第25話 嵐の訪問者
キャラバンの旅は大ピンチを迎えていた。
6両の馬車で編成された列車の遥か後方では100匹近く集まった怪鳥型モンスター『フライングギャング』が群れを成して飛んでいる。
「は、早く逃げましょう! あんなのに突っ込まれたらお終いです!」
運転手の叫び声でハッとし俺たちは急いで馬車に乗り込んだ。
俺は激しく運転席の鐘を叩いてレイラたちは外の冒険者に早く乗り込むよう叫ぶ。
「全員乗ったな? よし、走れサイゾウ!」
そう言って運転手は先頭に繋がれた二頭の生き物に鞭を…。
ん?
「なあ、『サイゾウ』って誰だ?」
「サイゾウってのはこの馬車を引っ張ってる動物の名前ですよ。力が強いけど気性がおとなしくて馬車の牽引や建設現場で重宝されている動物ですね」
……確かにこの動物はサイの様な体と角にゾウの様な牙と短めの鼻を持っているけれどそんなダジャレみたいな名前なのかよ。
「うわっ、アイツら体当たりしようと一斉に飛び立ったよ! ……速い、追い付かれそうだ。アホな会話してないでもっと加速させてよ!」
窓の外に身を乗り出していたシオンにツッコまれた。
十分速く列車は走ってるけどまだたりないのか。
「無茶ですよ! 荷物が重くてこれ以上加速できません!」
運転士は泣き出しそうだ。
「それに一番後ろの馬車にはキャラバン全体を止めるための強力なブレーキが付いてる物でしてそれが壊されると止まれなくなってしまうんです!」
……おいおい、マジでヤバいやつじゃんコレ。
サイゾウに繋がれた先頭の馬車は正面の壁がない吹き抜けの作りになっているため前がよく見える。
このまま進むと大きな山にぶつかりそうだ。
「ねえ、金治! アンタ運だけは馬鹿みたいに高いんだからこのピンチもなんとかしなさいよ!」
レイラが泣きそうな顔をしながら揺さぶって来た。
「んなこと言われても…」
どうしようもないわな。
……前方に見える山って確かマスターが地図でキャラバンのルートを教えてくれた時、迂回するって言ってた山だよな。
それなら…。
「ねぇ、運転手さん! あの山って迂回するんだよね? それなら山の直前で曲がったらモンスターを振り切れるんじゃない?」
思い付きを言ってみるが…。
「確かにそれならば行けるかもしれません!」
希望が見えた。
「おい、山につく前に追い付かれるぞ! あの数とスピードがぶつかったらこのキャラバン何てバラバラになりそうだ!」
シオンの言葉に俺も窓から覗き込むが本当に追い付かれそうだ。
ああ、やったと思ったのに。
「それならシオン、私の魔法で足止めするわ! 一番後ろからキツいの一撃ぶち込んでやるわよ」
「確かにちょっとでも足止めできれば何とかなるかも…」
レイラとシオンの言葉に馬車後方をみるが山積みの荷物で道が塞がれている。
これじゃあ一番後ろの車両にたどり着く前に追い付かれそうだ。
この爆走中に叫んでも他の車両にいる冒険者には聞こえない。
……怖いけど仕方ないか。
「よし、屋根から一番後ろに行くぞ!」
そうレイラとシオンに叫ぶと梯子に飛びついた。
大丈夫、クロムの加護があるならトラブルを呼び寄せるだけじゃなくてそれを乗り切る運も付いてる筈だから。
走行する列車の上は風が強く揺れも激しい。
……こう言う列車の上での戦いのシーンとかあるけどさ、どうやって戦ってんだよ!
無理だろこの揺れじゃ落ちないようにするので精いっぱいだ。
「クソッ、走るぞ!」
文句はあるけどそんな暇はなさそうだ。
何としてでも生き残る、そのために俺たちは走り出した。
何度も振り落とされそうになりながら何とか6両目の馬車に飛び乗った。
ギリギリ後ろまで行くともうフライングギャングの群れは目前にいる。
レイラは杖を、俺はパチンコを構えて…。
「行くわよモンスター! 『スマッシュファイア』ッ!」
「『爆裂瓶』をくらえッ!」
レイラの杖の先から爆風が走る。
俺は『爆裂瓶』を3個一度にゴムに掛けて発射する。
群れの先頭集団に当たるとレイラの魔法と混ざって大きな爆発を巻き起こした。
「ピギャァァァァッ!」
フライングギャングたちは叫び声を上げながらスピードを落とした様だ。
「やるじゃないか、お前たち!」
窓から身を乗り出した車掌がそう言って手を振って来た。
列車の前方には山の手前に広がっている林が迫って来た。
先頭の馬車が大きく左に曲がり、後続の車両も引っ張られて曲がって行く。
俺たち三人は屋根にへばりつく様になって衝撃に耐える。
列車は完全に曲がり切ったがフルスピードで追ってきていたフライングギャングたちは曲がることが出来ずに真っ直ぐと林の中へ吸い込まれていった。
突っ込んでいった先で姿は見えないがもの凄い音と共に砂煙が高く吹きあがった。
どうやら、俺たちの作戦は大成功したようだ。
他の車両からも乗客が顔を出して驚いている。
「やった……、あ…?」
思わず声を飲み込んだ。
……なんでこうピンチって次から次にやって来るんだろうなぁ。
後で絶対クロムに文句を言ってやる。
俺はそう心に誓ったのだった。
フライングギャングたちが突っ込んで砂煙が上がった場所から何か大きい、ゴツゴツとした見た目の人型のものがゆっくりと立ち上がり…。
「ガアァァァァァァァアッッ!」
叫び声を上げてソイツは動き出したのだ。
キャラバンの列車は山に沿って迂回するように右にカーブして走って行く。
その先に先回りするかの様に歩き出したのだ。
「うわぁぁぁあぁっ、あれは『ジャイアントゴーレム』! 何でこんなところに。……このままじゃ僕たち潰されちゃうよ!」
「キャァァァッ! もっと急いでよ近づいてくるわよ!」
「く、来るな! こっちにくるなぁぁぁぁあ!」
俺たちの叫びも無駄にソイツはゆっくりと歩く。
……だが本当にもの凄くゆっくりとした動きだ。
先回りしたジャイアントゴーレムは拳を振り上げて駆け抜けようとする列車に向けてゆっくりと拳を振り下ろした。
キャラバンの列車は高速でゴーレムの前を駆け抜ける。
抜けれるか?
しかしその希望も淡くちょうどこの6両目に拳が当たりそうだ。
……今日の俺、運最悪なんじゃねーの?
「走れお前たち!潰されるぞ!」
車掌の言葉にハッとし、俺たちは5両目の屋根に駆けだした。
ちょうど俺たちが飛び移ったタイミングで巨大な壁の様なジャイアントゴーレムの腕がさっきまでいた場所を叩きつける。
もの凄い音を立てて6両目のブレーキ車が粉々になる。
その後列車はゴーレムに背を向け高速で離れて行った。
鈍いゴーレムはもう追い付けないだろう。
「最悪だ…」
5両目の後ろに飛び移っていた車掌が呟く。
「……もうこの列車は止まれないぞ」
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「うわぁ~、この世界にも海があったんだぁ」
キャラバンの列車は海を右手に海岸線を爆走する。
「海なんかで感動してる場合じゃないのよ! しっかり考えなさいよ金治!」
バシバシと叩いてくる泣きそうな顔のレイラ。
俺たちと車掌は先頭の運転席に戻っていた。
「どうしようもないよね。…それより僕も海初めて見るんだ。広いなぁ」
うん、シオンも魂が抜けた目をしてるな。
暴走を始めて結構たったらしく、もう夕日を背後にして走っている。
「皆さん、ブリッジロビーの門が見えましたよ!」
運転手はそう叫んで鐘をけたたましく鳴らした。
上に『ブリッジロビー』と看板が付いた大きな石の門に迫っている。
門番の兵士はこちらに気が付くと慌てて門の中に駆けこんで行く。
「うわぁぁぁぁっ、みんな伏せるんだっ!」
暴走列車は木でできた大きな扉をブチ破ってブリッジロビーに侵入した。
車掌の声で伏せていた顔を上げると列車は建物の間の石畳の上を進んでいる。
けたたましく鳴らし続けられる鐘の音を聞いた住民たちはみんな建物のなかや路地へと飛び込んで行く。
真っ直ぐ続く道の先に大きな噴水がある広場が見えた。
「このままじゃぶつかります!右と左どっちに曲がれば…」
「ほら金治! 右か左、二分の一よ! 運はいいでしょどっちなのよ!」
レイラは俺の首根っこを掴んで喚き散らした。
「二分の一っつったってなぁ…」
コイントスじゃないんだから当てずっぽうって訳にはねぇ。
……ん?
待てよ、ここは海の隣にあるんだよな、それなら…。
「そうだ右だ、右に曲がるんだ!右に行けば海なんだから砂浜かなんかに出れる筈だ!」
砂浜にはそうそう建物はない筈だ。
「運転手さん右よ! 大丈夫、私たち運はいいから信じて!」
「わ、わかりました、右ですね…」
悲鳴があちこちから飛び交うオシャレな建物ばかりの広場を右折して行く。
噴水の横を通過し、右側の道に入った。
オシャレな海辺の町に災害の様にやって来た暴走列車は今度はその通りをぐんぐん進んでいく。
先頭の二頭のサイゾウは疲れ果てているようだが列車が重くてとても止まれないようだ。
前方で石畳の道が途切れ、柵がつけられた行き止まりが見えた。
……もしかしてハズレを引いちゃった?
カラフルな屋根のついたオシャレな建物の間を走り切ったキャラバンの列車は勢いが全く落ちないそのままで柵を突き破り空へと飛び出した。
世界がゆっくりとスローモーションにでもなったかの様だ。
遠くまでよく見える。
向こうに見える大きな橋は海の向こうの島に繋がっている。
その橋の近くには数本の高い煙突から煙を上げる、工場みたいな建物が見えた。
後ろには海辺の斜面をそのまま利用して作ったのであろう『ブリッジロビー』の街並みの全容が鮮明に見えた。
……綺麗な街だなぁ。
次の瞬間、キャラバンの列車は激しく砂浜に落下し尚も前進する。
おもちゃのように馬車の中で振り回された俺は窓から飛び出し、宙を舞う。
……ああ、よかった、列車は何とか止まったみたいだ。
砂浜に頭から叩きつけられた。
……何で俺が、こんな目に…。
そう思いながら視界がフェードアウトして行く。
貿易都市『ブリッジロビー』。
最悪な訪問を果たした俺たちはこれからどうなるのだろうか…。




