第24話 女神クロム様
キャラバン隊の長い列車が草原を爆走する。
昨日の朝フロントを出発して今日は2日目、今日の夕方には『ブリッジロビー』に到着するだろうとのことだ。
1週間後の表彰式に向かう旅。
車窓から見える風景は正しくファンタジー世界のフィールドといった感じで見渡す限りのだだっ広い草原には人工物は何もなく、遠くに見える森や遠くの空にはよく分からないが元の世界ではまず見たことがない生物が時折姿を現している。
荷物が幾つか積まれた馬車には俺たち以外の旅行客も数人乗っていた。
俺たちは木箱や樽を並び替えて作った即興のステージの上で他の乗客に向かって冒険談を語っているところだ。
「……で、俺の会心の一撃がドラゴンに止めを刺したのさ!」
ドラゴン退治の冒険談を話し終えると他の乗客から感嘆の声が上がった。
冒険とは関係ない人たちにも喜ばれるのは何気に嬉しいものだな。
冒険者だとレイラが自慢したところ俺たちの冒険の話を聞きたがったので転生してこの世界に来てからのことを三人で身振り手振りを交えながら語らせてもらったのだ。
「ほぉ、お前さん方まだ若いのに厳しい戦いをして来たんだのう」
「お兄ちゃんたち凄いなぁ。……私、冒険のお話し大好きなの。お兄ちゃんって今まですごく上手くやってきたたのね、こんなにすんなり強敵を倒してきたなんて伝説の勇者様みたい!」
冒険談を語り終えてザワついてる車内、お爺さんとその娘らしい子が話しかけてきた。
「勇者ってワタルの事か? アイツもう伝説扱いか、すげぇな。……俺なんてちょっと運がよかっただけでそんな凄い勇者なんかじゃないよ」
謙遜したつもりだが仲間たちは…。
「その通りよね、よく分かってるじゃない! 私と会ってからここまで金治のことをよく見てたけど冒険者たちも魔法の道具もモンスターさえもあなたの武勇伝作りに協力してるように見えたわよ。……やっぱり運が良すぎわね、羨ましいっ!」
「レイラだって十分その恩恵受けてるようにみえるけどな。……確かに今日まで金治は明らかにレベル以上の相手に苦戦はしても最後は誰かの創作物語の様に勝ち抜いて来たよね。いくら僕という優秀な仲間がいるからっていくら何でも出来過ぎな様な…運がいいで済まないくらい」
おいおい、そんなに風に怪しむことないだろ。
それならもしかして…。
「運だけじゃないってなら、俺の真の実力がもの凄いんじゃ…」
「「それはない!」」
…デスヨネー。
「フフフッ、お兄ちゃんたちってとっても仲良しなのね! そんなお友達がいるって私、羨ましいわ」
女の子が嬉しそうにそう言うけど…。
……俺たちそんな仲いいか?
二人と顔を見合わせた。
「素敵なお友達に出会って上手く冒険出来てるのはきっと運がいいからだけじゃないわ。クロム様が見ていてくれてるからよ!」
「え、クロム様って誰?」
「あなたクロム様を知らないの! この辺じゃ有名な女神様なのよ?」
信仰心皆無に見えるレイラも知ってる神様なんてよっぽど有名なのだろうなぁ。
……てか、クロムってどこかで…。
「ホホホッ、知らないなら教えて差し上げましょう。楽しい冒険談のお礼です。……女神クロムは死者の魂を導くとされているこの地に馴染み深い女神様でしての、彼女は人間のことが大好きだと言われているのですわ」
……あ、死んだときこの世界に俺を転生させてくれた人ってたしか…。
「中でも冒険者から慕われている女神様でのう。クロム様に気に入られて見られている者には女神の祝福とまだ見ぬ冒険が与えられると言われているのですわい」
間違いないな、冥界の入口とやらで出会った俺をこの世界に転生させたあの時の女神、確かにクロムって名乗ってたぞ。
元の世界じゃ聞いたこともなかったけどこの世界の神なら当然か。
「そのお爺ちゃんの言う通りよ。死に一番近い冒険者って言うモノを志す人は大概みんなクロム様を信じているの。…だから冒険者たちはみんな一番面白い武勇伝を作ろうと冒険したり、何時でも楽しそうに希望を持って生きているのよ。クロム様に振り向いて貰いたいからね!」
レイラは胸を張ってそう言った。
なるほどクロムも言ってたな、「楽しみに見させてもらう」って。
つまりここまでトラブル続きなのもそれを何とか突破できているのも全部クロム様のお陰ってわけか。
初心者向けクエストがボス戦になったりドラゴンと戦う羽目になったのも全部ねぇ…。
「僕も女神クロムはいい神様だと思ってるよ。それよりも僕が嫌いなのは宗教家を名乗って何か起きても神が仰るからとか古典的なセリフを並べるだけで何も出来ない人間だからね。決まった宗教がないクロム様は信じられるね」
無宗教を語ってるシオンも珍しく背定的だな。
「金治は信じる? クロム様のこと」
「もちろん信じるよ。ここまでの冒険もクロム様とやらのお陰みたいだしね。……次にもう一度会ったら一言文句いってやるさ」
そう答えるとレイラとシオンは不思議そうに…。
「もう一度……、って会ったことあるの?」
「神様に生きた人間が会える訳ないだろ?」
「前にも話たけど死んで転生した時に…」
「「ああ、夢の話か」」
ぴったり合わせて夢扱いはないだろ。
「ホホホホホッ。会えるかもしれませんよ、クロム様に」
それを聞いてたお爺さんが笑いながら確かにそう言った。
俺たち三人は驚いて一斉に振り向いて…。
その時だ、ガンガンとけたたましく鐘の音が鳴り響き…。
「モンスターの襲撃だ! 護衛の冒険者は戦闘の準備を急いでくれっ!」
運転手の叫び声が聞こえて来た。
それに続いてもの凄い揺れと共に列車が停止したようだ。
「な、なんなのよ?」
うろたえる俺らにお爺さんが。
「大丈夫、キャラバンは護衛に強い冒険者を雇ってる筈じゃ。待ってればすぐに…」
そう言った瞬間に爆発音が響いて俺たちの乗っている馬車が激しく揺れた。
車内ではあちこちから乗客の悲鳴が上がる。
これはピンチの予感。
「大丈夫じゃなさそうだぞ! 俺たちも先頭の方に行くぞ!」
「そうだね、外を見たけど囲まれてる。ここは僕たちみたいなのでも居ないよりはマシだ! 急いで手伝いに行こう」
三人で駆け出そうとすると。
「危険じゃ! ここで待ってた方が…」
「大丈夫! これでも俺たちは冒険者です!」
その答えに怯えていた乗客たちも笑顔になった。
「頑張ってね、お兄ちゃんたち!」
女の子のその言葉に俺たちは答えると前の車両に向かって走り出した。
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荷物をかき分けて進むと列車の一番先頭で列車を引く生き物の手綱を握っている運転手が見えた。
「俺たちも冒険者です! 助けは要りますか?」
「はひっ! ぼ、冒険者ですか? なら護衛の方たちの助太刀をお願いします!そこの梯子から馬車の屋根に上れます。どうかこのキャラバンを守って下さい!」
怯え切った運転手は頭を下げて頼んで来た。
……おいおい、俺たちなんか出て行って役に立つ相手なのか?
「ほら、金治も早く行くわよ!」
既に梯子に手をかけているレイラに急かされて俺も梯子を登り始めた。
短剣を片手に馬車の屋根に立つともうすでに護衛の冒険者たちが屋根の上や周りの草原で戦いを始めていた。
相手はゴブリンと空を飛ぶ小型の翼竜みたいな奴らだ。
ドラゴン系には見えないけどあの飛んでる方はなんだ?
魔法使いや弓を持った奴らが攻撃しているが飛んでる奴らは器用にかわす。
「そ、そいつらは『フライングギャング』! 手を組んだ小型のモンスターを運んでキャラバンを襲ってきます! 頭が良くて素早いので気を付けて」
下の運転席からガクガクに震えてる運転手が叫んだ。
振り向いたその時…。
「危ない金治! そっちに行ったぞ!」
シオンの声ではっとする。
フライングギャングの一体が俺に向かって突っ込んで来ていた。
慌てて短剣をそいつに向かって突き出したがここは馬車の上。
後ろも横も飛び退いたら落ちてしまう。
万事休すか……、と思ったが俺に向かって飛んできたフライングギャングは短剣に当たると激しい白い閃光と共に真っ二つになって後ろに墜落して行った。
「やるう金治、かっこいいわよ!」
素早く切りつければ威力が上がる魔剣『ミリオンスター』。
相手が素早くても威力が上がった様だ、ラッキー!
「私も負けてられないわねぇ。行くわよ、『スマッシュファイア』ッ!」
「僕だってやるぞ、『ホーリーレイ』!」
激しい爆風と白いビームが空にいる敵を撃ち落とす。
「な、何あなたたち? 手伝ってくれるの? ……助かるわ、苦戦してたの!」
そう言って手を振る女魔法使い…。
そんな彼女の後ろにフライングギャングがゴブリンを投下した。
「危ない! 伏せてっ!」
思わず叫んで走り出した俺はマントのお陰か凄い加速を見せて馬車の屋根を駆け抜ける。
そのスピードのまましゃがんだ女魔法使いを飛び越してゴブリンを切り捨てた。
……今のは我ながらかっこいいじゃんっ!
「やるなぁ兄ちゃん!」
「イカしてるぜっ! 俺も負けてられないな!」
それを見たさっきまで押されて苦悶の表情だった冒険者から歓声が上がった。
「あ、ありがとう助かったわ! 奇跡みたいね!」
「そうよ奇跡よ! きっとクロム様のご加護ね」
合いの手を入れるレイラ。
そうだな、クロムに見られてると奇跡が起こるんだったな。なら…。
「クロム様とやらがついてるから絶対負けないぞ! 行くぞみんな!」
思わずしちゃった強気な発言に上がる歓声。
もう勝ちムードだ。
「反撃よ! 『ライト・ジャベリン』!」
「『アイスシュート』ッ!」
「ゴブリンなんかに負けるかッ! 『パワースラッシュ』ッ!」
一斉に冒険者たちは魔法や技で猛反撃。
数が減って来たフライングギャングはギャーギャーと鳴き声で一定距離に統制を取ったかと思ったら一斉に口を開け、赤く光り出した。
「ブレスを吐く気だな。それならこっちは『マジックカーテン』!」
シオンが呪文を唱えると同時にフライングギャングたちは炎を噴出した。
キャラバンを囲むように並んで全方位からのブレスは避けようがない。
しかしそんな時、ドーム状に光の幕がキャラバンの列車全体を覆うように広がり、それに炎がぶつかった。
炎がそれに完全に弾かれ…はしないが色が薄くなり明らかに勢いがなくなったブレス攻撃が俺たちみんなを襲った。
しかしたいして熱くないな。
「これはブレス攻撃を防ぎはしないけど弱める魔法だよ。ここまで弱くなるってことはアイツらの攻撃、全然たいしたことないね!」
得意げなシオン。
防御も完璧なようだ。
……ここまでRPGらしい戦闘は初めてでなんか感動するなぁ。
勝ちを確信して騒ぐ俺たちを見てかフライングギャングたちは距離をとって一か所に集合した。
逃げ帰るのかと思ったが…。
「マズくないかあれ?」
一人の冒険者の声で騒めきだした。
「そっか! 確かフライングギャングはピンチになると…」
レイラが何か言いかけた時には手遅れだった。
「ピギャギャギャギャァァァァアアアッ!」
フライングギャングたちが一斉に鳴くとどこからともなく何かが飛んでくる…。
あれは……、マズいな。
「そうよね……。ピンチになると仲間を呼ぶのよ…大量にね」
50匹以上……、いや100匹近くいるんじゃないか?
これは本当にピンチだな。
何でこうなった?
……ああ、そう言えばクロム様の加護だかがあるんだよなぁ。
幸運を呼ぶけれどトラブルも呼び込む、女神クロム様の加護が。




