを向いて頷く。
同じ役立たずな筈の仲間も立ち向かっている。
もう、逃げ道はないな。
前にしか進めない!
「さあ、行こう! 魔力切れの要塞なら中の仕掛けの怖くない筈だ!」
「クライマックスよ、金治! 気張って行くわよ!」
スペリオル・ラボに向かって駆けだすワタルとクロム。
「今こそ戦うときだ金治。さあ、走れ!」
俺もローレンスの首を拾ってそれに続く。
……仲間の死でパワーアップ、王道の流れだけど熱いな、コレ。
勇気が無限に湧いてくる!
「やってやるぞ! 侵入だっ!」




