第98話 欲望の街ゴールデンリール
フロントからキャラバン隊の列車に乗って1週間、途中『ブリッジロビー』を経由したのが2日前。
お昼過ぎの日差しを浴びキャラバンは荒野を駆け抜ける。
海沿いのブリッチロビーから一変、辺りは岩と砂ばかりの景色に変わっていた。
「なんか殺風景で不気味なとこだな……、ところでレイラ何飲んでんだ?」
個室のソファーに座ると隣ではレイラが瓶に入った青い液体を飲み干していた。
「ん? ああこれね、魔力回復のポーションだって。フロントでミラさんが餞別にくれたの忘れてたのよね。けっこう美味しいわよ?」
「美味しいってなぁ、ポーションって薬じゃねーのかよ…」
喉乾いたら飲めって意味で渡したんじゃないだろうに。
それを聞いたローレンスが驚きの表情をその隣で浮かべる。
「魔力回復っておま……、それ結構高級品だろうに。気前良く行くな」
「ブッッ!! さ、先に言いなさいよね、飲んじゃったじゃない! あー勿体ない…」
涙目のレイラがローレンスをポカポカ叩くと彼の首がゴロンと転げ落ちる。
高級ポーションもアホにかかればただのジュースってわけだ。
「ほらレイラあんま騒ぐなって、今から行くとこは金持ちばっかなんだろ? ちっとはおおらかにならなきゃカッコ悪いぜ」
「何言ってんのよ! 銅貨を笑うものは銅貨1枚に泣くって言うでしょ、それに私は“損”って言葉が大っ嫌いなのよぉ!!」
……人間幾らお金を持ってもケチは治んないんだな。
情けない問答をしているとシオンが鞄を手渡して来た。
「全く、何も考えないで突っ込むから損するんだよ。君たちはもっと物事を考えて先の準備をするべきさ。ほらもうすぐ到着だよ」
生意気言う彼はもう荷物はまとめたらしく、鞄の隣に座り何やら本を読み始めている。
魔導書……にしては薄めな本、そっと脇から覗き込むと…
「何々、“ゴールデンリール観光ガイド”……これがお前の言う準備か。お前あんだけ行くの嫌がってたのにノリノリじゃねーか!」
指摘するとシオンは慌てて付箋だらけの観光ガイドを鞄に突っ込む。
……ってか、んな本ファンタジー世界にあっていいんかい。
「べ、別にいいだろ!? 下種な奴らの遊び場がどんな場所かちょっと興味が出ただけだよ! それに行くってなったら楽しまないと……、それにあっちのがノリノリだし」
真っ赤になったシオンの指さす方ではローレンスが喜々として金貨を数え直して袋詰めしていた。
「そういや準備の辺りから楽しそうだったよな」
「ウム、実際私もカジノには興味があってな。前世が娯楽とは無縁なのもあるが……お前らの好きなものはだいたい楽しいのがいかん!」
このおっさんこっ恥ずかしそうに言ってるがワクワクを隠しきれていないぞ!
「アンタねぇ、楽しみなら素直にそう言いなさいよね! 言い訳なんかしても私たちのパーティに入ってる時点でそんなもんなのよ!!」
「なっ!? 私はそんなもんでは……、あくまで騎士でだな…」
まぁ俺たちのパーティってだけで“そんなもん”だ。
しかし賭博に期待する元伝説の騎士で現デュラハン……言葉にすると奇妙だなぁ。
ガァンガァンガァン……!!
丁度その時、けたたましい鐘の音がキャラバンの先頭から響いて来た。
『ゴールデンリール到着だ、ドジらねぇように支度しな!!』
拡声の魔法で運転手の怒鳴り声が轟く。
窓を開けて身を乗り出すと前方には巨大な外壁に囲まれた大きな街。
その街はまだ昼間なのに何故か薄暗い雰囲気に包まれていた。
高い外壁よりさらに高い建物がいくつも天へと聳え立ち、ネオン街の如くカラフルな光が闇を切り裂くように溢れ出している。
そしてその中央にはギラギラと怪しく輝く巨大な神殿のような建物が…
━━━━━━━━━━━━━━━
キャラバンの列車は大きな門を潜り、高い建物に囲まれた大通りと停車した。
扉を開けて石畳の通りへ飛び降りる。
そこら中眩しいくらい光に溢れているのになぜか冷たく暗い感じ。
正に欲望渦巻く娯楽街といった雰囲気の街だった。
建物はどれも4階建て以上、まるで大都会のビル群だ。
あちこちの看板は魔法で輝き、そこら中から賑やかな音楽が響き渡る。
そしてフロントとは比べ物にならない程立派な服を着た、正装と言うべき衣装に身を包んだ人々が行きかっていた。
風景は確かに中世よりだが、現代に近いものを感じる街並み。
俺はただこの空気だけで既にワクワクは最高潮だね!
「ここが欲望の街、騒がしい場所だね。それで、先ずはどうしよっか? 見た感じ平和みたいだし……取り合えずホテルの部屋取りにでも行く?」
田舎者丸出しと言った感じに怪訝な顔で辺りを見回すシオン。
しかしそれに対し、レイラは手を振りヤレヤレといった仕草をする。
「何言ってんのよ、ここはゴールデンリールよ? この街に来たからにはカジノに行かないと! まだ夕方まで時間はあるし行ってみましょうよ、ねっ!!」
このせっかちなセリフに男三人顔を見合わせる。
いきなり行くか?
……でもまぁ、気になるよな。
「どうせ暫くカジノに入り浸るんだろ、でもちょっと様子見しとくのも良いな。どうする?」
「ウヌまぁそうだ、そこまで言うなら行ってみるのもいいだろう。何事も把握して物事を進めるのは重要だからな!」
もはや隠す気もなくワクワク全開だな。
「ダメって言っても行くんでしょ? 君たちだけで行かせたら一文無しになりそうだし僕も行くよ。……まぁちょっとは興味あるし…」
何だかんだ言ってこのお子様も俺たちのお仲間ってことだな。
先ずはカジノ、という事で煌びやかな街を急ぎ足で突き進む。
次第に駆け足で、街の中心でひたすら高くそびえる黄金の建物に向かって。
シアターや高級そうなレストラン、面白そうな雑貨街など気になるモノが山ほど目に入るが全部後回し。
そしてたどり着いた。
大通りを真っ直ぐ、街の中央に聳え立つ輝く神殿……というかもはや巨大な城。
その城の両脇からは街の外壁まで続く高い壁がそびえたっていた。
高級そうなスーツやドレスを着こなした大人が出入りし、大きく開かれた入り口からはチカチカと派手な光とパチンコ店のような爆音が飛び出している。
これが『ゴールデンリール』の象徴、カジノか…
「近くで見るとやっぱり壮観だね。因みにこのカジノの名前が『ゴールデンリール』で昔は街の名前が別にあったんだけど、余りにカジノが有名になったから街の名前になっちゃったんだってさ」
ガイドブックを我が物顔で読み上げるシオン。
成程、カジノの街って訳か。
「凄いわねぇ、ここまで大きいとは思ってなかったわよ……。私たちもああいうの着るべきなのかしら?」
「フム、確かにレイラの恰好だと流石に相応しくないな。まぁ必要ならば明日にでも買えばよかろう」
半裸の踊り子衣装もゴッツゴツの鎧もカジノには相応しくはないだろ。
「でもンなこと言っててもしゃーない、早く入ってみようぜ!」
階段を駆け上がり光と音の渦へと俺たちは飛び込んだ。
金持ちっぽい連中がジロジロ俺たちを向てくるが知らん。
堂々とレッドカーペットの真ん中を進んだ先のは金色の壁とだだっ広いホール。
所せましと並べられた様々な機械に無限の人だかり。
そして従業員らしい女性がバニースーツであちこちに!
テレビとかで見たことある、高級なカジノって感じ……ヤベードキドキだ!!
「みんな大胆な恰好ねぇ……。アレ見なさいよ、あの箱何かしら!?」
レイラが示すのは大量に並んでいる自販機サイズの箱。
ソレには三つの目、レバーやボタン…
「あれはスロットマシーンってものみたいだね。あっちがポーカーテーブルで隣の大きいのが二重ルーレットだって! あのドーム状のいっぱい並んでる奴がメダルゲッターってゲームだね」
ガイドブックと見比べながら解説するシオン。
スロットなんかは見たことある形状だが俺の知らないモノも目白押し。
巨大な回転盤が二枚交差するように回る巨大ルーレット、あれ凄いな。
……アレは?
真ん中の一番奥、ほぼ壁1面の特大のガラスケースに金色のモノが詰まっている。
そしてその中央にはひときわ大きなスロットマシーン…
「おいシオン! アレはなんだ? 後ろのケースの中ってまさか…」
「えーっと、ああ! アレはこのカジノの目玉、ジャイアントスロットだってさ。リールが20個もあって、そろえた人が今まで出てないんだって。もしそろえれば後ろのケース……、ジャックポットに入ってるコインが全部貰えるらしいよ!」
ほへー、アレが“ジャックポット”ってやつか。
カジノの大当たりの事だってのは知ってたけどあれだけあんのはすげぇよな。
思わず見とれてしまう。
「おいお前たち、コインを少し買って来たぞ! どうせなら遊んでみないか?」
鎧をガシャンガシャン鳴らしながらコインが山ほど入ったバケツを抱えて駆け寄って来る。
「気が利くわねローレンス! ……へぇ、これがカジノコイン。素晴らしい輝きね!! さ、適当に分けてスロットでもやって増やしてみましょうよ!」
金色のコインにはそれぞれの面に太陽と月らしい結構凝った模様が入っていた。
ピカピカのコインを両手に握りしめたレイラは完全なニヤけ顔だ。
……この顔をクロノスの王様とセイラがみたら泣くだろうなぁ。
「それじゃあ、一番増やした人の勝ちね! よーいスタートッ!!」
「ああっ!? 待ってよレイラ、勝負って…」
「甘いな、こういうものはセンスだ! ここはズバリあっちだな!!」
レイラの突然の提案で散りジリに駆け出す仲間たち。
なんかアホな勝負が始まったな。
でも楽しいじゃねーかこういうの、大好きだぜ!
一番コインを増やすか。
俺もポケットにコインを突っ込むと真っ直ぐと中央の一番奥、“ジャックポット”目指して走り出した。




