第三章 亡命札(もうめいふだ)
高昇の口は一度開くと止まらなかった。
「先天だって何だっていうんだ?我ら大明の六品以上の武官はみんな先天の修為だ。文官ならみんな三甲の進士だ。武官の先天真気は妖魔を斬り、文官の浩然の正气は邪悪を鎮めるって言われている。ところが鎮水県の五人の県令は、三人が文官で二人が武勲者だ。結果、生き残った者は一人もいない。特に最後の二人の武将は、自分たちだけでなく三百人以上の親兵まで道連れにした。俺が連れているのはこの猿みたいな師事だけだ。よく中に入れるもんじゃない!」
高昇はますます興奮して言った。
「外の役人どもを見てみろよ。大金を積まなければ、死んでも戻って来やしない。人が役人になるのは金儲けのためなのに、俺は金を損するだけじゃ済まない。下手をすれば命まで失うんだぞ」
梅心児はへらへらと笑った。
「そんなに死ぬのが怖いのに、よく役人になったね?」
「やむを得なければ、こんな場所に来るもんか!」高昇は怒鳴った。「俺は五年も待ってようやく欠員を埋めたんだ。やっと手に入れた欠員がよりによってこんな欠員、つまり死に欠員だなんて。吏部のあのクソどもは、俺は洪福斉天の命だから大丈夫だと言いやがった。大丈夫なもんか、くそったれ!」
謝半鬼が突然口を開いた。
「前任者たちは、どのようにして死んだんだ?」
「彼らは言わないんだ!」高昇は外の役人たちを指さし、歯ぎしりしながら言った。「あの連中は怖気づいてしまって、話すことすらできないんだ。これ以上迫れば、仕事を投げ出してしまうだろう。今のところ、俺はまったくの手探り状態だ」
謝半鬼が言った。
「あの人たちの遺体はまだあるのか?」
老銭が引き継いだ。
「前任の高崇岳は死んでから半月も経っていません。遺体はまだあるはずです。他の方は分かりませんが」
「行って見てみよう」謝半鬼は二言もなく先に歩き出した。
梅心児は口を尖らせて後を追う。
「死体なんて、何が面白いの?」
「もしかすると何か手がかりが見つかるかもしれない。少なくとも邪物のレベルは推測できる。低級の邪物は人を惑わして自殺させる程度だが、高級あるいは修練を積んだ邪物は違う。害を与える方法も様々で、真っ昼間に役所や道観に押し入ることすらある」
話しているうちに一行は義荘の前に到着した。高崇岳と二百人余りの精兵の遺体は、義荘の地面にずらりと数十丈(約100メートル)も並べられていた。腐敗臭はないものの、白い布の下で硬直して横たわっている。一見しただけで背筋が凍る。
謝半鬼は高崇岳の遺体の前に行った。
「骨格を見る限り、彼の修為はそれなりに及第点だったのか?」
「先天に入ったばかりです」老銭が言った。「家伝の宝剣を使えば、普通の先天中期の相手にも引けを取りません」
謝半鬼は手を振った。
「武者の体は先天真気で梳理された後、非常に強靭になる。馬を使っても手足を引きちぎるのは難しい。この男は“五馬分尸”で死んでいる……どうやら相手は並みの存在ではないようだ」
謝半鬼は遺体を弄りながら言った。
「近くの村人たちは、戦闘音や叫び声を聞いた者はいるか?」
「いいえ」老銭は断言した。「私が尋ねたところ、水音と風の音以外は何も聞こえなかったそうです」
謝半鬼が言う前に、梅心児が口を挟んだ。
「この人たち、みんな絞首刑になったみたいね?」
「絞殺だ」
「違いがあるの?どっちも首を絞められたんでしょ」
謝半鬼は首を振った。
「違う。縊死なら頸骨は折れない。たとえ折れてもこんなには酷くない。見てみろ、これらの遺体の首の頸骨は全て砕けている。皮一枚で繋がっているだけのものもある。首を絞められた後、縄を強く締め上げられた時にこういう傷ができるんだ」
「これは何だ?」謝半鬼の指が一人の軍士の後頸部で止まった。その男の首には五寸(約15cm)ほどの令札のような跡が押されていた。跡の先端近くにはバツ印の付いた赤い丸があった。
老銭は舌打ちをした。
「どう見ても、死刑囚の背中に挿してある亡命札みたいですな」
謝半鬼は軍士の腰牌を引きちぎり、一瞥した後、身をかがめてその跡をじっくりと見つめた。そして腰牌を梅心児に投げてよこした。
「自分で見ろ」
梅心児は驚いて言った。
「腰牌には校尉・王小五と書いてある……あっ、跡に文字があるぞ。『犯・王小五』……どうして?」
謝半鬼は十数人の軍士を次々と調べた後、鋭い目つきで高昇を見た。
高昇は慌てて手を振った。
「弟よ、そんなに見ないでくれ。ぞっとする」
謝半鬼は数歩で近づいた。
「首を見せてくれ」
「や、やめてくれ……兄弟……」高昇が頭を下げた時には、もう泣き声が混じっていた。「兄弟、俺の首にはあるのか?」
「ない」
「ああ、なかった。ありがとう、ありがとう」高昇は冷や汗を拭いながら言った。「老銭、お前も見せろ」
老銭は手を振った。
「私にはありませんって。私には。私たちは一緒に来たんです。あなたにないなら、私にあるわけがありません」
高昇は頭をかきながら言った。
「それもそうだ」
謝半鬼が言った。
「以前の人たちはどうだ?彼らにもなかったのか?」
「それは検視官か、遺体を収めた老陳に聞くしかありません」老銭は進み出た。「さあ、私が連れて行きます。彼のところへ」
鎮水県衙であんなに多くの事件が起きたため、もう県衙の近くに住もうとする者は誰もいなかった。検視官と老陳の住まいは県衙から遠くなく、謝半鬼たちが到着した時にはすでに日が過ぎていた。
謝半鬼がまだ庭に入る前に、半ば開いた門の外から、地面にゆらゆらと揺れる二組の足影が見えた。影を目で追って上を見上げると、検視官と遺体収集人が左右に分かれて庭の楊の木に吊るされていた。
遺体の顔色は青黒く、歯を食いしばり、真っ赤な血の滴が口元からぽたぽたと服の前立てに落ち、二人の上衣を血まみれに染めていた。
庭に置かれた地卓の上の酒と料理はまだ温かく、皿にはまだところどころ血痕があり、血の混じった酒が遠くに飛び散っていた。
高昇の顔色は青ざめた。
「こ、これは……?」
「検視官が左、老人が右。二人は酒を飲んでいたところ、壁の外から飛び込んできた縄で首を絞められた。検視官は酒を飲み終える前に首を絞められ、血と酒が一緒になって老人の顔に飛び散った。二人はほとんど同時に首の骨を折られて吊り上げられた。うん、真上から真下に吊り上げられたはずだ。もし引きずられるような動きがあったなら、卓の上の酒や料理にぶつかった跡があってもおかしくない。人が飛ばされてきたときに長椅子が倒れたから、長椅子が倒れた位置は卓からそれほど離れていない」
老銭は検視官の代わりを務め、少しずつ殺人の状況を分析していた。
謝半鬼は腕を組んだまま空を見上げていた。しばらくして口を開いた。
「遺体を降ろせ。首の後ろに亡命札の跡があるか、口の中に何か入っていないか調べるんだ」
「私がやる、私が!」高昇が進み出た。「遺体を降ろすような力仕事、お嬢ちゃんにやらせるわけにはいかない」
梅心児はぱちぱちと目をさせた。
「どうして怖くなくなったの?」
「見えるものは怖くない。怖いのは見えないものだ」高昇は極めて真剣な顔で言った。「死ぬこと自体は怖くない。たとえ刀で首を切られても怖くはない。怖いのは、わけも分からずに死ぬことだ。考えてみろよ、自分の周りには何もないのに、いきなり首を絞められる。死ぬ間際まで、いったい何に絞められているのか分からないんだぞ。怖くないか?」
「確かに怖いね」梅心児もぞっとした。「早く調べて!終わったらすぐに立ち去ろう。一秒たりとも長居したくない」
老銭は遺体を念入りに調べた後、言った。
「首の後ろに亡命札の跡があります。口の中には何もありませんが、舌と上顎が破れています。どうやら死ぬ直前に何かを噛んだようです」
謝半鬼は再び空へ目を向けた。
「さあ、行こう。役所の巻宗庫に行って、検視官が書いた検死調書を見てみよう。何か見つかるかもしれない」




