第27話 原点回帰
俺たちはひたすらに岩地の坂を登っている。
領主のグライドさんのお屋敷に泊まり始めて3日たった。
毎日街を見ているといくら大きな街でも飽きて来る。
そこで表彰式が行われるロビーホールを下見に行くことにしたのだ。
……要はそれだけ暇ってこと。
「あ~、そろそろ待ってるのも飽きて来たわね。この街賑やかで楽しいっちゃ楽しいんだけど待ちぼうけってのも詰まんないわよね。カジノとかあればねぇ」
「そうだな、あのフロントのアホな冒険者たちもいないと居ないで寂しいなぁ。あー、もう俺だけ帰っちゃおうかな。表彰式待つの飽きたし」
「金治が帰っちゃったら意味ないじゃん。この街、貿易都市って名乗るだけにいろんな国や街のものが見られるのは面白いよ、でもちゃんとした本屋がないのはいただけないね」
退屈にイライラした俺たちはブリッジロビーの街の風評被害をぶつくさ言いながら進んで行く。
……あれ、退屈って、あれれ?
「そもそも俺はこう言う生活を始めは求めてなかったか?」
ふと思い付き足を止めた。
「何いってるのよ? 私たちが求めているのは波乱万丈の冒険と名声……、違うわ。確かに違うわ。私たちが最初に求めたものってお金と自由だった筈よね。何でこんな物語の英雄みたいな思考しちゃってんのよ私!」
ハッとしたレイラが頭を抱えて叫んだ。
「そういえば君たちそんなこと最初のころ言ってたね。……そもそも僕が君たちに会った時から今まで十分英雄じみた事してるような…」
シオンがため息をついて頭を捻る。
「止めるんだシオン、それ以上言うな。俺は英雄とか勇者にはなりたくない、ゆっくり静かに生きていたいんだ!」
「そうよ、私たちは頑張らない同盟としてパーティを組んだの! お金がたくさん欲しいだけなの! ……冒険なんてその手段の一つだった筈よ」
俺とレイラは完全に最初の出会いを思い出した。
「ハァ、随分体たらくな目標だな」
何故かシオンは呆れた目を向けてくるな。
こんなに素晴らしい目標なのに。
「ここは一つ、気持ちを新たに原点回帰して気を引き締めるわよ。勇者や英雄何て甘い言葉で私たちを惑わして苦労を押し付ける気よ!」
「そうだ! 英雄なんて体のいい雑用係だ! 俺は権力の言いなりになったりするもんか!」
おお、こんなにレイラと息がぴったり合うなんてな。
「ここは原点回帰でお屋敷に戻ってぐうたらするぞ!」
「「おーっ!!」」
レイラと抜群のコンビネーションを見せたところで俺たちは後ろを向いてきた道を胸を張って歩き出した。
「ちょっと待て、『ホーリーレイ』!」
俺たちの前に向けて魔法が放たれる。
振り返ると怒り心頭のシオンが立っていた。
「あのねぇ、お金が好きなのもだらけたいのも気持ちはよく分かるよ。でも今回僕たちは表彰式に来たんだよ、そこはちゃんとしなきゃ!」
何時になく真面目なシオンに思わずたじろいでしまう。
「で、でも俺は名誉何て…」
言い訳する俺にため息をつくと…。
「はぁ、君たちは馬鹿なのか? 忘れたのか前回の表彰を。みんなの前で貰ったものが何か忘れたのか? いいかい、僕たちは表彰式で…」
……ああ、声援とか名誉とか言うお約束展開か、臭いな。
「表彰式で金貨600枚を貰ったんだよ、600枚! それに最高級の鎧付きで! ……今回はきっともっとたくさん、いやもっといい物を貰えるかもしれないよ。それを貰うに値するだけに値する活躍をしたと思うからね!」
……おお、なんと言う事だ…。
「ごめん、シオン。お前の事見間違ってたよ。……そうだよな、これ一攫千金のチャンスなんだよな! さあ、張り切って視察に行こうぜ!」
「私もごめんなさい……。そうよね、辛い戦いをしたんだからしっかり報酬をふんだくらなきゃね!」
俺たちは固い握手を交わした。
……ああ、なんて素晴らしい友情だろうか…。
誰かがズッコケた音がした気がするけど気にしないぞ。
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原点回帰した俺たちに敵はいないだろう。
意気揚々と再び坂を上り出すと…。
「なんだあれ? ……消火栓か?」
元の世界でよく見た消火栓のようなものが地面から生えている。
黄金色の少し薄汚れたソレは岩地にはあまりに不自然だ。
「小汚いガラクタでしょ。何よコレ…」
そう言ってレイラが杖を伸ばして突くと…。
ガシュインッという音と共にそれは起こった。
薄汚いその筒は真ん中で上下に割れ、そこからカメラの望遠レンズのようなものが突き出し、下の地面に刺さっていた部分から4本の尖った足が飛び出したのだ。
つまり変形したのだ。
……何?
この世界魔法の世界じゃなくてこんな機械もあるの?
「何じゃこりゃ? ロボットか?」
「へ~、面白いわねこれ。中まで変な金属でいっぱいよ」
「えっと確かこれは……、あ、みんな離れて! それは…」
シオンが叫んだその時、消火栓ロボのレンズ部分がキラリと光って…。
青白い光線が俺たちの間を一瞬で駆け抜けた!
次の瞬間、背後で爆発音が響いた。
「な、なんなのよ?髪が少し焦げたわよぉ」
「アレは機械系のモンスター、『ピカット』です!見た目はただのガラクタですが防御力の高さと強力なビームには気を付けて!」
……なるほど、要はメカ系の敵って訳だ。
ゲームとかでも居るよな、魔王軍の破壊兵器とか言う設定のロボットの敵。
弱点は大抵雷系だが盗むを使った破壊や水系での弱体化もたまにあるよな。
どの道、有効な手段がこのパーティになさそうだというのは確かだ。
「分かったわ。……髪は女の命なのよ、100倍返しにしてやるわ! 『ファイアボール』ッ!」
いつもの如く速攻でレイラの魔法が飛ぶ。
火球はピカットに当たって破裂、……したが相手は無傷で少し後ろに押し戻されただけで何ともない。
「魔法が効かないのか?」
「そうだよ、機械系の敵は弱点以外の魔法に強い外装を持ってるんだ」
「それ最初に言いなさいよ! じゃあアイツどうすればいいの?」
俺たちがその小さな相手に苦戦を強いられた時だ。
「みんな退いて! 『エンチャント・ボム』!」
背後から赤い光線の様なものが飛んで来てピカットのレンズ部分に突き刺さり、少しおいて大きな爆発を起こして木っ端みじんになった。
一瞬見えたけどあれは矢か?
「大丈夫だったみたいね。最近ここら辺はアイツがよく出るのよ」
声の方を振り返ると崖の上にいたその人は飛び降りて来た。
俺たちの前に降り立ったその女性。
高身長でスレンダーな体格、日焼けした肌にショートカットの髪がよく似合っている。
そして手に持った特徴的な翼の様な弓。
間違いない、この人は…。
「あなた、確かワタルパーティの…」
「そうよ、覚えていてもらえて嬉しいわ。『ウォーロック』のフェイよ。……でも、のんびり話してる暇は無さそうね。敵の増援よ」
振り向くと新たにピカットが三体。
「魔法使いのあなた、レイラちゃんって言ったわね。アレに風の魔法は効かないけど、他に強い衝撃の出る魔法持ってる?」
「あ、あります! とっておきのが!」
「そう、じゃあそれで攻めましょ。僧侶はアイツらに有効な攻撃手段を持ってない、シオン君は後方で待機ね。ワタルと戦ったあなたも有効打は無いわよね?」
有効打か。
魔法じゃなくていいならあるな、とっておきのが。
「フェイさん、俺もやれます! 凄い衝撃の出る武器があります!」
「……フーン、そう。期待するわね、金治君!」
俺たちは一体ずつ相手の前に立った。
……スレンダーなお姉さんにいいとこ見せるチャンスだぞ!
「いいわよ、攻撃を開始しましょう!」
フェイの掛け声で戦闘開始だ。
「まずは私よ! 『スマッシュファイア』ッ!」
激しい爆風がピカットの一体を襲い、その魔法自体のダメージは大して入っていないようだが衝撃で後ろに弾き飛ばした。
そのまま崖に叩きつけれらたガラクタはガタガタと変な動きをした後に爆散して行った。
なるほど、衝撃が有効な訳だ。
「やるわね、レイラちゃん。私だって、『エンチャント・ボム』!」
魔法の力を帯びた矢がそのロボを爆破する。
今度は俺の番だ。
パチンコを片手に玉を一つ手に取った。
「行くぞ! 『爆裂瓶』、発射ぁ!」
高速で射出された玉は真っ直ぐ飛んで行きピカットに命中すると爆風を巻き起こし、ソイツを吹き飛ばす。
爆風に押されるように崖から落ちたピカットは転げ落ちながら爆発した。
「へえぇ、なかなかやるじゃない! 金治君のその武器って手作りでしょ? よく出来てるわね~、見直したわ!」
……おお、女性で初めてこのパチンコに共感してくれた!
「それほどでもないですよぉ! ……それよりフェイさんの魔法凄いね! ただの木の矢が爆発するようになっちゃうなんて」
フェイはああ、と言った感じで自分で持ってる武器を見た。
「これは武器に属性を付属させる呪文なのよ。さっき使った爆発は剣なんかに付ければ自爆になっちゃうけど飛び道具につければミサイルみたいになるってわけ!」
なるほど、上級職の『ウォーロック』らしい強力な魔法だ。
『ウォーロック』は魔法使いと盗賊から派生した上級職でサポート魔法や罠のような魔法が得意な職業らしい。
「そんな事よりもちろんワタルに会っていくわよね? 彼もこの上のロビーホールに行ってるわよ。まあ、クエストの為だけどね」
ワタルもやっぱり来てるのか。
1週間ぶりくらいだけどやっぱり会いたいな。
勇者ってのは不思議と周りにも勇気を与えるようで俺もワタルといるといつもより強くなれるような気がするのだ。
「はい! 絶対会いたいです!」
俺たちは雑談しながら坂を登る。
……原点回帰と言ったけど、この時にはもう俺たちの考えにも変化が現れているのかもしれない。
これも勇者の力なのかな?




