第93話 バラバラパーティ
全長1mほどの緑色の連中が数匹……、雑魚モンスターの代表格『ゴブリン』の群れに俺たちは対峙した。
場所はなんか毎回来てる気がする、お馴染みフロントの街近くの洞窟。
ゴブリンどもは洞窟の前で焚火を囲んでビョンビョンと跳ね周りギャースギャースと意味不明な叫び声を発している。
……まさに初心者向けにしか見えない雑魚モンスター。
こんな連中に”もう”負けるわけにはいかない…!
「レベル1の俺でも勝てた相手だぞ! 今度こそ絶対勝てるだろ!?」
俺は愛用の短剣『ミリオンスター』を必要以上に強く握って力み気味に叫ぶ。いつにも増して険しい表情を浮かべた仲間たちはコクリと頷く。
「あ、あったり前じゃない!! 天才魔導士の私がこーんな雑魚に負けるわけないでしょ!!」
と、叫び返すレイラは威勢は良いが明らかにビクついている。
「大丈夫さ……、このクエストはフロントの初心者向け、僕らには簡単すぎるくらいだよ…」
冷静に呟いたシオン、だが彼の眼は血走り真剣そのものだ。
「ウム、我々が今更このような下級相手に後れを取ることはあり得ない。我が剣の錆にしてくれるわ!」
まるで宿命の敵と対峙したかのように凄まじいオーラを放つローレンス、彼がわき腹に抱えた首はゴクリと唾を飲み鋭い眼光が光る。
相手は雑魚モンスター数匹、一方レイラ達はレベル30を余裕で超えて既に初心者とはとても言えない程の強さにはなっているのだ。
とても俺たちがバリバリに本気を出すようなクエストではない。
……だが俺たちには負けられない訳がある!
「何としても勝って連敗地獄脱出だぜ! 行くぜお前ら!!」
「「「おう!!!!」」」
━━━クロノス・スタッフでの戦いから二週間、フロントに戻ってから俺たちは妙に調子が悪い。暇つぶしにフロントで簡単なクエストを受けているが見事に失敗続きなのだ。
もうクエスト失敗は嫌だ……何が何でも10連敗は防ぐんだ!!
ギャーッと叫んでこっちに向かってくる雑魚に対し、最初に飛び出したのはシオンとローレンス!
「僕がまとめてやっつけてやる! 行くよ、『パラレル・ホーリーレイ』ッ!!」
ザッと立ち止まりシオンが呪文を叫んだ。彼の得意呪文『パラレル・ホーリーレイ』、無数の細い光線をショットガンの如く乱射する攻撃魔法。これは決まった!
しかし……
「我が剣技を食らうがいい! フレイムドー……、グヌゥ!!」
バシュウバシュウッ! とシオンの魔法がローレンスの背中に命中する。
剣で切ろうと前に出た彼はシオンの魔法を全てその身で受けてしまったのだ。そして正に今必殺技を放たんとしていた赤く煌々と輝く魔法剣は宙を舞う。
「何やってんのよアンタたちは! 私の魔法で吹き飛ばしちゃうんだからどいてなさいよ!!」
その甲高い叫び声に驚いて振り返るとレイラが長杖を空高く掲げ、その先にはいくつもの色の強烈な光が集中してゆく真っ最中だった。
シュィィーン…ン……
周囲の光全てを飲み込むように、凄まじい風がゴウゴウと渦巻く。
「いっくわよ! 最強魔法……『ロイヤル・ストレート・フラッシュ』ッッ!! はっしゃぁっ!」
(『ロイヤル・ストレート・フラッシュ』……最強魔法というのはレイラの強がりではない。実際に伝説やらお伽話に登場するような昔の超強力魔法らしい! ただこの魔法は……)
赤、青、緑、黄……四つの光が白を纏い、極大の光線となって放たれた!
轟音を立てながら世界の色を全て集めたような閃光が駆け抜け、それを避けるように暴風が巻き起こる。
思わず俺はその場にへたり込んだ。ボケっとしていると吹き飛ばされてしまいそうだ。
視界の端ではシオンとローレンスも吹き飛ばされまいと身を低くする。
(……こんな強力な魔法があればどんな相手にも負けないだろう。
ただ、それは魔法を相手に当てることが出来ればのお話である。
当たり前のことだって? その通りだがそう上手く行くならば敵をやっつけるだけのクエストで失敗はあり得ない。だがあり得てしまうのが俺たちなのだ)
「レイラ!! 踏ん張れよ! 今度はしくるな……よ…」
杖の先端からその凄まじい光線を放つレイラに叫ぶが、その光景に俺は思わず顔を手で覆った。
「ご、ゴメン! やっぱり無理みたい……みんなよけてぇぇっ!!」
蟹股で必死に杖を前方に突き出していた彼女はそう叫ぶと盛大にひっくり返ったのだ!
振り上げられた杖から放たれていた光線は無茶苦茶な軌道を描き、辺りに降り注ぐ。
ドガンドガンとそこら中で大爆発を巻き起こし、うねりながら飛んだ特大の光線は洞窟の遥か上部の崖に凄まじい爆音を起こして着弾した。
あちこちから煙が上がり、パラパラと舞い上げられた砂が降る。
“また”失敗だ……吹き飛んだレイラは地面に大の字で倒れ込んでいた。
自信家僧侶に張り切りすぎの剣士、最強呪文で調子に乗り切った魔法使い……もしかしなくても負けるのは必然かもしれないなぁ……
「ちょっとレイラ、出来もしない魔法をむやみに飛ばすの止めてよ!! 僕らまで死んじゃうじゃないか!」
メタメタな仲間たちにしんみりしていると、シオンが砂利の中から飛び出して叫ぶ。
「な、何言ってんのよ、アンタだってまともに攻撃できてないじゃないのよ! 優秀な私が何とかしないと勝ち目ないじゃない!! 金治に頼れってのは嫌よ!?」
長杖を支えにフラッフラのレイラも強気に返す。
……ってか何気に酷くないか?
「ローレンスが邪魔しなければ僕の魔法で終わってたんだ! ダメ魔法使いの君は黙ってればいいんだよ、全く何度迷惑をかけるんだか。いや金治には助けられたくないけどさ」
呆れ気味に言い返すと大げさにため息をつくシオン。
……所で俺の扱いよ…
「なっ、貴様こそ私の剣技を邪魔しおって! 魔導士など剣士に守られてれば良いのだ!! 確かに弱き者は守るのが騎士道故、金治には頼らぬが…」
怒りの表情を浮かべた首を突き出してローレンスも怒鳴り込む。
……弱き者…
ギャーギャーと醜い喧嘩を始めやがった仲間たち、ふと反対側を見るとそれに負けじとゴブリンたちも再びギャースギャース騒ぎ出していた。焚火よりも真っ赤に輝く”何か”を囲んで……
「おいローレンス、アレお前の剣だよな? いつもあんな光ってたか?」
「なんだ金治よ、お前は私の後ろに隠れて……ああ、あれはさっき誰かに剣術を中断させられたからな。武器に魔力を込める呪文、振らねば発動はせんが…」
喧嘩を中断して賢そうに語るローレンス。
その間にゴブリンの一匹が魔力の籠ったらしい剣を持ち上げるとギャーッッ!! と凄まじい悲鳴を上げた。
ひっくり返ったゴブリンは泣きながらその輝く魔剣を投げ捨てる…
「馬鹿な魔物だ、炎の魔法を込めたのだから熱いのは当たり前だろう。……って危ない! 皆逃げろ!!」
物凄い形相をした首を抱えて突如駆け出す真紅の騎士。
「「え゛っ!?」」
胸倉を掴みあって正に殴り合いをしようとしていた露出装備の魔法使いとちびっ子僧侶もマヌケな声を上げる。
ヒュゥゥゥン……
ゆっくりと放物線を描いてこちらへと飛んでくる一本の剣。
背を向け駆け出そうとする仲間たち。
呆気にとられてポカーンとその光景を眺めていると俺たち4人の真ん中にそれは着弾した。
ドッッゴォォォン……!!
凄まじい爆発に紙屑の如く吹き飛ばされる。クルクルと世界が回って宙を舞い、茂みの中に頭から突っ込むと視界は一面の緑に覆われた。
逆さまの感覚、爆発の熱風、全てが混ざった感覚を最後に俺の意識はここで途絶えたのだった。
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━━━フロントの街、一番高いところにある冒険者ギルド。いつものカウンター席に俺たち4人は不貞腐れて座っている。みんなあちこち頬帯を巻いてボロボロだ。
いつも通り騒がしいギルド兼酒場だが今日は俺たちのすぐ脇の大テーブルから笑い声が響いている。
「えーえー、皆さん一旦ご注目! この素晴らしい日を祝して今一度乾杯しようではないか。さあみんな酒を持って…」
いつにも増して悪い笑みを浮かべたリックがテーブルに片足を乗っけて叫ぶ。
さっきまで大騒ぎしていた冒険者たちが一斉に酒の入ったジョッキを持ってニヤニヤと笑う。
一方隣ではシオンはカウンターに突っ伏し、ローレンスは首をマントに包んで肩を落としていた。あのノー天気レイラも頬杖をついてソッポを向いている。
「我らが金治パーティ! 初心者向けクエスト10連敗を記念して……、カンパーイッッ!!」
「「「「「カンパーイッッッ!!!」」」」」
ギルドに響き渡る冒険者たちの笑い声。
俺たちがローレンスの剣で吹き飛んだ後、事もあろうにリックたちに助けられたというのだ。
確かに(主にレイラが)散々自慢したりしたけどさ! こんなに笑う事ねーだろ…?
「やぁやぁキーンジくぅん! まさかゴブリンにも負けちゃうとわ驚きだなぁ、運が尽きてきたんじゃないか!?」
わっざとらしくからかってくるリック。
「うっせーな、こいつらが仲間割れして自爆しやがるのが悪いっての。連携なんて言葉はねーわ、使えもしない魔法は使うわ…」
「ちょっと五月蠅いわよ金治ッ!」
「連携がないんじゃないよ! こいつらが邪魔なんだよ!!」
俺と落ち込み切ったローレンスを挟んで喧嘩するんじゃねぇよ……。
と、愚痴っているとリックがさらに心を抉ってくる。
「まあレイラとシオンがマヌケなのは元からじゃん。レイラがレベル37だとか自慢してたんだから金治お前もそれくらい上がってんだろ? そんだけ強くなったのに雑魚相手に負けて仲間のせいはなぁ」
呆れ気味に呟いて、グビッとジョッキを傾けた。
『レベル』……実力を数値化するこのシステム。RPGゲームなんかだと分かりやすいし、強くなった実感があって便利でかつ楽しいものだ。だがそれは”強くなる”場合だ。
「そういや聞いてなかったけどお前何レべになったんだ? クロノスでもいろいろ戦ったってんだから強くなったんだろ?」
思い出したように尋ねるリック。
俺は思わず強く拳を握って項垂れる……試験に自分だけ落ちたような恥ずかしさ。
「……じゅ…」
「なんだ? じゅ…?」
グイッと顔を覗き込むようにリックは乗り出して来る。
俺はダンッと立ち上がって叫んだ。
「レベル10だよこのコノヤローッッ! 強くなくて悪かったな!!」
クロノス・スタッフでの苦労も伴わず変わらないレベル。
恐らく俺は物凄い顔をしていた事だろう、本気で泣きたくなったのは10年ぶりくらいだ!




