表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/47

第21話

 もう一度いそっぷ橋を渡り、今度はパンダのもりとは逆方向に進む。途端に周囲の人が小さい子ども連ればかりになった。


「こっちは子ども向けの展示だよね?」


「ああ」


 真っ直ぐ前方の建物へと向かう。建物の中に入ると、小さい子どもたちが動物の絵本を読んだり、小動物と触れ合ったりしていた。


「……ここにインド原産の動物がいるの?」


「いや、インド原産ではない。でも確かにインドに関係ある動物だ」


「……どういうこと?」


 眉間に皺を寄せる奈々に、僕は前方を指さす。そこには低い柵に囲われた中でのんびりと牧草を食む、小さな生き物の姿があった。


「モルモット?」


「ああ、和名で天竺鼠(テンジクネズミ)。原産は南アメリカらしいけどな」


 室内に掲示されたモルモットの説明を読みながら答えると、奈々は首を傾げた。


「天竺って……西遊記に出てくる天竺?」


「ああ。インドの古い呼び名だ」


「んん? アメリカ原産なのに、テンジクネズミ?」


 難しい顔をして唸り始めた奈々に、スマホでテンジクネズミの紹介ページを見せる。


「昔はざっくり、遠い国のことを天竺と呼んでいたらしい。海を越えてやってくるものはみんな神様の国から来たもの、みたいな感覚だったのかもな」


 僕の言葉に、奈々はぽんと手を打つ。


「なるほどぉ!」


「多分、このメッセージを残した子は、動物に詳しい子だったんだろう。特徴的なテンジクネズミのエピソードを見て、これならメッセージを受け取る側にも分かるかもしれないと思って、印鑑を土に埋めたんだ」


「……子?」


 僕は室内をキョロキョロと見回す。それからソファに腰掛ける少年を見つけ、そちらに近づいた。


「……須藤君、かな。お母さんが探してるよ」


 目の前にしゃがみ込むと、俯いていた少年が顔を上げた。動物図鑑を抱えた腕にぎゅっと力が入る。


「……おかあさん?」


「そう。一緒に行こうか」


 少年はこくこくと小さく頷く。


「え、え? どういうこと?」


 後ろで困惑する奈々を振り返って、僕は肩をすくめる。


「迷子の話を聞いた時に、埋められた印鑑は、迷子が母親へ居場所を伝えるためのメッセージだったんじゃないかって思ったんだよ。動物好きの子なら、モルモットがテンジクネズミだって知ってても不思議じゃない」


「ええ、でもなんでインフォメーションセンターに行かなかったの? 係の人に声をかけるとか……」


 奈々の言葉に、少年は唇を噛む。


「……迷子じゃないもん」


「え?」


「迷子じゃない。」


 少年ははっきりと言って、奈々を睨む。奈々は困惑した様子で僕を見た。


「えーと……」


「……大方、母親と喧嘩でもしたんだろう。一人でなんでもできると思って、我を張ってるうちに迷子になったんだ。このくらいの年頃ならよくあることだよ」


 肩をすくめると、奈々は苦笑いを浮かべる。


「……そっかそっか。でもお母さんに見つけてほしかったから、メッセージを残したんだよね?」


 奈々の言葉に、少年は小さく頷いた。


「じゃあ、急いでお母さんのところいかないとね。お母さん、とっても心配してたよ」


 奈々は僕に視線を向ける。


「このまま東園側に行って、インフォメーションセンターでお母さん呼んでもらう?」


「いや、その必要は無い。二人してまた東園に戻るのは非効率だろ。まだその辺にいるだろうし、直接行ってくるよ」


 僕は少年に手を差し出した。少年は大人しく僕の手を握る。


「奈々はこの辺で待っててくれ、すぐ戻る」


「ちょっと……!」


 奈々の言葉を聞かずに建物の外へと向かう。外は親子連れでごった返していた。ちょうど混み合う時間だ。


「お母さんが探しやすいように肩車しよう」


 提案してしゃがむと、少年はすぐ僕の肩に乗った。頭を小さな手が掴む感触を確かめてから立ち上がる。子どもとは言え、それなりの重さが肩に伝わった。


「よし、じゃあお母さんっぽい人を見つけたら、大声で知らせてくれ」


「うん」


 少年を肩に乗せて歩き出す。いそっぷ橋の手前まで来て、僕はキョロキョロと辺りを見回す。


「この辺にはどうだ? いないか?」


「うーん、いないと思う」


「そうか」


 東園側のインフォメーションセンターから探して歩いているとすれば、西園側にいるに違いない。いそっぷ橋を渡らず、左側へと向かう。


「須藤さーん、この子のお母さん、いませんかー?」


 大声を上げて母親を探す。午後の強い日差しが照りつけて、肌がじりじりと熱を持っていた。


「おかあさーん」


 少年も子ども特有の高い声を張り上げて母親を探す。


「迷子かな?」


 ふと横から響いた声に視線を向けると、芸能人のように整った顔立ちの男と目が合った。僕より少し高い位置にある目が、優しげに細められる。


「ええ。この辺に、子どもを探している母親がいませんでしたか?」


「それならさっき、この先のキリンの展示の方にいましたよ」


「ありがとうございます」


 首だけで軽く会釈すると、男は唇を吊り上げる。


「いえいえ、では、()()


 男はひらりと手を振って反対方向へ歩いていった。なんだか妙に気になる男だったが、今はそんなことより少年の母親を探す方が大事だ。


 キリンの展示の方向へと向かう。人混みをすり抜けるように歩いていくと、うろうろと彷徨う女性の姿があった。


「おかあさん!」


 少年が大きな声を出す。こちらを見とめた女性は、目を見開いた後に駆け寄ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ