第22話 冒険への招待状
3日間、連日連夜の大騒ぎだった。
決闘で勇士を示した勇者ワタルとその仲間たちの歓迎会がフロントの街全体で行われていたのだ。
商店街の屋台はこぞってセールを行い、旅芸人や吟遊詩人の職の連中は街のあちこちで一斉にパフォーマンスをして町全体がギルドになったようだった。
冒険者も街の人も大人も子供も誰もが自由に飲んで騒いで自慢話に花を咲かせ、決まったルールがあるわけでもないのに誰もがお互いを称えて笑い合うその光景は不思議と暖かく、モンスターがいっぱいの世界の筈なのに平和というものを感じた。
俺、祭りとか人が多いのはウザったくて嫌いだったけどこういうのっていいな!
ワタルパーティと乾杯したり、「勇者御一行がご来店した店は大繁盛するらしいぞ」という根も葉もない噂で呼び込みに必死な店を回ってあげたりしている内にあっという間に時間はたった。
今日、そのワタルたちがフロントの街を出発する。
元々ここには次の街に用事がある旅路で補給と休憩で立ち寄っただけで、もともと3日間だけの滞在予定ところ5日間も過ごしてしまったため急ぐのだそうだ。
さすが有名人、スケジュールがいっぱいってわけだ。
「いろいろとありがとうみんな! 色々な街で歓迎されてきたけどこんな親密で楽しいのは初めてだった。最高の5日間だったぜ! ……最初の癇癪は忘れて欲しいがな」
ワタルが代表してそう言う。
朝早いが正門から旅立つワタル御一行をギルドのみんなで見送りに来たのだ。
「え? 話題の勇者様が癇癪持ちで嫉妬深いっていうのはもうこの街の全員が知ってるわよ。……でも本気になった時はかっこよくて強いって事もね!」
レイラが意地悪っぽくそうってウインクした。
「いつか僕のが凄いヒーラーになって見せるからね。その時はリリアン、もう一度勝負だ! 僕は二度と負けないよ!」
「うんっ! 私ももっと強くなってシオン君の挑戦に答えるわね! 約束よ」
シオンとワタルパーティの回復職の女の子、リリアンはいつの間にか魔法で勝負をしたようでライバルの様になっている。
……お子様同士お似合いなんじゃねぇかコイツら。
「あ、鎧のソレかなり目立つな。いいのか? 弁償とか」
ふと気がついて問いかけた。
ワタルの青い鎧の胸の部分には決闘の時俺が切りつけた跡がしっかりと残っている。
……4大金属だかの鎧とか言ってたし絶対高価なヤツだろそれ。
「そんなのいいよ! この傷は俺に過ちを気づかさせてくれた凄い友がくれた勲章さ。……武勇伝が被った時、どちらが強いかはっきりさせればいいものじゃない。そいつよりもっと頑張って名を上げればいいだけなのさっ!」
そう言うとワタルは右手を差し出して…。
「金治! 最後にもう一度握手してくれないかい?」
ニッと笑いかけてきた。
まさかこんな正義の味方、爽やかスポーツマンみたいな友達が出来るとはなぁ。
……俺が一番嫌いだったタイプじゃねーか。
それに、もし俺なら鎧の弁償として倍額は請求してただろうな。
ワタルってなんでこんないい奴なんだ? 絶対モテるだろ。…イケメンだし!
「いいぜ! ワタルも旅、頑張れよっ!」
決闘の後の様に固い握手をもう一度。
「またすぐ会える、そんな気がするんだ。…俺たちはここから南にある『ブリッジロビー』に向かう。きっと帰り道にもフロントには立ち寄るからそれまでサヨナラだ。それじゃ、……勇者パーティ、出発だッ!」
「「「おうっっ!!!」」」
ワタルの掛け声に彼の仲間たちが答えて歩き出した。
勇者一行は冒険者たちの声援を背に、真っ直ぐと歩いて行ったのだった。
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ギルドに戻ると隅に酔いつぶれた冒険者が山積みにされ、マスターが宴の後始末をしていた。
「おう、戻ったかお前たち。早速で悪いがそこの馬鹿どもを外に捨てて来てくれないか? こう床を汚されちゃ掃除が終わらん」
「…そ、そりゃあねぇだろマスタ…オェェ…」
連日の騒ぎで大半の冒険者がこのザマだ。
……この街には節操ある大人はいないのかよ。
「しょうがねぇなぁ、ほらお前ら外行くぞ! レイラ、シオン手伝え」
「仕方ないわねぇ、さあ、とっとと歩きなさいこの酔っ払いども!」
「可哀想だから少しは楽にしてあげるよ。『ヒール』!」
俺とレイラで二日酔いの冒険者を運び出してシオンが回復魔法をかけてやる。
……前の宴の後もこんなだったなぁ。
嵐のような5日間が終わり、またいつもの生活の始まりを強く感じた瞬間だった。
駄目な大人たちを全員井戸の周りに放り出して戻った俺たちはギルドの食材倉庫であーだこーだと話し合いだ。
倉庫には大きめの樽がいくつか並んで、その上には漬物石代わりに暗いワインレッドの輝きをした伝説級の鎧が雑に積まれている。
ワタルが俺が貰った筈の鎧を着ていないことに疑問を持ち、彼の仲間がマスター作の漬物を気に入った。
その時に彼らをここに案内したがあのベテラン冒険者たちのあきれ果てた顔は当分忘れられそうにない。
「結局これどうするのよ?」
真っ赤な金属で出来たその大きな剣を見ながらレイアは言う。
これははワタルが決闘で賭けて来た炎の魔法が込められた魔剣だ。
……くれるというので遠慮なく頂いたぞ。
「このまま置いておくのは危険だよ。マスターも火事になるから何とかしろって言ってたし」
シオンの言う通りこの剣は何かを叩いたり、衝撃が加わる度に刀身から炎を噴き出す置いておくだけでも危険な魔法のアイテムだ。
何かの拍子に倒れたり、上に物が落ちるだけで火事になるだろう。
「これなら貰わなければよかったかなぁ……。俺の魔剣みたいに鞘がついててくれたらよかったんだけどな」
「こんなの貰ったのは誰よ? あのいい感じの展開で貰うものしっかり貰うなんて図々しいわねぇ!」
「それはレイアだろ! 僕もあの時は気づかなかったけど、決闘の観客から入場料まで取ってたなんてがめつすぎるんじゃないかい?」
「私はまだマシよ。リックとバードなんて『金治とワタルどっちが勝つか』って賭けをやって当然みんなワタルに賭けたから大儲けよ! 羨ましいっ!」
散々な言われようだな魔剣『プロミネンス』。
それにしてもみんな見てないところで何やってんの? たくまし過ぎない?
俺もかなり意地汚い自信があったけどこの街の連中も相当だ。
そう言えばこの街にはこういう問題に打って付けの人がこの街にはいるじゃん。
「こう言う魔法モノはプロに任せようぜ」
思い付きでそう言って俺はレイラとシオンと共にお祭り騒ぎの後の片付けをしている街へ繰り出した。
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ダウンタウン地区のたくさんのお店のある通りを進むと目的の『ミラ魔法雑貨店』と看板のある店の前についた。
……相変わらず客がいないな。
周りにある店はどれも客がたくさん入ってるのになぁ。
ドアを開けて中に入るとランプの光に不思議な形の商品たちが照らされていてやはり幻想的な空間のお店だ。何気にここ気に入ってるぞ、俺。
「いらっしゃい、金治君たちね。今日は何の御用かしら?」
そう声をかけてくる店主のミラさんはやっぱり綺麗な女性でとても60を超えているとは思えないな。なんでも年齢は俺たちにしか教えていない秘密らしい。
文字通りの美魔女は心なしか今日は嬉しそうだ。
恐らく昨日勇者パーティを連れてきたらたくさん買い物して行き、「これで今月は黒字だわっ!」と大喜びしていたからだろう。
……不憫だなぁ。
「ミラさんこんにちは! 今日はこの魔剣でちょっと相談が…」
「まぁ、これって『プロミネンス』ね? よくこんな貴重な物を手に入れたわねぇ。店で買ったら金貨200枚じゃ買えないわよ」
そんな高価な剣だったのか!
「なるほど、ミラさんに売りつける気ね! 装備できない火を噴く武器なんて持ってても仕方ないものね」
確かにレイアの言う通り買い取って貰うのも有りか。
ちなみに俺の力じゃ『プロミネンス』を使いこなすことは出来なかった。
試したけど剣の重さと炎の衝撃で俺の方が吹っ飛ばされた!
「それはやめた方がいいわ。もうすぐ先の未来でその魔剣も、……あなたたちが持ってる鎧も役に立つ時が来るみたいよ」
ミラさんは大きな占い用っぽい水晶を撫でながら言った。
「あなたたちの未来に力強い人が見えるの。……その人はみんなに愛される様な存在じゃないみたい。でもきっとあなたたちの助けになってくれる方よ!」
それってもしかして…。
「何、誰か加わるっていうの? ……このパーティに?」
「それはないんじゃない? だっていくら勇者に勝ったといってもラッキーみたいなものだし、実際は僕たちのパーティが強いって訳じゃないもん」
レイラとシオンがそう言う。
確かにワタルと本気の殺し合いをしたらあっさり負けてしまうだろう。
……でも、間違いない。これはフラグじゃねーかっ!
「きっと新しい仲間だよ! 俺たちのパーティに足りない戦士系の!」
「フフッ、そうだといいわね。……そうだ、その魔剣に合った鞘を作ってあげるわ。特製の魔法を込めるから金貨3枚でどう? おまけもつけるわよ?」
俺の言葉に対しミラさんは微笑みながらそう提案した。
金貨3枚は高い気がするけどまぁいいか。
「分かった。はい、金貨3枚ね」
俺はミラさんにそれを手渡した。
……レイラよ、そんな勿体ないって顔するな、ケチすぎるぞ。
ミラさんは金貨をしまうと商品棚を見渡しながら…。
「えっと、おまけはどうしましょ? 勇者君たちが買って行った『ホムンクルスの種』か『漆黒のランタン』でも……、必要ないわよねぇ。もっと面白い物が好きよね、あなたたち」
悩むミラさん。
ワタルたち、ホムンクルスとか何に使うんだよ…。
「そうだわ、こんなのはいかが? 『爆裂瓶』と言うものよ」
そう言って親指サイズの小さなガラス製のカプセルを見せて来た。
中には黒い液体が入っている。
名前から予想つくなぁ。なんて物騒な。
「この中に入ってる液体は空気に触れると大爆発を起こすのよ。誰でも手軽に爆発魔法を使えるようにって作られた武器なの。……でも欠点として持ち運び中に衝撃で誤爆しないようにカプセルの硬度を上げたらからり強くぶつけないと割れて爆発しなくなっちゃった不良品なのよね。どう? 工夫がいるだろうけど使ってみたくない?」
つまり言い換えるなら液体爆弾入りの手榴弾だ。
危険だけど火力不足を簡単に補えるんじゃないか?
「へぇ、面白いね。じゃあ、それ欲しいな」
「本気なの金治? あんなの使い道ないわよ?」
「馬鹿なのか? そんなただの危険物よりいいもの貰おうよ!」
こう言う反応が普通だよな。
……そりゃ仲間が爆弾を貰うと言ったら止めるわな。
でもミラさんは俺に考えがあるのを悟ったのか…。
「分かりました! ではこの『爆裂瓶』、ここに30個ほどありますが全部まとめてどうぞ。はい、金治君!」
そう言って袋にそれをジャラジャラと入れて渡してきた。
……いや、在庫を押し付けたかっただけか?
レイラとシオンが文句を言ってるが気にしない。
こんな面白いおもちゃ使ってみたくてしょうがない!
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ミラさんのお店を出てギルドに向かう帰り道。
レイラとシオンは俺が持っている『爆裂瓶』にいろいろ文句を言って来た。
使えないだの、危ないだの…。
絶対驚かせてやるからなっ!
「おい、金治。お前たち宛に手紙が来てるぞ。ほらこれだ。差出は…、王都からみたいだな」
ギルド前の掃除していたマスターが白い封筒を渡してきた。
この世界の手紙は日本でよく見る紙よりもボロくて薄い紙を使うのが標準的だ。
しかしその封筒は綺麗で厚手の良質な紙で出来ている。
「ね、金治これ! もしかして表彰のことじゃない? ほら、街の冒険者を率いてドラゴンを倒したのはあなたってことになってたじゃない!」
レイラの言葉に急かされ急いで封筒を開ける。
二回目の表彰かな?
嬉しさに駆られた俺たちは夢中で手紙を開いたのだった。




