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終末世界で俺は  作者: やまてい


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9/16

戦闘

初めて大勢のゾンビを相手にする。


囲まれたら、物量で押し潰されて終わりだ。


俺は足元にしがみついていたゾンビの頭を踏み砕くと、振り返って体育館の扉を閉めた。


――もしカリンたちが外へ出ていたら。


あいつらだけは、この群れに近づけさせるわけにはいかない。


ハンマーを握り直し、俺は足を狙って振り下ろす。


鈍い音とともに膝が砕け、ゾンビが次々と床へ崩れ落ちる。


倒れたところへ頭を叩き潰し、さらに二、三体を仕留めながら後退した。


だが、倒しても終わらない。


足を失ったゾンビは這いずりながら腕を伸ばし、後ろのゾンビは仲間を踏みつけながらこちらへ押し寄せてくる。


「……減らねぇな」


思わず愚痴が漏れた。


体育館に並べられた長机へ飛び乗り、机から机へと飛び移って距離を稼ぐ。


そのときだった。


バキッ!!


ハンマーの柄が、バレーボールの支柱を差し込む床の金具に激突した。


乾いた音を立て、柄が真っ二つに折れる。


「くそっ……!」


一番頼りになる武器を失った。


俺はすぐさま腰のバールを引き抜き、迫るゾンビを殴り飛ばして時間を稼ぐ。


その瞬間、ステージの上に吊るされた横断幕が目に入った。


「……使えるか?」


俺はステージへ飛び乗り、ナイフで横断幕を切り落とす。


幸い、段差があるおかげでゾンビはすぐには上がって来られない。


俺は布を三人分ほどの長さに切り俺は横断幕を床に広げ、端を握りしめた。


先頭の三体が踏み込んだ瞬間、思い切り引く。


布に足を取られた三体が前のめりに倒れ込み、後ろのゾンビもつられるようによろめいた。


「今だ!」


俺は倒れた一体の頭へバールを叩き込み、返す勢いでもう一体を殴りつける。


この方法ならと思い繰り返したが数が多すぎる。


何度も布を引き続けたせいで腕は鉛のように重くなり、呼吸も荒い。


握力が限界に近づき、横断幕を引く力すら残っていなかった。


「……まずいな。あと五十体はいる。」


俺は仕切りに使われていたプラスチック製のポールを拾い上げ、棒術の要領で振り回した。


何体かをひるませることはできたが、そんな即席の武器が長くもつはずもない。


軽い音とともにポールは真ん中から折れ、床へ転がった。


絶体絶命だった。


息は切れ、腕は鉛のように重い。


それでも、ここで諦めるわけにはいかない。


俺を頼ってくれている二人がいる。


あいつらを残して死ぬなんて、ごめんだった。


必死に距離を取りながら、使えそうな物はないか周囲へ目を走らせる。


そのときだった。


体育館の隅に転がっていた避難者のリュックから、木製の柄が少しだけ飛び出しているのが目に入った。


「……あれだ!」


俺は迫りくるゾンビの間をすり抜け、一気にリュックへ飛びつく。


柄をつかんで引き抜くと、現れたのは一本の手斧だった。


「こんな状況で、こいつはありがたい。」


俺はすぐさま一体目の頭へ振り下ろす。


刃は頭蓋を深く裂き、そのまま引き抜いても刃こぼれする気配はない。


重すぎず、取り回しもいい。


今の俺にはこれ以上ない武器だった。


俺は手斧を握り直し、迫りくる群れをにらみつける。


「よし……来い。」


「まとめて相手してやる!」


――場面は三時間前にさかのぼる。


用務員室では、カリンとエバが固く鍵を閉めたまま、息を潜めていた。


「なんか、こういうときに寝るのも申し訳ないよね……」


カリンがぽつりとつぶやく。


「でも、寝ておかないと明日動けなくなるよ。カリンは先に寝てて。彼が戻ってきたら、そのとき私も寝るから」


エバは少し大人びた口調でそう答えた。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


カリンは非常食を少しかじると、そのまま横になり、ほどなく寝息を立て始めた。


エバはカリンの横へ座り込みタツヒデを待っていたが、なかなか戻ってこない。


張り詰めた緊張が限界に達したのか、いつの間にか彼女も眠りに落ちてしまった。


どれほど時間が経っただろうか。


「バキッ!」


木が折れるような音に、カリンは目を覚ました。


続けて金属がぶつかる音。


そして、大勢の何かが床を踏み鳴らす重い足音。


眠い目をこすりながら耳を澄ませるが、恐ろしくて動くことはできない。


その音は十五分ほど続き、やがて静寂が戻った。


コン、コン、コン。


扉がノックされる。


「タツヒデさんだ!」


そう思ったカリンは迷わず鍵を外し、扉を開けた。


次の瞬間――


一体のゾンビが唸り声を上げながら飛び込んできた。


「きゃあっ!」


驚いたカリンは尻もちをつく。


その物音でエバも目を覚まし、一瞬で状況を理解するとカリンのもとへ駆け寄ろうとした。


だが、その前にもう一つの人影が飛び込んでくる。


ゾンビは横から勢いよく叩きつけられ、床に転がった。


間髪入れずに手斧が振り下ろされ、ゾンビは動かなくなる。


「……大丈夫か?」


そこに立っていたのは、全身を返り血で染めたタツヒデだった。


カリンは唖然としながらも差し出された手を握り、ゆっくりと立ち上がる。


エバはすぐに駆け寄り、震えが止まらないカリンの肩を抱いて落ち着かせた。


タツヒデは二人の無事を確認すると、その場に力なく倒れ込み、大の字になって床へ寝転がる。


「タツヒデさん! 何があったの?」


エバが心配そうに問いかける。


タツヒデは荒い息を整えながら、小さく笑った。


「……悪い。少し、疲れた」


それだけ言い残すと、意識が途切れたように深い眠りへ落ちていった。


エバはそれ以上問い詰めることはせず、その言葉の意味を察する。


静かに扉へ向かい、鍵を掛け直した。


そしてカリンを横に座らせると、自分も壁にもたれかかりながら目を閉じた。


三人を包む静寂の中、用務員室には穏やかな寝息だけが響いていた。





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