第19話 決闘スタンバイ
今ここ、駆け出しの街フロントには勇者パーティがやって来ている。
ゲームや物語の主人公をそのまま引っ張り出してきたようなその男ワタルは高身長、筋肉質、礼儀正しく、初心者冒険者たちにも親切、何よりイケメンだ。
そんなみんなに好かれそうな青年が今俺の前に立っている。
……とても友好的とは思えない視線でジッと俺の顔を覗き込みながら。
「……えっと、何? どしたの…?」
その視線にいたたまれなくなって声をかけてみる。
……怖い、ドラゴンと対峙した時よりも怖い。
本当の強者って雰囲気というかオーラが違うものなんだなぁ、俺絶対殺されちゃうよ。
ギルドにいるみんなもそれを感じるのか黙ってこちらを見ている。
「すみませんっ! うちのリーダーがすみませんっ!」
「おい、ワタル! 相手が怖がってるだろ! 初心者冒険者相手に意地を張るな!」
見かねたワタルパーティのリリアンとアーロンが間に割り込んできた。
ワタルはなおもこちらを睨み付けている。
「すまない、ワタルは何て言うか、その、非常に負けず嫌いなんだ。……ワタルお前は睨み付けるのを止めろ! ちょっと武勇伝が似てる奴がいるといつもこれだ」
ワタルの仲間その3、フェイも止めに来てくれた。
……この勇者、めんどくさ過ぎません?
「ちょっとじゃない、ほとんどやったことが被ってるじゃないか! 俺は勇者なんだぞ! その偉業をこんな田舎のこんなマヌケそうな奴もやったっていうのか? ふざけるな!」
そうワタルは怒鳴り散らした。
……おいおい、んな理不尽なこと言われてもな。
「あの、俺のやったのは結果はいろいろ倒したこととかになってるけど全部運と成り行きでこうなっただけだし……、ワタルの実績とは質が違うぜ?」
誤魔化してこう言ってみたところ、ワタルはさらに怒る怒る。
……そんな怒ると剥げるぞ? 学校の教師の連中みたいに。
「結果は同じじゃないか! …それに運だって? 俺たちは勇気と努力でこの半年間戦って来たんだ! それが運で勝ったという奴が俺と同じ勇者と言われて黙っているわけにはいかない!」
そう怒鳴るとワタルは近くのテーブルを力強く叩いた。
……恨むぞリック! 俺の事勇者とか言ったのお前だろ!
と、恨みの目をリックに向けるとそれに気が付いたリックは…。
「おいおい勇者様。運も実力の内って言葉を知らねぇのか? この金治はな、数値で見ると全く強くない筈なのに運だけは化け物なんだぜ! そしてゴキブリよりしぶてぇのさ!」
見事に火に油を注ぐなぁ。
あとこの世界にもゴキブリいるんだ。
「そーよそーよ! それに金治がここまで戦ったのは8割くらい私が助けてあげたからよ! こんな素晴らしい私みたいな仲間がいる金治はアンタなんかの100倍ラッキーで勇者的なのよ!」
レイラがいつの間にか横に立って喚いていた。
……おまえ8割も活躍したか?
「「「「キーンージーッ! キーンージーッ!」」」」
止めろモブ冒険者ども! コールするな!
……ともかく、このステキな仲間たちが見事にこの怒れる勇者ワタルを更に怒らせる連係プレーを決めてくれた訳だ。
……ああ、もうダメかもしれん、本当に今回こそお終いかもしれない。
「……フ、フフ…フフフ…ッ」
ワタルは下を向いて何かブツブツ言っている。
表情は見えないが……、もしかして泣いてる?
「フ…、ハハハハハハハハハッ! 面白い! …おい金治! 似た武勇伝を持ち、同じく最高級の鎧を与えられた者として俺とお前! どちらが勇者に相応しいか、俺の努力とお前の運どちらが正しいか、……俺と勝負しろっ!」
「いや、断る」
即答した。
……いや、勝負ってなんだよ?
勉強とかじゃんけんとかじゃないよな勝負って、きっと戦いだよな?
何か無茶苦茶凄い職業のワタルに対して俺は『遊び人』だぞ!
これプロボクサーが競馬場にいるクズおっさんに喧嘩売ってるようなもんじゃん。
俺死ぬじゃん!
「なっ! 逃げるのか金治!」
「逃げるわ! 死んでたまるか! 戦いなんてごめ…」
「はいストップ、ストップ。ちょっとワタル、あなた勝負とか言ってるけど金治は私たちのパーティメンバーなのよ。勝手に戦うなんて許せないわ!」
割り込んで来たのはなんとレイラだ!
今まで散々適当な事しか言ってなかったアイツがこんなこと言うなんて…。
クソッ、こんな仲間思いだったなんてウルっと来ちゃうじゃないか!
……後でなんか奢ってやろう。
「勝負でも決闘でも普通、相手のパーティメンバーに断ってやるのが常識でしょ! ……そうね、勝負1回、金貨10枚で受けてあげるわっ!」
チックショウがっ!
裏切られたわっ! この世界来て最大に裏切られたわっ!
賭けカードで「二人で協力して勝とう」って約束してたのに騙して一人勝ちしやがったリック以上に裏切られたわっ!
「いいだろう、ほら金貨10枚だ。勝負はもちろん決闘だ。今日はもう日が暮れる、明日の昼にまた来るから逃げるなよ! 絶対だぞ! ……行くぞお前たち」
そう言ってワタルは金貨10枚を袋から取り出してレイラに渡すと仲間を促してギルドから出て行った。
三人の仲間たちは本当に申し訳なさそうに謝りながらワタルのあとを追いかけていった。
……あの仲間も苦労して来たんだろうな。
「ほら金治、ただ相手の頼みを聞くなんてもったいないでしょ! 交渉上手なレイラさんのお陰でこんなに臨時収入が入ったわよ! はい、金治にも1枚あげる!」
俺はレイラの手から金貨10枚全部をひったくって、その金貨を握った拳でこの馬鹿の頭を思いっきりひっ叩いた。
「……ああ、どうしよ。何でこうなるのかなぁ…」
頭を押さえてうずくまるレイラの横で呆然と立ち尽くすしかなかった。
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「…で? この世界の決闘ってどんなことするんだ?」
お仕置きの鉄拳を食らい、タンコブを作っているリックに訪ねてみた。
「いつつつつっ…。遊び人の低ステータスの癖にこういう時は何で力がそんなに強いんだよぉ。決闘ってのは1対1で戦って、どっちかが負けを認めるか戦闘不能になるまでやるっていう脳筋ルールの勝負だ。……まあ、勝っても特に報酬はない名誉だけっていうこんな事やる奴の気は知れないよな。やるだけ何の得もないんだぜ!」
なるほど、予想通りよくあるタイプの決闘だな。
しかしプライドもへったくれももない意見だなぁ。
「俺様は決闘大好きだぜ! 弱いヤツを泣かすのは楽しいからな、いつでも相手は募集中だぜ! ……でも、俺様より強いヤツはお断りな」
そう、どこぞのガキ大将よりも理不尽なことを言っているのはバーサーカーのバルドだ。
最近コイツもよくギルドに入り浸っている。
何でもこの間の戦い以来他の冒険者に受け入れ得られるようになったそうだ。
よかったな。
「しっかし勇者と決闘とか馬鹿なのか? 『遊び人』のお前が『ソードマスター』の勇者と戦うとか命が1000個あっても勝てないぞ。……それよりも何でこんなに人がいて誰一人王都の勇者のことを知らないんだよ? 流行には疎い僕でも知ってたぞ」
「教えてくれればよかったのに。てか、シオン今日どこいたの?」
「ミラさんの店だよ。僕は君たちとは違って勤勉だから日々魔導書を読んで勉強してるのさ」
そう言ってシオンは眼鏡をクイッとやって見せた。
ちなみにミラさんの魔法雑貨のお店はドラゴンとの戦いの後、多くの人が顔を出すようになったけどあまり儲かってないんだとか。
店に置いてある魔法アイテムなんかは大体高価で初心者冒険者には手が届かない上に別に使う用途もないからなかなか買う人がいないんだそうだ。
可哀想だから後でワタルの仲間にでも店を勧めてみようかな。
高レベルの勇者パーティなら何か買ってくれるかもしれない。
「あーあ、勇者パーティが居なくなるまで外の洞窟にでも隠れてようかなぁ」
そう呟く俺にレイラは反論してきた。
「ダメよぉ。せめて決闘には出てくれなきゃ私、詐欺師扱いされちゃうじゃない」
……オメーは半分詐欺師みたいなもんだろ。
「決闘なんか出たら殺されちまうよ。今度こそ冗談じゃなくて棺桶に入って土の中行きなんてごめんだね」
「なんであんたが殺されるのよ? ただ決闘に出て一言宣言するだけで金貨10枚なんてかなりおいしい話だと思うけど」
……何だって?
「……一言宣言する、とは?」
「だから決闘はどっちかが降参するまで戦うんでしょ? なら始まったらすぐ降参します、私の負けですって言っちゃえばいいのよ! ね、簡単でしょ!」
……え? それありなの?
卑怯な気がしなくもないけど聞いた感じルール違反じゃないよな、それ。
「……よし、その手で行くか」
「そうと決まれば一応作戦会議よ! 負けを宣言しちゃえばいいだけだからね。楽勝よ!」
「いや、『ソードマスター』ともなれば強い速攻技もいっぱい持ってる筈だ。この作戦のポイントはいかに相手の行動よりも先に降参宣言をするかだよ! ……僕の呪文詠唱を早くする魔法とか使ってみるのはどうかな?」
「いやいや、俺の顔芸で観客席からその勇者を笑わせてやるよ! いかに勇者でも笑いへの耐性はないだろうからな!」
「リックの顔芸でアイツ笑うッスかねぇ? それなら…」
賑やかに決闘で負けるための作戦会議が始まった。
いや、うん、仲間思いの仲間に恵まれて俺はうれしいぜ。
……ただこの状況を遊んでるようにも見えなくもないがきっとこいつらは仲間思いなんだ、うん!
まぁ、『負けるが勝ち』って言うもんな!




