第32話 狙えヘッドショット
領主様のお屋敷はお風呂も豪華だ。
海外の高級ホテルみたいな広い浴槽に近辺から引いているという白い温泉がなかなかに気持ちいい。
今日もこの世界じゃ珍しい風呂を堪能した俺とシオンは浴衣の様な服に着替えてフカフカのソファーに沈み込んでくつろいでいる。
……フロントの街じゃ井戸の水で体を洗ってたもんな。
「フゥ~、いいお湯だったわぁ~。…あら、そのお酒は?」
風呂上がりで浴衣姿のレイラがやって来た。。
小さい樽の中に氷水と一緒に入れられた酒瓶にレイラは素早く気が付く。
「ああ、これか? 昼間の造船場襲撃の事をグライドさんも聞いたみたいでな。船はこの街の要。よくぞ守ってくれた。……とか言ってくれたんだ。グラッチェって言うお酒らしいぞ。冷やしといたけどそろそろ飲むか」
「最高ねっ、高級酒じゃないのよ! 私、グラス取って来るわね!」
そう言うと戦闘中は見せない機敏さで厨房にかっ飛んでいく。
……ラッキー、取りに行く手間が省けたぞ。
「ね、ねえ。あなたたちって明日強敵に襲撃予告されてるのに随分落ち着いてるわね。しょっちゅう鏡でのぞき見してたけどこう実際に見ると驚くわよ」
こちらも風呂上がりの女神クロムがホカホカしている。
女神もここの様な豪華な風呂は初めてなのかさっきは興奮してたな。
確かに明日には闇騎士を名乗る伝説の騎士ローレンスが再びやって来る。
でも…。
「大丈夫だよ。あのローレンスは確かに強いけどこの街にはたくさん冒険者がいる。それに見てたなら分かるだろうけどこっちの勧誘で動揺してるようなヤツだぞ、あんまり怖くないね。……まあ、一応用心してなるべく戦わないつもりだし、何たって今の俺たちには『切り札』があるからな!」
『切り札』に目配せすると不思議そうな顔をした。
またまた、首なんかかしげっちゃって。
女神様なんだから堂々としてればいいのに。
「あ、そうか。確かにクロムは元女神だもんね。僕らよりきっと強いよね」
「元、じゃなくて現在も女神ですぅ! 今はちょっと人間になってみたりしてるけど? 回復魔法だったら人間なんかの非じゃないわよ。……えっと、カードを」
いつの間にかクロムは俺たちのつけてるのと同じ、冒険者カードが入った指輪をしていた。
さすが覗きの神様、変装に抜かりはない。
「見なさい、これが私の強さよ!」
出現させたクロムの冒険者カードを見せて来た。
……さすが女神、年齢は振り切って??と表示されてるな。
職業の欄には『マスタープリースト、Lv.1』。
聞いたことない職業だな。
ステータスの力や防御力は平均的だが、賢さと運は驚異的に高い。
賢さは魔法の威力に関わるステータスらしいから期待できるな。
スキルの欄にもたくさんの長ったらしいものが書き連ねてある。
レベルは1だが強さはチート級みたいだぞ。
「何だ? この『マスタープリースト』って職業は」
「う~ん、僕も聞いたことがないな。僧侶系の上級職で『ハイプリースト』って言うのがあるけど『マスタープリースト』何て知らないよ。……書き間違い?」
シオンも聞いたことが無い職業な様だ。
それを聞いたクロムは偉そうに言ってくる。
「私は女神よ! 普通の人間と職業が同じの訳ないじゃない。人間には使えない、強力な魔法を使って手伝ってあげるから安心して戦いなさいっ!」
実に頼もしいなクロム。
……いやぁ、強い仲間に全部任せればいいんだからもう楽勝だろ!
「お待たせ金治! グラスとあと高級チーズを貰えたわ。さあ、飲むわよっ!」
4つのグラスと円形の大きな白いチーズを皿に乗せてレイラが戻って来た。
コルク栓を抜いて高級酒グラッチェの酒瓶を傾けると甘い匂いと共に赤いシュワシュワとした液体がグラスに注がれて行く。
チーズを切り分けたが香りが強く、表面は固いが中は不思議なことに焼いたようにトロッとしていた。
みんながグラスとチーズを持つと…。
「それじゃあ、女神クロムの加入を祝しててん…、かんぱーいっ!」
「「かんぱーいっ!!」」
「……か、かんぱい…」
少し遅れて恥ずかしそうにクロムもグラスを突き出した。
魔王軍が迫ってるのだろうけど、冒険は楽しくなくちゃね!
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翌朝、お屋敷の長テーブルで朝食を食べてる時その知らせは舞い込んできた。
造船場で最初に出会ったスキンヘッドのおじさんが駆け込んできて…。
「た、大変だっ! 造船場にまたあの鎧野郎が来やがったっ! 今冒険者たちが応戦してるけどやられそうなんだ。昨日戦ってくれたお前らに頼るしかねぇ! 頼む、急いで造船場に向かってくれっ!」
ローレンスのヤツ、何もこんな朝早くから来ることないだろ。
俺たちもフォークを置いて急いで立ち上がる……、事はなく仲間たちは大慌てで朝食を口に詰め込み始めた。
「ほら、金治も急いで食べましょ! みんながピンチよ!」
「お腹が空いてたら魔法は使えないよ、しっかり食べなきゃ」
……この仲間たちは…。
まあ、その通りか。
「よし来た、急ぐぞ! ……ほら、クロムも急いで食べろよ。ここがモンスターに襲われたら次はいつこんな旨い飯が食えるかわかんねーぞ」
一人呆然としていたクロムに声をかけつつサラダを流し込む。
「……わ、分かったわよ! まあ、美味しいからいいけど」
「わああああっ! 飯なんか食ってないで急いで来てくれよっ!」
あっという間に朝食を終えると俺たちは駆け出した。
「頼んだぞ、勇敢な冒険者たちよ!」
「お願いね、お兄ちゃんたち!」
「おうっ!」
手を振るグライドたちに答えると屋敷を飛び出した。
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造船場は戦場と化し、火が上がっている。
俺たちが入口から中に入ると目の前に冒険者が飛ばされて来た!
……確かこの男は。
「お前は昨日の表彰を受けに来た冒険者! 大丈夫か?」
「うぅ…。君たちは昨日の。ローレンスはボイラーの方だ。奴を止めてくれ…」
そう言ってそいつは気を失った。
「『ヒール』! ……よし、これで大丈夫な筈だ。急ごう金治!」
あちこちに傷を負って倒れた冒険者がいて、回復職の冒険者たちが魔法をかけて回っている。
これはマズいぞ!
俺たちは炎を交わしながらボイラーに急いだ。
「へぇ、戦場に入った瞬間ずいぶんな代わり映えね。やっぱり面白いわ!」
クロムも後を追ってくる。
俺たちが到着するとちょうどローレンスが剣を振り下ろして巨大な鉄製のボイラーを真っ二つに切り裂いた。
切られた裂け目から巨大な炎が吹き出すがローレンスは何ともなさそうだ。
「おい、ローレンス! 朝早くに来るなんて卑怯だぞ!」
俺が叫ぶとソイツは振り返り、手に持っていた首を胴体の上に乗せた。
……こうなるとデュラハンだと分からないな。
「フン、何かと思えば昨日の変なパーティか。……フハハハハハッ! お前たちの仲間になる話、考えてやらんでもない、ホントに考えんでもないぞっ! さあ、再び勝負だ! 俺にも騎士のプライドがあるからなっ」
「お前昨日、俺にはプライドなんか無いって言ってたじゃん」
「う、うるさいっ! ちょっと思い出しただけだ!」
すっごく嬉しそうだな、ローレンス。
……ツンデレしてないで素直に仲間になりたいって言えばいいのに。
ローレンスは振り返るとボイラーの中に腕を突っ込んで何か赤くギラギラと輝く玉を取り出した。
「さあ、俺は『フレイムコア』を手にしたぞ。取り返したければ我と戦うがいい!」
……あの『フレイムコア』、無茶苦茶熱そうなのによく持てるな。
いや、そんな事よりアイツは戦わないと気が済まない様だ。
普通に俺たちが戦っても全く、寸分のわずかにも、奇跡が起きようとも確実に勝てない相手の筈だ。
でも、俺たちには『切り札』があるのだ!
「よしっ、さあクロム!あの闇騎士を女神の魔法でやっつけてやれっ!」
突然の俺の叫びに仲間も、ローレンスも、周りにいた冒険者たちもクロムの方を一斉に向いた。
呆気に取られて硬直した様子のクロムは…。
「……は?何言ってるのよ、私デュラハンなんか倒す魔法持ってないわよ?」
「はぁ?」
……倒せないとな。
え? 女神だよね?
アンデッドなんて楽勝で成仏させれんじゃないの?
「言ったでしょ、回復魔法なら人間に負けないけど攻撃の魔法は持ってないわよ。プリーストって回復職でしょ? ……違った?」
そう言って慌てるクロム。
……ああ、『切り札』がただの凄い回復役だった。
無敵の神様が仲間になったからどんな敵も怖くない、というのは大きな勘違いだったようだ。
「ちょっと、もしかして何時もこういうのの前にビビりまくってる金治が余裕ぶっこいてたのってクロムを当てにしてたから? もう策は何もないの?」
いやレイラよ、そんな死にそうな顔でこっちを見られても策なんて…。
……策?
相手はアンデッドのデュラハン。
アンデッドってことは確か…。
「そうだ、回復だ! クロム、思いっきり強力な回復魔法をローレンスにお見舞いしてやるんだ!」
シオンたちは何か言いたげだがこれならば…。
「ええっ? 回復? わ、分かったわよ。それじゃあ…、『キュアド・ゴッド・ヒール』ッ!」
クロムが呪文を唱えるとローレンスの足元に大きな魔法陣が広がり、そこから特大サイズの回復の光が噴出した。
緑色の光に包まれたアンデッド。
これなら…。
「……? 冒険者から受けた傷が全部回復したぞ。…ありがとう?」
光が消えるとなんか元気になったローレンスが立っている。
……あれぇ?
「な、なあシオン。何でアンデッドの癖にローレンスはあの回復魔法を受けてピンピンしてんだ? ゾンビとかスカルゴーストはやっつけれたのに」
「あ~、そう言えば説明してなかったね。アンデッドの中でも回復魔法でダメージを受けるのは一部だけなんだよね。例えばゾンビみたく体が腐ってたり、ゴーストみたく闇の力で形成されてたりするやつ。それ以外の奴は普通に回復するんだよね。……あのローレンスはアンデッド系のデュラハンだけど体はまだ全然生きてた時のままみたいだしランクも高いモンスターだから普通に回復したみたいだよ」
シオンの解説は毎度納得できるなぁ。
言われなきゃ見た目はただの人間だもんな、アイツ。
……でも、これで本当に万策尽きたぞ!
「戦う気はないのか? ……それなら、ありがたく逃げさせてもらうぞ! ハアッ!」
そう叫んだローレンスは黒い電気を帯びた剣を振る。
剣先から稲妻が走って、俺たちの前の地面を切り裂いた。
「クッ、なんて威力だ」
目の前には炎の壁がメラメラと立ち昇る。
こんな攻撃を受けたらやっぱ死ぬぞ。
「おい、お前ら。俺は逃げちゃうぞ? いいのか、仲間に出来ないぞ! ほら、勝てば仲間になってやるんだぞ?」
なんでお前が不安そうなんだよ。
本当に仲間になりたいなら頼むからとっととそう言えよな。
「ほら、今なら伝説の……、うぉっ、何だっ!」
突如上空から怪しく輝く鎖が伸びてきてローレンスを縛り上げた!
がっちりと絡んで腕は動かせそうにない。
鎖の先を追って上を向くと紫色の光を放つ魔法陣を底に描かれた小型の円盤の様なものが上空に浮遊していたのだ。
「フヒヒヒヒッ、愚かな人間よ。私は魔王軍の精鋭、魔軍師ギラ様であるぞっ! 『フレイムコア』はこの私が頂いていくぞ!」
円盤の上から顔を覗かせて喋るそのギラという男は、顔は年寄の様にシワくちゃで白い鋭い目、大きな髑髏のペンダントをつけていて、暗い色合いのいかにも闇の魔法使いといった感じのローブを着ている。
……しかし顔が怖いな、コイツ。
「この、人間などにそそのかされた出来そこないは回収していくわい」
そう言ってギラが手の持った眼球の様な飾りが先端についた不気味な杖で乗っている円盤を叩くと円盤の底の中心へ鎖が巻き込まれ始めてローレンスは持ち上げられた。
「おいっ、ギラ! 貴様なんのつもりだ! 『フレイムコア』はもう回収したぞ」
「うるさいっ! お前は人間にそそのかされて悩んでいただろ、まる分かりだわいっ! そんな危険なヤツを野放しにしてはおけんのじゃ!」
ジタバタして抜け出そうとしているがローレンスはどうしようもなさそうだ。
きっとあれは何か魔法のかかった鎖なのだろうな。
……このままじゃ、ローレンスも『フレイムコア』もあのギラとかいう奴に持っていかれてしまう。
怖いけど迷ってられないな。
「お、おいギラとか言うお前っ! 何するんだっ!」
「ふん、人間め生意気な。ガクガク震えてる癖に何カッコつけとるんじゃ! ……私は帰らせてもらう。フフフッ、もうすぐ楽しい殺戮ショーの開演じゃあっ!」
もう腰が抜けそうなくらいビビってるんだぞ。
単純な強さならダースドラゴンやローレンスのがアイツより強そうだ。
……でも、顔が怖いんだよお前っ!
ギラの円盤はクルリと向きを変えて上昇し始めた。
天井には円盤が入って来た時のものであろう大穴が開いている。
あそこから逃げる気だ。
でもどうしようもないんじゃ…。
「金治ィ、これを使えっ!」
造船場の二階から大きな木箱が真横に飛んできた。
割れた木箱の中には先端にユーフォーキャッチャーのクレーン部分の様なものが、反対にはハンドルのような物がついたバズーカ砲が入っている。
……もう少しズレてたら俺、死んでたな。
「それは漁業で使う『フックキャノン』だ! それであの円盤を狙えっ!」
木箱を投げて叫ぶあの男は…。
「ラッセルさん! ……これどうやって使うんですか?」
「後ろのハンドル持って魔力を送れば先端のアームが発射される! 真ん中の取っ手を持ってよく狙うんだ! 急げっ!」
慌ててそのフックキャノンなる物を持つが……、デカいな。
こんな重いの持って狙いを定めて魔力をなんて無理だろ。
「僕がハンドルで魔力を送るよ! 金治は狙いをつけて!」
シオンが駆け寄って来て後方を持った。
二人でなら何とか行けそうだ。
「よし、分かった! 狙うぞ!」
円盤はもう半分屋根から出ている。
なら、ローレンスを狙って何とかアームをくっ付けてやる。
……FPSのゲームは得意って訳じゃないけど友達と結構遊んだんだ。
バズーカ砲の如きフックキャノンを肩にかけ、取っ手を握り狙いを定める。
煙であまりよく見えないがヘッドショットを狙うようにしっかりと…。
……よし。
「今だ、フックキャノン発射ッ!」
「いっけぇっ!」
俺の合図でシオンがハンドルから魔力を送る。
砲身の表面の模様が輝き、先端のアーム部分まで光が届くと…。
ドッゴーンッ…。
高速で先端のアームが射出された。
煙の中に突っ込んで行くとガンッという金属音と共に…。
「ぐわっ、何だっ!」
ローレンスの声が響いた!
何か掴んだ様だぞ。
「シオン、もう一度魔力を! 回収だっ!」
「了解っ!」
シオンが魔力を込めると再びフックキャノンの模様が輝き、飛んでったアームに繋がれているロープが砲身の中へと巻かれてゆく。
やがて黒い塊を掴んだアームが戻って来た。
……クソッ、ギラの円盤は逃したか。
「おい、どうなってるんだ…?」
……へ? ローレンスの声?
周りを見渡してもローレンスの姿はない。
一体どこから…。
……まさか…。
フックキャノンのアームには見覚えのある兜が掴まれていた。
そして、正面には生首が…。
「えっと、あの…。これは…」
うろたえているローレンスの顔がある。
なんと俺たちはデュラハンの首を手に入れしまったのだった。
……んな馬鹿な。
表彰式まであと2日。




