第21話 勇者VS遊び人
歓声響く闘技場のステージの上、俺はワタルと向かい合って剣を構えている。
その強さから勇者と呼ばれている『ソードマスター』のワタルと運が高いだけの『遊び人』の俺の決闘、…そんな結果が分かり切った勝負なのに観客席の冒険者も街の人も盛大に盛り上がっている。
お笑いショウの名目で呼び込んだギャラリーだが今はこの決闘の開始が今か今かと待ち望んでいるようだ。
1回目の決闘では始まった瞬間俺の敗北宣言で試合が終わった。
いつもなら今回も負けを認めて逃げ出しているのが俺だ。
でも、逃げないぞ! 逃げてたまるかっ!
こんな真剣な気持ちは初めてかもしれない。
人の気持ちなんて二の次の俺もワタルの覚悟は理解した……、いや理解はできないが何かを感じた。
答えなければいけない何かを!
勝ち目はないけど、自分に全額ベットしてやる!
「……それでは両者構えて…、試合、開始ッ!」
全身全霊で受けて立つぜ、ワタルっ!
レイラの掛け声で決闘の幕は切られた。
ワタルは手に持ったその魔剣から電撃を放ちながら俺に向かって駆けだした。
俺は敗北宣言をするわけでもステージから飛び降りて負けるわけでもなく、短剣を握りしめてワタルに向かって突撃した。
……負ける気なんてない、勝つぞ!
「行くぞ金治! これが俺の魔剣『ギガノライガー』だっ!」
そう叫んでワタルは電撃の魔剣を振り下ろした。
こんなの食らうわけにはいかない!
俺は魔法のマントのお陰で素早さは比較的高い。
対してワタルはいくらレベルが高くてもあのゴツい鎧、動きにくい筈だ。
速さを生かして回り込むぞ!
振り下ろされたワタルの魔剣は地面に打ち付けられ激しいスパークを起こす。
……軽く地面が抉れてるじゃねぇか!
あんなのに当たったらお陀仏だ!
「今度はこっちの番だ、俺の魔剣をくらえっ!」
今度は俺がワタルの背中に魔法の短剣『ミリオンスター』を振り下ろす。
しかしさすがは『ソードマスター』、素早く振り返り、剣を斜めに構えて俺の攻撃を防ぐ。
激しくぶつかった二つの魔剣は白い閃光と稲妻をまき散らした!
そこからは連続で振られるワタルの魔剣を必死で弾きまくった。
いくら俺のステータスは低くても装備はこっちも魔法の剣、力を込めて振るほどに威力は上がってワタルの剣にも何とか対抗出来ている。
……でも防戦一方、このままじゃ…。
そんなことをやってると突然ワタルは後ろに飛び退いて…。
「そろそろ吹き飛んでもらうよ! 『クロススラッシュ』ッ!」
そう叫ぶとワタルの剣が赤い光に包まれ、その剣を十字に二回振ると交差した赤い剣筋がそのままこっちに飛んできた!
きっと剣を使った魔法だろう。
デカいその光は走ってもとてもかわせそうにない。
でも俺はまだ…。
「負けたくないんだっ! 『ワン・モア』ッ!」
ワタルの魔法が直撃した瞬間体が輝き、『ワン・モア』のバリアが弾けてその斬撃をはじき飛ばした!
……よし、『ワン・モア』は有効だ。
使えるのはあと3回くらいか?
戦いながらの魔法は疲れやすいようでいつもより多くは使えなさそうだ。
「凄い防御魔法だね。……それなら俺はもっと強いのをもっとたくさん撃ち込むまでだ、さあ行くぞ!」
どうやらワタルは『ワン・モア』を毎回砕けるバリアではなく、頑丈なシールドを張る魔法だと思ったようだな。
これはラッキーだ。
早く魔力切れになってくれるかもしれないぞ。
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その後はワタル優勢のまま勝負は続き、魔剣を駆使した電撃攻撃や雷の魔法を駆使したビーム攻撃で攻め立てて来た。
なんとかそれをかわし、『ワン・モア』を2回使ってしまったがまだ俺は戦えている。
……でももうジリ貧だ。
何かないのか?
ふと、周りを見回した。
観客席には顔なじみの冒険者や街の人たちがたくさんいて声援を送っている。
ステージの下にはレイラとシオン、リックとバードにバルドまでいつの間にか駆けつけて応援している。
……ワタルは『ソードマスター』の力をフル活用して戦う。
数々の剣技に魔法、『遊び人』とはスペックが違い過ぎる。
そう言えばギルドのマスターが俺たち三人に前話してくれたな、「職業ごとに特技、弱点は違う。ひとつの職ですべてをこなすのは不可能だ。職の特徴を知り、生かすのが一流の冒険者だ」って。
じゃあ、ワタルの『ソードマスター』の特徴は?
強力な必殺技がいっぱいあること? 剣の扱いが天才的なこと?
なんでもできる職は無いなら出来ないことは?
回復? いや、最初に使って来た補助効果を消す魔法はきっと状態異常回復の魔法の応用だろう、シオンの魔法に似た感じがした。
恐らく奴は回復魔法を持っている。
考えろ、…ゲームだったらこの職業にはどんな欠点を付ける?
……補助魔法は使ってないな。
もし出来たら魔剣を持つ俺が相手なんだから防御力か力を強化してゴリ押しして来て、もう決着はついてる筈だ。
でも、弱体化の魔法なんて知らないし付け入れないか…。
俺の『遊び人』は欠点しかないんじゃないか?
運がいいのは俺特有みたいだし、素早さが高いのも装備品の効果だ。
『遊び人』にしか出来ないことは?
……決まってるよな、遊ぶことしかねーじゃねえか!
実験も試し撃ちもしてないけど、失敗したらワタルがパワーアップしちまうかもしれないけど、…その時は逃げ回るまでだ!
最後の『遊び』の時間だ!
「行くぞワタル、サイコロで勝負だっ!」
そう叫んで左手の『ダイスの腕輪』からサイコロをとりだした。
……たとえ自分を強化しても、たとえ6が出てもワタルのステータスに敵わなそうだ。
なら推測を、予想を試してやる。
この戦いめいっぱい遊ぶぞ!
「くらえっ! ダイスロールッ!」
突然の俺の叫びに戸惑うワタルに向かってサイコロを投げつけた!
サイコロはワタルの頭に当たったが鎧に弾かれて床に転がる。
……俺はやっぱり運がいい、出た目は6だ!
そのサイコロは予想通り赤く光って消えた。
「何をした……、うわっなんだこれ!」
ドゥーンという低音とともにワタルの頭から足先まで赤い光が走った。
やった、上手くいったぞ!
スカルゴーストにサイコロを投げた時のことを思い出したんだ、あの赤い光が出た後スカルゴーストはうろたえてシオンの魔法で予想外のダメージを受けて倒れた。
つまり、あの赤い光で…。
「なんだなんだ! 体が突然重く…剣も重い? 力が入らないぞ?」
予想通り大きく弱体化したようだ。
強化と同じ割合なら恐らく6分の1にステータスが下がってる筈。
……このチャンスに残り全部賭けるぞ!
「行くぞワタル! 決着をつけるぞっ!」
叫びながら短剣を振り下ろす。
何とかワタルは剣で受けるがこちらの魔剣の白い閃光で弾かれている。
形勢逆転だ!
……このまま押しまくってステージから落とせば…。
……でも、伊達に勇者と呼ばれてないな。
ジャンプでステージギリギリの場所に飛んで距離を取りやがった。
「最大の魔法で終わらせてやるっ! これが勇者の全力だ、『ゴッドソード』ッ!!」
ワタルが天に掲げた『ギガノライガー』に金色の光が集まって巨大な剣を形成していく。
空に向かって光の柱のようなデカすぎる剣が完成した。
……おい、これ、大丈夫か?
かなり疲れたし魔力も残り少ない『ワン・モア』で防げるのか?
そもそもこの魔力で発動するのか?
……これは『降参』でも仕方ないんじゃないか…?
んなわけないよなっ!
今回は負けるつもりはない、賭けてるんだ。それに…。
……声援が聞こえる。
周りの観客席のお馴染みの冒険者声だ。
すぐ後ろからはレイラたちの声。
ここって静まり返る場面じゃねーのかよっ!
なんか見たことないくらい巨大な大魔法使ってるヤツがいるんだぜ!
絶望して膝をつく展開じゃねーか!
全く空気の読めない奴らだな、冒険者ってのは。
……俺も、冒険者なんだよな。
みんなの声援が聞こえる。
俺、仲間の声でパワーアップとか嘘臭いご都合展開だと思って大嫌いだったな。
でも今なら分かる。
仲間の声って勇気をくれるんだぜっ!
「これで最後だ、行くぞぉぉぉおぉぉぉぉっ!!」
自分は生涯、絶対出さないだろうと思ってたような声で叫びながらワタルに向かって駆けだした!
「望むところだっ!『ゴッドソード』、発射だぁああああああっ!」
……さすが主人公キャラ、雄たけびもかっこいいな!
巨大な光の剣がこっちに倒れるように迫って来る。
「もう一度、届けっ『ワン・モア』ッッ!」
光の剣に飲み込まれた。
ワタルの魔法に負けないくらい俺の体が輝き、ガラスのようにバリアが砕ける。
……光の剣を突き抜けた!
そこはワタルの目の前だった。
ワタルは剣を構えて防御することもなく地面に剣を振り下ろした格好のまま止まっていた。
そして、その表情は満足感を得たような、やさしい笑顔だった。
俺は短剣で無防備になったワタルの胸を斜めに思いっきり切りつけた!
シュパーンッという音と共に白い光が噴出し、ワタルは後ろに倒れた。
ワタルの後ろにはステージがない。
そのまま1mほど下の地面に落ちていったのだ。
「…………ッ! 勇者ワタル、リングアウトッ! ……この試合、フロントの街の冒険者っ、金治の勝ちよッッ!」
しばらくの静寂のあと、拡声器でレイラの声が闘技場に響き渡った。
その次の瞬間にはドラゴン退治の時以上の、最大の歓声が巻き起こった!
呆然としているとフラフラとワタルがステージに上がって来た。
「おめでとう、俺の完敗だ! お前のが勇者だよ」
……王道なセリフだな、でも悪くない!
ここはこちらもこう返すべきだな。
「いいや、これで1勝1敗の引き分けだ。決勝戦をする?」
「……ッ! 止めておこう、この続きは次の機会にさせてもらいたいな。お前はこの街の本当の勇者だ、握手してくれるかい?」
「もちろんっ!」
ここまで固い握手は初めてだな。
「おめでとうっ、金治! やってやったのねっ!」
「まさか君がアイツに勝つなんてね。僕も年甲斐にもなく感動しちゃったよ。……何はともかく、おめでとう!」
「ワタル大丈夫? ……いい勝負見せてもらったわ! おめでとう!」
「チェッ、負けたのに敵と握手なんてこんな平和な決闘初めて見たぜ。でもどっちもナイスファイトだったぜ!」
レイラとシオンたちにワタルの仲間たちもステージに駆けあがって来た。
大声援のなか手を振る俺たち。
俺は王道の主人公みたいな冒険は絶対にしたくないと思ってたし、『王道』ってモノ自体無意識に嫌っていたのだろう。
……でもこんな王道の大団円も悪くねぇな、最高だ!




