第33話 覚悟を決めろ
「あの、ホントにすみませんでした。…いや、悪気はあんまりなかったんです」
樽の上に置かれた生首が喋る。
それを囲むようにして睨み付ける冒険者たち。
みんなこの生首ことデュラハンのローレンスに殺されかけてるんだから怒るのは当然だろう。
もう武器を手にしてる奴もいるしこのままじゃコイツ死ぬな。
「あ~、ローレンス? ……話を聞かせてもらっていいか?」
もう居た堪れないから樽の前の木箱に座ったまま俺は言った。
…いや、この真面目な雰囲気きついわ。
「おい、金治とか言ったな。お前のおかげでコイツを捕まえれたのは確かだが、モンスターの話なんて聞く必要はないっ! 俺が切り捨ててやるっ!」
俺の言葉に興奮した一人の冒険者が剣を構えて進み出る。
コイツは確か表彰式に呼ばれてる奴の一人だな。
……勇者面しやがって、こう言う正義マンはウザいな。
「まあまあ、別に急いで殺すこともないだろ。謝ってるし、お前ら生きてたんだから許してやれよ。コレもう何も出来ないぞ」
生首を指さしながら取りあえずなだめる。
「き、金治ぃ…」
あ~あ、もう伝説の騎士は泣きそうだし。
まあ、事故みたいなもんだけど間違って首を取っちゃったのは少し悪いと思ってるんだぞ。
俺はローレンスの首をかばうように立ち上がって…。
「それにモンスターの作戦はモンスターに聞くのが一番早いよ。チャンスは有効活用しなくちゃね」
そう言うとおおっ、と冒険者たちは騒めいた。
……こいつら何も考えずに殺そうとしてたのか。
「さすが金治ね、こう言う人の弱みに付け込むのはあなたが一番ね!」
隣に座ってたレイラたちも立ち上がった。
「人の弱みに付け込むとは失礼だな。知的な作戦と言って欲しいところだね」
「いやいや、知的っていうかたまたまこうなっただけじゃん。ホント、金治は失敗から何事もなかったかのように立ち上がるのが上手いね」
シオンめ、んな適当人間みたく言いおってからに。
「ねえ。早く聞きましょうよ。ローレンス殺されちゃうわよ」
クロムが服の裾を引っ張って来た。
確かにイライラした冒険者たちに刺殺されたら終わりだよな。
「そうだな。おいローレンス、魔王軍の作戦は何なんだ?」
みんなが一斉にローレンスの方を見る。
殺気を感じたのか生首は一瞬ビクッとした。
「……わ、分かった、今話す。…お、俺たちの作戦は要塞兵器、魔工房『スペリオル・ラボ』を完成させて領主会議を潰すことだ」
この言葉に冒険者たちは静まり返った。
今なんかヤバそうな名前が出たな。
……有名なものなのか?
「おい、シオン。『スペリオル・ラボ』って何だ?」
小声で尋ねるとシオンは、
「ちょっと待ってね。……えっと、どれどれ」
背負ってたリュックから分厚い本を取り出して捲り出した。
表紙には『モンスター図鑑』と書いてある。
……見たことある本だな。
「これフロントのギルドにあったヤツだよな。持ってきたのか?」
「マスターに持ってけって言われたんだよ。ここの奴らは本なんか読まないからって。……あ、あった。じゃあ読むよ、魔工房『スペリオル・ラボ』。別名要塞兵器と呼ばれる巨大な移動型のモンスター工場。起動すると内部の工場で機械系のモンスターを自動で生産することができる。表面の装甲は魔法耐性のある丈夫な金属でできており破壊は難しい…」
……無茶苦茶なのが出て来たなぁ。
本を覗きこむとドーム状の金属製の建物にそのままロボットの足をつけたような見た目の『スペリオル・ラボ』の挿絵が描かれている。
こんな化け物が出たら通り過ぎるだけで街なんてお終いだな。
「…で、ローレンス。この兵器は今どうなってるのよ?」
レイラが問うと絶望の表情をしていた冒険者たちも期待を込めて再びローレンスの方を向いた。
「ああ、俺が最後に見た時はもう機体は準備されてたし、モンスターの生産も始まっていた。後はエネルギーを用意するだけだったんだ。必要なエネルギー源は4種類あるんだがさっき盗もうとした『フレイムコア』で全部揃ったから今頃、起動準備を始めてる筈だ」
……絶望の展開ってこういうのを言うんだろうな。
つまり巨大な要塞がこの街を攻める準備をしていると。
「な、なら準備が終わる前にその化け物をぶっ壊しちまおうぜっ! アンデッド野郎、どこにあるんだよその兵器ってヤツはよぉ!」
冒険者の一人が怒鳴り散らすと他の奴らもそうだそうだと騒ぎ出した。
確かに動き出す前にみんなで叩いちゃえば…。
「お前らじゃ無理だ。スペリオル・ラボは今、この街の近くの深海に沈んでる。そこに行くにはあのギラの魔法が必要なんだ」
なんてことだ。
深海じゃ手が届く訳ないよな。
……ローレンス、アンデッド野郎って言われて機嫌を悪くしたな。
「じゃ、じゃあ海岸線にバリケードを…」
「無駄だ。ラボの周りにギラが転送用の魔法陣を貼っていた。きっと崖の上にある領主会議の会場まで飛ばす気だ」
他の冒険者にローレンスは辛そうに答える。
おいおい、つまり相手の準備が終わるまで何も出来ないと。
さっきの図鑑の化け物と真っ向勝負しろってのか。
「ねえ、一応聞くけどその準備が出来るまでどのくらいかかるって言うのよ?」
クロムが恐る恐る聞く。
この問いに冒険者全員が息を飲んだ。
「……恐らく、半日もあれば準備は完了する筈だ」
つまり明日の朝方には準備完了って訳だ。
……確実に領主会議に間に合うなぁ。
「……もうお終いじゃねーか…」
静寂の中、一人の冒険者が呟いた。
それにつられて喚き散らす者、泣き出す者、絶望に膝から崩れ落ちる者、様々な反応を冒険者たちは見せる。
こんな絶望の宣告を聞いて落ち着いている方が無理だよな。
「おい、デュラハンはどうするんだ」
誰かの声にみんなが反応してこっちを向いた。
「せめてこいつだけでも殺そうぜ…」
「そうだ、どうせ死ぬならこいつも」
「おい……、えっと、金治? だったか。そこをどけっ、アンデッドに止めを刺す!」
怒り狂った冒険者たちが剣を構えてジリジリと寄って来る。
これは非常にマズいな。
「ヒッ…、き、金治…た、助けてくれっ…」
振り返ると絶望して泣き出してる騎士の首があった。
……はぁ、これは後味悪い展開だな…。
仕方ないか。
「待てよお前らっ! わざわざ殺す必要はないだろ!」
俺は両手を広げて冒険者たちとローレンスの間で仁王立ちをする。
「何でソイツを庇うんだ! この街を襲ったモンスターだぞ!」
叫ぶ冒険者。
……ああ、庇いようがないな、コイツ。
「た、確かにそうだけど、ここで殺すのは早いハズだっ! ……えっと、いざ要塞モンスターと戦闘になったらコイツの知識は役に立つ筈だぞ! そ、それに……、まだ魔王軍の秘密を知ってるかもしれないぞ!」
ローレンスの話し方を見るにこれ以上魔王軍や『スペリオル・ラボ』の目ぼしい追加情報を持っているとは全く思えない。
もうただの出任せだ。
「た、確かにそうかもしれないが……。いや、それでもモンスターだ! 何か呪いや魔法を使って逃げ出すかもしれないぞ!」
ううん、まだ引き下がってくれないよな。
剣を構えた冒険者たちは引く気を見せない。
「いや、それはないよ。魔法は口で唱えるけど体内の魔力を操って発動するのは体本体の方だ。僕の知識だとデュラハンの首が魔法を出したってのは聞いたことがないしね」
「そうよ! アンタたち見たいな脳筋の戦士には分からないだろうけど魔法って呪文を喋れば使える訳じゃないのよ! 馬鹿にしないでよね!」
おおっ、シオンとレイラが加勢してくれた。
二人も俺の横に立って冒険者たちに睨み付ける。
「その通りね。それにもうローレンスは反抗する気も無さそうよ。ほら、泣いちゃってるじゃない!」
クロムもそう言うと首を指さした。
いい年こいた男が涙を流してもうなんか可哀想だ。
……本当に晒首ってやつだな、これは。
「…わ、わかったよ。でもその首はどうするんだ?」
それを見て冒険者たちも動揺した様子だ。
……ここで首を持ってかれてはたまんないな。
「それは俺が預かる! ……大丈夫、ちゃんと世話するからっ!」
「お、おう。そうだな、お前らが一番まともにローレンスと渡り合ってたもんな。……何かヤバくなったら俺たちを呼べよ」
どうやら俺たちが時間稼ぎしたりしたのをちゃんと戦っていたと思ってるらしい。
俺たちは1分もかからず全員やられたんだがな。
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お屋敷に生首を抱えて帰って来た。
それを見たグライドさんは驚いて聞いてくる。
「お、おい金治! それは何だ? ……うわッ、生きてるのか!」
「俺たちの新しい仲間です」
もちろんローレンスの口は手で塞いで黙らせた。
自信を持っての答えにグライドさんは戸惑っている。
「昨日は美しい女の子に今日は生首か……。なんかどんどん仲間が増えてるね…」
「……な、なあ。助けてくれてその、ありがとな…」
部屋の荷物をカバンに詰めてるとテーブルの上に置いたローレンスは照れながらも声をだした。
俺はカバンの蓋を閉めて…。
「気にするなよ、俺たちもう仲間だろ!」
そう言って兜の上から首をガシガシと揺らした。
「そうよ! 死んでプライドも捨てて、冒険者にボコボコにされそうになる伝説の騎士なんて無視できないわ! 私たちのパーティにお似合いよね!」
レイラも荷造りを終えてやって来た。
「普通の神頼みの弱い僧侶ならアンデッド何てお断りだろうけど優秀な僕は違うよ! ローレンスは悪くなさそうなアンデッドだもんね!」
シオンもそう言って胸を叩いた。
「お、お前ら…、……ありがとう…」
「また泣きそうだぞ、ローレンス!」
「全く、あなたたちどうしてもソイツを仲間にしたいのね。……で、これからどうするの? 荷物をまとめたし要塞が攻めて来る前に逃げるのかしら?」
ニッと笑うクロムがそう問いかけて来た。
……コイツ俺たちの答えをもう悟ってるな。
「もちろん逃げるさ。まずはラボの中に侵入してローレンスの体を取り戻す! ……でもそしたらアンデッドのローレンスは処刑されるかもしれない。だから全力で逃げるんだ!」
レイラとシオンも頷く。
これは三人で話して決めたことだ。
話してなかったローレンスは驚いてるけどな。
「ローレンスはもう仲間だ。仲間の体を取り戻すんだ。……役立たずの俺たちじゃまず、スペリオル・ラボには敵わないよ。でもワタルも強い冒険者もいるんだ、彼らが戦うのに乗じて乗り込めばきっと俺たちでも侵入だけなら出来る筈だ」
俺もこの街を守りたい。
……けど俺たちの力じゃどうしようもない。
せめて領主のグライドさんやリリーちゃんには後で逃げるように話そう。
これぐらいしか出来そうにないんだ。
「うん、私たちじゃワタルたちの足手まといよ! 仲間とだけでも逃げる。これが正解なのよ」
「このままいても勝ち目はないし、ラボに乗り込むのは無茶苦茶さ。でも仲間のためになら無茶できるよ、僕も冒険者だからね!」
レイラもシオンもかなり頑張って笑ってるんだろうな。
……俺も怖いよ。
今回の敵は強大すぎる。
俺たちが全く敵わなかった機械で出来たモンスターを生産する機械モンスターのボスだぜ?
フロントの街でのドラゴン戦の様に準備する時間もない。
もう数時間後には巨大なモンスターがやって来る。
ローレンスが処刑されるかもしれないというのも自分たちへの誤魔化しだ。
今回はワタルがいるし、いろんな街から強い冒険者が集まってるから彼らに任せればきっと大丈夫。
……根拠もない、そんな希望にすがるしか俺たちには出来ないんだ。
いろんな強敵を倒してきたけど俺たちが強いわけじゃない。
……運が良くても、今回はどうにもなんねぇよ。
「ふ~ん。逃げるって割には未練ありそうじゃない。それにスペリオル・ラボに乗り込むなんて役立たずにしては大胆不敵ね。(…そもそもそれもう戦ってんじゃ)。いえ、何でもないわ! やっぱり私、人間大好きよ、特に冒険者はね! ……私もローレンスの体を取り戻すの手伝ってあげるわ。感謝しなさい!」
胸を張って言うクロム。
覚悟は出来ている。
敵わない相手だけど逃げ出すわけにはいかないんだ。
俺は欲張りだから欲しいと心から思ったモノは何としてでも手に入れる。
……それが仲間でも、モンスターでも!
表彰式まで残り18時間。




