第27話
僕の想像通り、そこには眩いばかりに目を輝かせた奈々が仁王立ちしていた。比喩ではなく、腰に手を当てて立つ姿はまさに仁王像のようだ。
「サイコパスの仕業に違いないよ、絶対!」
「……というと?」
僕が苦言を呈するより先に、ミナトが奈々に真意を問う。奈々は得意げにふんぞり返った。
「なんて言ったって、この事件は密室事件なんだから!」
奈々はびしっと指を突き出した。平手だったら完全に仁王像の完成だった。惜しい。
「ほう、密室。つまり犯行は、この教室の窓や扉が完全に閉め切られた状態で行われたということかい?」
ミナトの問いかけに、奈々はふるふると首を横に振る。
「ううん、それは全然。窓もドアも、移動教室くらいじゃ鍵かけたりしないし。なんなら開けっ放しにしてるから、入ろうと思えば誰でも入れるよ」
「……なのに、密室?」
ミナトが首を傾げると、奈々はふふふ、といたずらっぽく笑った。無邪気な子供っぽい笑顔だ。
「問題は教室に入れるかどうかじゃなくて、教室までどうやってたどり着くか、だね」
言うが早いか、奈々は廊下に飛び出す。左右をキョロキョロと見渡した後、奈々は両手を広げてみせた。
「ほら、右側には三組、左側には一組があるでしょ。移動教室中にこの教室に入るには、他クラスの前を通らないといけないんだよ」
「……ああ、なるほど」
僕はぽんと手を打つ。移動教室中に二組の教室が無人になると言っても、両サイドの教室では授業をしているのだ。
ましてこの季節、エアコンはまだ付けられないのでドアは基本開けっ放し。二組の教室に向かおうと授業中に移動すれば、目撃される可能性が高い。
「じゃあ、誰か隣のクラスの子が、授業中にトイレを装って廊下に出た、とか?」
「ぶっぶー!」
奈々は両手でバツの形を作る。唇を尖らせて言うのが可愛い。
「アタシもそう思って両隣のクラスに、授業中教室を抜けた人がいないか聞いてみたの! でも誰もいなかったって」
「そうか……」
ミナトは考え込む素振りを見せる。僕は教室を見回して、ベランダを指さした。
「ベランダから侵入、とかも無理だよな」
「無理だろうね。むしろ窓とかベランダの扉とか、全部ガラス張りだし。廊下より目立つよ」
「だよな」
別に本当にベランダに可能性があると思ったわけじゃないので、すぐに意見を取り下げた。ちなみにベランダにロープを吊るして……とかも現実的ではない。何故なら、そんな目立つことをすれば、外から誰かに見られるに決まっているからだ。
「ベランダからって、そんなわけないのに。だっさ」
僕の横であかりが小さく呟くのが聞こえる。なんでこいつ、さっきから喧嘩腰なんだろう。いや、喧嘩腰というより舐められているんだろうけど。
「物が盗まれたのは、いつ?」
「先週水曜三限の音楽、木曜日の二限の体育、五限の美術かな。どれも移動教室中だね」
「なるほどなるほど」
ミナトの問いかけに、奈々は教室前方に貼られた時間割を見ながら答える。
「他に盗まれたものはどんなものなのかな?」
ミナトは首を回してクラスメイト達に問いかける。
「アタシのシャーペン!」
アヤノがパッと手を挙げる。
「俺のチャリの鍵!」
「私のクリップ」
「チョコレート!」
ポンポンとみんなの口から盗まれたものの名前が挙げられる。聞いている感じではどれも大したことないものばかりだ。なんならゴミ同然のものも含まれている。
「うーん、なんでわざわざそんなもの盗むんだろうな……」
「そんなものぉ……?」
僕の横であかりが殺気を放つ。まずい、失言だった。
「いやいや、別に盗まれたものに価値がないって言ってるわけじゃない。ただ、わざわざ密室を作ってまで盗むほどの物がないなと思っただけで……」
「ふんっ」
あかりはぷいとそっぽを向く。くそ、めんどくさい。
「 アタシも、お気に入りのハンカチが盗まれちゃったんだよねぇ」
奈々がしゅんとした顔で呟く。
「奈々のものまで盗まれたのか?」
「うん。移動教室中にね」
なんてことだ、奈々のものまで盗んでいたとは。僕は密かに力強く握りこぶしを作る。絶対に許さないぞ、犯人め。奈々に悲しい顔させやがって。ミナトとの勝負なんてくそどうでもいいが、奈々を悲しませた犯人だけは許さない。
「……なるほどね」
ふと、ミナトが呟く。その顔には余裕たっぷりの笑みが浮かんでいた。
「どうしたの、ミナトくん」
あかりがまた目をうるうるさせてミナトに近づく。
「すべて理解できたよ、この謎がね」
「……は?」
僕は目を見開く。まさか、もう謎が解けたって言うのか?
焦る僕をよそに、ミナトは近くの席に腰掛ける。長い足を優雅に組んで、微笑んだ。
「さあ、それじゃあ謎解きタイムといこうか」




