第29話 不穏な未来を見ないふり
「もう、ワタル! あなたの回復魔法は超強力なのよ? 許容量を大きく超える回復は危険だって前にも注意したでしょ!」
目の前でワタルに説教するのは勇者パーティの一員で『ビショップ』の女の子リリアン。
『ビショップ』は僧侶の上級職で回復だけでなく魔法使いの様な攻撃魔法も多く習得できるのが特徴の職業だ。
「ごめんね、金治。さっきのは回復酔いだったみたい。体力以上の回復魔法を受けすぎるとたまに起こる症状なんだ。……僕の魔力が強すぎたせいで!」
……いや、シオンの魔力と言うより強かったのはワタルたちだったような。
「ま、まぁ次頑張ってくれよな! 次!」
指摘しないでおいてやろう。
それより俺は…。
「そんな事よりさ。ワタルのパーティの戦い、どう思った?」
「どうって言われても……。まあレベルが高くて凄かったわよね。でも技も魔法も高レベル過ぎて私たちが見習えるところなんてなかったわよ?」
……うん、情けないけど正論だ。
いや、そうじゃなくてだな。
「僕から見ても個人技はすごいと思うけど特にあのコンビネーションはいいよね。あのアーロンが防いでワタルが止めを刺した時の」
「そう、それだっ!」
思わず叫んだ。
さすがシオン、そこだよ大事なのは!
「でも私たちには出来ないわよ、アレ。だって戦士職があってこそのコンビネーションじゃない。うちには戦士系の仲間は…」
「だからさ、探さない? 新しい仲間をさ! 戦士系の!」
俺の発言に二人は驚いたようだがこれは前から薄々考えていたことだ。
今の俺たちのパーティは後衛職の『魔法使い』と『僧侶』。
前衛と言い切るには苦しい普通パーティにいない『遊び人』の俺が腕輪や魔法を駆使することで何とかいままでパーティとして成り立っていた。
しかし、機械系の魔物のように魔法があまり有効でないモンスターが現れるとなるともう太刀打ちできなくなるのだ。
……やはりパワフルな戦士系は一人欲しいところだ。
「えっと、金治? 戦士系が欲しいその本心は?」
「強くて頼もし戦士に守って貰いたい!」
シオンの問いに力強く答えるとため息をつかれた。
「え? だってアーロンさんに守ってもらった時凄く安心感あったじゃん! ああ言う仲間がいればきっと死なずに、ピンチにならずに戦えるよ!」
「確かにアーロンさんは頼もしかったわねぇ。うちのパーティのヘナチョコ男子とは大違いだったわ!」
「だろぉ!」
俺とレイアが盛り上がるとシオンは呆れかえって言う。
「あのね、戦士って強い人ほど自分の騎士道にプライドを持ってるものなんだよ。……確かにパーティは4人がベストって言われてるし戦士系の人が入ってくれれば戦力は安定すると思う。でも、僕たちのパーティの目的って名声なんか興味なくてお金と生き延びることが全てって言うプライドもへったくれもない思考してるじゃん! こんなパーティに入りたがる戦士でまともな人間はいないだろうね」
その否定は反論のしようがないほど完璧だ。
ろくな戦士が来るわけないよな。
……そもそも今の時点でろくなのが一人も居ないもんな。
「そうよね。このパーティなら盗賊とか探した方が早そうよね」
確かに盗賊とかならいい仲間がいくらでも居そうだ。
……でも俺は諦めきれないぞ!
「いやもう仲間になってくれるなら人間じゃなくてもいい! ……例えばさっきのクラッシュマシーンとか、……スカルゴーストとか! 仲間になってくれないかな」
「「絶対無理ッ!!」」
……そりゃそうか。
「金治たちはやっぱり楽しそうだね! 俺はリリアンにたっぷりしぼられてしまったよ。お説教も終わったしそろそろこの街について話していいかな?」
解放されたワタルが元気に申し出て来た。
……まだ怒られてたのかよ。
「いいわよー。この街の問題って何よ? 食い逃げでもでたのかしら?」
レイラが答える。
食い逃げってライバル登場の予感でも感じたのか?
「そんなマヌケな問題じゃないわ、さっきの機械系のモンスターについての話よ」
フェイがいつもなら下らない話題にズルズルと進んでいく流れを止めに来る。
「うん、その通りだ。本当は極秘裏に調査していたクエストだが君たちになら話してもいいだろうとの事だ。余り大勢の人には広めないでくれよ?」
今メモの準備をしていたレイラがドキッとしたぞ。
「まず、あの機械のモンスターはここら辺一帯には存在してなかった奴らなんだ。こんな街の近くにいることはおかしい強さだしね」
確かにシオンも言ってたな、魔王城辺りにいるヤツだって。
「見ての通りあのモンスターは生き物ではない、よく出来た機械なんだ。ゴーレムとかに近いと言えるね。問題はこいつ等がブリッジロビーの近くから大量に湧き出してるってことなんだ。もしかしたらモンスター工場がこの街の近くに作られているのかもしれない」
「モンスター工場?」
「そう、機械系のモンスターを大量生産する魔王軍の兵器だ。幾つかタイプがあるから断定はできないけど、小型のモノから戦艦のような大型のモノまでありどれであろうと早急に破壊しなければ非常に危険なんだ」
どうやら思ってるより大きな問題になってるようだ。
……戦艦みたいなモンスターがいたとしてどうしろって言うんだよ?
「もし、魔王軍が進軍の準備をしているとしたら3日後に行われる領主会議兼冒険者の表彰式に狙いを定める筈だ。……そこで君たちに頼みたい! 怪しい建物やモンスターの動きを見たら是非我々に報告してほしいんだ! 相手は表彰式に集まる強者の冒険者に喧嘩を売れる軍団、もし見つけても絶対に君たちだけで戦いを挑んだりしてはいけないよ」
……ヤバいな。
なんだか知らないところで大きな計画が動いているようだ。
何かが起こる、周りの空気がそんな予感をひしひしと感じさせている。
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ワタルたちと別れた帰り道。
「ねえ、どうするの? モンスター工場だってよ…」
不安そうなレイラ。
「聞いたことはあるよ……。巨大な要塞モンスターが機械のモンスターを生み出すって。そんなのが来たらいくらワタルたちだって…」
シオンも絶望のどん底の様に暗いな。
……確かにヤバいけどそんなに大変…か?
「大丈夫じゃないの? だって勇者パーティだぜ! それに俺たちは別に戦力として数えられてはいないみたいだし。これから表彰式までの3日間、このブリッジロビーから出るつもりはないし、街の中で要塞モンスター発見……、何てことは無いだろうしな」
俺は気軽に言った。
レイラとシオンもそれを聞いて少し元気が出たようだ。
よし、もうひと押し。
「……でも一応。念には念を入れてモンスター工場が攻めてきたら一番に逃げ出せるように準備だけはしておこうぜ!」
「そうね! いざって時は逃げちゃえばいいのよね!」
「僕は今、このパーティにいてよかったって思うよ。無謀に街の平和のために戦うなんて言う仲間が居たらたらたまったもんじゃないもんね!」
仲間たちは元気を取り戻した様だ。
……いい仲間に巡り合えたんだな、俺。
そうさ、モンスター退治は勇者の仕事。
遊び人御一行はネズミより先に危険から逃げとけばいいのさ!
「さあ、暗い話は忘れよう。お屋敷に戻って晩飯を食おうぜ! 今日はグライドさんお手製のスペシャルステーキだって言ってたぜ!」
領主手作りのディナーを求め、俺たちは夕暮れの街を駆けだした。
……大丈夫、何が来ても逃げれば何とかなるよな…。




