第95話 4人目登場
「シーナさんってやっぱ領主だったんだな、絶対金持ちだろコレ……俺たち入っていいのか?」
フロントの街の裏門から出てやたらゴブリンがよく出る洞窟を脇目に、幾つかの怪しく輝くゲートを潜って石畳の上を道なりに真っ直ぐ進んだ先。
まさしく金持ちの屋敷って表現がふさわしい巨大な豪邸が聳え立っていた。
ここがフロントの領主、シーナ・フロンティアのお屋敷だ。
因みに手紙に書いてあったけどシーナの苗字は“フロンティア”らしい……、やたらかっこいいよな。
「ふーん、領主ってだけあってなかなかに良い家柄みたいだね。ほら金治、行かないの?」
呆気に取られてポカーンとしていると下の方からシオンが小突く。
「お、おう行こうぜ! 俺たちは招待されてるんだもんな、大丈夫だよな」
「ほらみんな早くしなさいよーっ! シーナさんお料理用意してくれてるかもよ!? 冷めちゃうじゃない!!」
叫び声の方を見ると一人とっととお屋敷の玄関前まで駆け抜けたレイラが手を振っていた。
「オメーはちったぁ遠慮しろよな!! ったくお転婆姫極まってるなぁ」
勝手に料理が出てくることにしてる辺り図々しい。コレが一国の姫だってのやっぱ信じられねぇわ。
俺たちも正面の全開に開かれた大きな門を潜って歩き出す。
いざ進もうとしたその時、トントンと固い甲冑の小手で肩をツツかれた。
「……なぁお前ら、おかしいと思わないか?」
フロントを出てから怪訝な顔をしてずっと首をあちこちに向けていたローレンスが小声で囁く。
「んだよ別におかしくないだろ。シーナさん領主なんだし金持ちでも…」
「違う、警備が全くないことだ。ここまであった魔物除けのゲートも動いてなかった、何よりこれほどの屋敷に門番すらいない。それどころか正門を開けっ放しとは不自然だ」
かなり真剣にズラズラ述べるローレンス。
「おい、とりあえず人の肩に生首を置くな! 正門全開なのは俺たちを呼んだからじゃねぇのか?」
正面の門の左右には開け放された巨大な扉、高い塀が屋敷を囲んでるようだ。
この扉、動かすの大変そうだし閉めるの面倒なだけなんじゃね?
「そうそう考え過ぎだって、こんな雑魚モンスターしか出ない場所にあんな上等なゲートがある方がおかしいんだ。早く行こう、お姫様がご立腹だよ」
「ウ、ウム……そうだな、無駄に怪しむものではないか…」
リンゴーンリンゴーンッ……バンバンバンッ!!
「すみませーん、誰か居ませんかーっ……あら? 開いてるじゃない、入っちゃっていいってことね!」
「ホントに少しは遠慮しなよ!!」
ガスッ!!
躊躇なく黄金製の呼び鈴を連打し、高そうな装飾の入ったドアを叩きまくった挙句に不法侵入しようとするアホ……の頭をシオンは鞄から取り出した分厚い魔導書でひっぱたいた。
「いったーいっ!! 角で叩くことないじゃない! 私たち招待されてるのよ、シーナさんはお友達だし…」
オマエはいつからシーナさんと友達になったんだ。
言い合ってるアホコンビを横目にふとレイラが開けたドアを覗き込んでみる。
玄関の向こうは赤い絨毯がひかれた大部屋、左右には二階へ続く大きな階段、天井にはスパイモノとかでよく粉々にされるような大きなシャンデリアが輝いていた。
「明かりついてるぜ? 奥に誰かは居るんだろ」
「待て! 魔力が変だ……迂闊に入るのはあぶな…」
ドガチャン!!
「よ~くお越しになさいました金治パーティの皆さま~! ササッ、正面のドアよりマッスグ入って待合室へお進みくださ~イ」
勢い良く両開きの扉が全開に開かれ、年老いた男の声が響き渡った。
屋敷の奥まで真っ直ぐ続く絨毯を飾る左右の燭台は怪しく輝いている。
「ず、ずいぶんハイテクなお屋敷……なわけないわよね。さっきの声誰よ!? 怖いじゃない!」
「言ってること的には召使か何かか? ……俺たち行かなきゃダメかなぁ」
震え声で叫ぶレイラに続いて思わず後ずさりしてしまう。
「金治! レイラ!! 帰るわけには行かないよ。この感じ、アンデッドモンスターだ!」
「アンデッド!? なんでそんなのが……シーナさんがゾンビってわけ無いよな?」
「それはないと思うが緊急事態には変わらない。ここは応援を呼ぶのも…」
「エー、ゴチャゴチャ言ってないでお早くお進みくださーイ! お人質がお待ちでございマースゥ」
再びお屋敷の奥から響く枯れた声。
「人のセリフを何度も……いやそれより人質だと!? 金治!!」
ローレンスが首をこっちに向けて叫ぶ。
「ああ、領主様のピンチって訳だ。怖いけど行くぜ、シーナさん助けて逃げるぞお前ら!!」
三人の仲間はコクりと頷く、俺たちは屋敷の奥へと駆け出した。
バダーンッ!!
屋敷に踏み込むと、背後で玄関の扉が大きな音を立てて閉まる。
「ちょっと! 閉じ込められちゃったじゃない、どうすんのよ!?」
「うるせぇ、こういう屋敷に入ったら閉じ込められるのがお約束だろうが! いいから走るぞ!!」
金切り声を上げるレイラに言い返して俺たちはドタドタと絨毯の上を走る。
玄関の大広間を横切り、大きな二つの階段の間、真ん中の開かれた扉をくぐって廊下を駆け抜けた。
後ろで大きな音を立ててまた扉が閉まる。
根拠はないけど立ち止まったらお終いな気がする……いや、何より怖えよ!
ガムシャラに走って廊下を抜けた先、向かいの壁一面がガラス張りになっている広い部屋に飛び込んだ。
「ようこそいらっしゃいましタ、ではまずカンドウのサイカイといきマ…」
ドタ……。
音の方を振り向くと部屋の端で執事服を着た老人が倒れていた。
それとほぼ同時に部屋の中心に黒い煙が立ち込める。
「おやおや、やはり人間とは脆いものですねぇ。貴方が金治さん、そしてその御一行……ふむ、思ってたより小さいですね」
煙の中から現れた男が顎に手を当てながら呟く。
ソイツは全体的に白っぽいローブに身を包み、かなり長身だが細身の優男。
元四天王ヴァイロンや勇者ワタルと同じかそれ以上に背丈はありそうだが、マッチョマンな彼らとは違いむしろガリガリで顔色がない様子だ。
フレームのないかなり大きめの眼鏡をかけたその顔は不思議と穏やかだった。
そして何より、髪の毛がすごいふっさふさの綺麗な白毛……絶対あれ触り心地いいよな。
「あ、あんた誰よ? ここシーナさん家でしょ、なにしてんのよ!?」
突然の不思議な奴の登場に固まっているとレイラが恐る恐る声を出す。
すると白い男は手をポンと叩き……
「ああそういえば紹介がまだでしたね。お初にお目にかかりまして、魔王軍四天王ダンテと申します。君たちのことは良く知ってますよ……ベラムスが大分お世話になったようで」
邪気の全く感じない明るい笑顔で名乗り切った。
……四天王?
このなんかいい人っぽい雰囲気のが最後の四天王……
「えっと、ダンテ…さん? 良く知ってるって俺たち会ったことなんて、いやそれよりシーナさんはどこだ?」
危うく流されかけたけど再び身構える。
隣で仲間たちも真剣な表情を向けなおす。
「そんな怖い顔しないでよ~、僕、結構君のこと評価してるんだよ? でも……うん、まずはご対面させた方が話が早いか」
彼は軽く笑いながら片手を上げ、指をパチンッと鳴らした。
ガゴン! ガラガラガラガラッ……!!
音を立てて大きく揺れるとダンテの後ろの天井がゆっくりと下降を始める。
降りて来たのはぶっとい鎖に吊るされた鉄の檻……中にいたのは…
「シーナさん!? なんであんなとこから檻が、ってか大丈夫ですか?」
「金治様、そしてお仲間の方々! 逃げてください、あの者には…」
「おっと、領主様が叫ぶなんておはしたないですよ。それで君たちはこのお嬢さんを助けたいのかな?」
シーナの声を遮ってダンテが問いかけてきた。
怪しい笑みで顔をゆがませる。
……コイツ、見た目と違って中身真っ黒なタイプか。
「当たり前だ! 目の前での悪行を見過ごすことは我が騎士道が許さん!! 命が惜しければおとなしく開放することだな」
熱気を放つ魔剣を突き出し、勇ましくローレンスが叫ぶ。
「僕らに喧嘩を売るとは君、いい度胸だね。フロントの領主様を返してもらうよ」
「そうよそうよ! 他の四天王と戦った私たちを舐めないでよね、やっつけてやるんだから!」
シオンとレイラも一歩前に出ると戦いの構えで喚き散らす。
……おいおい、これ大丈夫か?
相手は魔王軍最後の四天王、今まであった誰とも違う怪しい感じがする。
そして何より、『何となく』だがいやーな予感しかしねぇ…
(てか戦ったのはヴァイロンとベラムスだけだし。それぞれ片やお情けの慣れ合い、片や逃げられただけなんだよなぁ。
ゼラさんは味方になっててくれたけど未知数だし、そもそも戦ってすらいない)
ダンテが薄い紫色の光を纏って空中に浮き上がった。
「うんうん、やる気は十分みたいだね。僕も頑張って準備した甲斐があったよ~。じゃ、君たちの力見せてもらいますね……。いでよ、我が僕!!」
さっきまで彼が立っていた場所に怪しい魔法陣が不気味に輝く。
強い光に包まれ現れたのは金色に輝く直径2mほどの巨大な球。
「な、何よコレ……つまらない下ネタなんか、キャアッ!?」
レイラが叫び声をあげる。
その金色の球はグニョグニョと変形を始めたのだ。
二本の短い脚に巨大な腕、そしてコアのようなものが顔に当たる部分に移動していく。
そして出来上がったのが大きめの上半身を持つ巨大な一つ目の黄金巨人。
「なんだよコイツ!? おいシオン、あの金色の化け物もモンスターか?」
「し、知らないよ! いくら僕でもあんなの見たことない……スライムの類か、あるいはゴーレム系かな? とにかくヤバいヤツだってのはわかるよね!?」
俺たちは慌てて部屋の入口まで後ずさる。
「あー流石に君たちも知らないか。うん、教えてあげますよ。コレは『ゴールドグリード』、人間の欲望を糧に進化するモンスター! ウフフフフ……、とっても美しいでしょう」
恍惚の笑みを浮かべて笑う空中のダンテ。
「さて、この子には多少の金欲を…まぁ言うなら二段階目って辺りでしょうか。君たちの力を是非見てみたくて用意しちゃった相手です。さあ頑張ってください!」
わざとらしくリアクション付きでそう言うと投げキッスをしてくる四天王。
力試しって完全に俺たち遊ばれてるじゃねーか!
「クッソ、これ戦わなきゃダメな流れか!? 俺たちの力なんてわざわざ見るなよな…」
「もう嫌よ、アレ絶対強いじゃない! ウウゥ、ご飯食べに来ただけなのに…」
「でも逃げ場なんて無いよ! 初めて戦うモンスターだけど仕方ない、行こう」
「ウヌ、それに向こうには領主様が人質に……この戦いは免れない!」
強そうだが何もしないで叩き潰されるわけにはいかない。
俺たちは武器を構えて集中する。
確かに怖いが、俺たちはもっと凄いのと戦ってきたんだ。
……実績はあるんだ!
「こうなったらやってやるぞ! 戦闘開始だ!!」




