第34話 襲撃スペリオル・ラボ
ローレンスの髪は長い白髪だ。
風呂で洗ってあげた髪をタオルドライしていく。
兜を被ってた時は分からなかったけどアンデッドになっているからか不思議な髪色をしていて、肌は人間よりも明らかに青白いな。
キリッとした鋭い眼光がワタルとは違うタイプでイケメンを醸し出している。
「いや、ホント恥ずかしいから許してくれ! もう大丈夫だ!」
「何度も言っただろ、清潔にしとかなきゃ! ローレンスずっと風呂に入ってないような匂いしたんだから諦めろよ」
嫌がる生首を綺麗に洗浄して来たのだ。
汚いのはよくないだろ?
ボーンッ、ボーンッ…。
お屋敷の部屋に置かれた大きな振子時計が鳴り響く。
日付が変わった様だ。
表彰式及び領主会議当日。
恐らくギラが魔工房『スペリオル・ラボ』を仕掛けてくるはずだ。
ここからは何時攻めてきてもいいように待機開始だぞ。
「金治君、夜食を持って来たんだが食べてくれるかな?」
グライドさんがお皿にサンドイッチを山盛り積んで部屋に入って来た。
「もちろんいただきます。グライドさんありがとう!」
グライドは領主だが料理もなかなかの腕前だ。
サンドイッチも様々な具材が輝いていておいしそうだ。
……貴族ってこう親切なものだっけな?
「それはよかった。……しかし、魔王軍の攻撃か。話を聞いたときは驚いたよ」
俺たちが造船場でのことを話した時には既に街中に魔王軍が巨大兵器を使って攻め込もうとしていることは広まっていた。
お屋敷から街を見たが逃げ出す人々で大騒ぎだった。
グライドさんたちとは話し合ったけど逃げ出さないそうだ。
何故なら…。
「でも私は君たちを信じてるよ。きっと守ってくれると信じてる。…それに私はこの街、ブリッジロビーの領主だ。離れないさ」
う~ん、ここまで信頼されても俺たちじゃなぁ…。
「気持ちは嬉しいけど俺たちなんかより勇者のワタルとかがきっと街を守ってくれますよ! だから安心して避難しても大丈夫ですよ」
「勇者か……。根拠も何もないんだがな、何故か勇者や他の冒険者じゃなくて君たちがこの街を守ってくれる。そんな気がするんだよ。……まあ、年寄の勘ってやつだな、そう気にせんでおいてくれ。何かあったらまた連絡しよう」
そう言ってグライドさんは部屋から出て行った。
……俺たちが、か。
「変わったこと言うわね、グライドさん。……さ、ともかく腹ごしらえよ!」
レイラはサンドイッチを頬張る。
「そうだな、グライドさんの料理旨いし食うか! ほら、ローレンスも食っとけよ」
俺も一切れ手に取って首だけのローレンスに先に食べさせる。
「そんな場合じゃ…、うむ旨いな」
サンドイッチをかみ砕いて飲み込んだ。
……デュラハンの首と胴体ってどうなってるんだ?
「不思議ね、デュラハンって。……まあ、サンドイッチ美味しいからいいか」
女神クロムも疑問に思ったようだが流した。
「ふう、一応動き出したら分かるって言ってもやっぱり不安だね。でもまあ、こんなピンチでものんびり風呂に入ったりご飯を食べるパーティだと大丈夫な気がするよ」
シオンもお皿に手を伸ばしながらそう言う。
……え、何で動き出したら分かるのか、と。
それは…。
「おい、ローレンス。ラボに動きはあるか?」
「い、いや。特に動きは……、おおぅ」
デュラハンの彼の体は恐らくラボの中だ。
このアドバンテージを是非生かしたい。
おかげでこちらは何時ラボの転送が始まっても分かるのだが…。
「ローレンス? お前の体は今どうなってんだ?」
何故か突然喘いだり苦しんだりするのだから気が気じゃない。
「い、今のところ壁に貼り付けにされてる様だ。手足を動かせない。……たまに何故か鞭を入れられたりするんだが恐らく暇つぶしだろうか…」
赤面した生首はそう答えた。
「不憫だな、お前」
なんかいろいろと可哀想になる奴だな、コイツ。
その後、夜食を食べて満腹になった俺たちは待った。
ひたすら待ちに待って、持ってきたブリングカードも散々遊んだ。
待ち続けた。
そして襲われた、……眠気に。
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「大変だっ! 海の方に光の柱が現れた……、おや、おはよう諸君」
グライドさんの大声で俺たちは飛び起きた。
外を見るとすっかり太陽が昇っている。
……ヤバい、寝落ちしちまった!
俺たちは慌ててバルコニーに飛び出すと海面から怪しい光の柱が立ち昇っている。
「何よあれ! あれが転送の魔法陣とか言うヤツの光なの?」
「恐らくそうよね。でもあそこ造船場のすぐ近くじゃないのよ」
「何て大きさの光だ! あのサイズの魔法陣が必要ってどれだけデカいんだ!」
慌てる仲間たち。
これはマズそうだぞ。
「そうだ、ローレンス! どうなってる? ……どこだ?」
部屋の中を振り返るが生首は見当たらない。
「…お、おい。口を持つな、息が出来ん! 俺の頭は枕じゃないんだぞ!」
おおう、枕だと思って持って床で寝たものはなんとデュラハンの生首だった。
「ともかく、体の方に凄い振動が来てる! もうすぐ転送されるぞ!」
「マズいな、急いで崖の方に行くぞ!」
俺たちは急いで装備に着替えるとお屋敷の外へ急ぐ。
お屋敷の玄関ではグライドさんたちが待っていた。
「災厄がきたようじゃの。大丈夫、お主たちならあのキャラバンを救った時の様に成し遂げる筈じゃ!わしが保証しよう」
「お兄ちゃんたち……、怖い予感がするの。お願い、もう一度リリーたちを守って!」
「ついに来てしまいましたか。でも私はあなた方を信じます。金治君、……いや、金治! あなた方の事は実の息子の様にも思えてる。だからどうか無事に戻ってきてくれ! 失うのはもう嫌なんだ!」
グライドさん…。
「もちろん、死んでも死なずに帰ってきますよ!」
そう言って走り出した。
急いで崖の上に…。
門を出たその時だ、空から何か振って来る。
黒い影がこっちに真っ直ぐと。
あれは…。
「ま、まさか。みんな避けろっ!」
俺たちは慌てて飛び退いた。
もの凄い音を立てて俺たちの居た場所に降って来たもの、それは。
「こいつらは機械系モンスター! ピカットにクラッシュマシーン…。なんで!」
周りにも機械のモンスターが溢れている。
「恐らく転送の魔法陣を利用して作ったモンスターを街に降らせたようだな。この数はマズいぞ」
手に持ってたローレンスの首が説明した。
マズいな、このままじゃ街は壊滅だ。
目に見えた範囲でもあちこちで爆発が巻き起こる。
……街の人がほとんど避難してるのは救いだな。
キィ~ン…。
超音波の様な音が街中に突如響いた。
それに続いて音声がどこからか流れ出す。
「こちら、造船場!街中に機械系モンスターが出現!…緊急クエスト発令だっ!参加できるものは直ちに街のモンスターの駆除に当たってくれ!繰り返す…」
「この声はラッセルさん! でもどこから?」
「きっとあれよ! ほら、管制室の魔法道具で声を送ってるのよ!」
レイラの指さす方には街灯の上についたスピーカーの様なものがある。
なるほどあそこから声は出ているな。
でも、残ってる冒険者なんて居るのか…。
「危ないっ! 『ライト・ジャベリン』ッ!」
近くでレーザーを放とうとしていたピカットに光の槍が突き刺さる。
この魔法は…。
「金治さんたちっ、大丈夫ですか! ……こっちは大丈夫です、任せてください! 今度こそ私たちが街を護衛して見せます!」
キャラバンの護衛をしていた冒険者だ!
気が付くと他にも多くの冒険者がどこからか現れてあちこちで戦闘を開始している。
「み、みんな…」
「お前たちばっかりデュラハンと戦ったりいいとこ見せられて黙ってられねぇよ! ここは俺たちに任せな!」
表彰に来た冒険者も駆けつけている。
あの一言でこんなにも集まるなんて…。
ここでまたラッセルの声が響き渡った。
「きっと今、街のどこかで崖の上へとロビーホールを守るため走ろうとしてる冒険者たちが居る筈だ! 誰とか野暮な事は言わねぇ! お前たち、もう一度頼む! 今度はこの街を、守ってくれっ!」
一体誰に宛てたメッセージなのだろうか。
言わないけどな、んな野暮なこと!
「もうこうなったらとにかく走るぞっ!敵は全部無視だっ!」
自棄になって俺たちは崖の上へと続く岩道を走りだした。
消火栓もといピカットを交わしながら崖の道を駆け上る。
中腹くらいまで来た時、海の光の柱が突然強く輝いた!
「な、これは! マズいぞ金治、スペリオル・ラボが強く揺れ出した! 転送が開始されたぞ!」
ローレンスが叫んだ。
俺たちは周りを見渡した。
海の光がスッと消えたかと思ったら崖の上で強く輝いた。
マズい、先に上に行かれたぞ。
「急ぐぞ! もう敵は上だ!」
もう全力で坂を駆け登る。
前方にクラッシュマシーンが2体。
でも関わってる暇はないっ!
「クロムっ! 何でもいいから派手なヤツでアイツらの目くらましだっ!」
……こういうピンチになると俺は頭がいつもよりは冴えるようだな。
「分かったわ! 『ホーリー・ディスペルド・フラッシュ』!」
眩い光が空から広範囲に振り注ぐ。
とても光の中に目を向けられないくらいだ。
これなら相手からも見えない。
「みんな見えなくていいから真っ直ぐ走れ! すり抜けるぞ!」
叫んで全員で走り抜ける。
坂を登り切ると今度は折り返してラボが転送された方へ急げ!
進むほどに地鳴りが大きくなる。
この先に例の奴がいるんだな。
……行くぞ!
俺は絶句した。
岩を避けるように飛び出すとちょうどそいつは目の前を横切っていく。
巨大なロボット、と言うよりももう工場だ。
造船場の半分くらいの大きさ。
全身は金メッキのような輝き。
モンスター図鑑の挿絵はただの楕円型の建物に足が生えたものが載っていたがそれとはだいぶ形が違う。
後方にはいくつもの巨大な煙突がバイクのマフラーの様に飛び出し、前方には大きな角が3本、カブトムシとクワガタを合わせたように突き出している。
ガシャンガシャンと動く6本の極太の鉄パイプのような足に、車高は比較的高くないその要塞の見た目はさしずめ超巨大なメカ昆虫だ!
全身の隙間から蒸気を噴出して進んで行く。
形は保っているがゴチャゴチャした見た目で、どこが何なのか全く予想もつかない。
そしてあちこちの隙間から機械モンスターが発進して行っている。
このままの進路で進めばもうすぐロビーホールに突っ込むぞ。
その前に中に侵入しないと。
……もう怖すぎて一週回ってどうにでもなれって気分だ。
「みんなっ! 乗り込むぞっ!」
固まってる仲間たちに叫ぶとそのメカ昆虫こと『スペリオル・ラボ』に並走するように俺たちは追いかけ始めた。
息はもう切れてるけど休んでる暇はない!
ブリッジロビーの街の後ろ、ロビーホール目前の崖の上。
俺たちと『スペリオル・ラボ』の戦いに幕が上がった。
表彰式まで6時間。




