第28話
「謎解きタイムって……」
一瞬教室が静寂に包まれる。
「……もしかして、今の話を聞いただけで、謎が解けたってこと……?」
奈々の問いかけに、ミナトは余裕たっぷりに肩をすくめた。
「ああ。と言っても、まだ仮定に過ぎないけどね」
わっと教室が盛り上がる。ミナトを囲むようにして、一斉にクラスメイトたちが口を開いた。
「ミナトくん、すごい!」
「さすがだな、ミナト!」
「一体犯人は、どうやって教室から物を盗んだの!?」
ミナトに詰め寄るクラスメイトたちを落ち着けるように、ミナトは手のひらを顔の前に掲げた。
「まあまあ落ち着いて。悠斗くんはどうだい? 今の話で、犯人は分かりそうかな?」
クラスメイトの視線がこちらに突き刺さる。全員が懐疑的な目をしている。いや、違う。
一人だけキラキラした目でこちらを見ている。奈々だ。
「悠斗も、きっと解けたんでしょ?」
僕を信頼している奈々の視線が、ただただ痛い。
「僕は……」
答えようとした唇が震えた。頭が真っ白になる。何も言葉が見つからない。――だって僕は、まだこの事件の謎が解けていない。
「……ほら、やっぱり秋津じゃ無理なんだよ」
ヒソヒソとクラスメイトたちが囁く声が聞こえる。嘲笑の笑いが、不快な刺激となって鼓膜を揺らす。
「……そうか、じゃあまずは、僕の推理を聞いてもらおうかな」
ミナトはクラスメイトの注目を集めるように、軽く手を打った。
「まず、この事件には不可解なところがいくつかあるよね。一つ目は盗まれた物だ。自転車の鍵に、文房具に、髪飾り。あとはチョコレートだったかな」
ミナトが問いかけると、クラスメイトたちは一斉にうんうんと頷く。
「一つ一つは当人にとってはとても大切なものだろう。だが、わざわざ窃盗を犯してまで盗むものなのかといえば疑問が残る」
「うぅん、確かに」
あかりが、こくこくと素直に頷く。僕の時とはまるきり態度が違う。
「そして二つ目。犯行現場に立ち入れる人間が誰もいない。廊下やベランダから侵入しようとすれば、他クラスに目撃される。他クラスに授業中抜け出した生徒はいない」
ミナトはぴんと人差し指を立てる。
「ということは、考えられる可能性は一つ。犯人は人間じゃないってことだ」
「それってまさか、幽霊……ってこと……!?」
アヤノが青い顔をして数歩後ろに下がる。気の強そうな見た目に反して、幽霊は苦手らしい。
「いやいや、そうじゃないよ。そのまんまの意味さ。犯人は人間以外の生き物なんだ」
アヤノの言葉に苦笑しつつ、ミナトはポケットから自転車の鍵を取り出す。
「盗まれたものには特徴がある。一つは小物であること。そしてもう一つは、キラキラしたものであることだ」
「……キラキラ?」
奈々が首を傾げる。
「ああ。盗まれたものと同じものを、机に並べてみてほしい」
ミナトの言葉に、クラスメイトたちは次々ミナトの前の机に物を置いていく。自転車の鍵、ヘアピン、チョコレート……。
「あ、本当だ。自転車の鍵やヘアピンは金属だし、チョコレートは銀紙で包んである」
「その通り。アヤノの盗まれたシャープペンシルも、キラキラしたデザインの物だったんじゃないかな?」
アヤノは目を丸くして大きく頷く。
「そう、銀色のピカピカしたやつ! ストーンでちょっとデコってた!」
「やっぱりね。犯人はキラキラしたものに目がなくて、廊下でもベランダでもないところから侵入できた動物……」
そこでミナトは言葉を区切って窓に目を向ける。青空を見つめながら、ミナトは厳かに口を開いた。
「――つまり、カラスだ」
「か、カラス……?」
奈々がぽかんとした顔で、ミナトの言葉を繰り返す。
「そう、カラス。おそらくカラスはひと気の無いタイミングで、窓からこの教室に侵入したんだろう。そして教室から、自分が運べるサイズのもので、キラキラしたものを持ち帰っていたんだ」
ミナトは立てていた人差し指で、自らのおでこをトントンと叩く。
「その証拠に、今朝方僕は用務員さんから、校庭の木にカラスの巣が出来てしまったから撤去するという話を聞いたよ」
「用務員さんって、朝脚立を持って歩いてた人のこと?」
奈々の言葉にハッとする。そうだ、確かに今朝登校中に、疲れた様子の用務員さんを見つけた。あの疲れと脚立は、カラスの巣を撤去するためだったのか。
「ミナト、用務員さんと話したの?」
「うん。朝から随分と疲れた様子だったから、挨拶ついでに世間話を少しね」
なんだそれ、ずるいじゃないか。僕だって、そのカラスの情報さえあればこんな事件簡単に――
「やっぱりすごいなミナトって」
嫉妬に駆られる僕の横で、男子生徒が感慨深げに呟く。
「懐に入る能力っていうのかな。つい、コイツには何でも話していいかもって気にさせるんだよな」
「あ、それ分かる。うっかり口が軽くなっちゃうよね〜」
近くに立っていた女子生徒が、男子生徒の言葉に頷く。
――ああ、そうか。格が違うんだ。人として、サイコパスとして。
僕の脳裏に、かつて調べたサイコパスの特徴が浮かんだ。外見や人あたりが良く、魅力的――まさしく、ミナトを指す言葉だ。
(こいつは、本当に、"本物のサイコパス"なんだ――)
「……ということだから、これから用務員室に行ってみよう。僕の推理が正しければ、みんなの持ち物はカラスの巣と一緒に、用務員室に回収されてるはずだから」
ミナトの言葉に皆が同調する声が、まるで遠くから響くように聞こえる。手足の先から感覚がなくなっていく。耳鳴りのような音がする。
――ついに、現れてしまったのだ。"本物のサイコパス"が。




