第30話 闇騎士現る!
俺たちは朝からブリッジロビーの浜辺を歩いている。
モンスター工場とか不穏な響きのモノを聞いた気がしないでもないけど、せっかくの海辺の街なんだぜ、泳がないわけにはいかないだろ!
でもその前に…。
「ね~え~、金治ぃ。いい感じに暑いわよ。もうここら辺で泳がない?」
「駄目だ! 先にマスターのお使いを済ませちゃうぞ。また忘れたらマズいからな」
昨日、お屋敷の部屋で散らかしてた荷物を何時でも街から逃げ出せるように片付けていた時、偶然にもポケットに押し込まれた手紙を見つけたのだ。
……危うくこのままフロントに持って帰るところだった。
「あれが造船場だね。確かマスターの友達のラッセルさんに手紙を配達するのがお使いだよね。……あれ、僕の記憶だともっと何本も煙突があって煙が上がってた筈なのに1本しかない。…ま、いっか」
「そうだったかしら?近くにセブンスブリッジとか言う橋があるからその足と見間違えたんじゃないの」
「とにかく中に入ってみようぜ。終わったら海で遊ぶぞ!」
「「おーっ!!」」
大きな造船場の建物に入って行く。
中は現代の船のドッグの様な作りで沢山の人が働いている。
大きな帆船が途中まで作られてあり、今その船を集中して作ってるという感じだ。
奥の方には大きなボイラー見たいなものがあって中では不思議な赤い炎がギラギラと輝いている。
ただの火じゃないんだろうな。
「おう、どうした? ここは海の家じゃないぞ!」
楽しそうなスキンヘッドのおじさんが声をかけて来た。
「あの、ラッセルさんっていますか? 手紙を預かってるんですけど…」
「ラッセルだったら2階の管制室にいるぞ! アイツはここの現場監督もやってるからな!」
いちいち声の大きなおじさんだったな。
ともかく俺たちは壁際の階段を登って、壁にくっついた通路を進んで先にある全面に窓の付いた管制室に向かった。
「ねぇ、ちょっと。…怖い人だったらどうする? 現場監督とか怖いおっさんのイメージしかないわよ?」
「怖気づいてどうするんだよ。大丈夫、さっきのハゲた人も見た目は怖そうだったけど声がデカい愉快な人だったじゃないか」
「こう言う場所ってそういう厳ついおっさんしかいないよね」
などと会話しながらドアを開けると奥に一人、短めの濃い茶髪に全身かなり筋肉質な男性が据わっていた。
ジャケットや半ズボンをはいているがその下に全身のピチッとしたウェットスーツの様なものを着ているため威圧感が増している。
「おや、誰だ君たちは?」
眉一つ動かすことなくその男性は問いかけて来た。
「あ、えっと、俺たち手紙を届けに来ました…。あの、フロントの街のマスターからのお使いで…」
「おおっ! お前たちがマスターの言ってた新米冒険者か! ……ほお、なかなかいい面構えだな、生への執着心を感じる。ほらこっちに座れよ!」
近くまでズカズカやって来たその男は目の前でしゃがんでジロジロ俺を見回した後に、そう言って椅子を引いてくれた。
……生への執着には自信があるから素直に嬉しいぞ。
「よく来たな、金治とか言ったっけな?お前らの事はフロントのマスターからの手紙とかでよく聞いてるぞ。俺はラッセル。マスターとは、まあ古い付き合いだな」
そう言って顎のラインに整えられた髭を触った。
マスターはどんな人脈を持ってるんだよ…。
「えっと、ラッセルさんはマスターとはどんな関係なんですか?」
「やっぱ気になるか、当てて見な!」
しばらく考えた後、レイラは手を上げて…。
「分かったわ! ズバリ、顎鬚同好会ね!」
確かにマスターとラッセルの共通点だけど、んな訳あるかっ!
「はははっ、残念。正解は昔の冒険者仲間だ。マスターとは長いことパーティを組んでたんだよ」
「マスターが冒険者? ……あ、これ手紙です」
忘れかけていた手紙を差し出した。
「おう、ありがとよ。マスターの奴から聞いてなかったのか。……それじゃあ、手紙のお礼にいっちょ話してやるか。大金を求めて旅した俺たちの冒険談を!」
マスターのパーティの冒険談!
これは楽しそうだぞ。
俺たちはワクワクしながらラッセルさんをジッと見た。
そんな時、ソイツは現れた。
これから始まる冒険談に水を差したのはまず、下の造船場での爆発だった。
響き渡る作業員の悲鳴。
俺たちは慌てて窓から下を見るとボイラーの辺りで火が起きていて、その近くには造船場に似合わない黒い鎧を着た人が立っているのが見える。
「全員逃げろっ! モンスターの襲撃だ! 乗船場にモンスターの襲撃っ! ボイラーからみんな離れるんだっ!」
ラッセルが窓際の机に設置されたマイクの様なものに叫ぶとマイクの付け根にあった青い水晶が輝いて拡声された声が造船場に響き渡った。
きっとこれはフロントで使った拡声メガホンに近い魔法道具だろう。
「俺は作業員たちの誘導に行く。君たちも早く…」
そうラッセルが言いかけた時、下では黒い鎧が剣を振ってまた爆発を起こした様だ。
……このままじゃここにいる全員やられちゃいそうだ。
せめて応援の警備兵とか冒険者が来るまで…。
「俺たちが時間を稼ぎます! だから早く非難してください!」
「で、でもそれじゃあ君たちが…」
「大丈夫、俺運は最高にいいですから! 逃げ足だって最速です! ……だからラッセルさんは冒険談しっかり準備しておいてくださいね」
俺たちは親指を立ててグッと手を突き出すと来た道を駆け出した。
マスターの仲間を、その友を守るんだ!
「……頼んだぞ、冒険者たち!」
-----------
俺たちが下に到着するとその鎧はボイラーに手を伸ばしていた。
……ボイラーはマズいだろ。
「待て、お前は何なんだ!」
お約束っぽいセリフだなんて気にしてる場合じゃない!
レイラとシオンも真剣に戦闘態勢を取っている。
「ほう、俺様に戦いを挑む冒険者がこんな街にいるなんてな。……勇気に免じて教えてやろう、俺は闇騎士ローレンス! この造船場のボイラーにある『フレイムコア』を頂きに来た!」
凄い威圧感だ。
勇者ワタルに近いけど全然違う感じ。
よくは分からないけど、ワタルが強い光の持ち主ならこのローレンスはもの凄く強い闇の力を持っていると言った感じがする。
「何、あなた人間なの? ローレンスって言ったら王都で有名な昔の騎士の名前じゃないのよ。強盗の癖に英雄の名前を名乗るなんておこがましいわね!」
「確かに騎士ローレンスの話は僕も聞いたことあるけど彼は既にモンスターとの戦いで死んでる筈だ! 生きてる筈……、まさかアンデッド!」
レイラもシオンも知ってるとはずいぶん有名みたいだな、ローレンス。
感じは変だけど見た目はただの鎧を着た人間だ。
「ハハハハハッ、新米のようだがなかな筋のいい見解だな! ……いいだろう、見ろ!答えはこれだっ!」
そう言うとロ-レンスは頭に手をかけて…。
なんと、首が取れてしまった!
……こ、これはゲーム等でなじみ深いアンデッドの…。
「デュラハンかお前っ! 強いアンデッドじゃねーか!」
『デュラハン』は聞いたことがある人も多いメジャーなモンスターだ。
首が取れる死の騎士。
それが今、実際に俺たちの前に対峙している。
「その通りだ。首を切られて死んだ俺は魔王軍によってアンデッド、デュラハンとして復活させられたのだ! ……そう、正真正銘王都の騎士ローレンスそのものだ」
へっ、伝説の騎士が相手って訳か。
相手にとって……、不足がないとか以前に有り余ってるわ!
勝てる訳ねーだろそんなんっ!
こんなの相手にしたら瞬殺されちまうわ!
ああ、何で時間稼ぎ何て調子乗って引き受けたんだろ。
「ねぇ、金治。どうする? あいつすっごく強そうよ」
声を潜めてレイラが話しかけて来る。
ここは敵の前だが円陣を組んで作戦会議だ。
「なあ、騎士ローレンスってどんな奴だったんだ?」
「そうか、金治は知らないよね。彼、ローレンス・ディノバルドは王都の有名な騎士でドラゴン退治とかいろんな活躍の記録があるんです。当時いた騎士の中では最強だったとか。最後は王都を攻めた魔王軍との戦いで死亡したことになってますが遺体は見つかってないと言われていましたね」
「シオンの言ったので大体全部ね。ローレンスは騎士道に重きを置くプライド高い騎士だったって聞いたわ。今も尚、ローレンスに憧れる戦士もいるぐらいだから」
なるほど、本当に伝説っぽい騎士だな。
その時代最強……、と。
「そんなの俺たちに勝ち目無さそうだな。最強の騎士がアンデッドにされて魔王軍だろ。……あれ、なんでアイツは自分を殺した魔王軍の味方してんだ?」
「そんなの……、催眠術をかけられてるとか呪いで脅されてるとか…」
「自分の意思だぞ」
俺たち三人は悲鳴を上げて飛び退いた。
突如、円陣に兜を被った生首が差し出されたのだ。
気が付くとすぐ隣に首を持ったデュラハンが立っている。
「俺を無視して話すなよな。悲しくなるじゃねーか」
「何で私たちの作戦会議にモンスターが入ってくるのよ! 何よ、攻撃してこないのもその騎士道精神とでも言う気?」
「まぁまぁ、お前たちアホみたいだから俺の事教えてやってもいいぜ。簡単に殺せそうだから冥途の土産だ。聞きたいか?」
……何だろう、このモンスター。
なんかハブられんの悲しむし、話聞かせたがるし。
まあ、戦うより時間稼ぎにはなるか。
「おう、聞かせてくれ。出来ればたくさん冥途の土産くれよな」
ローレンスはガッツポーズをすると話し出した。
「まず俺様はさっきお前らが話してた通り、王都の騎士ローレンスだ。……で、何で俺が魔王軍に味方するのかだったな。確かに魔王軍のモンスターが王都に押し寄せたあの戦いで殺された。でもあれは全部モンスターのせいって訳じゃない! 俺を置いて逃げた王都の兵士どものせいだっ!」
怒鳴ったローレンスは床に剣を叩きつけた。
「っ何だってんだよ、あんなに俺はいい子ちゃんぶって騎士道がどうとか言って、仲間をたくさん助けて来たんだぜ! ……確かに俺はピンチになったら俺を置いて逃げろって言った。でも、本当に置いてっちゃうことないだろぉっ! ああ、思い出したらムカムカして来たっ! こんちくしょうっ!」
……あ~、何か空しくなって来たわ。
「あのレイラさん、シオンさん。英雄の実態ってあんなもんみたいですけど、何かコメントはあります?」
「あ~、うん。そうよね、結局は人間だものね。こういう事もあるわよ、元気を出しなさいローレンス」
「ま、まあホントに置いていかれたらそりゃ怒るよね。それでアンデッドにもなっちゃったんだからね。お気の毒様です」
何かもう空気が気まずいね。
さっきあんなに英雄だ騎士だって言ったのも相まって。
「おう、ありがとよお前ら。冒険者も捨てたもんじゃねぇな。……でもアンデッドも悪くねぇぜ! 生きてた頃よりタフになったし、基本人間と変わらねぇもんな」
あら、案外楽観的なのね。
……本当に何で俺らはデュラハンの話を聞いてるんだろうな。
やがて、立ち上がり距離をとったローレンスは。
「ふぅ、そろそろいいだろ。…さ、戦うか!」
え、戦うの?
俺たち、戸惑うわ。
「ね、ねえローレンス。もう騎士道も何もないのよね?なら戦わなくても…」
「ん~、確かに今の俺には騎士道もプライドもねぇよ。でも冥途の土産話ちまったら戦わないといかんでしょ」
この騎士、微妙なとこにこだわりおってからに!
……騎士道もプライドもない?
どこかでこんな話したな…。
あ、そう言えばプライドがない戦士を募集してたなぁ。
「ねえ、プライドを捨てて腐ってる騎士とか俺たちにぴったりじゃね?」
俺の言葉に二人は疑問の表情を浮かべた。
でも直ぐにハッとして考えを悟ってくれたようだ。
「い、いくら何でもそれはどうかな。相手は戦う気満々だよ?」
「そうよね。なってくれたら嬉しいけど簡単に仲間には…」
「でも戦いが始まったら俺ら死ぬ。それくらいなら俺は行くぞ!」
そう言って1,2歩前に進み出た。
真っ直ぐローレンスを見て一言。
「ローレンス! 俺たちのパーティに入る気はないかっ!」




