第18話 勇者様がやって来た!
う、うーん…。
だんだん目が覚めてきた……。
しかし狭くて固いベッドだな、腰とか痛い。
ん? 誰かいるのか?
これは……、誰かの泣き声…、たくさん聞こえる…、誰だろう?
今度は普通の声…耳を澄ませてきいてみよう…。
「…勇敢に街を守るための尊い犠牲になった勇者に祝福を与えたまえ…」
この声は教会の……、これは誰かの葬式か?
誰か冒険者が死んだのか?
運が無かったんだろうな…、可哀想に…。
「勇者、アマカツキンジの魂に安らかな眠りを…」
そうかアマカ……、天勝金治って俺じゃねぇか!!
俺は慌てて目を開けて飛び起きると四角い箱の中で寝ていた。
顔に白い布を被せられて、箱の中には花が敷かれていた…。
「キャーッ! 死体が動いたっ!」
「アンデッド!? 悪魔に呪われたのよっ!」
「ゾンビだ! 早く僧侶かプリースト……、私神父でした!」
さっきまで泣いてたと思われる見覚えある街人や冒険者、教会の神父まで大騒ぎだ。
……これは間違いない…。
「俺はまだ死んでねぇぞっ!」
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「死ぬより死んだ気分だ」
ギルドのカウンター席で項垂れている。
俺はダースドラゴンとの決着の後、『ダイスの腕輪』を使った後のお約束で気絶し、3日ほど眠り続けていたらしい。
……それだけなら良かったのだが余りに俺が起きないから死んだと思われ、もう少しで埋葬されるとこだったというから怖いわ、寝坊で埋葬される異世界怖ええよ!
「まぁまぁ、金治が生きてて良かったわ! いつか腕輪の気絶で死ぬと思ってたから今度こそ死んだと思ってホントに悲しかったんだからね!」
……死ぬと思ってたならもう少し早く注意してくれよレイラ。
「もう少し僕のレベルが上がれば伝説の蘇生呪文だって覚えて見せるからそしたら死んでも安心さ! ……まぁ、今回死んで無かったのも僕は知ってたけどね!」
……強がりだろうけど知ってたなら止めろよ!もう少し遅れたら今頃俺は土の中だったんだぞ!
「お、噂のゾンビじゃねぇか! 死後の世界はどうだったんだ? ……冗談だって、冗談! そんな睨むなよっ!」
通りかかった冒険者が俺をからかって笑いながら去って行った。
……当分はネタにされていじられそうだなぁコレ。
「ゾンビ扱いは辛いわぁ! 結構落ち込むわぁ」
「悪気はないだろうからそう落ち込むな。お前はこの街の英雄なんだ。また表彰されるだろうし元気を出せよな。…ほら、これはサービスだ」
落ち込んでいるとマスターが果実水とケーキを出してくれた。
……ありがとうマスター。
でも英雄はやめて、めんどくさそう。
そんな最悪な朝の目覚めをした日の午後の事だ。
ケーキを食べて元気が出てきている時、騒がしい女がギルドにまた新しい騒動を持って駆けこんできた。
「号外、号外! 本日二度目の号外よ!見てみてマスター…、あっ金治もチャオ! ほらこれ、噂の勇者様がこの街に向かって出発されたそうよ!」
そう言って一枚の紙を見せてきたのは新聞屋のロージーだ。
ソバカスがチャームポイントのパーマヘアーの若い女の子。
いつもニュースを探したり、号外を配って走り回っている忙しいヤツだ。
ちなみに本日一度目の号外は『金治、死す』と言うタイトルだった。
……って、ムッチャ気になるワード出たんですけど。
「その勇者って誰?」
勇者ってあの物語の主人公とかの勇者だよな。
この世界にもいるのか?
「チャオ、ロージー! そう言えば聞いたことある気もするけど忘れちゃったわ? 勇者様って何だったかしら? ……芸人?」
他の冒険者から賭けカードで小遣い稼ぎをしていたレイラが話に入って来た。
「結構話題になってる筈だけど世間知らずもいるのねぇ。まあいいわ! 勇者様っていうのはね、半年前くらいに突然現れて有名になった凄腕の冒険者なんだって。なんでもその勇者様が魔剣って呼ばれるすっごい魔法のかかった剣を持っててそれが強さの秘密なんだって!」
おお、漫画の主人公みたいなやつだな。
「それでね、王都を拠点に活動してて襲撃してきたサイクロプスとか強力な魔王軍のモンスターを倒して有名になってるらしいわね。しかもすっごいイケメンらしくてファンクラブまであるそうよ! 凄いわねぇ!」
へぇ、サイクロプスっていうとゲームでお馴染みの怪力を持った一つ目の巨人じゃねーか、すげーんだな。
……イケメンってのが気に食わないが。
「さらに、一回死んだのに不死鳥の如く蘇ったからフェニックスって二つ名を持ってるのよ! …んでその凄いお方が来週ぐらいにこの街を訪れるらしいの。何でも今度、勇者パーティが王都から遠くの街に遠征するための休憩地点としてここフロントの街が選ばれたそうよ。きっと大歓迎のお祭り騒ぎになるわね!」
そんなのがここ駆け出しの街にねぇ、ずいぶん場違いだな。
取りあえず勇者様とやらが凄いってのは分かった。
俺には一生縁がなさそうなヤツってことだ。
……でもレイラは不思議そうだ。
「ソイツそんなに凄いかしら? その程度ならウチにもいるじゃない」
「何言ってるのよ。そんなのいたらもっと大騒ぎになってるわよ?」
「レイラにそんな知り合いいたっけ?」
少なくとも俺はこの街に来てからそんなのとはあったことないけどな。
「ほら、私たちのパーティよ! 魔王軍のボスっぽいモンスターを偶然倒して表彰までされたわ。この間はドラゴンだって倒したじゃない! それに金治あなた、ドラゴン退治の時から魔法の剣使ってるでしょ。それに朝のあれは一応言い方を工夫すれば死からの大復活のようにみえるわよ! ……まぁ、イケメンではないけど」
「すげぇ! 無理やり俺も勇者っぽくなったじゃん。物は言いようだな!」
レイラの発想力には感服する。
ここまで言い方を変えただけで今までの珍道中が武勇伝のようになっちゃうのだから。
「……あーうん、もしかして勇者様ってあんまり凄くないのかしら?」
そう言ってロージーはおずおずとギルドを出て行った。
……その後、リックたちが持ってきたボードゲームに夢中になった俺とレイラは勇者のことなどすっかり忘れてしまったのだった。
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簡単な討伐クエストに出かけたり、賭けゲームでマヌケな冒険者から小銭を巻き上げたり、サキュバスのお店に無事リベンジを果たして1段大人になったりしている間にあっという間に1週間ほどたった。
ここ最近は強いモンスターとも出会わず何とも平和で充実しているなぁ。
街も平和で特に変わったことは何もない。
今日はレイラと共にマスターに頼まれたギルドの買出しに来た商店街をうろついていた。
俺たちが体験した変な冒険を話してくれれば賃金は要らないと言われているが部屋を貸してくれているのだ。お手伝いくらいはしていきたい。
「ロケットニンジンにバクダントマト、ホーミングナス…よし、全部買えたわね!」
レイラは食材入りの大きな紙袋を抱えておつかいメモを読み上げた。
……味はいいのだけどこの世界の野菜は妙に名前が物騒なものが多い。屋台の商人に聞いたところ、収穫前の野菜は名前の通りの性能のため正しく収穫しないと非常に危険なんだとか。…んな馬鹿な。
俺たちが帰ろうと食材の袋を持ち上げた時、正門の辺りで回りを見回している4人組が目に入った。
彼らの先頭にいるリーダーっぽい金髪の男は背が高く、かっこいい青い鎧に身を包んだいかにも物語の主人公といった風格というかオーラが放たれている。
4人とも武器を持っていることからこの街にやって来たばかりの旅の冒険者なのだろう。
「レイラちょっと…」
悟ったらしく、レイラはこっちを向いてニッと笑っている。
聞くのも野暮だっただろう、冒険者は助け合いが基本。
それはこの世界に来て一か月弱の俺でもよく知っていることだ。
俺たちはその冒険者たちの方に歩き出した。
「どうしましたか?」
そのリーダーっぽい男の人に話しかけてみた。
長めの金髪に鍛えられた体、整った正統派イケメンといった顔。
それにしても近くで見るとデカいな、190㎝近くあるんじゃないか?
……対する俺は170手前、…チビで悪かったな!
「いや、初めての街のもので迷ってしまってね。そうだ、君たち冒険者ギルドの場所を知ってるかい?」
なんて紳士的な受け答え!
今まで出会った冒険者たちを言い表すなら男子中学生というか野蛮人というか、ゴリラというかキチガイというかそんな感じのばっかりだったのだ。
イケメンの上にちゃんと礼儀正しいってモテるんだろうなぁ。
「いいですよ、ちょうどギルドに帰るとこなので案内しますよ。……えっと、俺は金治っていいます。よろしくな!」
「ああ、よろしく! 俺はワタルって言うんだ」
会話をしながら俺たちは歩き出した。
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ギルドの扉を蹴り開けて中に入る。
相変わらずギルドは冒険者たちでにぎわっている。
「どうぞどうぞ! こっちよこっち! ワタル様パーティ御一行のおなーりぃー!」
レイラがそう言ってギルドに入って行った。
ここまで話しながら来た、このパーティリーダーの男の名は『ソードマスター』のワタル。この世界では珍しく日本人っぽい名前だな。
その仲間は『ビショップ』の女の子リリアン、『パラディン』の男性アーロン、『ウォーロック』の女性フェイ。
それぞれ『僧侶』、『ファイター』、『魔法使い』の派生に当たる複合型の上級職だそうで『ソードマスター』に至っては戦士系の最上級なんだとか。
そんな凄いパーティが初心者の街にやって来たのだから冒険者のみんなが彼らの話を聞きたがった。
暇な冒険者がギルドに大集合し、新聞屋のロージーも駆けつけてきている。
騒めきの中、ギルド内のステージに立ったワタルパーティは彼らの武勇伝を語り出した。
「それじゃあ、この俺、勇者の戦いの話をしよう…」
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「…と言うわけでその王都を狙っていた魔王軍を倒してそれ以来勇者とよばれているんだ!」
「あの時のサイクロプスはA級の危険モンスターだったのよ」
ワタルの冒険談は強い彼らならではの勇敢なものだった。
勇者と呼ばれるのも納得だ。
……勇者? あれ、なんか最近この話をしたような…。
「確かにすげぇ冒険だな。……でも同じようなことしたパーティ俺たちのギルドにもいるよな! なあみんな!」
話を聞いていたフロントの冒険者の一人が言った。
そうだそうだと次々に合いの手をいれる冒険者たち。
他人の武勇伝に対抗心を燃やして自分たちの自慢話もする、という冒険者同士でよく見るやり取りがよそ者に対して街ぐるみで始まったようだ。
「へぇ、聞いてみたいね!」
そう言ったワタルに対してリックが自慢げに語り出した!
「へへへっ、教えてやろうか。近くの教会跡に出たスカルゴーストってのを倒して、領主から表彰されたんだぜ!」
……コイツ自分のことのように言いやがった!
ワタルパーティの4人は息を飲んだ。
「スカルゴーストってゴースト型のモンスターでは最強クラスじゃないか!それを君が?」
「いいや、俺様の親友がだ!」
……何時から俺はお前の親友になったんだ?
「へ、へぇ。この街は初心者の街って聞いてたけど優秀なのもいるんだね。ちなみに俺が着ているのは表彰されて貰ったギガアイアン合金で作られた特注品さ、世界4大金属の一つのね!」
悔しかったのかワタルは張り合って来たな。
「確かあいつも表彰されたとき4大金属とかいうのの鎧もらってたな。何だっけ、確かキングダイトとか言ってたっけなぁ」
リックが更に追加して言った。
最上級職のワタルたちも驚きを隠せない。
「な、なかなかのものだね…。そうだ! 俺たちはそのサイクロプスを倒した後にもっと大物と戦ったんだ! そいつはリザードマンと言ってドラゴン族の戦士でね。仲間の敵討ちに王都に乗り込んできたんだ。いやあアイツには苦戦した!」
おお、リザードマンもゲームとかでこれまたメジャーな!
今度はフロントの街の冒険者側から歓声が上がった。
「なるほど、お前らもドラゴンと戦ったのかぁ」
一人の冒険者がそう言ったのを聞いてワタルはビクリとした。
「ま、まさかまた君たちも…?」
「その通り! たしかダースドラゴンとか言う魔物を変な悪魔が連れて来てな、ここにいる冒険者全員が協力して戦ったんだぜ! ……まあ、止めを刺したのはここまで来たら分かるだろうけどまたしても俺の心の友だ!」
……だから誰が心の友だ?
「ダ、ダースドラゴンだってぇ?」
完全に驚いてるなこの勇者。
「い、いや、俺には他にも伝説があるんだぞ! 俺はとあるモンスターに倒された時、目を覚まさず火葬されそうになったんだ。寸でのところで目覚めた俺はフェニックスって二つ名で呼ばれるようになったんだぜ!」
……あ、思い出したわ、完全に。
悟ったのか気まづそうなロージーの背中を突いて尋ねた。
「おい、ロージー。先週配ってた号外どうしたんだよ? ここにいる全員勇者のこと知らないみたいだぞ!」
「そんなこと言ったって、アンタが同じようなことしてるから別に勇者ってそんなに凄くない気がして配るの止めちゃったのよ!」
……なんてこった、そりゃあ街の人も冒険者も勇者一行を知らないわけだ。
「それなら先週見たぜ! ダースドラゴン戦で疲れたのか3日間起きなかった俺の親友は間違って埋葬されそうになったんだぜ。寸でのところで目が覚めたから助かったものを。だから俺たちはソイツをゾンビって呼んでやってるぜ!」
リックは自信満々に言い切りやがった!
……なんかワタルさん震えてるし逃げた方がいいんだろうなぁ。
「レイラ、行くぞ……。あぁ?」
ステージで武勇伝の言い合いをしていたリックの横にレイラが立っているではないか!
「あれ? 君はさっきの…」
ワタルはレイラに気が付いたようだ。
「ふっふっふ…、そして何を隠そうそのリックの親友、及びゾンビと呼ばれるその男こそ私のパーティのリーダー、金治なのだぁ!」
……おぅ、めんどくさい予感しかしねぇ!
ワタルがジッとこっち睨んでますけど,何これ怖い。
「つまり、金治は勇者だったのか! すげぇぜ!」
このリックの言葉が止めとなった様だ。
青い鎧に身を包んだ勇者ワタルが殺意をまき散らしながらズカズカとこっちに向かってくる…。
……ああ、冒険者に追われる雑魚モンスターってこんな気持ちなんだろうなぁ。




