第35話 勇者も女神もモンスターも
要塞兵器、魔工房『スペリオル・ラボ』。
大型の帆船ほどの巨体でパッと見は機械で出来た昆虫の様な見た目。
金メッキの様な装甲に覆われ、あちこちから蒸気を噴き上げて進んで行く。
その周りをラボによって作られたモンスターたちが大行進する。
……フルCGのロボット映画の世界に来たような気分だな。
こんな化け物に勝てるわけがないのは分かり切っている。
でも、俺らの目的は内部に居るローレンスの体の救出だ。
……それにもし内部に侵入出来たら…。
いや、余計なことを考えるのはよそう。
「ね、ねえ。どうやって侵入する気なの? アイツ止まんないよ!」
シオンが叫ぶ。
俺たちはスペリオル・ラボと並走している。
コイツは巨大だが動きは鈍いぞ。
前方の俺たちが進んでいく先に上手く高台になってる岩がある。
「よし、あそこから飛ぶぞ! あれだけ隙間があるんだからどれかには入れるだろ」
岩場地帯だがラボが進んでいる場所は谷間の様に低くなってる場所なので上手くやれば飛び乗れそうだが…やはり遠いか?
相手と俺たちの走ってる谷の上に当たる場所では結構な距離がある。
……谷の下に落ちればこの要塞に潰されるだろうし、生産されたばかりの機械モンスターの集団の中に飛び込むことになってしまうぞ。
「私に任せて! ぶっ飛ぶ魔法ならあるわよっ!」
レイラのぶっ飛ぶ魔法って、……ああ、あれか!
「名案だぜレイラ! よしみんな、あの岩の先で固まるんだ!」
切り立った崖の上で一か所に固まるとレイラが後ろを向いて杖を掲げる。
「ま、まさかぶっ飛ぶってそんな事ないよね…!」
「何する気よ! レイラあなた攻撃の魔法しか持ってないわよね」
「あああああっ! もう体に会うこともなく死ぬぞ、死んでしまうぞ!」
左から右へとその巨大メカは進撃して行く。
いくらあちらが谷の下に居るって言ってもこの場所から見てもコイツのがよっぽどデカい壁のようだ。
飛ぶなら今だ。
「もうここに来た時点で死んだようなもんだろ、アレを見て生きてられるって思えるお前らのが凄いよ。……レイラやってくれっ!」
「わかったわ、全力で行くわよっ! 『エアバースト』ッッ!」
レイラが放った緑色のオーラを纏う空気の玉は通り過ぎようとするラボとは逆方向の岩に向かって放たれた。
……前に一度レイラと空気を炸裂させるこの魔法で飛べそうだとか話したことあるけど、まさかこんな形で実行することになるとわななるとはな。
岩に当たった魔法は一瞬輝き圧縮された空気が全方向に放たれる。
空気圧が全員を襲い、空中へと弾き飛ばす。
一瞬で空に舞い上がった俺たちは絶叫しながらスペリオル・ラボに向かって落下して行く。
……もう死んだな、死んだから何が来ても大丈夫だ!
無茶苦茶な理論を考えながら巨大昆虫の真ん中ら辺へと落ちる。
落ちそうな場所に穴が開いている。
そこから侵入だ…。
その時だった。
その穴からもの凄い音と共に白い蒸気が放出されたのだ。
「な、何でだあぁぁぁああああっ!」
俺たちはレイラの魔法以上の蒸気圧によって遥か上空へと逆戻りだ。
前進するラボの遥か前方へと飛んでゆく。
ああ、地面がグングン迫って来る……。
「キャァァァッ! 『セイフ・フライト・オーラ』ッッ!」
クロムを中心に俺たちごとバリアの様な球状の光が包み込んだ。
落下するスピードが突然落ちてフワッという感じで地面に着地した。
……何故か生きてるな。
「な、何よ……。何か知らないけど助かったわ…」
「敵を吹き飛ばす魔法で自分たちを飛ばすなんて無謀すぎるよっ!」
「まさかあの要塞に飛び込もうとする程の馬鹿だとは思わなかったぞ」
死にそうだけどみんな生きてはいるな。
「生きてるだけラッキーだよ……。さっきのクロムの魔法って飛ぶための魔法なの? ならそれで侵入を…」
「な、何言ってるのよ! さっきのはゆっくり落下するだけの魔法よ! 今、失敗してもう一度乗り込む気でいられるなんて本当に馬鹿なの?」
なるほど、自由に飛べる訳じゃないのか。
……昔からそうだけど本当にギリギリまで追いつめられるとなんか逆に頭が冴えて、落ち着けるんだよね。
「失敗から何事もなかったかのように立ち上がるのはどうやら俺の特技のようでね。……それにここにいるよりは乗り込んだ方が安全じゃね?」
俺が指さす方を向いた仲間たちはまた絶望の表情を浮かべた。
俺たちが飛ばされたのは直進するスペリオル・ラボの前方。
そこには当然の様にガシャンガシャンと音を立て、地面を揺らしてこちらに向かってくる巨大な要塞の姿がある。
ここは谷底に当たる場所のようで左右には高い崖があり、このままじゃ確実にペチャンコだな。
響く仲間の絶叫。
迫りくる巨大メカ。
……流石にここまで、か。
「『ゴッドソード』ッッ!」
その叫び声と共に黄金の輝きを放つ極太の光線がスペリオル・ラボの正面に直撃する。
爆音と強烈な閃光、激しく揺れる地面。
……目を開けると巨大要塞は前方で停止していた。
聞いたことがある声、見たことがある技、これは…。
「先客がいるとはな。……いや、来ると思ってたぜ、金治!」
振り返ると馴染みの4人が立っている。
堂々とした佇まい、鋭い眼光、そう勇者パーティだ。
……これでもう大丈夫だ、助かったぁ…。
もの凄い安心感に思わずため息もでるな。
「ワタル…、来てくれたんだな!」
「遅くなってごめんな。いや、お前らスゲェな!」
「そうね、このモンスターの方に走って行ったらあなたたちが乗り込もうとして吹っ飛ばされてるのが見えたのよ。……やっぱりあなた、勇気だけはあるわね」
フェイも感心してる。
いや、勇気とかじゃないんだよな。
「そんなんじゃないわ! コイツが無謀なのよ、本気で死ぬかと思ったわ」
クロムが前に出るとワタルは驚いてるぞ。
……なんだ、一目ぼれか?
「ま、まさか。いや、そんなはずはないよな。……ごめんなさい、お嬢さん。あなたがあの女神クロム様に似ていたもので驚いてしまいました」
おお、流石ワタルだな、大正解だ。
「ワタルもそう思うか! 似てるよなコイツ!」
何か言おうとしたクロムの口を塞いで誤魔化しとくぞ。
流石にここで本物の女神です、とは言えないわな。
「おい、ワタル。そんな非常識な事言ってないで問題はあのスペリオル・ラボだ。アイツの外装には攻撃は殆ど効かない。もうすぐ動き出すぞ」
……やっぱりまだ終わりじゃないのか。
ラボはワタルの攻撃を受けて停止していたがあちこちから蒸気をまた噴き上げ出して、今まさに再起動しようとしている。
ワタルのあの無茶苦茶な攻撃で倒れないなんてどうすればいいんだ?
「あなたたち、アレの倒し方を知っていたようだけど失敗したようね。さっきの様に内部に侵入して内側から破壊するのが正解よ」
フェイは今度はこっちを向いて話し始めた。
……いや、正解って言われてもな。
「俺たちはただ中に用事があるだけで……、倒し方は知らないぞ?」
「そうそう、私たちはただ仲間の体を取りに行きたいだけなのよ」
レイラ、それはマズいぞ!
「仲間の体? ……金治が持ってるそれ、生首か?」
ローレンスの首には兜を被せて分かりずらくしておいたけどバレたか。
ワタルたちがモンスターをどうするか…。
「俺はローレンス。アンデッド、デュラハンだ。……金治たちのパーティには体を取り戻すのを手伝ってもらっている。こいつ等は悪くない」
喋る生首に勇者パーティも唖然としている。
そんな俺たちを庇うようなこと言うなよ。
ここでこいつらにローレンスをやられたらここまで来た意味がないぞ。
「ワタルッ、ローレンスは俺たちの新しい仲間だ! 確かにモンスターだけど、……襲撃してきたりしたけどもう悪い奴じゃないんだ! 俺を信じてくれ!」
俺はワタルを真っ直ぐ見て叫ぶ。
レイアとシオンもワタルを見つめる。
勇者といえどモンスターを仲間と言う人間は見たことがないだろう。
問題だらけのパーティの新人は最大の問題を抱えている。
……でももう仲間になったんだ、失ってたまるかよ!
「へぇ、君の新しい仲間はモンスター、しかもアンデッドか」
真顔で話し始めるワタル。
やはり認めないか。
……こうなったらダメ元でここまで来たんだ、勇者からも逃げるぞ!
「やっぱり君は面白いな! それにローレンスって伝説の騎士ローレンスだろ! アンデッドってことは本物だよな、スッゲエ!」
「……はぁ?」
笑顔になったワタル。
面白いでいいのか?
「わ、ワタルは勇者なのにモンスターを連れた冒険者がいてもいいの? 僕はてっきり、それは魔王軍だとか言って切り殺すとおもったけど」
「確かに勇者ってモンスターを倒す者だものね。……いいの?」
レイラたちもこれには驚くよな。
でも、ワタルはそんなこともお構いなしに笑って言う。
「いいじゃん、モンスターがパーティにいても。確かにモンスターを退治したから勇者って呼ばれてるけど、俺はすべてのモンスターを駆逐したいわけじゃないよ。出来ればモンスターや魔王軍とも仲良くしたいし、戦いが無ければそれに越したことはないさ! なあ、お前ら」
その問いかけにワタルの仲間たちは次々に同意の答えを返す。
なんて勇者、というか正義の主人公の様なセリフなんだ!
ここまではっきり言われると臭いセリフもかっこいいじゃないか。
「ワタル……、ありがとうっ!」
もの凄い、地鳴りと共にスペリオル・ラボが大きく動いた。
話している間にどうやら再起動が完了したようだ。
今はその場でジタバタしているが何時前進を再開してもおかしくはないな。
……っていうか、逃げる最大のチャンスを逃したんじゃね?
「よくもやってくれたな、勇者よ! ……だがこのスペリオル・ラボには無駄な事よ! さあ、邪魔な勇者はここで消えるのじゃ! 行け、モンスターッ!」
いつの間にかラボの上で円盤に乗った魔軍師ギラが飛んでいる。
ギラの掛け声で巨大な要塞の後ろや足元にいた機械モンスターたちが一斉に飛び出してきて俺たちとワタルパーティを取り囲んだ。
ピカットにクラッシュマシーン、他にも見たことないタイプがいくつか混ざってるな。
……終わったな。
「なあ、金治パーティのみんな。俺たち勇者パーティも一緒に戦わせてくれ! 遅れて来た分際で立場ないけど、俺はこの街を、世界を守りたいんだ!」
ワタルが叫び、彼の仲間たちが頷く。
……こいつらまだ諦めてないのか。
そもそも俺たちはこんな化け物と戦う気なんて全くないのに。
一緒じゃなくて全部やって欲しい、……でも。
悪くない展開じゃん。
「俺たちは仲間の体を奪還することが一番の目的だぞ! ……それでもいいって言うなら、一緒に戦おうっ!」
「もちろんだ! 友が仲間を助けたいと言うなら、手伝わない理由はないもんな! さあ、モンスターの仲間も一緒に、戦闘開始だっ!」
勇者ってやっぱ凄いな。
掛け声ひとつでやる気が入る。
……勇者は立ち向かう勇気があるから勇者と呼ばれる。
それだけじゃない、周りに勇気を与えるからこそ勇者なんだろうな。
逃げる気満々だった俺も戦う勇気が湧いてくる。
魔法とも化学とも言えない不思議な力、勇気を持つ勇者ワタル。
人間好きで見染めた者に幸運と冒険を与える女神クロム。
アンデッドとして復活した伝説の騎士、モンスターのローレンス。
勇者も女神もモンスターもごっちゃになった無茶苦茶なパーティが強大すぎる敵へ挑戦するんだ。
……遊び人だってやってやるぞ!




