第97話 裏抜けリッチな予告状!
昨日俺たちは四天王を退けた……と言えば聞こえは良い。
いや、確かに新種のモンスターをやっつけたぜ?
でもなんだかスッキリしない。
圧倒的な強敵が相手なのも運任せでの勝利もハッキリ言っていつものことだ。
ただ今までにない絶望が忘れられない。この世界で散々助けられた“魔法”の力を封じられた上、一瞬とはいえ仲間を失った。
当たり前に感じていたが、いつも必ず仲間がいる訳ではない。
……これから先もし一人っきりの状況になった時、俺は生き延びることが出来るのだろうか?
人間もモンスターも、出会うもの全てが脅威になり得るファンタジーの世界。
その怖さを垣間見てしまった気がする。
そして何より、冗談抜きで本気で殴られたのは初めてだった。
雑魚モンスターやら仲間からの誤爆やらは受けまくって来たので痛みと無縁の生活を送って来たというはない。
更に俺は死を回避する魔法『ワン・モア』で危険をほぼ無効化してきたのだ。
死の危険を身近に感じる恐怖、どうしても不安が消えない……
……なんて事をウジウジ考えながらギルドのテーブル席でリックの話を聞き流す午後の時間。
暇を持て余した冒険者が屯し、昼間から酒を煽るいつもの光景だ。
「で、俺は最後に奴らに言ってやったわけだ。おやつはパプリポップだってな! ……おい聞いてたかよ俺の武勇伝!?」
散々語ってたらしいリックに肩を揺さぶられて我に返る。
「多分聞いてないッスよ、リックさんその話14回目ですし。それに金治さんは俺と話してたッス! ほんと見て下さいよ、クシがまた折れたんですよ~バルドさんやっぱりトリートメント使いましょうよ」
ボロボロになったクシを持ったバードが嘆く。
何故か隣に座ってる巨漢なバルドの髪を必死こいて整えようとしているのだ。
「ったく、んなめんどい事出来るかよ。俺は身だしなみやらオシャレやらは興味ないっての。髪質に拘るバーサーカーなんて聞いたことねぇよな…」
「何言ってんスか! 職業とお洒落は関係無いッスよ。それにバルドさんせっかく長い髪してんのにもったいないッス、ちゃんとすればもっとかっこいいのに…」
ブー垂れるバルドと、バサバサの長髪と格闘するバード。
まぁいつも半裸のヤツが身だしなみとかないわなぁ。
バードの口調は下手に出まくりな癖にルックスはそこそこのイケメンで髪もサラサラのストレート、結構モテるのにリックに付き合って彼女は持たないお人よしだ。
……勿体ねぇな。
「まぁハゲよりはオシャレな髪のが良いよな。よっし、今日はいっちょ暇潰しにバルドをシャレオツにしてやるとすっか! 手伝うぞ、リック!」
俺はむつかしい事を考えるのはやめにして椅子から立ち上がった。
「おいおい俺もかよ!? まぁ、俺様もついでにもっとイケメンにしてくれるってなら仕方ないから手伝わんでもないぞ」
「ん~、リックさんは難しいッスね……素材が良ければ期待出来るッスけど」
怒り出すリックにそれを指さして爆笑するバルド。
こんなアホ……もとい平和ならそんなに心配することはないよな。
深刻なこと考えてた自分がマヌケに思えて来たぜ。
-------------------
「ねえ金治、昨日のアイツ“不死の魔導士”についてだけど……って楽しそうだね」
近くにいた冒険者数人も巻き込んでワイワイやってると青い服に身を包んだ小さなエルフが声をかけて来た。
その後ろには真紅の鎧に身を包んだ騎士が立っている。
「ん? どうしたシオン、何か調べるって言ってたの終わったのか」
「何でこうフロントの冒険者は楽天的なんだよ、四天王が出たらもっとこうさぁ…」
呆れかえった様子でテーブルの上の整髪剤やら魔法薬の瓶を退かしてそこに分厚い本を置くシオン。
それは度々見たモンスター図鑑だった。
何か重たい空気を感じ取った冒険者たちはその後ろに集まって図鑑を覗き込む。
「四天王ダンテ、アイツが自分の事を“不死の魔導士”って言ってたの覚えてる? 伝承で“不死の魔導士”といったらコイツ、『リッチ』しか居ないんだよね」
そう言ったシオンは図鑑の1ページ、骨と皮だけの骸骨が魔導士のローブを纏っているような挿絵を指さしたのだった。
『リッチ』
永遠の命を求めた魔法使い、ファンタジー作品なんかでも意外とメジャーなモンスターだ。
アンデッドの一種でボスどころかラスボスで出てくるような最強角。
けっして金持ちって意味ではないことくらい俺にも分かるぞ!
……だが初心者冒険者が知っている内容ではないらしい。
「なんだ、ただのスケルトンとは違うのか? 弱そうじゃんかよ」
「リッチかぁ、きっとすげー金持ちなんだな! この骸骨ゾンビの王様かなんかだろ!」
「ちょっと何よ、昨日の四天王はこんなにホネホネしてなかったわよね。シオンあんた間違えてるんじゃないの?」
アホな感想を漏らすバルドとリック。
更にはいつの間にかパンを頬張りながら隣に来ていたレイラが指摘する。
「確かにリッチってボスキャラっぽいけど、ダンテの奴とは違うな。アイツ色白でガリだったけどここまでじゃねーよな」
俺も思わず呟いた。
シオンがため息をついて答える。
「バカは無視するとして、ダンテはリッチでほぼ間違いないよ。流石の金治も知ってるみたいだけどリッチは不死身の身体を持ち、魔法の天才と言われるモンスター。肉体を蘇らせるくらい簡単だろうね」
なるほど、この世界でもリッチの認識はそう変わらないんだな。
だが初めてリッチの説明を聞く奴も多いのかあちこちからへぇ~ほぉ~と感嘆の声が上がる。
「エヘン、それに決め手はそれだけじゃないよ。僕らが倒した『ゴールドグリード』、あんなものを作り出して操るなんて事が出来るモンスターはそんなに居ない。それに…」
シオンはそう言いかけて、チラリと後ろに立つローレンスと目を合わす。
「ウム、リッチはアンデッドの王とされる存在。生命を生み出す禁忌も可能だろう。それに記憶は曖昧だが俺を蘇らせた……俺を『デュラハン』として蘇生させたのも恐らくあのダンテだ」
「ローレンスを作ったのがアイツ? おい、なんで分かるんだ……いやなんではっきり分かんないんだ!?」
あっさりと重大なこと入れて来たな!?
ローレンスは50年前に魔王軍に殺されてアンデッドにされて……
「当時の俺の力を衰えさせずにアンデッドにするのに手間取ったらしくてな、ほぼ50年間寝たままだったんだよな。起きたら誰も居なくて、最初に出合ったあの……ギラだったかな? に使われてたって訳だ」
ギラ……?
ああ、ブリッジロビーでローレンスの上司面してたあの年寄りか。
「ってことはお前、俺たちの仲間になる直前まで殆どずっと寝てたって事か!?」
「なっ!? おい金治、俺をダメ人間みたいに言うんじゃない! 寝てたというより死んでたが正しいし……いやそれより奴の魔力を俺は知っている。俺を蘇らせたのはダンテ、種族はリッチだ!」
そういやローレンスってほぼ毎日昼寝してるなぁ。
まぁ、優秀なエリート騎士様ほど実態はこうなのかね。
「ま、まあこれがダンテの正体のお話ね。後は奴が言い残した“この大陸で一番欲望が渦巻く場所”が分かれば…」
シオンが悩まし気に頭を抱える。
それを見て、ジョッキを片手に駆け寄ってくるほぼ半裸の踊り子衣装……
「そんなの簡単じゃない、欲望の場所って言ったら一つしかないわよね!」
「欲望が一番……、ああそうだぜ! この大陸でだろ? 誰でも分かるよな」
「そうッスよね、俺も一度行ってみたいッス! やっぱロマンっすよね!」
大分飲んでるレイラにしたり顔のリックとバード。
それに周りの冒険者たちほぼ全員が分かった様子で談笑を始める。
「ええっ、レイラ分かるの!? こんな伝承も古来の文書でもない言葉なのに……もしかして暗号? ねぇ教えてよ!」
必死になってレイラのマントを引っ張るシオン。
……シオンとローレンスが分かんなくてフロントのアホは分かる。
いつもとは逆の展開だな。
「ホントにわかんないのアンタ? ……まぁ特別に教えてあげるわね! “この大陸で一番欲望が渦巻く場所”、ズバリこれはカジノの街『ゴールデンリール』よ!!」
レイラは腰に手を当て、これでもかというドヤ顔で叫んだ。
「ゴールデンリール……そうか、あそこがあったか。でもなんであんなとこ…」
シオンは驚きの表情を一瞬浮かべたと思ったら再びブツクサと考え込む。
「へぇ、カジノの街か。そういや前にレイラが言ってたよな、どんな街なんだ?」
「ふふん、そりゃもう無限の夢と希望に溢れた黄金の街……って聞いてるわ! 夢見る勝負師たちが毎日つのって大陸中のお金と娯楽が集まるとも言われてるの。ね! ロマンあるでしょ!!」
少し聞いたらやたら食い気味で来るな。
でも結構おもしろそうじゃんか。
「ふんくだらない。あんなの金に目が眩んだ愚か者の溜まり場じゃん。だいたいそう偉そうに言ってるけどレイラも行ったことないんだね」
不貞腐れた様子で眼鏡を弄るシオン。
だがレイラは楽しそうだ。
「もう膨れちゃって、まぁおこちゃまには縁のない場所でしょうからねぇ。ほらすねないすねない! それよりダンテが言ってたわよね、次はリールで冒険を見せろって」
やたら楽しそうなレイラは鞄からたたまれた紙を取り出す。
大きく広げたソレをテーブルの、シオンの図鑑の上にバサリと置いた。
「じゃーん! これがこの大陸全体の地図よ、高かったんだから汚さないでよね!」
マスターにいつも見せてもらっていたものより倍以上大きな地図。
地図いっぱいに描かれた楕円型の島。
地図の右上には『テラベガス大陸』と表記されている。
これが俺たちが今いる大陸の全体か。
「ここがフロントの街。で、こっちがゴールデンリール! 殆ど大陸の反対側よ」
赤い点で記された街の場所を指さす。
確かにフロントが西の端なのに対してゴールデンリールは大陸の南東に位置している。
「場所くらい知ってるよ! そんなこと説明してどうするって言うのさ」
シオンがぶっきら棒に言うとレイラは指を左右にチッチッという風に動かした。
「昨日あの後シーナさんに聞いたんだけどね。ダンテのヤツ、突然現れたらあのお屋敷を1日で占拠して、私たちを誘い出す手紙を出すまで1週間くらいお屋敷でだらけてたんですって」
「なっ!? あやつそんな事を……さぞその間シーナ様は辛い思いを…」
悔しそうな表情を浮かべるローレンス。
てかレイラのヤツいつの間にシーナさんとんな話をしたんだ?
「それがダンテって意外と紳士的で私たちが行く直前までお茶とかご一緒してたんですって。その時聞いたって言ってたんだけどダンテってあんまり働き者じゃないらしいのよね。私たちの様子を見たら魔界の別荘に行って休暇を取るとか、ね」
つまりダンテは今頃魔界で休暇か……
「なぁレイラ、ダンテの予定なんか教えられてもどうしろってんだ?」
問いかけると彼女はやれやれといったムカつく態度を取った。
「分かってないわねぇ金治、ダンテはゴールデンリールで私たちに何かするつもりなのよ? つまりリールに近づくと危険って事よね」
うーん、まぁその通りだな。
四天王が予告した場所にわざわざ近寄るほど俺はアホじゃないが……
「でも今は休暇中、リールには居ないって事よ」
まぁ本人が休むって言ってたんだもんな。
……いや待て、嫌な予感がしてきたぞ。
レイラお前まさか……
「だったら今がゴールデンリールのカジノを楽しむチャンスってわけ! 罠があるなら張られる前に行っちゃえば良いのよ!!」
そう言って鞄から見せつけるように取り出したのはキャラバンのチケットが4枚。
「ちょっと待って、確かに今は安全って事かもしれないけどわざわざ行く必要はないじゃん! それになんでチケットが4枚もあるんだよ!?」
シオンが顔色を変えて飛び上がる。
まぁ、4枚ってことはそういう事だよな。
「なーに言ってんのよ、私たちパーティじゃない! それにあんたたちカジノも行ったことないなんて田舎者過ぎるわ、本ばっかしじゃなくて社会勉強しなくちゃね!」
かなりわざとらしくウインクするとチケットの1枚をシオンに押し付けた。
「ちょ……僕は行くなんて言ってないよ!? わざわざこんな冒険しなくても…」
慌てるシオン。
唐突にカジノに、しかも四天王から襲撃予告された場所に行くなんて言われたらそうなるわな。
レイラは振り向くと、チケットを目の前に差し出して来た。
……実際嫌な予感がする。
四天王ダンテ、もとい不死身の魔法使いリッチからの予告。
普段の俺なら絶対に近寄らない案件だ。
でも……
「はい、金治の分ね! もちろん行くわよね、まさかカジノから逃げたいとは…」
煽り気味の彼女から俺はチケットを奪い取る。
「まさか! こんな面白そうなもの断る“遊び人”は居ないぜ!!」
そう、俺は楽しそうなこと大好き『遊び人』!
欲望渦巻くカジノの街、こんな楽しそうな冒険断るなんて出来ねぇよな!!




