第13話
「なあ。このノート、どの棚にあったんだ?」
「ミステリーの棚よ。本と本の間に、挟むようにして入れられていたわ」
なるほど、と呟きながらスマホを取り出す。奈々の影響でホラーは嗜むようになったが、ミステリーには明るくない。デフォルトの検索アプリを開いて、気になった単語を検索する。
「やっぱりこれは犯行声明だよ! 愛する人を失った悲しみで猟奇殺人犯になった犯人が、次はうちの学校を狙うんだよ!」
「それだとノートを書く人間が二人いる説明がつかないじゃない。やっぱり予言書なのよ」
またきゃいきゃいと言い合いを再開した二人を手で制する。二人はきょとんとした表情で僕を見つめた。
「これは犯行予告でも、まして予言書でもない。もちろん、サイコパスが書いた、なんてこともないさ」
気障ったらしく笑みを浮かべて言えば、奈々が目を丸くする。
「もしかして、このノートに書かれてる意味が分かったの?」
「ああ、多分な」
「すごい! やっぱり悠斗ってば最高!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ奈々とは対照的に、土田さんは不信感たっぷりの目でじとりとこちらを睨んだ。
「本当に解けたの? たったこれだけの情報で?」
「ああ、必要な情報は揃ってたからな。あとはちょっとの情報さえあれば、答えはすぐに分かる」
僕は開きっぱなしになったノートを閉じた。それから、表紙に書かれた文字を指さす。
「ヒントはこれだ」
「これって、二年二十三組番号Bのこと?」
奈々と土田さんが揃って首を傾げる。動画投稿サイトで見た、ボールを追いかけて同じ方向に首を振る子猫の動画を彷彿とさせる動きだ。
「あとは、この本があった棚かな」
あえて情報を小出しにしてやれば、奈々が途端に難しい顔をする。それから土田さんの手を取って、書棚の方へと駆け出した。
「棚がヒントね! ちょっと見てくる!」
「ちょ、ちょっと奈々! 図書室で大声も、走るのも禁止……!」
予想通りバタバタと騒がしくいなくなった奈々達を見送ってから、カウンターの中へと移動する。ロックがかけられずに放置された貸出PCのマウスを操作して、貸出記録のページを表示する。
ずらりと並んだ貸出履歴を"ある条件"でソートすると、貸出履歴に二人分の履歴だけが並んだ。その貸出履歴のうち片方だけが、ある日を境に途切れている。
「やっぱりな」
自分の答えが正しいことを確認して、ほっとため息を吐く。あれだけの啖呵を切っておいて、間違えてましたでは格好がつかない。
PCの画面を元通りにして、何食わぬ顔でカウンターの外へと移動する。数秒後、またバタバタと激しい足音をたてて奈々たちが戻ってきた。
「おかえり。遅かったな」
奈々は僕の言葉を聞いて、ぷくっと頬を膨らませる。
「書棚まで行ったけど、何も分からなかったよ!」
「そりゃそうだろ。僕だって棚なんか見に行ってないんだから。完全な無駄足だよ」
「あっ……」
盲点だった、と言わんばかりに奈々がぱちぱちと目を瞬かせる。その後ろで、未だ手を引かれたままの土田さんが肩を落とした。
「……そんなことだろうと思った」
「えへへ……ごめぇん」
奈々は掴んでいた土田さんの手を離して、顔の前で合掌する。ぺろりと舌を出しておどける可愛らしい様子を眺めながら、僕は近くの机から椅子を引いて座った。
「問題なのは物理的な棚そのものじゃなく、その棚が何の棚であったか、だ」
「何のって……ミステリーの棚でしょ。それがなんだって言うのよ」
土田さんが困惑した表情でこちらを見下ろす。あえて大仰に首を振って呆れた様子を見せれば、土田さんは不愉快そうに顔を顰めた。
「やれやれ。そこまで来て、まだ何も気付かないか……」
「……ねぇ奈々、何なのこいつ。すっごい不快なんだけど」
眼鏡の奥で鋭い眼光を放つ土田さんに気圧されそうになるが堪える。あと、女子に不快って言われた。普通に少し傷つく。
「まあまあ。悠斗のこういうところが、サイコパスっぽい魅力なんだから!」
奈々の宥めるような言葉に不服そうな顔をしながらも、土田さんは僕を睨むのをやめた。
「それで? いい加減はっきり言いなさいよ。ミステリーの棚と、ノートに書かれた二年二十三組番号Bの文字。それの何がヒントだって言うの?」
一つ息を吐いた後、僕はわざとゆっくりと足を組む。それから前髪をかきあげつつ、ニヤリと笑う。
「分からないなら、手持ちのスマホで調べたまえ」
土田さんは僕の行動に完全にドン引きした表情を浮かべた。が、その横で奈々は目にハートマークを浮かべている。
「やっばぁ……今の悠斗、超かっこいい♡」
「……奈々、アンタ正気……?」
正反対の視線に見つめられながら、僕は奈々にスマホを取り出すよう視線で促した。




