第94話 弱さの秘密!?
「お待たせしましたわ、追加のお料理を……み、皆さまお元気を出してくださいませ!」
いつになく暗い雰囲気に遠慮した様子で、山盛りの揚げ物が乗った大皿を俺たちの前のテーブルに乗せる。
マスター特製のスパイスの香りが辺りに広がった。
「……ありがとフリーダ、ギルドもすっかり慣れたみたいだね」
重い空気は嫌いだ、俺は料理を持ってきた彼女に手を振った。
少し前にフロントの街を凍らせた“自称”シオンのライバル、フリーダ。
自分のせいでモンスターを呼び寄せてしまった事を気にしてギルドと商店街の再建を手伝ったらしいがそのまま馴染んでギルドのウェイトレスをしていたのだ。
シオンに再挑戦するって名目で俺たちがクロノスから帰ってくるのを待っていたそうだが、すっかりギルドの看板娘だとか。
うん、メイド服姿がすっかり板についているね!
「ありがとうですわ、金治君。……皆さまそこまで悩むことでしょうか? シオン様やローレンスさんは十分お強いですし、スランプなだけでは…」
「おいおい、ローレンスはともかくこのアホどもがスランプなんてデリケートなことなっかよ。特にノー天気レイラがスランプとか天変地異だぜ!」
フリーダの言葉にリックが呆れ気味に返す。
ご丁寧に大げさなリアクション付きだ。
「何ですって!? 私は十分デリケートですよぉだっ!!」
「ちょっ、おま、元気じゃねぇ……グェェ!!」
驚くほど素早く背後を取ってヘッドロックを仕掛けるレイラ。
……魔法使いの動きじゃねぇよ!
数時間前までは俺たちの10連敗をネタにしてドンチャン騒ぎだったギルドも一転シリアスムード。
大勢で囲んだ大テーブルには戦闘術の分厚い本や魔導書の山。
どーしたことか暇な冒険者たちに休憩中の神官たちも集まって“何故金治パーティは連敗するのか”についてかなり真面目めな議論へと発展していたのだった。
戦いたくねーのにんなこと考えられてもなぁ、俺はダラリとチキンでも頬張りながら傍観させてもらうぜ。
「お待たせしました金治様。あの、非常に残念ですが冒険者カードは正常でした」
俺たちの冒険者カードの指輪を点検していた神官が申し訳なさそうにやってきた。
ギルドを立て直す際、ギルドと隣に独立していた冒険者登録やらをする神殿が合併したのだ。
まぁその方が便利だよね。
「はぁ、ありがとうございます……いや俺はもういいからレイラたちだろ!?」
俺だけレベル10から一向に強くならないのはおかしい、とかなり念入りに調べられた。
周りからヒソヒソ聞こえる……どうせ俺は弱~い遊び人さ!
「レイラはトランプ魔法ぶっ放して動けなくなるし! シオンとローレンスはなんか調子悪い……、いやお前らはスランプでいいのか?」
話題を逸らすべく大声で指摘だ。
「仕方ないでしょアホみたいに疲れる魔法なんだから! 究極魔法らしいしどうせならいっぱい使いたいじゃない!」
「く、くるじい……れいらさま、リキまない、で…」
リックをホールドしたまま叫ぶレイラ。
「おい待てよ、どの魔導書にも書かれてないぜ? レイラのロイヤル…何とかって古代魔法なんだろ? 現代に伝わらないレベルに使い物にならない欠陥魔法なんじゃねぇか?」
慣れない手つきで本をめくっていたバルドが怪訝に呟く。
どうせならでんなよく分からん魔法ぶっ放してたんか……
「この僕がスランプとかあり得ないよ! 昨日はちょっとカッとなっちゃったけど、そうそうあんなミスはしないよ」
「うむ、私たちは今まで悪くないチームワークで戦ってきたのだ。落ち着いて戦えば負けはない」
自身あり気に頷くシオンとローレンス。
毎回そう言って10連敗なんだよなぁ。
「やっぱ協調性がたりないんじゃねーの?」
「コスパ考えて魔法を使えば…」
「いやいや、ここはこのリック様がパーティリーダーとして!」
「金治が飛びぬけて弱いのがなぁ、パーティのバランスが…」
「フリーダちゃ~ん! ガブル酒おかわり三人前ね!!」
「実は単に弱いだけかもな、筋肉ねーし」
ガヤガヤとギルドがまた騒がしくなっていく。
みんな勝手なことを……いや、単に飽きてきた奴らがほとんどじゃんかよ!
バタン、ガラガラガラーン!!
「おいお前らもうちっと丁寧にギルドを使いやがれ! ったく新築なんだぞ」
酒樽を抱えたマスターが乱暴に扉を蹴り飛ばして入って来る。
丁寧にってどっちがだよ…
「おいアホ4人どこだ!? 客が来てるぞ!!」
ドガッとカウンターに樽を置いて、マスターが声を張り上げた。
「アホはねぇだろ、俺たちそこそこ頑張ってんだぜ?」
「いやお前らだいぶアホな方だろうが。そんなことより残り三人はどこだ? 招集かけろリーダー」
俺、リーダーってやっぱハズレくじだと思うんだよな。
アホの面倒見るってクソめんどくせぇ!
「おーいアホども! 全員集合、客だとよ!!」
仕方ないから大騒ぎしてる方に向かって叫ぶ。
「アホはあんまりじゃない! あっちのアホよりはマシよ!!」
「いや、お前は一番のアホだろ。シオンとローレンスはどこだ?」
酒臭さを放つ踊り子女をあしらって大騒ぎのギルドを見渡す。
「僕はここだよ。全く、情けないことにバルドったらロクに字も読めてないんだ。後で勉強の続きだからね」
ウヘェ……という悲痛な叫びを背にシオンが大きな本を抱えてやって来る。
バーサーカーって職の脳筋に勉強は無謀だろうに。
「ん? ローレンスは一緒じゃねーのか? アイツは酔って暴れたりはしないだろうし…」
「あそこで喧嘩してるじゃん。おっさんいっつも大人ぶってんのに挑発されるとすーぐキレるんだから世話ないよ。おーい金治が集合だってさ!」
呆れ気味に一番騒がしいテーブルに手を振るシオン。
伝説の騎士が初心者の街で喧嘩してんじゃねぇよな、ハァ。
「うむわかってる! だが騎士のプライドにかけて許すわけには…」
「めんどくせぇ、首だけでいいからちょっと寄越せ! グハァ!?」
ゴチィン!!
叫ぶと同時に投げられた赤い兜を付けた首は俺の顔にめり込んだ。
「おぉ……、すまない金治!」
「投げる前に……一言言いやがれよ、な…」
鈍い痛み。
床に転がったローレンスの首の前に俺は思わずうずくまった。
やっぱ俺のパーティ全員アホだ!!
ボウゥン……!
突然目の前で発生した煙の中から長い黒髪の女性が現れた。
「いつも変わらないわね、貴方たちには飽きないわ。お久しぶりね金治パーティの皆さん!」
俺たちに微笑みかけると水晶玉をカウンターにそっと置く。
「ミラさん!! 久しぶりだけど派手な登場ですね、客ってミラさんのこと?」
「み、ミラ!? 体よ来い、大至急だ! 金治早く俺の首を隠せ!!」
「おっさんもう遅いって、おとなしく座ってなよ。所でミラさん何の用?」
「久しぶりね、ミラ! 丁度いいわ、用事の前に私の魔法のこと聞きたかったんだけど…」
全員で同時に騒ぐ俺たちを見て、口元を隠して笑うミラさん。
とてもこの美しい女が70手前のばぁさんには見えんよな。
「金治君、女性の年齢を詮索するのは紳士としてはいかがなものかしらね。それよりレイラちゃん、その魔法の事で今日は来たの。貴方たち最近失敗続きみたいね」
いきなりズバリと来るな……ってか今さり気なく心読んだし!
隣に座ってた三人もギクリと表情を固める。
「し、失敗はたまたまよ! それより私の魔法のことって…」
レイラの口に指をあてて話を遮ると、やれやれといった感じに首を振る。
「いいえレイラちゃん、たまたまじゃないわ。貴方たちは今“成長の壁”にぶつかってるのよ!」
ビシッとポーズを決めて指さすミラさん。
俺たちは顔を見合わせた。
んなことカッコつけて言われてもな……
「その壁って要はスランプってことだろ? そんな真剣に言われましても」
「確かにスランプのようなもんだ。だがお前らの場合はちっと訳が違うんだ」
ミラさんに紅茶を出すとマスターが続ける。
「まずシオンとローレンス、お前らは恐らく成長の限界だ。シオンは初級職の僧侶だったな?」
このマスターの言葉に二人はムッとする。
「そうだよ。でも僕の才能はまだまだこんなもんじゃない。いくらマスターでも…」
「僧侶の職の中で成長の限界だ。伸びしろが無いとは言ってないぞ」
「私はどうだというのだ? 最上級職は既に極めた、だが剣の道は己で開拓するものだと思うがな」
ポカーンとするシオンに変わってローレンスが睨みつける。
「確かに貴方は伝説と呼ばれるほどの剣士よ。でもデュラハンとして蘇って随分勝手が変わってるはず、人より強くなった体は良いことばかりじゃないわ」
これにはミラさんが返す。
「次にレイラちゃんだけど……大事な話よ、寝ないで聞いて頂戴! 貴方の新しい魔法は古代呪文、失われた魔法なの。使いこなせないままではとっても危険なのよ…」
むつかしい話に眠り落ちそうになってたレイラを揺すって起こす。
せっかくウトウトしかけてたのに俺まで目が覚めちまった!
「古代呪文……そう、凄いわよね、グゥ」
「最後に金治、お前だ。あれだけ戦いを繰り返してレベルが上がらない、その腕輪と言い初代勇者の宝石と言謎が多い。一度きちんとした調査と勉強をした方がいい…」
「なっ、勉強!? 嘘だろ!?」
俺の眠気は吹き飛んだ。
せっかくこの世界に来て“勉強”という悪魔の呪文から逃れていたのに!
「嘘じゃない! 良いか、お前らには解明すべき謎と克服すべき問題がある。そこでミラと考えたのだが……お前ら別メニューで修行をしてみる気はないか?」
修行だと……!?
なんだかめんどくせぇ雰囲気になってきやがったな。
「そう、レイラちゃんやシオン君は私とフェアリーテーブルで魔法を。ローレンスは騎士の技をその体で一度総復習した方がいいわ。そして金治君は初代勇者のルーツ……その原点となってる王都に行くの!」
「勇者の……ルーツ…」
それは普通に面白そうじゃんか。
レイラたちは明らかに嫌そうな顔してるけど…
「ついでに王都の騎士団で武器の扱いを教わればいい。金治お前魔法は使えないだろ」
王都の騎士団だぁ?
んな明らかにマジメ系体育会みたいなとこぜってぇめんどくせぇ!
「私は貴方方が重要な役割を担う気がしてならないの。正しい力は魔族との戦いでも必要、世界には希望が必要なの!」
「それになんだ、このギルドから強い冒険者が出るのは俺の名誉なんだ。大丈夫、お前らならもっと強くなれるぜ!」
熱意を込めた目で見つめて来るマスターとミラさん。
いや、冗談じゃない!
上手くいってる時に期待して来るのはロクなことにならないぜ。
世界がどうとか知らねぇよ、近所が平和ならそれでいいじゃないか。
レイラ、肱で突くなよ。シオンもその断れって目止めろよ…
「あー……あの、俺たちはだな…」
クゥゥ、もうなんでもいいからここから逃げ出せる何か起これよ!
ラッキーでもアンラッキーでもなんでもいいから……
バダーンッ、ガランガランガランッ!!
「速達! 速達でーすっ!! 金治御一行さんいますかぁーっ!?」
凄まじい勢いでギルドに走り込んできたのは新聞屋のロージー!
パーマヘアを揺らして息も絶え絶えだ。
「あっ、居たっ! はいこれ、領主様からのお手紙!! 大急ぎだって」
差し出される厚手の良質紙の封筒、確かに差出人は“領主 シーナ・フロンティア”
これはチャンス……じゃなくて事件の予感だ!
「早く開けなさいよね! 領主様の大急ぎよ!!」
俺の手から封筒を引っ手繰る、レイラは喜々として封筒をビリビリ破き始めたのだった…




