第14話 不思議な救世主
いつも騒がしい冒険者たちも静まり返り、みんな暗い表情でうつむきギルドの中はお通夜ムードだ。
3日後に襲撃宣言をした悪魔のチップ。
恐らくみんなチップだけなら怖くないと思っている。
問題はチップが乗っているドラゴンだ。
冒険者たちの雰囲気から察するにドラゴンは見た目通り強いらしく、この世界でも恐れられているモンスターであるようだ。
ゲームでもドラゴン系は終盤にボスとして出てくるようなモンスターだ。
こんな駆け出しの街に攻めてくること自体場違い極まりない。
「見つけたぞ! あいつはダースドラゴンだ!」
静寂をぶち破り、『モンスター図鑑』と書かれた分厚い本を捲っていたシオンが言った。
冒険者たちは騒めいているが聞いたことがないと言った顔だ。
「ねぇ、だーすどらごんってどんなモンスターなのよ?」
呑気に果実水をすすっていたレイラが本を覗き込みながら質問した。
「ダースドラゴンはドラゴン系だとメジャーなモンスターみたいだね。えっと、ドラゴン特有の鱗は強度に優れ魔法を軽減する。口から吐き出す火球は上級火炎呪文『テオ・フレイムボム』に相当する。戦う場合は鋼の装備をも溶かすブレスに要注意……、って書いてあるね。僕はドラゴンとは戦ったことはないけどこんな奴、生涯戦いたくはないね」
シオンが図鑑の説明を読み上げた。
説明を聞いた感じ勝ち目が見えないモンスターに冒険者たちはより騒めいている。
俺も『モンスター図鑑』を覗き込んでみた。
この本はギルドの本棚にあったもので冒頭のゴブリンのページなどはシワクチャになるまで読まれていたがダースドラゴンについて書かれているような後半のページは初心者冒険者には縁がないのか新品同然のようだ。
みんなが絶望したとき食べかけだったタルトを頬張りながらレイラが言った。
「なるほど私たちには倒せそうにない相手ね。それじゃあ……、ここにいる人でドラゴン退治したことある人、名乗り出なさい!」
「「「「居るわけねーだろそんな奴!!!!」」」」
そこにいる冒険者全員がシンクロして怒鳴った!
「えー、こんなに居るのに一人もいないの? 倒してもらうか攻略法教えて貰おうと思ったのに」
いるわけないだろうなぁ、ドラゴン退治が出来るような冒険者が駆け出しの街で燻っているハズはないよな。
そんなトンチンカンなことをレイラが言ったその時、
「ドラゴン退治と言えばこの街にいるじゃねぇか。ほら昔、王都を魔王軍のドラゴン兵団から守ったとかいう雑貨屋のアイツよ」
カウンターでグラスを磨いていたマスターがボソッと言った。
……魔王軍のドラゴン兵団!?
「あー、居たなぁそんな奴」
「あのインチキ雑貨屋の店主のことか?」
「何だ? あの婆さん戦えるのか?」
「無理無理。戦場に年寄の出番はねぇよ」
冒険者たちが口々に騒ぎ出した。
レイラとシオンは知らなそうだ。
「おい、リック。雑貨屋の婆さんって誰の事だ? ドラゴン兵団って何だ?」
近くに座っていたリックに聞いてみる。
「ああ、裏門らへんののダウンタウンでおかしなものばかり置いてる雑貨屋があってその店主のことだ。昔冒険者をしてたとかで俺も一回冒険談を聞いたが、なんでも凄い有名なパーティのメンバーで王都に拠点を置いて魔王軍と戦ってたんだとさ」
周りで聞いてた冒険者も相槌を打ってるからそうなのだろう。
「じゃあ、その婆さんとやらに頼んでチップとドラゴンをやっつけてもらおう! そんな強かったならドラゴン1匹くらい楽勝だろ?」
……俺は変なことを言ったのだろうか。いきなりみんな黙った。
そして、ワンテンポ置いてギルド内に大爆笑が巻き起こった!
「金治は知らないだろうがな、あの婆さんの冒険談を信じてる奴なんてそうそういねぇーぞ! そんな凄い冒険者が駆け出しの街なんかにいるかよ!」
リックも笑いながらそう言う。
「馬鹿だなぁ、そんな胡散臭いの相手にしてる暇はないだろ!」
「そうそう! 今は俺たちが戦いの準備をしねぇとな!」
「3日しか猶予はないんだ! 老人の話し相手になってる暇はねぇよ!」
口々に言う冒険者たち。
しかし、一人の冒険者の言葉で静まり返ったのだ。
「お前ら正気か? あんな化け物と戦う気なのか? 俺たちは初心者冒険者なんだぜ。……勝てっこねーよ!」
他の冒険者はまた不安そうな表情を浮かべている。
確かにこれは正論なのだろう。
……でも…。
「俺はあの悪魔が来る前に他の街に逃げるぜ! 死んでたまるかよ。……お前たちもよく考えることだな、逃げて生き延びるか街と一緒にお陀仏になるかな」
そう言い残した冒険者は乱暴に扉を開けてギルドを出て行った。
静まり返ったギルドの中。
どの冒険者もうつむいたままだ。
……俺も何でこんなことに巻き込まれてるんだ?
楽で楽しい自由な異世界生活じゃなかったのか?
俺は運がいいだけの『遊び人』だぞ!
「何考え込んでるのよ、戦うしかないでしょ! 私たちが逃げたらフロントの街はお終いなのよ! ……あんたたちは私より強いんだから戦いなさいよ! 守りなさいよ!」
突如怒鳴ったのはレイラだった。
喝を入れてるように聞こえるが己は守られる前提のようだ。
でも確かに戦えるのは冒険者だけだろう。
このフロントの街に未来があるとしたら冒険者が3日後、街を守り切った時だけだ。
「……そうだよな、俺たちが最後の砦なんだよな…。でもな…。……すまん、今日は帰って考えさせてくれ」
そう言った鎧に身を包んだ冒険者がギルドの出口に向かって歩き出した。
それにつられ、他の冒険者たちも俺も、私もと言った感じで出ていく。
……とうとうギルドには俺たちだけになってしまった。
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次の日、俺たち三人はダウンタウン地区を歩いていた。
ダウンタウンは明らかに表の商店街より汚く、酔っ払いが道で寝てたりしている。
しかし色々な店が立ち並び正面の方とは違った活気のある町だ。
昨日の夜、俺たちは話し合った。
まず街から逃げ出しても行く場所のアテはなく、徒歩だと一番近くの町まで熟練の冒険者でも1週間かかり俺たちのパーティが生きて別の街に移動するのはほぼほぼ不可能だということ。
先3日以内にはキャラバンの移動はないからそれにあやかる移動も出来ないこと。
俺たちの実力ならどんな奇跡が起きようとドラゴンには勝てないこと。
そこで俺たちは話題に上がった雑貨屋の主人に頼りに行くことにした。
噂が本当なら街を守ってくれるいい人のハズだ。
……他の冒険者はホラ話だと言って信じていなかった。
しかし、無性に以前どこかで酔っ払いから聞いた「嘘みたいな冒険ばかりだが決して冒険者は嘘の冒険談をしない」という言葉が印象深く思いだされていた。
『ミラ魔法雑貨店』と書かれた看板が掛けられている店の前に着いた。
……看板は傾いて、窓ガラスのヒビはガムテープのようなもので塞いであり見るからに不安になる風貌の店だな。
俺たちは扉を開けて中に入った。
店の中は外見のボロさとは打って変わって明るいランプに照らされて、数々の不思議な形の商品が所狭しと並べられている。
商品がたくさん詰まった棚を物色しながら奥へ進むとカウンターに一人の女性が座っていた。
「いらっしゃい、ミラの魔法雑貨店へ。久しぶりのお客様ね」
そう言ってこちらに微笑みかけてきたその女性は噂で聞いていた婆さんという歳の見た目ではなかった。
ある程度は行ってそうだが若々しく美しい顔の女性だ。
色白の肌にロングの黒髪、黒い大人っぽいドレスを着ているその姿からはこの世界に来てからあったどの人とも違う、不思議な感じがした。
「あなたたちは私の力を借りに来た。…そうでしょ? 力はまだ小さいけれど守るために動く勇敢な冒険者ね。…それに私の評判を聞いてそれでも信じてくるなんて純粋な心をもっているのね」
すべてを見透かしたような不思議な語りをする女性は優しい笑みを浮かべて俺たちが何か言う前に続けた。
「もちろん良いですよ。一緒にこの街を守りましょう!」




